6 / 20
アリネの婚活
しおりを挟む
必ず一人で来るようにと言われ、わたくしはある程度着飾ってから大伯母に会いに行った。
若い頃セーアン地方に嫁いだ大伯母は、その後紆余曲折を経て、現在は養女であるソピリヤ・ヨウゼン議員宅で暮らしていた。
✳
議員宿舎に到着し、ヨウゼン議員宅の1室まで通されると、その部屋にはわたくしと同じような年頃のご令嬢方が、他にも数人集められていた。
彼女らはお見合いの想定問答集を読み耽ったり、手鏡を見ながら髪型を直したり、隣合わせたご令嬢同士ぺちゃくちゃとお喋りをしていた。勿論あり得ない事では在るのだが、わたくしはそこに仔鹿の姿を探し、間違いなく居ないことを確かめるとホッとした。
「御機嫌よう、お嬢様方。今日は来てくれてありがとう。早速だけど、私から今後の流れについて説明させて貰います。ああ、姿勢は楽にして。私はお相手選びには何ら関わっていないから、そんなに気を遣っても全然意味無いからね。面接本番まで余計に疲れるだけ」
そう言って部屋に入って来たのは、大伯母の養女であるソピリヤ・ヨウゼン議員だった。彼女から説明を受けた後、少しだけ質問の時間が設けられ、辞退者の有無も確認されたが名乗り出る酔狂者は居なかった。その後は単純な筆記試験が行われ、採点する間は適宜近場で昼食を摂るようにと、集合時間になるまで一時解散した。
議員宿舎に戻って来ると、順々に名前が呼ばれ、1人ずつ手荷物を持って部屋を出て行った。結果がどうあれ公平を期す為に、面接内容に関する相談を防ぎたいのだろう。
待っていると、やがてわたくしの番も来た。ノックして面接部屋に入ると、そこにはたった1人、外国人の母親譲りの美貌で名高い王位請求者、シャリム=ヴィンラフ太子がパイプ椅子に座り、簡素な折畳み机の上にある釣書をつまらなそうに眺めていた。
「初めまして。まずはお名前とご年齢を伺っても宜しいかな」
「はい。アリネ・ハルサナワと申します、齢18です」
「尊敬している方は誰ですか」
「バーダト・ジルキット少佐です」
「ご趣味やお好きな食べ物について、何か仰って下さい。本当に何でも良いので」
「発酵バターが好きです。以前チェーン店のスーパーで、たまたま目についた無塩の発酵バターを購入し、帰宅後バケットに塗って食べました。すると塩気の代わりにヨーグルト風の酸味が効いていて、無塩でもこんなに美味しいのかと驚きました」
「貴方のお話は珍しいですね。他の方ならもっと、お菓子作りがどうとか仰るのですが」
その後も幾つか質問を受け、最後に他に意中の人が居ないかや、恋人の有無を訊かれた。
「いいえ、どちらもおりません。ですがわたくし、1つ懸案事項を抱えておりまして。実は先日、軍の入隊試験を受けたのです。現在その結果を待っている状態で、まあどうせ受かりっこ無いですし、受かっても是非、入隊では無く、もし仮に貴方様さえ宜しければ、共に人生を歩んで行きたいと考えておりますので、どうぞご安心下さいませ」
勿論最後のは社交辞令という奴だ。だがジルキット少佐を尊敬し、軍を志すような人間など、太子妃として相応しくないのは明白だ。さあ、これで大丈夫。曲がりなりにも太子の面子を立てなければ、帰って父に何をされるか分からない。軍の入隊許可が得られれば、わたくしはあの親達から逃れ、シビル連邦政府と軍に忠誠を誓って生きていこう。軍こそがわたくしの本当の家族になるはずだ。その為にも身体を鍛えて、一所懸命頑張らないと。
その頃別室ではシャハルとソピリヤが、面接の様子が映し出されたモニターの前で、2人の産まれたセーアン地方スミドのお国言葉で会話をしていた。
「どがんだろうか、ソピリヤ。これで小ったあシャリムも、落ち着いてくれらすと良かとだけど……」
「大丈夫たい、シャハル。そがん心配せんでも良か良か、今日は私が奢るけん。こがん機会もあんま無かし、折角たい。うちの書生さん達も連れて、どっかで呑みかたせんね?」
「あぁたは酒に強かもんなあ、でも僕ぁ、別に飲めん訳じゃ無かとだけど、元からあんま酒、好かんつたい? 酒ん種類の多か所より、飯ん美味か店が良か」
産まれ故郷から遠く離れ、お国言葉など全く通じない首都ポンチェト=プリューリに居る2人にとって、何ら問題なく通じる会話は久しぶりで耳に懐かしく、あえてスミドに居る時以上に強くお国言葉を効かせて、幼馴染同士の会話を楽しんでいた。
「シャハル。ヨウゼン議員と何を話していらっしゃるんですか、わざわざお国言葉まで使って」
それは最後の1人と面接を終えてシャハルを迎えに来たシャリムが、あからさまに嫉妬する程だった。
若い頃セーアン地方に嫁いだ大伯母は、その後紆余曲折を経て、現在は養女であるソピリヤ・ヨウゼン議員宅で暮らしていた。
✳
議員宿舎に到着し、ヨウゼン議員宅の1室まで通されると、その部屋にはわたくしと同じような年頃のご令嬢方が、他にも数人集められていた。
彼女らはお見合いの想定問答集を読み耽ったり、手鏡を見ながら髪型を直したり、隣合わせたご令嬢同士ぺちゃくちゃとお喋りをしていた。勿論あり得ない事では在るのだが、わたくしはそこに仔鹿の姿を探し、間違いなく居ないことを確かめるとホッとした。
