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霧彦《きりひこ》
【自作】【横文字推奨】密葬地
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長上の墓参りは、寝室ですべて完結する。
なぜなら床下に、反乱鎮圧後に回収した恋人の首塚を作っているからだ。
いや、胴体は元から先に埋めてあるので、正確には単なる密葬地に過ぎない。
「( ^ω^) ゴローン、布団フカフカー
おやすみなさい、勾人さん……」
毎晩安らかに眠りにつく。
祟られたことは一度もない。
骨壺と暮らすようなものだ。
彼は、いまはなき計里氏最高の覡だった。
そして計里氏は、生贄否定派だった。
だからこそ、霊的護りも強かった。
「計里氏の絆、共同防衛精神……」
掟絶対遵守の厳しい山村、小寿林氏と違ってーー
計里氏には、海洋系の気性難と、人命に重きを置く協調姿勢が備わっていた。
✦
――すると遠くから、おいで……おいで……と、声がして……恐る恐る振り向くと。そこには、死んだはずの老婆がニヤニヤニヤニヤと、薄気味の悪い笑顔で瞬きもせず、こちらをじいっ……と見ていたのです。
霧越京宮殿内に勤める女房は、フッと蜜蝋の明かりを消した。
――ある男がおりまして、ちょいと川へ釣りに行ったっきり、いつまで経っても帰って来ないのです。家族は総出で探したそうですが、とうとう何も見つからず。まるで煙のように消えてしまった。
すわ駆け落ちかと大騒ぎになったが、他に行方知れずになった相手も見当たらない。
しかし残された家族の待つ家では、夜中戸を叩く音がするそうで……急いで開けてみても、外には誰もいない。ただ地面にはいつも、まったく雨のない日でも水溜りができているそうで……。
霧越京宮殿に出入りしている農家は、手であおいで蜜蝋の明かりを消した。
――近所で飼われているめったに吠えない老犬が……急に虚空に向かって、牙を剥き出しにして吠えるのです。不思議に思っていたら、次の瞬間、明らかに天井の方から老若男女入り乱れた大勢の笑い声が響いてきまして……吹けば飛ぶような一枚屋根なのに。
たまたま霧越京宮殿を訪れていた天音も、両属朝代表として喜び勇んで参加し、蜜蝋の明かりを見たところ……風もなく勝手に消えた。
目の前に座る霧彦は、天音にとっては実兄・長上のイチオシにあたる。
しかし霧彦は、今にも泣きそうだ。
「無理無理無理無理っ!
もう帰る😿~、頼むからこれで解散しよう、解散解散!」
天音は、少しやり過ぎたかなあと反省するが、後悔はしていない。
✦
しつりの進言から数日後の夕べーー
媛や使用人達も奮って参加した怪談大会は、
霧彦にとっては最悪のひと時だった。
その上たった一人で庭を一周しろだなんて、しつりは紛うことなき鬼である。
「嗚呼をかし🤭、
じゃのうて。ここ迄来ておいて何を謂うか。
発案者は霧彦自身であろうが。さっさと出発せい」
霧彦はしつりに突き飛ばされ、渋々歩き出した。
道中では髪を振り乱した雪媛が植込みから飛び出して来たり、
背後から使用人にワッと肩を叩かれたり、空飛ぶ円盤(※投げつけられた盆ざる)が目の前を横切った。
「ギャーッ🙀、こっち来んなーっ」
(おいで……おいで……)
霧彦が、冷や汗をかきながら振り向くとーー
白髪で顔の隠れた小柄な人影(※正体はしつり)が手招きしていた。
「うわあああああああ、出たーっ」
霧彦が無我夢中で突っ走っていると、急につまづいて転んだ。
あゝこれで追い付かれるな、終わった😺💫……。
「少々縄を張って引っ掛けただけだが。
霧彦、足を挫いたのか?」
「長上……」
霧彦は、長上を睨みつけた。真夜中だから問題ない。
この野郎💥! よくも転ばせたな。
起き上がるのに手くらい貸して欲しい。というか貸すべきだ。
霧彦が、月明かりの下で恨みがましく見上げると、
長上の隣には、縄を持った人影があった。
「お待ちを。甘やかしてはなりません」
「ひょえええ、顔怖っ。誰この人」
