②シャリム外伝 潜竜談

テジリ

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清正公さんの建てた城〈せいしょこさんのたてたしろ〉

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 前大長官エウリヤ/ナタルコの難癖により、わたくし達が住まう厳重警備の邸宅に掲げられた、ヴィンラフ朝とだけ書かれた表札を急遽掛けかえることになった。
 わたくしは、愛するサナにはどんな漢字を当てようか考え、やっぱり一番は本人に訊くことだと思って早速訊いた。すると、サナが選んだのはたったの一文字だった。すぐ側では相変わらずの太子達が仲良く揉めていた。

「どうして君と1字被るの、シャって字は他にも沢山あるよね。それと僕、ギリギリ冬産まれなのに名前は春なのって、何かおかしくない」

「まあまあ、良いじゃないですか。統一感があって。ここには書きませんけど、貴方のお父様の字も考えてみたんですよ。三文字では当て字感が強過ぎますから、こういうのはどうでしょうか? 紗益シャマシュって。ほら、これで貴方のお父様ともお揃いです」

 シャハルも意外と単純なのか、これでようやく納得したようで、太子はそのつれあいの気が変わらない内に、さらさらと文字通り達筆を黒ペンキで描いて新しい表札を掲げさせた。

舵陸ダリク栗酒クリシュ寝軽ネルガル紅夢クレム有音アリネサナ紗春シャハル紗林シャリムの家





 シャハルは収監中のハンムルーシフ・アビスの元へ面会に訪れていた。そして持参した写真を彼に見せた。

「ルシフ、これ何ね」

「あよー、ウキンの英雄像たい。そがんこつ、知っとるに決まっとるど? 一応おっの地元ばい? ま。こん人も可哀想かねー、みーんなから、頼りにされらしたっだろうけん。ホントはやりたく無かったっちゃか? おっにはそがん事も、言ってくれらすもんらんかったけど。あーあ、羨ましかぁ」

「そがんね? あぁたの嫁さんとは、まだ手紙ん遣り取りばしとっじゃなかと? 凄か~」

「なーん、そぎゃんでんなか。キオラは今、貸本屋ばしよっとたい。それで要らーんくなって売れーんかったとば、みーんなおっに送って来らすとたい。後、アナンがアイツん横で塾ばしよらすとたい。そがんかこつがみーんな、手紙に書いてあるけん、読むと。最近は…おっも何でか分からんとだけど、ニア・アイエとかいう新人訳者の翻訳原稿ば、添削させられとる」

「ふぅん、良かこつたい。まあこの写真はあれたい、僕こん前ウキンに行ってきて撮ったと。そしたら良か話ば聞いた。そこら辺のばあちゃんと、孫ん喋りよったとたい」

――ねぇねぇ、ばあちゃん。あれって何ね?

――あん人は英雄さんたい。昔ばあちゃん達ば、庇ってくれらしたと

「勿論、彼は大昔の人間だからね。本当に庇ったりなんかしていない。これは先祖と自分を同一視することによって発せられた言葉だ」






 シャハルはアナンの経営する桜塾で、懐かしさのあまり、ひと目も憚らずに抱き着いた。

「お父さん!」

「ぎゃぁあ、こんなデカいガキ知らない。てか、どう見てもほぼ同い年じゃん」

 抱き着かれた相手は、アナンでは無く、その知人のアスラン=アルスランだった。他人の空似とは思えず鑑定した所、彼はシャハルの叔父に当たる人物で、亡きシャマシュとは異母弟の間柄である事が発覚した。




 サイモン=イェノイェは、地元スミドで公開演説を行っていた。

「お集りの皆さん、どうか聴いて欲しい。セーアン地方の太守国が全て返上された時、我々スミドこそが、セーアン州都になるべきなんだーっ!」

――えーっ! 何でね? サイモン議員さん。たぶんナルメの方が凄かたい?

――あんまり調子ん乗ると恥ずかしかぁ……


 そがん恥ずかしかことじゃなか!

こがんかこつは何でん先に言っとかんと駄目たい! 確かにナルメは凄か! ナルメはセーアン1の都会たい!

ナルメがあるけん、俺らはセーアン地方から無理に出らんでも、出稼ぎして暮らして行けるとたい!

真っ直ぐポンチェト=プリューリなんか行ったら、辛かばい? お国言葉は全然通じん。俺の知っとる都会の議員さんなんて、都会言葉ばちゃーんと、覚えらすまで喋んなすな。その方がカッコ良かばいた~! って、言わしたとばい?

しかん議員さんは別ん悪か人じゃ無か! 俺んめちゃくちゃ世話になっとるとたい。

でも、そがんかとこでずーっと暮らすとはキツかたい? 嫁さんでん、旦那さんでん、都会で貰ろうて、そがんかこつ家で言われたら、悲しくてしょんなか~


 シャリムと一緒にスミドへの里帰りを敢行していたシャハルは、元親戚のサイモンの演説を聴いて深くうなずいた。



それだけじゃなか、都会になり過ぎると、色んな問題が増えて来ると! だけんセーアン地方がもし、セーアン州になった時は、何としても政商分離ばせなんと俺は思ったと!


はっきり言って、もう商売は追いつけっこ無か! だけん州政府ば持って来るとたい!


スミドはセーアンのド真ん中たい! バクセンやセンヨクも入れたら分からんくなるけど! それは本人達に入りたかか聞いたら良か!


とにかく今はスミドが一番、セーアン地方の真ん中に近か! だけん州政府ば置いても偏りが少なか! アヂマサからもシノニムからも、ナルメよりはずっと近か!


今のうちからアピールせんと! 後でナルメに何でん取られてしまうとたい!


心配せんでも良か! スミドは十分素晴らしか! よそに無か良さがたーくさんある!
俺は外に出たけん、よーく分かると!
スミドはもっと自信ば持たなん!
中で頑張るとも、外で頑張るとも両方大事たい! そして州都にならなんとたい!




 演説場の公園で拍手喝采が巻き起こり、シャハルは演説終了と同時に、サングラスを掛けたシャリムに腕を引かれ、公園から街中まで連れ出された。

「見て、シャリム。あの城塞、本当はもう空っぽなんだ」

 あれを築いたのは、初代スミド太守だ。彼は特別何かしなくても、それこそ大昔だからある程度は圧政を敷いたって、よっぽどのことじゃない限りスミドの民は付いてきた筈だ。
でも彼は治水工事を行い、城と石垣を築き、他にも沢山、民心に尽くしてからこの世を去った。だから死後も慕われて、スミドの守り神となった。

 それは断絶後を引き継いだ、ヨウゼン家のスミド支配に支障を来す程にね。だからヨウゼン家は前家と同一視されないよう、城を出て新しく別にヨウゼン邸を建てたのさ。空となったあの城は、それでもなお、初代と半ば心身一体しんしんいったいとなって、スミドの民を見守り続けている。

「それだけ身近ということですか。貴方にとっての絶対神よりも? 貴方にとっての我々よりも?」

「そんなに悔しいなら、君も真似してみれば良いじゃないか。まずは、ヴィンラフ朝お膝元のポンチェト=プリューリで」

 そうそう、彼には予知能力もあったらしくて。遺言でね、城内に聳え立つ大銀杏が、城の頂上と同じ高さまで伸びた時に、何か災いが起こるんだってさ。でもそれは、だからいつでも有事に備えておけよっていう、有難い教えなんだろうね、きっと。




完結





クタクタ氏に現代天草方言(ウキンお国言葉のモデル)の監修をしていただきました。ご協力ありがとうございます。
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