日日是好日

葉月よる

文字の大きさ
上 下
1 / 13

初めましてご主人様

しおりを挟む

春の夜風が優しく頬を撫で、月が僕を見つけて照らしてくれる。


この一時が一番好きだ…


いつもの様に窓際で夜空を眺めていると、屋敷の扉が開いたのが見えた。
こんな遅くに客なんて珍しいなと思っていると、しばらくしてコンコンと扉を叩かれる。


「失礼致します」

「!?」


突然部屋に入ってきた男を凝視する。
怖くて恐くてカーテンの裏で震えていると、その男は眉を下げ微笑んだ。


「びっくりさせてしまいましたね。申し訳ございません、日向様」

「あ、んで……あまえ…」


男はスっと膝をつき震える僕の手を取った。


「もちろん存じ上げております、花時 日向様。
私、本日から日向様の専属執事となる東雲 清和と申します。何なりとお申し付け下さいませ!」

「せんぞ…く、しつじ…?」

「ええ♪」

「しおおめ、せいあ?」

「お好きなようにお呼びくださいませ」

「………」


執事……というとこのお屋敷で働いてる人達の事だよね?
その執事さんが僕の側に居てくれるってこと、かな?

でも何で急に……誰が執事さんを呼んだんだろう
あのお母様なはずないし……

思考を巡らせていると、だんだん頭がクラクラしてきて視界が揺らいだ。その直後、体がふわっと持ち上がりベッドへ優しくおろされた。


「少しお疲れのようですので今日はもう眠りましょう。詳しいお話はまた明日に…」


僕の額の汗を拭いながら優しく微笑む東雲。
その甘く低い声に誘われるように僕も夢の中へと沈んでいった。












「おやすみ……日向。良い夢を」


東雲は日向が眠ったのを確認し、浅く額にキスをした。そして起きないようソッとベッドから離れ、カーテンを閉めてまわっていると部屋の異常さに目がいく。

屋敷の最上階にあるこの部屋…およそ9階程の高さはあるだろう。逃げ出さないように扉は常に施錠してあり、トイレは備え付けられていた。

浴室は無いようだがどうしているのだろうか?

あるのは乱雑に床に散らばった絵本と、お絵描きセットようなものだけ。

色々思うところはあるが、それもまた後日にしようと東雲も自室へと戻った。









しおりを挟む

処理中です...