上 下
9 / 14

人間はいない

しおりを挟む
 君は、この世界をどう思っているのかね?

 お父さんとお母さんの死に対しての反省は?

 この先、どう生きるのか?

 どうなりたいのか・・・・・・

 正直、そんなこと、考えもしなかった

 わたしは、質問には、一切答えなかった

 応えられなかったと言った方が正解だろう

 どうしてこうなったのか・・・・・・

 それすらも理解できていない

 こんな状況で、未来とか、聞かれてもねえ・・・・・・

 ないわー わたしには 何もない

 矢継ぎ早に質問されて、苛立ちを覚えたのは確かだろう

 大人に与えられた権限が、これかよ・・・・・・

 毎日、オナニーは何回しますか?

 それって、性的侮辱的、発言ですよね

 そう聞き返したいのは、山々だが、相手も法的処理なのだろう

 しかも具体的な数を聞いて来ている

 わたしがいま聞きたい答えは、あなた方はどうして大人になれたのか

 この一言に尽きるだろう・・・・・・

 親父のこととか、お袋のこととか・・・・・・

 どうして殺したのか・・・・・・とか・・・・・・・

 まったく興味がわかない

 大人たちは、まるで猛獣を相手にしているかのような、険しい姿だ

 わたしはまるで信用されてない そのことだけは伝わって来た

 もっとも、わたしも人を信用したことがない

 そのことを考慮すればお互いさまなんだけどねー・・・・・・

 やっぱり無理なんじゃないのー 人間を理解するのってさー

 あからさまに とことん ぶっきらぼうなたいどだ

 目に光はなく 未来を見据えていない目だ

 信用・・・・・・という言葉が重くのしかかる・・・・・・

 この世界に人間はいない・・・・・・

 これがわたしの答えだった

 どうして生きていられたのか それは偽者の愛ゆえに

 それに固執できたからだ

 心もからだも腐敗しきっている

 このまま野には放たれたくない 生活は出来ないから

 本能的に女性としての直感が 飢えている 乾いている

 ご妊娠なさってますよね あなたのカラダにお子さんが

 えーえー、異物がいますね・・・・・・

 なんだか、吐き気も、増えたようですし・・・・・・

 9歳の自分には、身籠った その言葉に吐き気を模様した

 手首を縛られて、椅子に宙吊りにされている気分だ

 宙吊りにされた椅子はユラユラと揺れていた

 ブランコのような子供の玩具が思い出された

 子供の頃の思い出とは 稚拙なのではないかしら

 稚拙という言葉が、頭から離れない

 本当は、大切な思い出となるはずだったのでしょうから

 子供を愛せないのは、当たり前だと思う

 夫となる人物が、かつては優しかった

 わたしの父親なのですから・・・・・・

 いっそのこと 死刑にしてくださらないかしら

 立ちんぼをして暮らすのも、あきあきしていた

 誰かのために、稼がなくてはならない

 小学生のすることではない・・・・・・

 大人とは、権威をもって、暴力を奮う生き物だ

 子供のことを考えているようでいて、その実体がない

 すべてが、セールストークに聞こえるのは

 わたしだけなのだろうか・・・・・・

 人間がいないというよりかは、愛が冷め切った世界

 そこにわたしは、今、身を置いている

 苦渋に似た果実をかじりながら、爪を「あまがみ」している

 人生とは、苦痛の連続だ・・・・・・

 はるか遠い未来に、祝福が待ち受けていても、いまがツライ

 その想いにうちひしがれながら、今日を生きている

 システムや運命などが存在しない世界のわたしはうめいている

 現実しかない世界ではとうてい生きられない存在なのだろう

 それがわたしという存在だった

 父親と母親から受ける性的虐待は、日増しに増加して行く

 たまに優しく話しかけられると「ゾッとする・・・・・・」

 何かされるのではないか・・・・・・

 その何かが自分の空想を超えることはない・・・・・・

 想像とは、辛さを乗り越えるものであるならば、あらがいたい

 陰唇を這い回るような思いだけが木霊している

 
しおりを挟む

処理中です...