【完結】好きでごめんなさい

春森

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好きでごめんなさい②

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 ◇◇◇


 コウヤを追い出してから2時間がたった。ポツポツと音がしなくなったので窓から空を見上げ、大国は雨が止んだことを確認した。

「綺麗だな」

 見上げた月は満月だった。澄み渡った夜空には明るく美しい星が集まっていた。さきほどまで感じていたもやもやが霧散するかのようだ。穏やかな時間が流れている。葉擦れや虫の音が聞こえ、しみじみとした秋の気配を感じさせた。

 なんとなく月明かりの下で庭を散歩したくなった。大国は縁側から草履をはき、池の周りをぐるりと一周することにした。

 池に映る満月が美しく、感慨深くなっていた時、物置小屋からかすかに声が聞こえた。

「喘ぎ、声?」

 まさかコウヤが女でも連れ込んでいるのかと驚き、小屋に耳を当てた。

 声が高い。

 くぐもっているが、女性の声のように思えた。
 コウヤは声変わりをしている。
 仮にも結婚している身だ。夫婦関係は最悪であっても、家に女を連れ込むような不貞行為は許せない。

(これを機に離婚が出来るかもしれない)

 離婚を考えたことは一度も無かった。もう女性との結婚は諦めていたからだ。

 大国は最後まで男との結婚を拒否し続けたが、「跡継ぎのために、子をもうけなければならない」という父からの命令で仕方なく了承した。大国は父が決めたことはなかなか断れない。

 本家にいる人間は全員そのように教育されていた。

 しかし、相手自信に問題があったのであれば、離婚について検討してもらえる可能性がある。
 不貞行為を、父が許すはずもない。
 大国はフン、と口を歪めた。決定的瞬間を押さえれば、きっと離婚はうまくいくはずだ。

 そっと小屋の窓を開けて中の様子を覗きこむ。

「!」

 ―――ジャリッ

 部屋の中の様子に、驚きで思わず物音を立ててしまった。

 足元の砂利の音も、この静まった場所では大きすぎる音になる。
 しかしコウヤは目をつぶり、行為に夢中になっている様で気づいていない。

 なんと彼は、自慰行為にふけっているではないか!

 大国は目が離せず、そのまま隙間から見つめ続けた。
 枕元には妊娠薬の包みと水が置かれている。

 両親から必ずコウヤに飲ませるようにと言われた包みだ。
 同時に、定期的に男性を受け入れるための説明書も視界に入る。説明書自体は一度目を通していた。

(あれは…自慰というより、私を迎え入れるための準備をしているのか……)

 もともと無い器官を薬を使って作り出し、そこを広げるまでの過程が必要なことは、大国も頭に入れていたことだ。

 どうも妊娠薬を渡す気にはなれず保管していたが、コウヤの手元にも妊娠薬があるのは知らなかった。
 視線を妊娠薬からコウヤ自身に向けると、真っ白な肌はうっすらとピンク色に染まり、表情は快感にとろけきったものになっていた。

 ゴクリと大国は無意識にのどを鳴らした。

 こんなに色気のあるコウヤを見たのは初めてだ。
 やらゆらと揺れていたコウヤの腰がビク、と跳ねたかと思ったら暫く停止し、また再度なまめかしく動き始める。うっすらと、目元に涙が光って見えた。

「っく、……うぅ、ん…………んっ」

 暗闇と窓から見える角度で下半身がハッキリと見えなかったが、どうやら尻に何かを自分で出し入れしているのが伺えた。喘ぐ姿に、どうしうようもなく、そそられた。

 目が離せない上にコウヤに触りたいとまで考え始めている自分に気がついた。


(どうしてしまったんだ私は。あいつは男だぞ)

「ンン、あっ……だ、……こく、さ……んっ」

 かすれた声で名前を呼ばれ、体が熱くなった。
 気づかれたかと内心ヒヤリとして一瞬窓から離れたが、どうやら違うようだった。

(尻を突いてる人物を私にして、やっているのか・・・・?)


「大国さ……す、き……」

 大国の心臓がドクリと大きく跳ねる。
 コウヤの喘ぐ声はとても小さいが、ハッキリと自分の名前を呼んでいるのがわかった。

「あ、ん…………だめ、…………まだ…………っ」

 そう言って、目をぎゅっとつぶり、体を何度か痙攣させたあと、パタリと布団に沈みこんでいた。
 意識が飛んでいるのか、数分その状態だった。

 大丈夫なのかと心配になったころ、意識を取り戻したコウヤがゆっくりと体についている体液を拭い始めた。

 大国は静かに窓を閉めて、物音を立てないよう戻った。
 第一に向かったのは自分の部屋でなくトイレだ。

 間違いなく自分のソレは勃起していた。一度抜かないことには収まりそうにない。

「嘘だろう……」

 男の体に興奮してしまったことが信じられずにいた。

「コウヤが私を好き、だと?」

 父から、子どもを産めば神宮池の財産をわけてやると説明したら、コウヤは結婚を承諾したと大国は聞いている。
 自分との婚姻は断れと口を酸っぱくして言っていたにもかかわらず、承諾したことが許せなかった。

 それ以上に、はじめは断っていたクセに子どもを産むことで財産がもらえるといった話で婚姻を受け入れたというのだから余計に大国の腹が立っていた。

「金に目がくらんで私との結婚に踏み切ったんじゃなかったのか……?」

 さきほどの切ない表情で大国を呼ぶ、色めかしいコウヤの姿がフラッシュバックする。

 ”あっ……だ、……こく、さ……んっ”

 胸が、熱い。

「私はどうしてしまったんだ…………」

 落ち着いた場所で何度考えても、可愛くあえぐコウヤが脳裏から離れなくなってしまった。


 ◇◇◇


    
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