霧彦は怯えた。生きてる人間の方が倍怖い。
長上は落ち着いて受け答える。
「ふっ、言われているぞ留守役(るすやく)。
――まあ霧彦よ、安心しろ。
ここから先は、警備以外居らぬ」
霧彦は、ようやく納得する。
あっ、そういう事か。
長上は脅かし役の位置を予め把握しているか。と思った矢先――
霧彦の視界の片隅を、ちらりと白い人影が通り過ぎた。
「嘘つき、今絶対誰か居ました。白装束があちらの方角に」
「なに、まさかそんな筈は……」
留守役はさらに怖い顔をして、霧彦の指差した少し遠くを見た。
そちらはそちらで、また別の密葬地があるとも知らずに。
「アメヒメ……
俺がもっと早くに気がついていれば……。
別に良いのに、
言ってくれれば何とかしたのに――……うぐっ」
霧彦京の肝試しに、急病人が発生した。
霧彦は大慌てで、長上に近寄る。
「ええええっ!? 長上。お気を確かに。
吐くほどお加減が悪かったのに付き合わせてすみません。おい、医者を早くっ」
霧彦が慌てて大声を出すと、
更に遠くの方で使用人が反応し、急いで駆けて行くのが見えた。
「アラアラ、まあまあ。コレはコレは」
すると、近くの茂みで女人の声がした。
間もなく頭から大きな布を被った人影が、足音をたてながらゆったりと接近し、
ばっと布を翻して長上に掛けた。
露見したその正体は、杼媛(とちひめ)だった。
杼媛はペラペラと語り出す。
「長上、あたくしも何だか疲れました。
今宵は愉快痛快ですが、夜風に当たり過ぎではありませんか(≧▽≦)?
もっとお身体を労ってくださいまし」
杼媛はそう言いながら、医者が駆けつけるまで背中をさすり続けていた。
長上のライフは、大幅に削られた。
留守役は、杼媛と霧彦を睨みつけ、多大な圧を周囲へ放った。
なぜなら床下に、反乱鎮圧後に回収した恋人の首塚を作っているからだ。
いや、胴体は元から先に埋めてあるので、正確には単なる密葬地に過ぎない。
「( ^ω^) ゴローン、布団フカフカー
おやすみなさい、勾人さん……」
毎晩安らかに眠りにつく。
祟られたことは一度もない。
骨壺と暮らすようなものだ。
彼は、いまはなき計里氏最高の覡だった。
そして計里氏は、生贄否定派だった。
だからこそ、霊的護りも強かった。
「計里氏の絆、共同防衛精神……」
掟絶対遵守の厳しい山村、小寿林氏と違ってーー
計里氏には、海洋系の気性難と、人命に重きを置く協調姿勢が備わっていた。
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――すると遠くから、おいで……おいで……と、声がして……恐る恐る振り向くと。そこには、死んだはずの老婆がニヤニヤニヤニヤと、薄気味の悪い笑顔で瞬きもせず、こちらをじいっ……と見ていたのです。
霧越京宮殿内に勤める女房は、フッと蜜蝋の明かりを消した。
――ある男がおりまして、ちょいと川へ釣りに行ったっきり、いつまで経っても帰って来ないのです。家族は総出で探したそうですが、とうとう何も見つからず。まるで煙のように消えてしまった。
すわ駆け落ちかと大騒ぎになったが、他に行方知れずになった相手も見当たらない。
しかし残された家族の待つ家では、夜中戸を叩く音がするそうで……急いで開けてみても、外には誰もいない。ただ地面にはいつも、まったく雨のない日でも水溜りができているそうで……。
霧越京宮殿に出入りしている農家は、手であおいで蜜蝋の明かりを消した。
――近所で飼われているめったに吠えない老犬が……急に虚空に向かって、牙を剥き出しにして吠えるのです。不思議に思っていたら、次の瞬間、明らかに天井の方から老若男女入り乱れた大勢の笑い声が響いてきまして……吹けば飛ぶような一枚屋根なのに。
たまたま霧越京宮殿を訪れていた天音も、両属朝代表として喜び勇んで参加し、蜜蝋の明かりを見たところ……風もなく勝手に消えた。
目の前に座る霧彦は、天音にとっては実兄・長上のイチオシにあたる。
しかし霧彦は、今にも泣きそうだ。
「無理無理無理無理っ!
