鳥籠の中の執行者

蒼森丘ひもたか

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第一話

胎動する闇②

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1993年5月6日 午前7時 鷹空家


この俺、空見……いや、鷹空 凱たかそら がいがこの町、鳥飛光とばいひかりに引っ越してきてから9年近い月日が流れた。
楽しいこともあれば、胸糞悪いこともあった小学校を卒業し、中学校に進学してから1年以上が経った。

いつまでもガキのまま、好き勝手に振舞っていたいなんて思うが、それは時間と周りが許してはくれない。
連休明けに、決まってそれを思い知らされるというのは、大げさだろうか。

昨日まで、自由時間は好き勝手に過ごしていたゴールデンウィークも終わり、今日から学校が始まる。
既に起きてはいても、なかなか布団から出る気がしない。

そんな俺の気分のことなどお構いなしに、ドタドタと階段を駆け上がってくる音が耳に入ってくる。
俺は反射的に布団で頭を覆った。
そして、これから俺の身に訪れる喧騒と衝撃に備えるため、布団と敷布団の間をほんの少し開き、そこから扉の方を窺う。
それから間も無く俺の部屋のドアを無遠慮に開く大きな音と共に、俺が潜り込んでいる布団の僅かな隙間に、廊下の光が差し込んできた。

「凱兄ちゃん!おっはよー!
朝だよー!起きる時間だよー!」

聞きなれた少女の声が部屋に響き渡る。
俺は布団から顔を出すと声の主を一瞥した。

頭のてっぺんに、髪を玉ねぎ状に纏めた不思議な髪型の少女。
俺の妹の鷹空 蒼姫たかそら そうきだ。

「……おはよう。
いつも言っているけど、兄ちゃんの部屋入るときはノックしろー」

やんわり注意をするが、蒼姫は全く気にも留めず、

「そんなことより、早く起きてよー!
凱兄ちゃんがこないと、朝ごはん食べられないよー」

蒼姫は俺の横に来ると、布団越しに俺の胸と腹あたりに手を押し付け、ぴょんぴょん飛び跳ねて俺を急かしてくる。

「眠そうな顔してるねー!
お日様の光が入ってきたら目が覚めるかな?」

蒼姫は窓側に素早く移動し、部屋のカーテンを勢いよく開いた。
窓から差し込む光が、薄暗い部屋と蒼姫の髪色を露わにし、光を受けた髪が、美しい青色でキラキラと輝いた。
それはまるで、サファイアのようだった。
俺の髪も青いのだが、妹だと100倍キレイに思えるのは身内補正のためだろうか?

「ほーらぁ、ぼーっとしないで、さっさと着替えてよぉ。」

蒼姫はそういうと、俺の腕に手を回して立たせようとしてきた。

「あー、分かった、分かったよ!
着替えるから先に降りていろ。」

「1分で着替えて降りてきてねっ!」

蒼姫は無茶を言うとニコッと笑みを浮かべ部屋から出ていった。
いつもテンションの高い妹だが、今日は更に高い。

「今日は蒼姫達の誕生日だからな。」

今日の夜は久しぶりに御馳走かな?
そう思うと朝の気だるさも、少し軽くなったような気がした。

蒼姫のご所望通り、1分……
正確には1分と6秒で着替えを終えて、朝食の用意されている茶の間に入った。
廊下に漂っていた炊き立てご飯や、みそ汁の香ばしい匂いが一層強くなる。

「おはよう、凱。
遅いわよ、早く食べなさい。」

部屋の隅のお釜に前に、黒く長い髪を後ろに纏めた赤いジャージ姿の女が座っていた。
お袋の怜姫れいきだ。

「おはよう、お袋。
おい蒼姫、俺の分は食うなよ?」

お袋に挨拶をしつつ、俺の朝食を見つめていた妹をけん制した。

蒼姫の奴は既に、ほとんど朝食を食べ終えているようだった。

「蒼姫、お前なぁ……
俺が来ないと、朝飯が食べられないんじゃなかったのかい!」

俺は蒼姫にツッコミを入れつつ、自分の定位置の席に座った。

「あははー」

蒼姫は笑って誤魔化した。
俺がいつもの自分の席に座ると、お袋が俺と自分のご飯の入った茶碗を持ってきて席に座った。
食卓には俺と妹の蒼姫、母の怜姫の3人。
親父は居るにはいるが、訳あって、この町に来てからは一緒には暮らしていない。
その訳とやらは、まぁ、追い追い説明しようと思っている。

