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篠原和美46歳の子持ち。

子供は女の子1人で大学受験に備え塾に通わせていた。

バツ1でシングルマザー。
仕事に子育てに忙しく自分の時間などある訳もなく友人とも何年も会えていなかった。

一度目の旦那との子供はおらず

2度の旦那とは死別であり

そのまま旦那の実家で暮らしていた。

娘の塾が親友の働くお店の近くあっても

なかなか顔を出す事も連絡する事もしないまま…

年に3度

正月とお互いの誕生日にラインのやり取りを繰り返すだけ。

お互いに忙しいので私の子育てが落ち着いたら飲もう!



毎年のやり取りに
近年ではお互いの身体を気遣う事も追加されていた。


……その日も娘の塾が終わる時間に会わせ迎えに車を出し

買い物を頼んだスーパーまで走らせている時
いきなり横から曲がって来たトラックが突進してきて眩しさと同時に意識がなくなる。






…公爵家の娘として生まれ優しい両親と優しい兄の中で幸せに過ごし

最愛の人に出会い婚姻、
出産も経て申し分ない生活をおくっていたのにもかかわらず

何時もふとした時に不安になる時があった。

何か大事な事を見逃している様な、
自分ではなく大事な人を失うのではないかと…

そんな気持ちをなんとか抑える事も゙あるが日々は過ぎ

息子の1人が聖女に恋をした。

聖女が召喚されたと報告書を読んだ頃から定期的な不安が頻繁に訪れる様になり

体調不良と誤魔化して人と会う事を控える様になり

息子から聖女にあって欲しいという願いも延期して部屋にこもっていた時に

もう一人の召喚者から何やら食べ物の品評の申し入れがあった。

最近旦那様が気にしていて
美味しい食べ物や飲み物をご馳走になったと聞いている。

先日頂いたおでんなる食べ物も大変美味しくて、

でも、食べたら泣きそうな位懐かし感じ

不安な気持ちもより強くなったのも覚えている。

又あの様な気持ちになるのかと食べるのを躊躇したが

旦那様が定期的に購入する事にしたらしく私の意見も参考にしたいとの事なので仕方なく食べる事にした。

ただ、

食べる時には信頼している侍女を1人だけ残して後の者は部屋から出した状態にして。

心配そうに見守る侍女に見られながら食べたソレは…

とても懐かし味がしたと同時に頭の中に様々な景色や状況が写し出されついつい動きを止めてしまい毒物と勘違いされそうになった程に
凝視してしまう位知ってる味だった。

不格好にもフォークで刺した状態のおにぎりを一度置きお品書きと共に添えてあった箸に持ち替え食べだすと
黙々と食べていく。

突然知らない棒の様な物を使って食べ出したからか

食べながら微笑んでいるのに涙を流しているからか
とても驚いている侍女をも気にせず
声を漏らし泣きながら食べていく。

「う…、うう……」

私という人間の
現在と前世での記憶が混じり、

我が子が自分の元に召喚された事への嬉しさやら
今まで思い出せなかった悔しさやらでグシャグシャな気持ちになるも

まだ娘とは顔を会わせていなかった事への後悔より
出迎える時までの準備をしようと切り替えて食後に侍女に事情を説明した。

彼女は実家から嫁ぐ時に付いて来てくれた長年私に仕えてくれている信頼出来る家族の様な存在で

急に泣き出した理由が前世の記憶を取り戻した事、
召喚された聖女様が前世での娘だというとても信じられない様の事を説明しても
驚く事はあっても疑う事はなかった。

聖女様に会ってないのに名前だけで本当に娘だと確証する事ができるのかと聞かれたが

息子から聞いていた元の世界での聖女様の生い立ちを聞いていたので間違いない事。

そして娘が召喚されたであろう時に自分も事故にあい亡くなった事を説明した。

娘と息子が遠征から帰って来るまでに色々としておきたい事があり

その為には旦那様に色々説明をしてお願いを聞いてもらわねばならない。

記憶を取り戻す切っ掛けをくれた恩人でもあるもう一人の召喚者の方の所に居る今日が好機です。

今週は体調不良という事で公務を控えていたので日が落ちたら早速向かいましょう。

旦那様に説明するついでに召喚者様にも説明をしてお願いをしておきたいですね、
早く暗くならないかしら……




結局急いで行きたくても早目の夕飯をとって皆を下がらせてからの出発になりました。


かの方は名前をまゆみ様といったかしら?

名字が分からないけど
前世の親友と同じ名前だなんて
恩人だからもありますが
とても親近感が湧きますわ。

娘の事も気にかけてくれていて遠征前には聖女様専用にと料理を色々準備してくれたと聞きました。

此方からの依頼に応えた形でも娘の状況を考えて様々な物を持たせてくれた様ですし
ついでにと息子の分も足してくれた様ですから

人なりはとても良い方なのでしょう。

前に貰ったおでんもかりんとうも彼女の元の世界での仕事に関係しているのだとか……

あら?

確か真由実もうどん屋で働いていたし、
確か昔旦那が生きていた時小さい娘と3人で食べに行って同じ様な味のおでんを食べた記憶があるわ。

いや、

まさかね…

かりんとうは扱ってなかったし偶然よね?


今更ながらに気がついた事を考えながらうどん屋に着き

小さな精霊様の案内で裏庭の奥の森の中へ進むと

其処には懐かしい最後に会った時と変わらない容姿の女性が立っていた。

ああ、

彼女がもう一人の召喚者だったんだ…

今の私の容姿では直ぐには気がつかないだろう。

説明する前に素知らぬ顔で
王妃としての挨拶でもしてみようかな?

きっと彼女は直ぐに私の話しを信じてくれるからそれまでは王妃として振る舞って
その後は又貴女の親友に戻る
事を許して貰おう…

娘の召喚に巻き込んだ申し訳無さと

大切な親友に再会出来た喜びに

自分が本当に篠原和美であったのだと

再確認した。


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