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日記・前編
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いつもより早めに帰る事を言われた私は、誰もいない家は明かり一つも付いていないそんな中を階段の音を軋ませながら一人歩いていた。
「豹…」
私は宮端 豹という人物を何も知らない…彼がどの様に生きてきたのかも何を思って私達と暮らしていたのかも全て知らない…
彼が居なくなって初めて気付き私が意識を向けたのは豹の部屋だった。今まで誰も入る事もなかった豹の部屋に暗い部屋のまま足を踏み入れる。
キー……
中に入るとそこにはベッドが一つと数枚の着替えや制服が入ったクローゼットが一つと一冊の本が置かれた机が一つという何とも質素な部屋だった。
「何も無いというかシンプルというか…」
豹らしいと言えば豹らしい部屋だが余りにも物がないせいか最初から長居するつもりがなかったとさえ考えられる部屋に戸惑いを隠せなかった。
「あの本って…」
何かないかと目線を巡らせると机の上に置かれた一冊の黒い本が目につき手に取ってみる。
「見ちゃ駄目だと分かってるけど…豹ごめんっ!」
この場にいない豹に深く謝罪を心中でし意を決して中を開く。
「え……っ…」
中を開いた瞬間、書かれていた内容に堪らずその場に崩れ落ちた。
「嘘つき……」
もう何度その言葉を口にしたのだろうか?私はその言葉をページをめくる度に何度も何度も思った。そして、一瞬にして頬に涙が溢れ出した…
六月●日…転入日
初めの口頭に書かれていたのは豹が転入して来た日付だった。それはその後を察するにまるで豹の日記のようだった。
『美嶋 星那』…黒髪ロングヘアで容姿は中の上、クラスを含め学年一の人気者。性格は人を信じやすく嘘が下手で無駄に責任感が強い偽善者。第一印象は最悪。だが、それだけの奴だから利用もしやすいだろうと思っていた俺の考えは間違いだった。美嶋 星那は裏でホストというバイトをしていた。事前の調査からは見えなかった新事実に内心驚きもしたが俺の任務は変わらない。少しでも近づかなければならない…そう思い急遽同じ『Start』に入る事となった。そこでの美嶋 星那は普段と変わらず周りに人気があり人気者として偽善者として活躍していた。一つ変わっている所と言えば男として偽造し隠している所だろう。その事実を他に誰も知る様子もなく普通にやり過ごせているのは彼女の力が関係していると考えられる。そう考えれば美嶋 星那にとって男として詐欺する事など可能だろう。もはや偽善者より詐欺師だな。
「何だとコラァァッ!?偽善者や詐欺師や言いたい放題いいやがって!つーか前半から後半全部悪口しか言ってないじゃん!」
などとものすご~~くムカついたが目を向けなければならないのはそれではない。
「任務や事前の調査って…初めから私に近づく為だったって事だよね…?何で私なの?」
そう問題は何故豹は私に近づかなければならなかったのか?そして…
「豹は私の力を知っていた…?」
育ててくれた父も含め誰にも話す事もなかった私の力…未来を見る力を豹は知っていた事実に驚愕した。何故そのような事実を知っているのか?益々、宮端 豹という人物が何者なのかという疑問が深まった。
六月▲日…飛び込み橋
そう書かれた口頭の意味は直ぐに次の日に起きた瑞穂さんの事件だと思い当たった。
学校での行動や距離は未だ変わらない。ただ今日は初出勤として美嶋 星那に近づくチャンスが出来た。それは指導役として美嶋 星那が選ばれる事になったからだ。事前に『Start』での内情を調べた折にこうなる事は予測済みだったがいざ彼女を前にすると詐欺師感満載で吹き出しそうになったが一応堪えた。だがそんな事より書き記さなくてはいけない事件が起こった。主要人物は初めて来店する普通の会社員の瑞穂という女性だ。彼女は職場で虐めれ会社を辞めたものの誰も雇ってもらえず心を病んでいた。そんな彼女が橋から飛び降りようとしている事を勘づいた美嶋 星那は…否、未来を見た事で知ったのだろう。そして、彼女を止めようと動いた折に馬鹿な事に自分も橋から飛び込むという行動を起こした。幸い、随時監視をしなくてはいけなかったためホストの一人に睡眠薬を飲ませた俺は彼女のその行動を発見し橋から落ちた二人を救出した。そして目を覚ました美嶋 星那と取り引きをした。女である事実とホストをしている事実を口外しない事を…だが、内心俺には何も得にはならない。唯一得たものは美嶋 星那の弱みを握る唯一の存在になれた事だ。そう考えれば悪くない取引だろう。