とりあえず、朝食と家族も揃ったところで、俺とお袋と、ほとんど食べ終えていた蒼姫も一緒に手を合わせ、「いただきます」をした。

「凱、今日は『おじいちゃん』の稽古だから、忘れずに行きなさいよ。」

俺が、目の前の朝食を腹に入れることに集中していると、耳に入った『おじいちゃん』という単語に思わず咽そうになる。
朝食で、ちょっと明るくなっていた俺の気分は一気に奈落の底行きだ。

俺の祖父・鷹見 蒼源たかみ そうげんとは、俺と蒼姫の父方の祖父だ。
しかし、孫の俺を『修行』だとか『稽古』の名目で、顔色一つ変えずに痛めつけてくれる変態野郎だ。
あのジジイから祖父らしい愛情など、一度も感じたことは記憶に無い。

「分かってるって。
あのジジイ……今日こそ地べたに這いつくばらせてやるぜ!」

「そうそう、その意気だ!
あの鬱陶しい髭を、全部剃ってやるつもりでいきなさい!」

「ついでに髪も剃っちゃえー」

と、思わず三人で大笑いしたところで、俺は茶碗に入ったご飯を掻き込んだ。


午前7時45分 鷹空家 前


「いってきま~す」

蒼姫の大きな声が玄関に響く。
朝食を終え、身支度を済ませると蒼姫と一緒に家を出た。
家を出た途端、ひんやりとした空気が俺達の頬を撫でる。
もう5月。
これから夏に向かって日差しも強まり暖かくなってくるはずだが、半袖にするには朝はまだ寒かった。

俺達の住んでいる場所の地名は東が丘ひがしがおか
その名の通り、この鳥飛光市とばいひかりしの東にある丘で、多くの木々に囲まれていた緑地だ。
木々が日を遮ってくれるから、夏は比較的過ごしやすい場所だった。
何より、空気が美味い。

外を出ると最初に目に入るのが、木製のゴツイ大きな門と真っ白い塀。
まるで時代劇に出てくる悪代官の住む大きな屋敷のようだった。
門とは逆の方向には家が軒を連ねており、その奥はまた塀で囲ってある。
ここは『鷹見家』を中心に、その親戚筋が集まる区画である。

奥に行けば行くほど地位の高い人間が住むことになっており、俺達の家は門に一番近い場所にあった。
つまり、うちは『鷹見』という一族の中では、一番地位の低い家ということになる。

俺達の親父『鷹空 蒼次たかそら そうじ』は、鷹見家当主・鷹見蒼源の長男であるのは間違いないらしいが、どうも親父は蒼源のジジイと不倫相手の間に生まれた子らしいのだ。
それを理由に分家扱いとなり、姓として鷹空を与えられたという。

更に、親父は俺が生まれたばかりの頃、蒼源のジジイから、護衛であり幼馴染だったお袋と共に、とても重要な任務を命じられたらしいが、それを『とんでもない裏切りと重大な事件』を引き起こして失敗させたらしい。

それから、幼い俺と、蒼姫を身籠っていたため任務から外れていたお袋は、鳥飛光に強制送還。
その道中に『テスト(何の?)』とは言え叔父に危うく殺されそうになったわけだから、本当の話ならいい迷惑である。

そういう経緯から、親父に対して反発心があり、俺は鷹空の姓を名乗ることに少なからず抵抗があった。
それで、アホで幼稚な行動だと、どこかで思いつつも、普段は勝手にお袋の旧姓である空見そらみを名乗っていた。

