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第一話
胎動する闇①
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1993年5月6日 午前2時 東流神社
暗い森の中を数人の人影が忙しく動き回っている。
そんな中、杖を持ったローブの男が、灯篭に囲まれた石畳の上で、微動だにせず、ただ一点を見つめていた。
立派な青い髭と髪、もう歳は60を超えているが、そうとは思えない鋭い目と精悍な顔つき、青色に金の装飾の入ったローブを身に着け、漏斗のようなものが付いた珍妙な杖を持っているのが、灯篭の灯りによって暗闇から浮かび上がっていた。
笑いの種になりそうな姿をしているが、この町の人間で彼を表立って笑う者は誰一人としていない。
「蒼源様。
神器は……やはりありませんでした」
長髪のスーツを着た男が、蒼源と呼んだローブを着た男の前に跪づき、報告をした。
鷹見 蒼源。
この地、鳥飛光市の最高権力者であり、
鳥飛光市を支配する4つの家・鳥飛光魔術四公家の一つ、鷹見家の現当主でもある。
蒼源は長髪の男を一瞥すると、また視線を戻す。
視線の先には、半壊した木造の小屋があった。
男の足元にまで散乱した色褪せた木片から、その建物が歴史のあるものだと窺える。
「寂しいものだな……
生まれたときからあったものが、こうもあっけなく破壊されるとは……」
「心中、お察しします。
神器を盗むだけでなく、拝殿も本殿まで破壊するとは許せません。」
この場所は神社だった。
名を東流神社。
この鳥飛光市の東の守護を担う神聖な神社だったが、見るも無残に破壊されていた。
365日交代の2人体制で、それなりに腕の立つ警備員まで就けていたのにもかかわらずだ。
「生き残った警備員の話だと、賊は黒いローブを着た5人組で、特徴から『ダスク魔道教団』の線が強いとのことです。
練度の高い魔術師を倒すとなると、賊は相当の手練れかと……」
長髪の男の報告を無言で聞いていた蒼源は、ニヤリと口元を歪めた。
「この件の調査と神器の奪還は、要、お前が指揮を執れ。
それと……凱を使え。」
蒼源の言葉に、要と呼ばれた長髪の男が伏せていた顔を思わず上げた。
「凱を使うとおっしゃるのですか?!
あれはまだ子供です。
ましてや、この一大事に関わらせるのは……」
「心配なのか?
ワシが直々に、今まで手塩にかけて鍛えたのだぞ?
それに、実戦による経験は、あやつを大きく成長させるだろう。」
「し、しかし……」
「くどいぞ。
それに今のお前が、このワシに意見出来る立場か?」
蒼源は、それ以上の言葉は許さぬと言わんばかりに、要を鋭い視線で睨みつけた。
その視線に射抜かれた要は、口元をキツく結び、悔しそうに顔を伏せた。
「これを機に、少しは仲良くするのだな。
それに、この件を見事解決出来た暁には、お前を『解放』してやる。」
蒼源の口にした『解放』と言う言葉に要は顔を上げ、蒼源に視線を向ける。
しかし、その瞳に期待の色は無く、どこか諦めたように暗く淀んでいた。
「この一大事だ、解決に導いた報奨として十分に見合うだろう。」
「ありがとう……ございます。」
それでも、儀礼的に礼を述べた要の表情からは諦観は消えていない。
蒼源は要を見下ろしながら、口元を笑みで歪めた。
要は静かに深呼吸をすると、
「しかし、凱が私に従うとは思えませんが?」
蒼源に懸念を伝えた。
「何もお前が、凱の隣に常にいる必要など無い。
それに、凱をコントロールするなら、お前よりも適任の者がいる。」
「適任の者……?」
蒼源は要の問いに答えずに身を翻すと、神社を後にしようと歩き出した。
「クックック……面白くなってきたな。
さて、凱よ。
お前はこの一件に、どんな答えを出すのか。」
蒼源の独り言に、要は底知れぬ不安を覚え、空を仰ぎ見た。
暗い雲に覆われているのか、星一つ見えない。
要は不安を払うように深く息を吐くと、再び調査に戻るため、森の中に入っていった。
暗い森の中を数人の人影が忙しく動き回っている。
そんな中、杖を持ったローブの男が、灯篭に囲まれた石畳の上で、微動だにせず、ただ一点を見つめていた。
立派な青い髭と髪、もう歳は60を超えているが、そうとは思えない鋭い目と精悍な顔つき、青色に金の装飾の入ったローブを身に着け、漏斗のようなものが付いた珍妙な杖を持っているのが、灯篭の灯りによって暗闇から浮かび上がっていた。
笑いの種になりそうな姿をしているが、この町の人間で彼を表立って笑う者は誰一人としていない。
「蒼源様。
神器は……やはりありませんでした」
長髪のスーツを着た男が、蒼源と呼んだローブを着た男の前に跪づき、報告をした。
鷹見 蒼源。
この地、鳥飛光市の最高権力者であり、
鳥飛光市を支配する4つの家・鳥飛光魔術四公家の一つ、鷹見家の現当主でもある。
蒼源は長髪の男を一瞥すると、また視線を戻す。
視線の先には、半壊した木造の小屋があった。
男の足元にまで散乱した色褪せた木片から、その建物が歴史のあるものだと窺える。
「寂しいものだな……
生まれたときからあったものが、こうもあっけなく破壊されるとは……」
「心中、お察しします。
神器を盗むだけでなく、拝殿も本殿まで破壊するとは許せません。」
この場所は神社だった。
名を東流神社。
この鳥飛光市の東の守護を担う神聖な神社だったが、見るも無残に破壊されていた。
365日交代の2人体制で、それなりに腕の立つ警備員まで就けていたのにもかかわらずだ。
「生き残った警備員の話だと、賊は黒いローブを着た5人組で、特徴から『ダスク魔道教団』の線が強いとのことです。
練度の高い魔術師を倒すとなると、賊は相当の手練れかと……」
長髪の男の報告を無言で聞いていた蒼源は、ニヤリと口元を歪めた。
「この件の調査と神器の奪還は、要、お前が指揮を執れ。
それと……凱を使え。」
蒼源の言葉に、要と呼ばれた長髪の男が伏せていた顔を思わず上げた。
「凱を使うとおっしゃるのですか?!
あれはまだ子供です。
ましてや、この一大事に関わらせるのは……」
「心配なのか?
ワシが直々に、今まで手塩にかけて鍛えたのだぞ?
それに、実戦による経験は、あやつを大きく成長させるだろう。」
「し、しかし……」
「くどいぞ。
それに今のお前が、このワシに意見出来る立場か?」
蒼源は、それ以上の言葉は許さぬと言わんばかりに、要を鋭い視線で睨みつけた。
その視線に射抜かれた要は、口元をキツく結び、悔しそうに顔を伏せた。
「これを機に、少しは仲良くするのだな。
それに、この件を見事解決出来た暁には、お前を『解放』してやる。」
蒼源の口にした『解放』と言う言葉に要は顔を上げ、蒼源に視線を向ける。
しかし、その瞳に期待の色は無く、どこか諦めたように暗く淀んでいた。
「この一大事だ、解決に導いた報奨として十分に見合うだろう。」
「ありがとう……ございます。」
それでも、儀礼的に礼を述べた要の表情からは諦観は消えていない。
蒼源は要を見下ろしながら、口元を笑みで歪めた。
要は静かに深呼吸をすると、
「しかし、凱が私に従うとは思えませんが?」
蒼源に懸念を伝えた。
「何もお前が、凱の隣に常にいる必要など無い。
それに、凱をコントロールするなら、お前よりも適任の者がいる。」
「適任の者……?」
蒼源は要の問いに答えずに身を翻すと、神社を後にしようと歩き出した。
「クックック……面白くなってきたな。
さて、凱よ。
お前はこの一件に、どんな答えを出すのか。」
蒼源の独り言に、要は底知れぬ不安を覚え、空を仰ぎ見た。
暗い雲に覆われているのか、星一つ見えない。
要は不安を払うように深く息を吐くと、再び調査に戻るため、森の中に入っていった。
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