理(ことわり)の革命 ~魔力なき少年は、価値なき世界を物理(マーケティング)で塗り替える~

MIroku

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第一章

第1話:リポジショニングの夜明け

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視界が、不気味なほど鮮やかな赤に染まっていた。

それは沈みゆく夕焼けのせいではなく、僕の額から流れ落ち、睫毛を濡らす血のせいだった。  

「……あ、が……」

喉が震えるが、まともな声にならない。肺に溜まった空気が、無様に漏れ出すだけだ。

冷たい石畳の上に突っ伏した僕の背中を、実の兄であるエリックが、これ見よがしに高級なブーツで踏みつけている。そのブーツからは、彼が愛用する高価な「白百合の香水」の、鼻をつくような甘い匂いが漂ってきた。

泥と血の臭いの中で、その優雅な香りは、この世界の「選別」の残酷さを象徴している。 

「おい、返事くらいしたらどうだ? 『無能のカイト様』よ。それとも、魔力が一滴もないと、耳まで聞こえなくなるのか?」  

周囲からは、堪えきれないといった風な嘲笑が漏れていた。そこにいるのは、僕の家族だ。血を分けたはずの父も、母も、そして長年仕えてきた使用人たちですら、誰も助けようとはしない。  

この世界において、魔力はすべてだ。魔法を使えない人間は、人間ではない。

ただの『家畜』か、それ以下の『ゴミ』。  

「エリック、もうよい。その汚物に触れると、お前の魔力が穢れる」  

父、神代当主の冷酷な声が響く。かつて幼い僕を抱き上げてくれたはずの手は、今は腰の剣の柄を握り、僕を処刑するかどうかを淡々と吟味しているようだった。  

「……殺さないのですか、父上?

「殺す価値もない。……連れて行け。北の果て、魔獣がうろつく『ナラク村』へな。そこで野垂れ死ぬのが、このゴミに相応しい最期だ」  

引きずられていく間、僕は意識が遠のく中で、前世の記憶を反芻していた。  

前世の僕は、神代海人かみしろ かいと

伝説的なマーケティング戦略家として、斜陽産業を数多く再生させてきた。

だが、組織が巨大化し、僕が体調を崩した途端、役員たちは僕を『不採算資産』として切り捨てた。 

(……ああ、そうか。なるほど。よく分かった)

絶望に浸る間もなく、僕の脳は冷徹に現状の「市場分析」を開始していた。

魔力。魔法。この世界における唯一の価値基準。

だが、単一の価値観に支配された市場は、脆い。

(魔法という既存製品のライフサイクルが成熟しきっている今、誰も『魔法が使えないこと』の潜在的なベネフィットに気づいていない)

価値とは、客観的な事実ではない。

「誰に、何を、どのように届けるか」という設計によって決定される概念だ。  

(覚えていろよ、神代家。お前たちが『ゴミ』だと定義した僕の存在を、この世界のバランスシートを塗り替える最大の『資産』へと変えてやる)

ガタガタと揺れる、家畜運搬用の荷馬車に放り込まれる。

全身の激痛と寒さで歯が根を鳴らす中、僕は血まみれの顔で、暗闇に向かって不敵に口角を上げた。  

(魔力ゼロ。味方ゼロ。資産ゼロ。……これ以上ないほど、クリーンなスタート地点じゃないか)  

どん底の、さらに下。

ここから、僕の「価値再定義(リポジショニング)」の物語が始まる。
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