ところで、俺達が家から出て、すぐに学校に向かわないのは、これから俺に一つ『護衛』の仕事があるからだ。
まぁ、俺自身は、仕事とは思っていないのだが……

その護衛する対象がまだ来ないので、時間潰しに門の外に出て振り返ってみると、大きな横向きの表札が門構えにかけられていた。

そこにはデカデカと、

『鷹見』

……と読めなくもない字が筆で書かれていた。こういうのを達筆と言うのだろうか?
俺には字の良さなんて分からないが……

「いつも思うけどさ、あれで『たかみ』って読むらしいけど、あんな変な字、読めないよね。
私の方が100倍上手いよ。」

俺に付いてきて、横に居た蒼姫がそう言うと、どや顔で胸を張る。

「そうだな。読めなきゃ意味ねぇもんな。」

俺も同じことを思っていたので、蒼姫に同意した。

更に門の上に目を向けると、うちの何倍もデカいであろう立派な屋根の家や、今は緑色の葉を茂らせた桜の木が、いくつも目に入る。
それでも、この最初の塀の近くに住んでいる人達は、それほど地位が高くないというから、更に奥に住んでいる奴らは何者なのだろうか。
その最上位クラスの一人が、ここに来るわけだが……

「まるで城塞都市だよね。」

噂をすれば、か。
落ち着いた少年の声が微かに耳に入る。
視線を門の方に向けると、ランドセルを背負った身なりのいい美少年と、その一歩引いたところには燕尾服に身を包んだ長髪長身の男の姿があった。

「おっはよう。蒼彦ちゃん!」

妹は元気よく挨拶し、少年に駆け寄るとその手を取ってぶんぶん振る。

「おはようございます。
蒼姫ちゃん、凱兄さん。」

少年はやんわりと笑みを浮かべると、俺達に向かってお辞儀をした。

この子は鷹見 蒼彦たかみ そうひこ
蒼源の孫であり、俺の叔父にあたる鳥飛光市市長・鷹見 蒼錬たかみ そうれんの息子である。
つまり俺にとっては従弟にあたり、将来は鷹見家の当主を約束された少年だ。
髪は俺や蒼姫と同じ青色で、少し長めで天然パーマがかかっている。
目は少しつり目、整った顔立ちからは俺でも気品を感じることができる。
また、その落ち着いた雰囲気は、どこか大人びており、蒼姫と同じ歳には見えなかった。

「おはよう蒼彦。
それと、お誕生日おめでとう。
なんだか顔色悪くないか?
蒼源のクソジジイに、また無理難題を押し付けられたとか?」

そういいながら、俺はいつものように頭をワシワシと撫でてやる。
蒼彦は心地よさそうに目を瞑り、俺にされるがままだったが、嫌がっているようには見えない。

「夜遅くに色々あって、少し眠れなくてね。
……凱兄さん達、あの騒ぎは聞こえなかった?」

「あの騒ぎ?」

俺は蒼姫と顔を見合わせた。

「フン。呑気なものだな……
本来、真っ先に外に出て賊の迎撃に当たらなければならんというのに……」

俺達を批判する、凛とした男の声。
蒼彦の後ろにいた、長身長髪の燕尾服に身を包んだ男のものだ。

この男は鷹見 要たかみ かなめ
蒼彦に仕えている執事で、姓は鷹見だが遠縁の親戚ということだけしか分からない。
見た目も悪くないから、女にはモテモテという気に食わない奴だ。

「要さん、おはようっす!
生憎、門前の警備は午後10時以降、対応不可となっておりまーす。」

俺はそう言いながら、その男に向けてビシっと中指を立ててニヤリと笑ってやる。

「かなめさん、おはようっす!」

続いて蒼姫が手をぶんぶん振って挨拶をする。
要は蒼姫に合わせて身を屈めると、

「蒼姫ちゃん。おはよう。
それと、お誕生日おめでとう。」

打って変わって優しい笑みを浮かべながら挨拶を返した。
この野郎は俺には何時も手厳しいが、蒼姫には滅法優しい。
ついでに、うちの親父とお袋とは幼馴染らしく、たまに家でお袋と二人きりで話をしている姿を見かけることがある。
前に親父に会った時「お袋ほったらかしにしていると、要の奴に取られちまうぞ」と脅しをかけたが、親父は苦笑いを浮かべて笑うだけだった。