「やっぱり私の力を知っていたんだ…」
未来を見る力とハッキリと書かれたその文に私は確信を得た。豹は私の全てを知っているのだと。
「それに、随時監視って…豹の任務って何なの?」
そのページではまだ分からない疑問に頭を悩ませながら次のページを読み進めた。
六月▼日…放火事件
昼間の学校生活では体力測定という授業があった。そこで美嶋 星那と賭けをしたのだが余りのも無謀な賭けで見事俺の圧勝となった。得に得るものはなかったがあいつをからかうのは面白い、いい退屈しのぎになる。そして、夜間では放火事件という出来事があった。主犯者は美嶋 星那が住むボロアパートと大家の息子である良一という男性だった。良一は、海外留学をしていたが母である大家と一緒に暮らす為にアパートに火をつけた。普通なら警察沙汰になってもおかしくないのだがその未来を見た美嶋 星那は警察に知らせることなく匿い事情を聞いた折、その行為を見逃したのだ。利益という利益はなく寧ろ住み場所を失い警察に事情聴取される始末なのに当の本人はあっけらかんとしていた。お人好しというかさすが偽善者だと言うべきか…だが、そんな奴を何故か見過ごす事が出来なかった。任務としても生存したままが含まれているので手を下す事には支障はないだろう。俺は、美嶋 星那を『Start』のオーナーでありナンバーワンホストである蓮さんの家に泊まらせる事にした。彼女の中でも信頼がおける人物らしくついでに言えば一緒に暮らせるという事で身近で監視するのにも楽だった。だが、一つ思う事があるとすればこんなお人好しの偽善者詐欺師を監視し続けるのは骨が折れる。
「あ…あははは……何が骨が折れるだっ!?こんにゃろぅぅぅっ!!」
私は怒りで思わずその場に日記を投げつけた。
「はぁ…はぁ…というか、豹の奴段々悪口しかいってないよね?最後の一文とか完全に悪口だよね!?」
今この場に居たのなら絶対にぶん殴っていた所だが、現在の状況で自分を見失う程私は子供ではない。
「任務に含まれている生存したままって…豹は、誕生日の時までは傷をつけないようにしてくれてたって事だよね?それにしても何かあったらいつも助けてくれたりずっと傍に居てくれた…それも任務だからなのかな?」
そう思うと悲しくなった。勘違いしてたみたいで凄く…悲しくなった。
六月○日…盗難事件
前の日から学校で薄々多発していた盗難事件がその日美嶋 星那によって解決した。その日は、『Start』の仕事が終わり帰る前に美嶋 星那に真夜中の学校に一緒についてきて欲しいと頼まれた。本人の雑な理由としては忘れ物をしたからだという理由だが本当の理由は別にあるのだろうと直ぐに察した。異変は前々からあったが盗難事件を騒がせた張本人である椎名 寧々の未来でも見えたのだという事実に。だが、お人好し偽善者の美嶋 星那が動くのも俺には目に見えていた。まさか巻き込まれるとは思いもしなかったが…まぁ、こちらとしても利益はある。遠目で監視するより身近で監視する方が楽だからな。解決策はあるのかとそんな適当に見ていた俺だったが、美嶋 星那は彼女…椎名 寧々の罪をまた見逃した。言っている事はめちゃくちゃでどうしようもないお人好しだがそれでも妙に人の心に突き刺さる…そんな美嶋 星那の言葉が椎名 寧々の背中を押した。それは普通の奴には出来ない事だと俺は少しだけそう感じた。
「豹……悪口ばかり悪化してるなんて言ってごめん」
また悪口が書かれていると思って構えていたのに、まさかの思わぬ嬉しい言葉に先程の言葉を訂正した。ほんの少しだけの訂正だが…
六月■日…メイドの苦難
「ふっ……はははは…何かな~?メイドの苦難って!?私の訂正返せっ!!」
次の題名で私の訂正は一瞬にして砕け散った。
