理(ことわり)の革命 ~魔力なき少年は、価値なき世界を物理(マーケティング)で塗り替える~

MIroku

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第一章

第3話:価値の具現化(パッケージング)

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馬小屋の夜は、死の匂いがした。

壁の隙間から吹き込む北風が、湿った藁を凍らせ、僕の体温を容赦なく奪っていく。

現代日本で、伝説的なマーケターとして深夜のオフィスで戦略を練っていた時も寒かったが、あれはあくまで「清潔な孤独」だった。

今のこれは、骨まで凍てつく「原始的な絶望」だ。  

(……だが、脳だけは熱い。市場のバグを見つけた時の、あの感覚だ)

僕は震える手で、昼間拾い集めた『黒鉛石』を、鋭い石で執拗に削り続けていた。指先の感覚は寒さと霜焼けですでに消えていたが、作業を止めるつもりはなかった。  

マーケティングにおいて、中身がどれほど優れていても、泥まみれの石をそのまま「すごい石です」と言って売るのは三流だ。

一流は、顧客がその商品を手にした瞬間に感じる『物語(ストーリー)』をデザインする。  

僕は胸元から、母が死に際に託した唯一の形見――銀の髪飾りを取り出した。

彫金細工が施されたそれは、今の僕の持ち物の中で唯一「富」を象徴する輝きを放っている。

僕は迷うことなく、その髪飾りを石で叩き潰し始めた。ガリ、ガリと嫌な音が鳴り、繊細な銀の細工が歪んでいく。  

(感傷に価値はない。……価値は、変換するものだ)  

馬小屋の主が残したわずかな種火で銀を炙り、溶けた銀を黒鉛石の表面に、緻密な「紋章」のように塗り広げていく。

ただの黒い石に銀の装飾が加わる。それだけで、道端のゴミは途端に『いわく付きの魔導具』のような佇まいを見せ始めた。  

「……できた」  

翌朝、僕は村の入り口へと向かった。
そこには、この村を定期的に訪れ、村人が命を削って掘り出した石を家畜の餌以下の価格で買い叩く商人、ガメイルがいた。  

「おい、じいさん。今日はこれだけか? 運び賃の方が高くつくんだよ」  

肥え太った体で傲慢に振る舞うガメイルを、僕は冷徹にリサーチした。

上質な外套だが端々が擦り切れている。おそらく大きな商会の中では冷遇されている中堅どころだ。  

(ターゲット選定は悪くない。飢えているのは、僕だけじゃないんだ)  

僕はあえて泥の中に膝をつき、わざとらしく震える声で話しかけた。

「……旦那様。……お願いです。この『聖域の守り石』を、見てはいただけないでしょうか」  

「……あ? 何だ、その不気味な石は」  

ガメイルが視線を落とす。僕が差し出したのは、銀の紋章が刻まれた、禍々しくも美しい黒石だった。  

「これは、僕が神代家の宝物庫から持ち出した……魔法の探知を無効化する秘宝です」  

僕は、彼が最も恐れているであろう『他者(ライバルや徴税官)からの監視』という痛みに、正確に指を突き立てた。

ガメイルの瞳に、初めて「欲望」という名の火が灯ったのを、僕は見逃さなかった。
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