俺が、情けない親父の姿を思い出して呆れていると、一台の赤い車が門の前に止まった。
その車の中からスーツ姿の女性が出て、後部座席の歩道側のドアを開く。
すると、ランドセルを抱えた赤い服の少女が車から降りてきた。

「おっはよー!るみるーん!」

蒼姫は満面の笑みを浮かべると、その少女にぴゅーんと駆け寄り飛びついた。

「お、おはよう蒼姫ちゃん。
蒼彦君と凱お兄さん、要さんもおはようです。」

『るみるん』と呼ばれた少女が、蒼姫に飛びつかれて、びっくりした様子で俺達に挨拶をした。

少女の名は雀木 留美瑠すずめぎ るみる
鷹見の人間では無いが、蒼姫、蒼彦と同じ歳の、物心つく前からずっと一緒にいる少女。
『雀木家』という、鷹見家に匹敵する家柄に生まれ、ゆくゆくは雀木家の当主と言われている少女だ。
山吹色の肩まである髪に、大きなたれ目と、見た目通りおっとりとした性格をしている。

「おはよう、留美瑠ちゃん」

蒼彦が笑みを浮かべながら挨拶を返すと、留美瑠は頬を赤めて微笑んだ。
どうも留美瑠は蒼彦のことが好きみたいで、それとなく留美瑠から蒼彦にくっついている。
それに留美瑠が蒼彦を見る目は、なんというか真っ直ぐで熱のようなものを感じるから、多分間違いない。
以前、その話を蒼姫にしてみたところ、

「るみるんの一番は、わたしだよぉー!」

と、不機嫌になった。
まぁ、確かに親友では、お前が一番だろうよ。

「おはよう。留美瑠。
今日もうちの妹と従弟を頼むぜ。」

俺が挨拶すると、「はい」と留美瑠は明るい返事をした。
シャイな子だから、俺と初めて会った時はかなり怖がってしまい、しばらく警戒されたのが懐かしい。

「では、留美瑠様、いってらっしゃいませ。
蒼彦様、凱様、留美瑠様をよろしくお願いいたします。」

車の横に控えていたスーツの女が深々と頭を下げる。
俺と蒼彦もそれに合わせて頭を下げた。

蒼彦に対し護衛が必要な理由は、鷹見家直系の子供の多くは、15歳になるまで一人で勝手に外に出ることを禁止されているためだ。
敵対勢力から狙われる恐れもあるため、自分の身を守れるくらいの力を身に着けられる年齢までは、勝手に出歩くなというところだろう。

家は違うが、留美瑠も勝手に外に出られる身分では無いから、蒼姫達と登校するにあたり、俺が蒼彦と一緒に護衛することになった。

俺は、歳にしては図体もデカい上、幼少から『空見流格闘術』というものを、お袋から叩き込まれている。
更に、小学校と俺の通う中学校は隣接しているから、とりあえず蒼彦達の近くに置く護衛としては、うってつけだと思われたのかもしれない。

そんな俺も、まだ15歳になっていないんだがな……
ちなみに俺と蒼姫は、人質にもならないと判断されているのか、勝手に外に出ても何の咎めも無いことは言うまでもない。


「ありがとう。
それでは、いってきます。」

留美瑠が女と要に手を振ると、それを合図に蒼彦、蒼姫も「いってきます」と続いた。
俺も蒼姫達に続いて門を後にすると、要が声をかけてきた。

「凱よ、話が途切れたが、昨日の夜中にあった件、直々に蒼源様より話がある。
お前にとって大事な話だ。
学校が終わり次第、忘れずに鷹見邸に来るように。」

『忘れて、遅れて、絶対行きたくない。』
変な日本語が頭に浮かぶが黙っておく。
蒼彦の言っていた夜中の騒ぎの件か、それについて、あのジジイから大事な話だと?
一体何だ?