「御機嫌よう、お嬢様方。今日は来てくれてありがとう。早速だけど、私から今後の流れについて説明させて貰います。ああ、姿勢は楽にして。私はお相手選びには何ら関わっていないから、そんなに気を遣っても全然意味無いからね。面接本番まで余計に疲れるだけ」
そう言って部屋に入って来たのは、大伯母の養女であるソピリヤ・ヨウゼン議員だった。彼女から説明を受けた後、少しだけ質問の時間が設けられ、辞退者の有無も確認されたが名乗り出る酔狂者は居なかった。その後は単純な筆記試験が行われ、採点する間は適宜近場で昼食を摂るようにと、集合時間になるまで一時解散した。
議員宿舎に戻って来ると、順々に名前が呼ばれ、1人ずつ手荷物を持って部屋を出て行った。結果がどうあれ公平を期す為に、面接内容に関する相談を防ぎたいのだろう。
待っていると、やがてわたくしの番も来た。ノックして面接部屋に入ると、そこにはたった1人、外国人の母親譲りの美貌で名高い王位請求者、シャリム=ヴィンラフ太子がパイプ椅子に座り、簡素な折畳み机の上にある釣書をつまらなそうに眺めていた。
「初めまして。まずはお名前とご年齢を伺っても宜しいかな」
「はい。アリネ・ハルサナワと申します、齢18です」
「尊敬している方は誰ですか」
「バーダト・ジルキット少佐です」
「ご趣味やお好きな食べ物について、何か仰って下さい。本当に何でも良いので」
「発酵バターが好きです。以前チェーン店のスーパーで、たまたま目についた無塩の発酵バターを購入し、帰宅後バケットに塗って食べました。すると塩気の代わりにヨーグルト風の酸味が効いていて、無塩でもこんなに美味しいのかと驚きました」
「貴方のお話は珍しいですね。他の方ならもっと、お菓子作りがどうとか仰るのですが」
その後も幾つか質問を受け、最後に他に意中の人が居ないかや、恋人の有無を訊かれた。
「いいえ、どちらもおりません。ですがわたくし、1つ懸案事項を抱えておりまして。実は先日、軍の入隊試験を受けたのです。現在その結果を待っている状態で、まあどうせ受かりっこ無いですし、受かっても是非、入隊では無く、もし仮に貴方様さえ宜しければ、共に人生を歩んで行きたいと考えておりますので、どうぞご安心下さいませ」
勿論最後のは社交辞令という奴だ。だがジルキット少佐を尊敬し、軍を志すような人間など、太子妃として相応しくないのは明白だ。さあ、これで大丈夫。曲がりなりにも太子の面子を立てなければ、帰って父に何をされるか分からない。軍の入隊許可が得られれば、わたくしはあの親達から逃れ、シビル連邦政府と軍に忠誠を誓って生きていこう。軍こそがわたくしの本当の家族になるはずだ。その為にも身体を鍛えて、一所懸命頑張らないと。
その頃別室ではシャハルとソピリヤが、面接の様子が映し出されたモニターの前で、2人の産まれたセーアン地方スミドのお国言葉で会話をしていた。
「どがんだろうか、ソピリヤ。これで小ったあシャリムも、落ち着いてくれらすと良かとだけど……」
「大丈夫たい、シャハル。そがん心配せんでも良か良か、今日は私が奢るけん。こがん機会もあんま無かし、折角たい。うちの書生さん達も連れて、どっかで呑みかたせんね?」
「あぁたは酒に強かもんなあ、でも僕ぁ、別に飲めん訳じゃ無かとだけど、元からあんま酒、好かんつたい? 酒ん種類の多か所より、飯ん美味か店が良か」
産まれ故郷から遠く離れ、お国言葉など全く通じない首都ポンチェト=プリューリに居る2人にとって、何ら問題なく通じる会話は久しぶりで耳に懐かしく、あえてスミドに居る時以上に強くお国言葉を効かせて、幼馴染同士の会話を楽しんでいた。
「シャハル。ヨウゼン議員と何を話していらっしゃるんですか、わざわざお国言葉まで使って」
それは最後の1人と面接を終えてシャハルを迎えに来たシャリムが、あからさまに嫉妬する程だった。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
雪嶺後宮と、狼王の花嫁
由香
キャラ文芸
後宮に降る雪は、呪いではなく嘆きだった。
巫女として献上された少女セツナは、
封じられた狼王の“花嫁”としての前世を思い出す。
人と妖、政と信仰の狭間で、
彼女が選ぶのは従属ではなく均衡。
雪嶺を舞台に描く、異種婚姻×後宮伝承譚。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
後宮祓いの巫女は、鬼将軍に嫁ぐことになりました
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を祓う下級巫女・紗月は、ある日突然、「鬼」と噂される将軍・玄耀の妻になれと命じられる。
それは愛のない政略結婚――
人ならざる力を持つ将軍を、巫女の力で制御するための契約だった。
後宮の思惑に翻弄されながらも、二人は「契約」ではなく「選んだ縁」として、共に生きる道を選ぶ――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる