精子を下さい!

たまりん

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6 健太郎の祈り

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【翔真視点】

「マジかよ………」

俺は、驚愕の思いで、倉田の部屋を見渡していた。

ここに来て、ようやく俺は、今までの違和感の全てが一つの線となって結びついていた。

「何てこった……」

膝をついて、手に握りしめた一つのDVDに眉を寄せた。

男同志のアダルトビデオ。

しかもその男優の顔が何故か俺に似ている事実はもう、明らかに認めるしかないだろう……。

(お前の好きな人って……。俺……だったのかよ?)


何年もアイツを見てきた俺だ。

そう思い至った瞬間、一気に見えてくるあいつの思いがあった。

時系列事に何でも並べ替えていた几帳面な男。

本棚を左から順番に見て、俺は震える拳を握り締めた。

「性の多様性」
「恋と友情」
「それでも好きなんです」
「彼がノンケで困っています」
「友達としてできること」
「不毛な想い」

そして、何度も読み返された跡のある一冊の本

「諦められない恋の諦め方」

それらの本にアイツの時を追っての苦悩を感じ取る。

(倉田…… お前……)

俺に向けられていた視線を思い出す。

笑った顔…
照れた顔…
時に怒った顔…
酷く悲しそうな顔…

最後に手にとった本を捲る。

無造作に開くページはきっとその本の持ち主が何度も目にしたページだから。

そこに書かれた文字に胸が詰まった。


《最期には大切な人が幸せである事を祈りましょう。》

存在してくれている事に感謝しましょう。

最初は上手くいかないかもしれません。
ずっとこんな苦悩が続くと思うと、この現状と孤独感に苦しくなるかもしれません。

それでもまずは今日一日、それも無理なら、この一瞬の相手の幸せを祈る事から始めてみませんか?

たとえ、それが貴方のいない彼の幸せでも。


(あぁ、そうか…)

そうだったんだと今更思い浮かべる。

「幸せか…?」

そう聞かれた。


それを思い出し思う。

アイツの真摯な思いに俺は、どれ程真摯に答えたか。

そこに迷いや、見栄、虚栄心が無かっただろうか。

(倉田…、俺は…)

少なくともお前の願ってくれた真っ直ぐな祈りに、俺は値する男では無かったと、苦しくなった。

フォトアルバムの映像が繰り返される。

笑い合う、俺と倉田。


2人共有した数々の名場面。

いつも俺をみつめてくれていた、今となっては分かりやすい気遣いと優しさ。


(倉田……)

そう真っ直ぐに俺は倉田を見つめて呟いた。

(俺は……)





そうして片付けを済ませた俺はリビングに向かった。

そこには、エプロン姿のまま、ペタンと座り込む麻衣子の背中があった。

「麻衣子、…どした?腹でも痛むのか…?」

ギョッとした俺が声をかけて駆け寄ろうとすると、涙と鼻水で顔をドロドロにした麻衣子が振り返った。

「なっ、…どうした?」

驚愕に目を見開く俺に麻衣子は更に表情を崩した。

「お、お兄ちゃんの好きな人、し…翔真さんだった…、翔真さんだったんだよ。」

そう言われた瞬間、俺はギクリとして目を見開いた。

「なっ、何でっ、お前そんな…」

言葉が続かなくて絶句する。

アイツの気持ちを表すものは、全てあの部屋に閉じ込められていた。

そう、アイツはして無かったはずだ。

だから麻衣子も知らないはずなのに。

アイツの意思を尊重するなら…
少なくとも生前のアイツが麻衣子にそれを告げられなかったなら。

麻衣子のなかの倉田は、ずっと同じ倉田でいい。

倉田もそれを望んでいるのかもしれない。

今更、麻衣子がそれを知る必要なんて…

そう思い取り繕う方法を考える。

(そもそも、…なんだってバレてんだ?)

そう思った俺に麻衣子は、持っていた妙にお洒落なレシピノートを開いた。

「いっ……?」

その存在に俺は驚愕した。

(これは、厳しいぞ、…倉田。)

もう誤魔化せないかもしれない。
そう思う程、フォローの言葉が見つからない。

(なんだってこんなもんがこんなとこに…)

麻衣子がジャーンと開いているノート。
それは弁当のレシピだった。

玉子焼と書かれたページにはご丁寧に真ん中でカラフルな線が引かれ、左に俺の名前(ハート付き)右に麻衣子の名前が書かれて、その下それぞれの調味料の配分がかかれている。

ご丁寧に食べた時の感想付きだ。

「阿久津美味いか?」

期待と不安の混ざった倉田の顔を思い出す。

「あぁ美味いな」って言った後の、アイツの機嫌の良さも、今なら理由がわかる。

推察するに、俺の玉子焼は醤油ベースの辛口、麻衣子のは、出汁と砂糖をベースにした超甘口。

その隣のページは唐揚げの作り方が同様に…

(マジかよ…? マメ過ぎるだろうお前……)

何度も貰った弁当。

それが倉田による、俺のためのによってもたらされたものである事を今更ながら思い知る。

「どうしようっ…、私…」

麻衣子は複雑に顔を歪めている。
まぁ、妹としては当然の反応だろう。

麻衣子はブラコンであると言えるほど、理想的な兄を慕ってきたのだから。

麻衣子はポロポロ泣き出した。

気持ちは分からないでもない。

だけど倉田は倉田で精一杯苦悩してて、アイツはやっぱりアイツで、やっぱり凄い奴でと、生前のアイツの直向きさを偲び、遣り切れない思いでどうフォローしたらいいのか考える。

「泣くな、麻衣子、アイツは凄い奴なんだよ…」

そう言いかけた瞬間、麻衣子はガバッと頭を起こした。

「ふぁぁん…、私、私、お兄ちゃんの好きな人、横取りしちゃったの?あぁぁ~ん…、ごめんね、ごめんね、お兄ちゃぁぁん!」

(そ、そこかよ……?)

結局、ヒクヒクとしゃっくりを続ける麻衣子を宥めながら、俺は俺の知ってる限りの倉田との事を話した。

もちろん一部女子に人気の関係では無かった事も含めて…。

麻衣子は、泣いたり、笑ったりしながら聞いていた。
俺の過去も、俺の醜さも含めて、聞いてくれた。

マンションからの帰り道、夕焼け空を見上げながら麻衣子が言った。

「お兄ちゃん、凄く翔真さんのこと好きだったんだね」

「あぁ、そうだな…」

そう答える俺に、麻衣子が振り返り俺を見上げた。

「翔真さんは…?」

そうアイツによく似た漆黒の瞳に見つめられた。

「俺か…?俺は、そうだな…」

「俺にとってもだったよ…。」

きっと《想いの種類》が違っても、俺にも特別な存在だった。

アイツのには、応えられなかったけど、…それどころか、きっと傷つけてばかりの俺だったのかも知れないけど…

せめて、アイツのには、応えられるような、そんな生き方をしたいと思った。

「なぁ、麻衣子、倉田はあんな奴だからさ、勝手かもしれないけど、きっとまだ、毎日祈ってくれてると思うんだ。俺の幸せを、もちろん麻衣子、お前の幸せもな…」

そう呟き、麻衣子に手を伸ばした。

「うん、そうだね…」

兄を思い浮かべて、優しい瞳を細めて頷く麻衣子の頭をポンポンと撫でながら、俺は、今度こそ倉田のに足る自分になる事を誓った。

「だから、俺もな、毎日アイツを思いながら生きていこうと思うんだ。ありがとな、元気だ、皆幸せだよって。…そうしてもいいか?お前と一緒に…」

そう問いかけた俺に麻衣子は、アイツによく似た瞳を嬉しそうに瞬かせて頷いた。

(ありがとな、倉田、今日も俺は幸せだよ…)

そう空を見上げた俺は奴にそう告げてみた。
そして俺たちは、手を繋ぎ帰路についた。



一つだけ、アイツに聞きたいことが無い訳ではない。

(倉田、ところで、お前の中で…
俺は、ネコとタチのどちらだったんだろうか…?)

亡き友には、今更聞く術もない。



終わり
















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感想 1

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みんなの感想(1件)

K
2019.03.01 K

倉田「タ、タチだよっ(////)」

2019.03.01 たまりん

ご感想ありがとうごさいます。

そこは皆さんの推測(願望)にお任せしたいなぁと思っております 笑

お読みいただきありがとうごさいました。

解除

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