理(ことわり)の革命 ~魔力なき少年は、価値なき世界を物理(マーケティング)で塗り替える~

MIroku

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第一章

第2話:市場の死角(ブルーオーシャン

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どれくらい揺られていたのか、もう分からない。

家畜運搬用の荷馬車は、石もまばらな荒野を抜け、北の最果て「ナラク村」へと到着した。

放り出された先は、凍てつく泥の中だった。  

「おい、ゴミ。ここがお前の新しい家だ。精々、魔獣の餌にでもなるんだな」  

護送兵が吐き捨てた言葉を、僕は泥を啜りながら脳内で反芻した。

痛みと空腹で意識が飛びそうになるが、マーケターとしての僕の脳は、この極限状態ですら「現状分析」を止めない。

(……惨憺たる状況だ。だが、情報の解像度は高い)

村はまさに、死に体だった。

並ぶ家々は屋根が抜け、村人の顔は土色。希望という名の魔力すら枯れ果てた、まさに「奈落」の名に相応しい場所。

神代家の紋章をつけた僕のボロ服を見て、村人たちは憎しみの籠もった視線を向けてくる。  

「……へっ、また『お貴族様』の捨て物かよ。ここにはお前の食うもんも、寝る場所もねえぞ」  

一人の男が、僕の目の前にある唯一の食べ物――道端に落ちた腐った果皮を、見せつけるように踏み潰した。  

(なるほど。セグメントは『最下層』、顧客満足度は『マイナス100%』。供給される資源はゼロ。……だが、なぜこの村は消滅(倒産)せずに存続している?)

僕は泥を這い、男が踏み潰した「不純物」に目を向けた。

そこに、この村が領主に納めるために掘り出している『黒鉛石』の破片が混じっていた。
ふと、指先がその石に触れた瞬間、微かな違和感を覚える。

この極寒の地で、僕の体温を奪うはずの石が、僕のわずかな気配を**「遮断」**しているような静寂。  

かつて前世で、高周波を遮断する電磁波シールドを扱った時の感覚と、驚くほど似ていた。  

(魔法使い共は、この石を『魔力を通さないゴミ』として切り捨て、杖の安定材(重し)として買い叩いている。……だが、それは『伝導』という単一の評価基準しか持たない、硬直化した市場の怠慢だ)  

魔力というエネルギーが文明の基盤であるならば、必ず**「魔力を遮断したい」**という切実な需要、即ち「絶縁体」へのニーズがあるはずだ。

王宮の密談、商人の帳簿隠し、暗殺者からの防御――。

市場が魔法の『伝導』にしか目を向けていない今、この『絶縁』という特性は、完全なるブルーオーシャンだ。  

「……おい。お前ら、腹が減ってるんだろ?」  

僕は、踏み潰された果皮を拾い上げ、自分を蔑んだ男を見上げた。

泥だらけの少年の瞳に宿る、冷徹で燃えるような光。

その異様さに、男が一歩後退りする。  

「この村の製品には、圧倒的な『潜在的価値』がある。僕がその価値を再定義(リポジショニング)し、適正な価格で市場を殴りつけてやる」

「……あ? 何を言ってやがる、このガキ……」

「一ヶ月待て。……この泥の村を、金貨の山に変えてやる」  

魔力ゼロの少年の、狂気とも取れる「事業提案」が、奈落の底に響いた。

胃の痛みも、寒さも、一瞬だけ忘れた。

勝利の筋道(ロードマップ)は、すでに僕の脳内で組み上がっていた。
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