もう帰る😿~、頼むからこれで解散しよう、解散解散!」
天音は、少しやり過ぎたかなあと反省するが、後悔はしていない。
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しつりの進言から数日後の夕べーー
媛や使用人達も奮って参加した怪談大会は、
霧彦にとっては最悪のひと時だった。
その上たった一人で庭を一周しろだなんて、しつりは紛うことなき鬼である。
「嗚呼をかし🤭、
じゃのうて。ここ迄来ておいて何を謂うか。
発案者は霧彦自身であろうが。さっさと出発せい」
霧彦はしつりに突き飛ばされ、渋々歩き出した。
道中では髪を振り乱した雪媛が植込みから飛び出して来たり、
背後から使用人にワッと肩を叩かれたり、空飛ぶ円盤(※投げつけられた盆ざる)が目の前を横切った。
「ギャーッ🙀、こっち来んなーっ」
(おいで……おいで……)
霧彦が、冷や汗をかきながら振り向くとーー
白髪で顔の隠れた小柄な人影(※正体はしつり)が手招きしていた。
「うわあああああああ、出たーっ」
霧彦が無我夢中で突っ走っていると、急につまづいて転んだ。
あゝこれで追い付かれるな、終わった😺💫……。
「少々縄を張って引っ掛けただけだが。
霧彦、足を挫いたのか?」
「長上……」
霧彦は、長上を睨みつけた。真夜中だから問題ない。
この野郎💥! よくも転ばせたな。
起き上がるのに手くらい貸して欲しい。というか貸すべきだ。
霧彦が、月明かりの下で恨みがましく見上げると、
長上の隣には、縄を持った人影があった。
「お待ちを。甘やかしてはなりません」
「ひょえええ、顔怖っ。誰この人」
霧彦は怯えた。生きてる人間の方が倍怖い。
長上は落ち着いて受け答える。
「ふっ、言われているぞ留守役(るすやく)。
――まあ霧彦よ、安心しろ。
ここから先は、警備以外居らぬ」
霧彦は、ようやく納得する。
あっ、そういう事か。
長上は脅かし役の位置を予め把握しているか。と思った矢先――
霧彦の視界の片隅を、ちらりと白い人影が通り過ぎた。
「嘘つき、今絶対誰か居ました。白装束があちらの方角に」
「なに、まさかそんな筈は……」
留守役はさらに怖い顔をして、霧彦の指差した少し遠くを見た。
そちらはそちらで、また別の密葬地があるとも知らずに。
「アメヒメ……
俺がもっと早くに気がついていれば……。
別に良いのに、
言ってくれれば何とかしたのに――……うぐっ」
霧彦京の肝試しに、急病人が発生した。
霧彦は大慌てで、長上に近寄る。
「ええええっ!? 長上。お気を確かに。
吐くほどお加減が悪かったのに付き合わせてすみません。おい、医者を早くっ」
霧彦が慌てて大声を出すと、
更に遠くの方で使用人が反応し、急いで駆けて行くのが見えた。
「アラアラ、まあまあ。コレはコレは」
すると、近くの茂みで女人の声がした。
間もなく頭から大きな布を被った人影が、足音をたてながらゆったりと接近し、
ばっと布を翻して長上に掛けた。
露見したその正体は、杼媛(とちひめ)だった。
杼媛はペラペラと語り出す。
「長上、あたくしも何だか疲れました。
今宵は愉快痛快ですが、夜風に当たり過ぎではありませんか(≧▽≦)?
もっとお身体を労ってくださいまし」
杼媛はそう言いながら、医者が駆けつけるまで背中をさすり続けていた。
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