昨日ショッピングに行くと言い出した不用心過ぎる美嶋 星那に怒りを覚えた。何なんだあいつは…!もっと自分が女である事実と秘密を持っているという事を分かっているのか?自分の事になると抜けているというかなんというか…この頃、何故かそんな美嶋 星那を気にしてしまう。別に心配というわけではなく任務の為に美嶋 星那の秘密が他にバレると色々と厄介だからだ。そんなこんなで美嶋 星那が新しくメイドのバイトを始めた…という事で試しに馬鹿を連れて偵察に行ってみるとその外見もさながら中々似合っていた。それと同様にからかいがいも倍やりやすく暇つぶしにはかなり満足した日となった。
「な…何故だろう?怒りがフツフツと湧き上がるんですけど…?」
あの日ほど豹が悪魔に見えた事はないと思う程の記憶に怒りが湧き上がると一緒に…
「私の前半のキュン返して欲しいくらいだわ…」
前半の文から私を心配するような天邪鬼らしい豹の気持ちに内心ときめいた気持ちを返して欲しいと心底思った。
六月□日…元カノ事件
元カノ事件…いわゆる同じく一緒に暮らす事になり同じバイト仲間でナンバーツーホストの隆二さんの事件だ。前々から見え隠れしていた隆二さんの元カノの件で起きた事件なのだが、どうやら美嶋 星那はその元カノである真希という女性の未来を見たらしく帰って来て早々に青ざめた顔で真希に会わせようとする事から何か真希に危険がくる未来を見たと薄々勘づいた。翌朝、直ぐに隆二さんを連れ空港に着くなり美嶋 星那は真希が乗る予定の飛行機を調べて欲しいと懇願した。必死に嘆願する様子からどうやら危険な未来が起こる原因はその飛行機にあるらしく美嶋 星那の必死の懇願で飛行機の再点検が行われ後々不備があった事から美嶋 星那の未来予知は確実のものとなったのだ。無事解決後、あの御方が欲しがるのも分かる気がすると俺は思った。
「あの御方…豹に任務を命じたと思われる人で、一番豹が恐れてる人」
きっと一番の鍵を握る人物…
まるでパズルのピースを埋めていくように豹の日記からキーワードを脳内で埋めていく。
六月✕日…登山事件
この日は美嶋 星那にとって鍵を開ける日となった。美嶋 星那の同級生で心友の平戸 理沙の提案で美嶋 星那を含めまひる・ひの・寧々そして、俺を入れた六人で登山をする事になった。そこで、登山中にひのが足を踏み外し森林から落ちた事から事件が始まった。後々、ひのは無事に自衛隊に発見され見つかったが待ちきれずにすれ違いで探しに行った美嶋 星那は一人空き小屋で閉じ込められていた。美嶋 星那にとってはその状況は昔のトラウマを呼び起こすものであり一種の鍵を開ける前兆とも言えるだろう。まさかそのような事態になるとは俺自身予測はしていなかったが、実際現場に行って何故そのような事態になったのか納得がいった。熱で倒れた美嶋 星那を抱えながら去り際に発見した紫色のプラスチックのリングはその事態の真意を示していた。そのリングはよく知る人物の物であり恐らくは勝手に俺の任務に干渉してきたと思われた。美嶋 星那のトラウマを呼び起こした結果には納得せざる負えないが、俺はそいつのやり方が気に食わない。トラウマを呼び起こすのはそう容易い事じゃないことくらい分かっているが、それでも美嶋 星那を傷付ける事に納得がいかなかった。熱で力尽きて倒れている美嶋 星那を発見した際に、必死で扉を叩き血だらけになった手を見た瞬間任務という事を忘れ俺は自分の意思で美嶋 星那を助けたいと思った。何故そう思ったのか?何故気になって心配してしまうのか?この頃、そんな意味の分からない感情に混乱している…。
「私のトラウマ……豹は私のトラウマを…ううん、私の過去を知っているの?それを思い出させるのが任務って事?」
疑問はそれだけではなかった。もう一つのキーワード…
「紫色のプラスチックのリング…」
それはコスプレホストの際に豹が言ってた事だった。”青色の指輪は元から持っていた物”…つまりは豹の物で、”紫色の指輪は山で拾った物”…つまりそれはトラウマを呼び起こす為に仕掛けた豹の仲間の物って事だよね…?でも、豹はその手助けを望んでいなかった。それは私を傷つけたくないから……
「ほんと天邪鬼!鈍感!気になるとか心配とか……それもう答え出てるじゃん…っ!」
今はもう届く事のない声に涙が日記に零れ落ちた。豹の書いた字が涙で滲みながらも溢れる感情を止めることなど出来るはずなかった。
「気づけよ……馬鹿…っ」
「豹…」
私は宮端 豹という人物を何も知らない…彼がどの様に生きてきたのかも何を思って私達と暮らしていたのかも全て知らない…
彼が居なくなって初めて気付き私が意識を向けたのは豹の部屋だった。今まで誰も入る事もなかった豹の部屋に暗い部屋のまま足を踏み入れる。
キー……
中に入るとそこにはベッドが一つと数枚の着替えや制服が入ったクローゼットが一つと一冊の本が置かれた机が一つという何とも質素な部屋だった。
「何も無いというかシンプルというか…」
豹らしいと言えば豹らしい部屋だが余りにも物がないせいか最初から長居するつもりがなかったとさえ考えられる部屋に戸惑いを隠せなかった。
「あの本って…」
何かないかと目線を巡らせると机の上に置かれた一冊の黒い本が目につき手に取ってみる。
「見ちゃ駄目だと分かってるけど…豹ごめんっ!」
この場にいない豹に深く謝罪を心中でし意を決して中を開く。
「え……っ…」
中を開いた瞬間、書かれていた内容に堪らずその場に崩れ落ちた。
「嘘つき……」
もう何度その言葉を口にしたのだろうか?私はその言葉をページをめくる度に何度も何度も思った。そして、一瞬にして頬に涙が溢れ出した…
六月●日…転入日
初めの口頭に書かれていたのは豹が転入して来た日付だった。それはその後を察するにまるで豹の日記のようだった。
『美嶋 星那』…黒髪ロングヘアで容姿は中の上、クラスを含め学年一の人気者。性格は人を信じやすく嘘が下手で無駄に責任感が強い偽善者。第一印象は最悪。だが、それだけの奴だから利用もしやすいだろうと思っていた俺の考えは間違いだった。美嶋 星那は裏でホストというバイトをしていた。事前の調査からは見えなかった新事実に内心驚きもしたが俺の任務は変わらない。少しでも近づかなければならない…そう思い急遽同じ『Start』に入る事となった。そこでの美嶋 星那は普段と変わらず周りに人気があり人気者として偽善者として活躍していた。一つ変わっている所と言えば男として偽造し隠している所だろう。その事実を他に誰も知る様子もなく普通にやり過ごせているのは彼女の力が関係していると考えられる。そう考えれば美嶋 星那にとって男として詐欺する事など可能だろう。もはや偽善者より詐欺師だな。
「何だとコラァァッ!?偽善者や詐欺師や言いたい放題いいやがって!つーか前半から後半全部悪口しか言ってないじゃん!」
などとものすご~~くムカついたが目を向けなければならないのはそれではない。
「任務や事前の調査って…初めから私に近づく為だったって事だよね…?何で私なの?」
そう問題は何故豹は私に近づかなければならなかったのか?そして…
「豹は私の力を知っていた…?」
育ててくれた父も含め誰にも話す事もなかった私の力…未来を見る力を豹は知っていた事実に驚愕した。何故そのような事実を知っているのか?益々、宮端 豹という人物が何者なのかという疑問が深まった。
六月▲日…飛び込み橋
そう書かれた口頭の意味は直ぐに次の日に起きた瑞穂さんの事件だと思い当たった。
学校での行動や距離は未だ変わらない。ただ今日は初出勤として美嶋 星那に近づくチャンスが出来た。それは指導役として美嶋 星那が選ばれる事になったからだ。事前に『Start』での内情を調べた折にこうなる事は予測済みだったがいざ彼女を前にすると詐欺師感満載で吹き出しそうになったが一応堪えた。だがそんな事より書き記さなくてはいけない事件が起こった。主要人物は初めて来店する普通の会社員の瑞穂という女性だ。彼女は職場で虐めれ会社を辞めたものの誰も雇ってもらえず心を病んでいた。そんな彼女が橋から飛び降りようとしている事を勘づいた美嶋 星那は…否、未来を見た事で知ったのだろう。そして、彼女を止めようと動いた折に馬鹿な事に自分も橋から飛び込むという行動を起こした。幸い、随時監視をしなくてはいけなかったためホストの一人に睡眠薬を飲ませた俺は彼女のその行動を発見し橋から落ちた二人を救出した。そして目を覚ました美嶋 星那と取り引きをした。女である事実とホストをしている事実を口外しない事を…だが、内心俺には何も得にはならない。唯一得たものは美嶋 星那の弱みを握る唯一の存在になれた事だ。そう考えれば悪くない取引だろう。
