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霧彦《きりひこ》
えんがちょー☞☜の晩餐
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夕餉の席。
長上は汁椀を置き、隣に目を向けた。
「霧彦、首尾はどうだ」
「よくわかりません。短い距離を何度か走ったり、鞠つきを横で見てました」
「結構じゃないか。足腰を鍛えるのはよいことだ。なあ、しつり」
しつりは、咀嚼を終えてから、ようやく口を開いた。
「知らぬわそんなこと。
小寿林氏の領主は勇退したが、鍛錬の指南役に就いた覚えはない。
会いたいというのは嘘だったのだろう。怒っているのだぞ、吾人は」
長上は、わざとらしく首を傾げた。
「ふうん。会う口実を作っては駄目か。
隠居後わざわざこちらまで越してきたのは、世の単なる思い違いだったのだな。
身勝手に懸想して悪かった♡」
「なっ……!? その手は食わぬ。吾人は騙されないぞ」
「信じてもらえないのは悲しいなあ。
霧彦、こちらに来て傷心を慰めてくれ♪」
勘弁してくれ、まだ食べ終わってないんだよ。
霧彦が渋々食器を置いて長上の膝に乗ると、
あれよあれよという間に、衣服がくつろげられていく。
「んんんっ、ちょっと長上どこ触って……あ、しつり様が泣きそう。いや泣いてますよ」
「放っておけ。こちらに集中しろ。どの辺りが好みだ。やって見せろ、閨の参考にする」
霧彦は内心で叫ぶ。
こんな状況で実演してたまるか。
「うわわわっ、えんがちょー☞☜ 」
霧彦が長上相手に必死な攻防戦を繰り広げていると、
しつりが、いつの間にか、にじり寄っていた。
霧彦はぎょっとした。
「ぐずっ……不公平だ。
霧彦ばっかり構われてずるい~。
そんな新参のどこがよいのだ!?
吾人の方が、ずっとずっと慕っておるのにぃ」
「それは良かった。晴れて両想いだなしつり」
そのまま笑顔で抱擁する長上。
なんて、むごいことをするのだろう。
霧彦は戦慄した。
しつりは、まんざらでもない。
「うぬぬ、たちの悪い色男め!
この悔しさは何じゃ何じゃ~、
惚れた弱みか、我ながらみっともない」
「どこが?
しつりは本当に、会った時から素晴らしい。
それに比べて、霧彦のやつは自覚が無くて困る。
単なる怯懦か自信が無いのか、
あるいは高慢な媛達に何やら吹き込まれでもしたのか……
使用人の仕事を奪ってまで、下働きしたいそうだ。
――しつりはどう思う」
「は、むかつく……
そんな下っ端根性、吾人が叩き直してくれるわっ」
「では、明日からもよろしくな。世は媛達の所へ参るでな」
霧彦は、まんまと長上にしてやられた。
だが霧彦が愕然としている間にも、
長上は用意された盥で手を洗い、使用人に差し出された布地で手を拭いながら、
ひらりと身を翻して去っていく。
長上が部屋を出てすぐのところで、誰かが待っていたようだ。
「ありがとう媛。今日も美味であった。今後もよしなに」
「それはようございました。長上、ではごゆるりと」
間一髪、霧彦が急いで身なりを整え終わったところで現れたのは、海媛だった。
しつりは怪訝な顔をした。
「おや、媛がここまでお出でとは面妖な」
「何か文句でもおありか?
知っての通りわたくしは炊事担当。
たまには直々に、食の好みを確認しようと思い立ったまで。
夫の身を案じるいじらし~い妻ですよ。
……嗚呼もう、また残して」
しつりは遺憾無く鈍チンを発揮した。
「何じゃ、いじましい。
そなたの腕が落ちたのではないか?
もっとましな物でも食わせてやれ」
「あーやだやだ、これだから鈍い御仁は」
海媛は、役立たずのおのこに嘆いて言った。
長上は汁椀を置き、隣に目を向けた。
「霧彦、首尾はどうだ」
「よくわかりません。短い距離を何度か走ったり、鞠つきを横で見てました」
「結構じゃないか。足腰を鍛えるのはよいことだ。なあ、しつり」
しつりは、咀嚼を終えてから、ようやく口を開いた。
「知らぬわそんなこと。
小寿林氏の領主は勇退したが、鍛錬の指南役に就いた覚えはない。
会いたいというのは嘘だったのだろう。怒っているのだぞ、吾人は」
長上は、わざとらしく首を傾げた。
「ふうん。会う口実を作っては駄目か。
隠居後わざわざこちらまで越してきたのは、世の単なる思い違いだったのだな。
身勝手に懸想して悪かった♡」
「なっ……!? その手は食わぬ。吾人は騙されないぞ」
「信じてもらえないのは悲しいなあ。
霧彦、こちらに来て傷心を慰めてくれ♪」
勘弁してくれ、まだ食べ終わってないんだよ。
霧彦が渋々食器を置いて長上の膝に乗ると、
あれよあれよという間に、衣服がくつろげられていく。
「んんんっ、ちょっと長上どこ触って……あ、しつり様が泣きそう。いや泣いてますよ」
「放っておけ。こちらに集中しろ。どの辺りが好みだ。やって見せろ、閨の参考にする」
霧彦は内心で叫ぶ。
こんな状況で実演してたまるか。
「うわわわっ、えんがちょー☞☜ 」
霧彦が長上相手に必死な攻防戦を繰り広げていると、
しつりが、いつの間にか、にじり寄っていた。
霧彦はぎょっとした。
「ぐずっ……不公平だ。
霧彦ばっかり構われてずるい~。
そんな新参のどこがよいのだ!?
吾人の方が、ずっとずっと慕っておるのにぃ」
「それは良かった。晴れて両想いだなしつり」
そのまま笑顔で抱擁する長上。
なんて、むごいことをするのだろう。
霧彦は戦慄した。
しつりは、まんざらでもない。
「うぬぬ、たちの悪い色男め!
この悔しさは何じゃ何じゃ~、
惚れた弱みか、我ながらみっともない」
「どこが?
しつりは本当に、会った時から素晴らしい。
それに比べて、霧彦のやつは自覚が無くて困る。
単なる怯懦か自信が無いのか、
あるいは高慢な媛達に何やら吹き込まれでもしたのか……
使用人の仕事を奪ってまで、下働きしたいそうだ。
――しつりはどう思う」
「は、むかつく……
そんな下っ端根性、吾人が叩き直してくれるわっ」
「では、明日からもよろしくな。世は媛達の所へ参るでな」
霧彦は、まんまと長上にしてやられた。
だが霧彦が愕然としている間にも、
長上は用意された盥で手を洗い、使用人に差し出された布地で手を拭いながら、
ひらりと身を翻して去っていく。
長上が部屋を出てすぐのところで、誰かが待っていたようだ。
「ありがとう媛。今日も美味であった。今後もよしなに」
「それはようございました。長上、ではごゆるりと」
間一髪、霧彦が急いで身なりを整え終わったところで現れたのは、海媛だった。
しつりは怪訝な顔をした。
「おや、媛がここまでお出でとは面妖な」
「何か文句でもおありか?
知っての通りわたくしは炊事担当。
たまには直々に、食の好みを確認しようと思い立ったまで。
夫の身を案じるいじらし~い妻ですよ。
……嗚呼もう、また残して」
しつりは遺憾無く鈍チンを発揮した。
「何じゃ、いじましい。
そなたの腕が落ちたのではないか?
もっとましな物でも食わせてやれ」
「あーやだやだ、これだから鈍い御仁は」
海媛は、役立たずのおのこに嘆いて言った。
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