鳥籠の中の執行者

蒼森丘ひもたか

文字の大きさ
3 / 33
第一話

胎動する闇①

しおりを挟む
1993年5月6日 午前2時 東流神社


暗い森の中を数人の人影が忙しく動き回っている。

そんな中、杖を持ったローブの男が、灯篭に囲まれた石畳の上で、微動だにせず、ただ一点を見つめていた。

立派な青い髭と髪、もう歳は60を超えているが、そうとは思えない鋭い目と精悍な顔つき、青色に金の装飾の入ったローブを身に着け、漏斗のようなものが付いた珍妙な杖を持っているのが、灯篭の灯りによって暗闇から浮かび上がっていた。

笑いの種になりそうな姿をしているが、この町の人間で彼を表立って笑う者は誰一人としていない。

蒼源そうげん様。
神器は……やはりありませんでした」

長髪のスーツを着た男が、蒼源と呼んだローブを着た男の前に跪づき、報告をした。

鷹見 蒼源たかみ そうげん
この地、鳥飛光市とばいひかりしの最高権力者であり、
鳥飛光市を支配する4つの家・鳥飛光魔術四公家の一つ、鷹見家の現当主でもある。

蒼源は長髪の男を一瞥すると、また視線を戻す。
視線の先には、半壊した木造の小屋があった。
男の足元にまで散乱した色褪せた木片から、その建物が歴史のあるものだと窺える。

「寂しいものだな……
生まれたときからあったものが、こうもあっけなく破壊されるとは……」

「心中、お察しします。
神器を盗むだけでなく、拝殿も本殿まで破壊するとは許せません。」

この場所は神社だった。
名を東流神社とうりゅうじんじゃ
この鳥飛光市の東の守護を担う神聖な神社だったが、見るも無残に破壊されていた。
365日交代の2人体制で、それなりに腕の立つ警備員まで就けていたのにもかかわらずだ。

「生き残った警備員の話だと、賊は黒いローブを着た5人組で、特徴から『ダスク魔道教団』の線が強いとのことです。
練度の高い魔術師を倒すとなると、賊は相当の手練れかと……」

長髪の男の報告を無言で聞いていた蒼源は、ニヤリと口元を歪めた。

「この件の調査と神器の奪還は、かなめ、お前が指揮を執れ。

それと……がいを使え。」

蒼源の言葉に、要と呼ばれた長髪の男が伏せていた顔を思わず上げた。

「凱を使うとおっしゃるのですか?!
あれはまだ子供です。
ましてや、この一大事に関わらせるのは……」

「心配なのか?
ワシが直々に、今まで手塩にかけて鍛えたのだぞ?
それに、実戦による経験は、あやつを大きく成長させるだろう。」

「し、しかし……」

「くどいぞ。
それにお前が、このワシに意見出来る立場か?」

蒼源は、それ以上の言葉は許さぬと言わんばかりに、要を鋭い視線で睨みつけた。
その視線に射抜かれた要は、口元をキツく結び、悔しそうに顔を伏せた。

「これを機に、少しは仲良くするのだな。
それに、この件を見事解決出来た暁には、お前を『解放』してやる。」

蒼源の口にした『解放』と言う言葉に要は顔を上げ、蒼源に視線を向ける。
しかし、その瞳に期待の色は無く、どこか諦めたように暗く淀んでいた。

「この一大事だ、解決に導いた報奨として十分に見合うだろう。」

「ありがとう……ございます。」

それでも、儀礼的に礼を述べた要の表情からは諦観は消えていない。
蒼源は要を見下ろしながら、口元を笑みで歪めた。

要は静かに深呼吸をすると、

「しかし、凱が私に従うとは思えませんが?」

蒼源に懸念を伝えた。

「何もお前が、凱の隣に常にいる必要など無い。
それに、凱をコントロールするなら、お前よりも適任の者がいる。」

「適任の者……?」

蒼源は要の問いに答えずに身を翻すと、神社を後にしようと歩き出した。

「クックック……面白くなってきたな。

さて、凱よ。
お前はこの一件に、どんな答えを出すのか。」

蒼源の独り言に、要は底知れぬ不安を覚え、空を仰ぎ見た。
暗い雲に覆われているのか、星一つ見えない。

要は不安を払うように深く息を吐くと、再び調査に戻るため、森の中に入っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

処理中です...