タイマヲマイタ 【高校生時代】

窓際猫のジャーマニー

　野々下 灯枇あけびが通学路としてもよく通っていた道には、屋内から窓際にたたずむ１匹の飼い猫が居た。猫は熱心に窓の外を眺め、たまたま通りかかった灯枇あけびの事も凝視した。灯枇あけびも猫の反応が面白くなって、その場に突っ立ってボーッと猫を見つめ返した。するとただならぬ猫の様子に気が付いたのか、飼い主の年配女性がやって来て、猫を抱えながら窓を開けた。

「あ、…こんにちはー」

「こんにちは。猫が好きね？　この子はジャーマニーっていうとたい」

「へぇえ、カッコイイ名前ですね」

「英語で付けたと。私趣味で英語ば習っとるけん、覚えにくか単語ば付けたと。そうすると覚えやすかけん」

Germanyジャーマニー――そのジャーマンポテトを彷彿とさせる美味しそうな名前の意味は、ドイツである。トラ猫のジャーマニーは、その後も度々窓際に陣取り、時たま灯枇あけびとも顔を合わせた。

それは、本来であれば行きたくも無い必由館高校であるが、やはり親達の志望校とは言え、死にものぐるいの高校入試を、精神的には満身創痍で切り抜けられたというのは単純に嬉しくて、その後も窓際で再会したジャーマニーの飼い主さんに、合格報告した位には誇らしくもあったのだ。