媛彦談《ひめひこだん》

テジリ

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阿諛の章

足元を掬う

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 阿諛あゆはその言葉を待っていた。吹けば飛ぶような言質だとしても。念押しの意味も込め、力強く抱きついておく。

「おじさま優しいっ、他の人とは全然違う……もっと一緒に居たい」

「まあ良いが、興が乗ってきた。見苦しいから隅に行って壁を向いていろ」

離れて壁向きに座った途端、背後で衣擦れの音がした。時折小さな水音も響く。

「やっぱりこっちに来い……そうそう、こうやって人指しと中指の間に挟め」

「うわわ、硬くなってきた。え、何で腰も一緒に揺らすのですか」

「雰囲気だ、雰囲気。こうしているとまるで――」

「おかしらー、ちょっといいっすか。うわああっ、すんませんっしたあ」

そこへ野盗の手下がやって来た。二人が抱き合って座った状態のまま視線をそちらへ向けたところ、手下は慌てて立ち去った。

「あの愚か者め、女相手じゃないんだぞ。普通に抱きかかえても入らん……ふぅ……」

「あはははっ、面白ーい。……ねえ、おじさま。本当は昔結構偉かったんでしょう。俺分かっちゃった~。端々の言葉遣いで」

 阿諛あゆが調髪して身なりを整えた男と共に、連れ去り場所の屋敷へと戻った。その知らせに走り出て来た私は、更に驚いて声を上げた。

「まさかあなたは――勁槍けいそう将軍、出奔して行方知れずになったと伺っておりましたが……。阿諛あゆ、いったいどこで知り合ったんだ」

「なんだお前、阿諛あゆとはどういう関係だ」

「なあに勘ぐってるんだか。この人はただの兄弟子さん。そうですよね、門客」

「そうだな、……残念ながら師匠はとうに亡くなってしまった」
(はなからどこにもいないがな)

連れ去り後の経緯を聞かされ、阿諛あゆは地団駄を踏んだ。

傅役ふえきめ~、そりゃ分かっていたけど、実際に見捨てられたらやっぱり腹立つ。あんな冷血漢、あるじ失格だ。もう辞職がてらに一発殴ってやらなきゃ気が済まない」

「そりゃあいい。某と都へ行こう」

「ありがとうおじさま、大好き」

勁槍けいそう将軍は阿諛あゆに抱き着かれ、満更でもなさそうに頬を引っ掻いた。彼は武勇で鳴らした男、これはこのまま放って置くと、要人暗殺にまで発展しかねない。

「待て、私も同行する」


都へ到着し、傅役ふえきの動向を探ったところ、盛り場に出入りしていることが判明した。苦労続きの田舎から出て来て都の夜遊びは、さぞ楽しかろう。

阿諛あゆは正面からすれ違いざまに声をかけた。

傅役ふえき、覚悟っ」

それと同時に脛を蹴飛ばされ、油断も相まって傅役ふえきは転倒、地面に肘をついて見上げる格好となった。

「なんだつまらん。まだ生きていたのか」

「ざまあみろ。もうとっくに愛想も尽きた。今日で俺のあるじはクビ。帰ってしつりに嫌われろ、この不器用お兄ちゃ~ん」

あー可笑しい。阿諛あゆは浮かれて足元も散漫だった。だから行倒れの女に躓いて転ぶのだ。


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