「やっぱり私の力を知っていたんだ…」
未来を見る力とハッキリと書かれたその文に私は確信を得た。豹は私の全てを知っているのだと。
「それに、随時監視って…豹の任務って何なの?」
そのページではまだ分からない疑問に頭を悩ませながら次のページを読み進めた。
六月▼日…放火事件
昼間の学校生活では体力測定という授業があった。そこで美嶋 星那と賭けをしたのだが余りのも無謀な賭けで見事俺の圧勝となった。得に得るものはなかったがあいつをからかうのは面白い、いい退屈しのぎになる。そして、夜間では放火事件という出来事があった。主犯者は美嶋 星那が住むボロアパートと大家の息子である良一という男性だった。良一は、海外留学をしていたが母である大家と一緒に暮らす為にアパートに火をつけた。普通なら警察沙汰になってもおかしくないのだがその未来を見た美嶋 星那は警察に知らせることなく匿い事情を聞いた折、その行為を見逃したのだ。利益という利益はなく寧ろ住み場所を失い警察に事情聴取される始末なのに当の本人はあっけらかんとしていた。お人好しというかさすが偽善者だと言うべきか…だが、そんな奴を何故か見過ごす事が出来なかった。任務としても生存したままが含まれているので手を下す事には支障はないだろう。俺は、美嶋 星那を『Start』のオーナーでありナンバーワンホストである蓮さんの家に泊まらせる事にした。彼女の中でも信頼がおける人物らしくついでに言えば一緒に暮らせるという事で身近で監視するのにも楽だった。だが、一つ思う事があるとすればこんなお人好しの偽善者詐欺師を監視し続けるのは骨が折れる。
「あ…あははは……何が骨が折れるだっ!?こんにゃろぅぅぅっ!!」
私は怒りで思わずその場に日記を投げつけた。
「はぁ…はぁ…というか、豹の奴段々悪口しかいってないよね?最後の一文とか完全に悪口だよね!?」
今この場に居たのなら絶対にぶん殴っていた所だが、現在の状況で自分を見失う程私は子供ではない。
「任務に含まれている生存したままって…豹は、誕生日の時までは傷をつけないようにしてくれてたって事だよね?それにしても何かあったらいつも助けてくれたりずっと傍に居てくれた…それも任務だからなのかな?」
そう思うと悲しくなった。勘違いしてたみたいで凄く…悲しくなった。
六月○日…盗難事件
前の日から学校で薄々多発していた盗難事件がその日美嶋 星那によって解決した。その日は、『Start』の仕事が終わり帰る前に美嶋 星那に真夜中の学校に一緒についてきて欲しいと頼まれた。本人の雑な理由としては忘れ物をしたからだという理由だが本当の理由は別にあるのだろうと直ぐに察した。異変は前々からあったが盗難事件を騒がせた張本人である椎名 寧々の未来でも見えたのだという事実に。だが、お人好し偽善者の美嶋 星那が動くのも俺には目に見えていた。まさか巻き込まれるとは思いもしなかったが…まぁ、こちらとしても利益はある。遠目で監視するより身近で監視する方が楽だからな。解決策はあるのかとそんな適当に見ていた俺だったが、美嶋 星那は彼女…椎名 寧々の罪をまた見逃した。言っている事はめちゃくちゃでどうしようもないお人好しだがそれでも妙に人の心に突き刺さる…そんな美嶋 星那の言葉が椎名 寧々の背中を押した。それは普通の奴には出来ない事だと俺は少しだけそう感じた。
「豹……悪口ばかり悪化してるなんて言ってごめん」
また悪口が書かれていると思って構えていたのに、まさかの思わぬ嬉しい言葉に先程の言葉を訂正した。ほんの少しだけの訂正だが…
六月■日…メイドの苦難
「ふっ……はははは…何かな~?メイドの苦難って!?私の訂正返せっ!!」
次の題名で私の訂正は一瞬にして砕け散った。
昨日ショッピングに行くと言い出した不用心過ぎる美嶋 星那に怒りを覚えた。何なんだあいつは…!もっと自分が女である事実と秘密を持っているという事を分かっているのか?自分の事になると抜けているというかなんというか…この頃、何故かそんな美嶋 星那を気にしてしまう。別に心配というわけではなく任務の為に美嶋 星那の秘密が他にバレると色々と厄介だからだ。そんなこんなで美嶋 星那が新しくメイドのバイトを始めた…という事で試しに馬鹿を連れて偵察に行ってみるとその外見もさながら中々似合っていた。それと同様にからかいがいも倍やりやすく暇つぶしにはかなり満足した日となった。
