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霧彦《きりひこ》
【自作】ゴロゴロ霧彦
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肝試し以来、霧彦は長上と顔を合わせていない。
政務のほとんどは留守役ーーかつての門客ーーが代行し、
噂では「体調不良で臥せっている」とのことだった。
その霧彦が、何をする気にもなれず、
庭をうろうろしていると、
杼媛(とちひめ)が俯き加減に歩いてきた。
「霧彦、あたくしについてきてくださいませんこと」
「いきなり何です。お断りですよ」
「オヤオヤ……つれない人。
長上にお会いできるかもしれないのに」
霧彦は、渋々杼媛について来る。
行き先は、長上の私室。
昼間だというのに、
留守役は恐ろしい顔で杼媛を待ち構えていた。
だが、霧彦が一匹、なぜかオマケで付いてきた。
留守役は、ため息をひとつ吐いて言った。
「だからといってバカ正直に来るとは……率直に言って正気を疑う。しかも目的も確かめずに」
✦
長上は寝具から身を起こし、 杼媛に鋭く言い放った。
「関わりのある警備兵は全員解雇した。
身内憎しみに他人を巻き込むな。
そなたの浅慮には呆れてものも言えぬ」
杼媛は深く頷く。当然ですこと!٩(๑`^´๑)۶
杼媛が何と言おうと、長上に従うのが彼らの責務。
早い内に反乱分子を炙り出せたのだから、むしろ感謝して欲しい。
「悔いております。
この杼媛、罰はいかようにも」
「当たり前だ。
ただちに謹慎を命じる。
それと、手縄刑も加える。期間はひと月」
長上の声には、まだ生命力がある。
杼媛は落胆した。
長上抹殺からのねえね冥婚計画は、またも練り直しだ。
杼媛は両手を揃えて前に出し、 神妙に縄を受け入れた。
そこに取次役が現れ、来客を告げた。
杼媛は縄のまま立ち上がり、 座っていた場所を空ける。
許しを得て入ってきたのは、
せうびん氏の杼媛実父と、
刺羽氏(さしばし)の母方祖父の二人組だった。
彼らは入るなり、慌てて膝を折り、
長上に平伏する。
「身の危険を感じた。
まさかそれが、そなたらの係累たる媛のせいとはな。
どう落とし前を付けてくれようか?」
「平にご容赦を!
杼媛はまだ若輩ゆえ、物事の区別がついておりませぬ」
「そんな小娘を媛に仕立てて送り込んだのは、お前たちでもあるだろう。
――もしや、二心でもあるのか」
「滅相もない!
我らは永遠に長上へ尽くしてまいります。
今までも、そしてこれからも」
「へえ~……ならば頼み事をしようかな」
「おおっ! 何なりとお命じください」
杼媛は、静かに成り行きを見守る。
まさに今、政治交渉が始まるーー
✦
次の瞬間、 霧彦が留守役に耳を引っ張られ、
強制的に外に放り出された。
オホホ…🤭ざまあみやがれでしてよ。
この顔だけ偽ねえねが!
杼媛はひとり、ほくそ笑む。
めちゃくちゃ溜飲が下がって、まさに有頂天だ。
留守役は、冷たく告げる。
「即刻立ち去れ、霧彦。
これ以上の専横は許さぬ」
霧彦は庭をゴロゴロ転がって、手毬の如く姿を消した。
政務のほとんどは留守役ーーかつての門客ーーが代行し、
噂では「体調不良で臥せっている」とのことだった。
その霧彦が、何をする気にもなれず、
庭をうろうろしていると、
杼媛(とちひめ)が俯き加減に歩いてきた。
「霧彦、あたくしについてきてくださいませんこと」
「いきなり何です。お断りですよ」
「オヤオヤ……つれない人。
長上にお会いできるかもしれないのに」
霧彦は、渋々杼媛について来る。
行き先は、長上の私室。
昼間だというのに、
留守役は恐ろしい顔で杼媛を待ち構えていた。
だが、霧彦が一匹、なぜかオマケで付いてきた。
留守役は、ため息をひとつ吐いて言った。
「だからといってバカ正直に来るとは……率直に言って正気を疑う。しかも目的も確かめずに」
✦
長上は寝具から身を起こし、 杼媛に鋭く言い放った。
「関わりのある警備兵は全員解雇した。
身内憎しみに他人を巻き込むな。
そなたの浅慮には呆れてものも言えぬ」
杼媛は深く頷く。当然ですこと!٩(๑`^´๑)۶
杼媛が何と言おうと、長上に従うのが彼らの責務。
早い内に反乱分子を炙り出せたのだから、むしろ感謝して欲しい。
「悔いております。
この杼媛、罰はいかようにも」
「当たり前だ。
ただちに謹慎を命じる。
それと、手縄刑も加える。期間はひと月」
長上の声には、まだ生命力がある。
杼媛は落胆した。
長上抹殺からのねえね冥婚計画は、またも練り直しだ。
杼媛は両手を揃えて前に出し、 神妙に縄を受け入れた。
そこに取次役が現れ、来客を告げた。
杼媛は縄のまま立ち上がり、 座っていた場所を空ける。
許しを得て入ってきたのは、
せうびん氏の杼媛実父と、
刺羽氏(さしばし)の母方祖父の二人組だった。
彼らは入るなり、慌てて膝を折り、
長上に平伏する。
「身の危険を感じた。
まさかそれが、そなたらの係累たる媛のせいとはな。
どう落とし前を付けてくれようか?」
「平にご容赦を!
杼媛はまだ若輩ゆえ、物事の区別がついておりませぬ」
「そんな小娘を媛に仕立てて送り込んだのは、お前たちでもあるだろう。
――もしや、二心でもあるのか」
「滅相もない!
我らは永遠に長上へ尽くしてまいります。
今までも、そしてこれからも」
「へえ~……ならば頼み事をしようかな」
「おおっ! 何なりとお命じください」
杼媛は、静かに成り行きを見守る。
まさに今、政治交渉が始まるーー
✦
次の瞬間、 霧彦が留守役に耳を引っ張られ、
強制的に外に放り出された。
オホホ…🤭ざまあみやがれでしてよ。
この顔だけ偽ねえねが!
杼媛はひとり、ほくそ笑む。
めちゃくちゃ溜飲が下がって、まさに有頂天だ。
留守役は、冷たく告げる。
「即刻立ち去れ、霧彦。
これ以上の専横は許さぬ」
霧彦は庭をゴロゴロ転がって、手毬の如く姿を消した。
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