「な…何故だろう?怒りがフツフツと湧き上がるんですけど…?」
あの日ほど豹が悪魔に見えた事はないと思う程の記憶に怒りが湧き上がると一緒に…
「私の前半のキュン返して欲しいくらいだわ…」
前半の文から私を心配するような天邪鬼らしい豹の気持ちに内心ときめいた気持ちを返して欲しいと心底思った。
六月□日…元カノ事件
元カノ事件…いわゆる同じく一緒に暮らす事になり同じバイト仲間でナンバーツーホストの隆二さんの事件だ。前々から見え隠れしていた隆二さんの元カノの件で起きた事件なのだが、どうやら美嶋 星那はその元カノである真希という女性の未来を見たらしく帰って来て早々に青ざめた顔で真希に会わせようとする事から何か真希に危険がくる未来を見たと薄々勘づいた。翌朝、直ぐに隆二さんを連れ空港に着くなり美嶋 星那は真希が乗る予定の飛行機を調べて欲しいと懇願した。必死に嘆願する様子からどうやら危険な未来が起こる原因はその飛行機にあるらしく美嶋 星那の必死の懇願で飛行機の再点検が行われ後々不備があった事から美嶋 星那の未来予知は確実のものとなったのだ。無事解決後、あの御方が欲しがるのも分かる気がすると俺は思った。
「あの御方…豹に任務を命じたと思われる人で、一番豹が恐れてる人」
きっと一番の鍵を握る人物…
まるでパズルのピースを埋めていくように豹の日記からキーワードを脳内で埋めていく。
六月✕日…登山事件
この日は美嶋 星那にとって鍵を開ける日となった。美嶋 星那の同級生で心友の平戸 理沙の提案で美嶋 星那を含めまひる・ひの・寧々そして、俺を入れた六人で登山をする事になった。そこで、登山中にひのが足を踏み外し森林から落ちた事から事件が始まった。後々、ひのは無事に自衛隊に発見され見つかったが待ちきれずにすれ違いで探しに行った美嶋 星那は一人空き小屋で閉じ込められていた。美嶋 星那にとってはその状況は昔のトラウマを呼び起こすものであり一種の鍵を開ける前兆とも言えるだろう。まさかそのような事態になるとは俺自身予測はしていなかったが、実際現場に行って何故そのような事態になったのか納得がいった。熱で倒れた美嶋 星那を抱えながら去り際に発見した紫色のプラスチックのリングはその事態の真意を示していた。そのリングはよく知る人物の物であり恐らくは勝手に俺の任務に干渉してきたと思われた。美嶋 星那のトラウマを呼び起こした結果には納得せざる負えないが、俺はそいつのやり方が気に食わない。トラウマを呼び起こすのはそう容易い事じゃないことくらい分かっているが、それでも美嶋 星那を傷付ける事に納得がいかなかった。熱で力尽きて倒れている美嶋 星那を発見した際に、必死で扉を叩き血だらけになった手を見た瞬間任務という事を忘れ俺は自分の意思で美嶋 星那を助けたいと思った。何故そう思ったのか?何故気になって心配してしまうのか?この頃、そんな意味の分からない感情に混乱している…。
「私のトラウマ……豹は私のトラウマを…ううん、私の過去を知っているの?それを思い出させるのが任務って事?」
疑問はそれだけではなかった。もう一つのキーワード…
「紫色のプラスチックのリング…」
それはコスプレホストの際に豹が言ってた事だった。”青色の指輪は元から持っていた物”…つまりは豹の物で、”紫色の指輪は山で拾った物”…つまりそれはトラウマを呼び起こす為に仕掛けた豹の仲間の物って事だよね…?でも、豹はその手助けを望んでいなかった。それは私を傷つけたくないから……
「ほんと天邪鬼!鈍感!気になるとか心配とか……それもう答え出てるじゃん…っ!」
今はもう届く事のない声に涙が日記に零れ落ちた。豹の書いた字が涙で滲みながらも溢れる感情を止めることなど出来るはずなかった。
「気づけよ……馬鹿…っ」
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感想ありがとうございます┏●
終盤に差し掛かってきて更新を随時出来しだいやっていきますので、この先の展開にご期待を(*^^*)
感想ありがとうございます(´ω`)
随時更新していきますので後々の展開にご期待ください(ΦωΦ)フフフ・・