「どっちにしろ、今日は蒼源おじいちゃんの楽しいお稽古があるから行くよ。
それに、サボろうとしたってアンタが捕まえに来るだろう?」

「私も忙しいのだから手間を取らせるな。
必ず来い。分かったな?」

うんざりした俺は返事をせず、踵を返してから雑に手を振ると、蒼彦達の後について歩き出した。


午前8時25分 東が丘1丁目 東が丘小学校


俺の通う『東が丘中学校』と蒼姫達の通う『東が丘小学校』は隣接しており、鷹見の家からそれほど離れてはいない。
留美瑠は、俺達と合流して通学すると、かえって遠回りになるのだが、小学校に入ってからは理由が無い限り、一緒に登校を続けていた。
単に蒼彦や蒼姫と登校したいという可愛い理由なのだろう。
普段はわがままを言わない留美瑠の珍しいお願い事だったようで、家の人からも認められたらしい。

住宅街を西に進み、畑や田んぼの広がる牧歌的な風景を見ながら歩いていると、ほどなくして東が丘小学校の門の前に出た。

『護衛』については、もう1年以上続けているが、今のところ怪しい奴が襲い掛かってきたり、車が突っ込んでくるようなことは無かった。
そもそも、この通学路は、登校下校時間帯は鷹見の魔術師達が要所に潜んで監視している。
ぶっちゃけた話、俺が居なくても大丈夫なのだ。
俺の役割は、せいぜい周囲への威圧と、万が一の場合、蒼彦と留美瑠の盾になることを期待されている程度だろう。

「凱兄ちゃん、サボるなよ~」

いつものように蒼姫達に手を振って小学校の前で別れ、隣にある東が丘中学校の校門に向かって歩いていると、学ラン姿のいかにも素行の悪い男5人が、俺の前に立ちはだかる。
うちの中学では見かける顔じゃないから、他の学校の奴らだろう。
そのうちの4人は金属バットや鉄パイプを肩にかついで、どいつもこいつも精一杯、俺にガンをつけている。

どうしたものかと思案していると、俺よりも身長が頭一つ小さいリーゼントの男が、両手をポケットに手を入れ胸を突き出し、大股で一歩前に出た。

「おめぇが鷹空 凱か?」

その、いかにも不良という威嚇の仕方に、俺は思わず笑ってしまった。

「ぷぷっ……違います人違いですよ。
俺は空見 凱です。さようなら~」

そういいながら、男達の間を抜けて通り過ぎようとすると、

「おいテメー!ふざけんじゃねぇ!」

リーゼント男の斜め後ろにいた茶髪の男が、俺の胸倉を掴もうと向かってきたので、そいつ腕を受け止めて捻り上げ、仲間の男達の方を強引に向かせた。
ついでに、残りの男達から距離を取る。
茶髪の男が身を捩らせて声を上げた。

「イテテテテ!いてぇよ!」

茶髪の男が俺に掴みかかると同時に、俺に向かってバットを振り上げていた坊主頭の男が動きを止めた。
そして、怒りを隠さずに喚いた。

「こ、この野郎!」

俺は茶髪の男を前に押し出しながら、低い声で脅しをかけてやる。

「おい、お前ら、俺に何か用か?
用が無いなら、とっとと失せろ。
さもないと、こいつの腕をへし折るぞ。」

狼狽える不良達に、

「な、なめんじゃねぇ!
構わねぇ、お前らやっちまえ!」

こいつらのリーダーなのだろうか?
リーゼントの男が叫んだ。

俺は咄嗟に茶髪の男を坊主頭の男に向かって突き飛ばす。
茶髪の男が突っ込んだことで怯んだ坊主頭。
俺はその隙に坊主頭の鼻っ柱に、拳を叩き込んだ。

「ぐはっ」

坊主頭が鼻から血を噴き出しながら倒れると同時に、横にいた鼻にピアスをした長髪の男の腹に、膝蹴りをぶち込む。
長髪の男は吐瀉物をまき散らしながら、うつ伏せで倒れ込んだ。
更に、鉄パイプを構えたモヒカン頭の男の顔面に掌底を食らわせて張り倒すと、屈んでいた茶髪の男の顔面を蹴り上げた。

あっという間に不良4人は、鼻や口から血等をまき散らしながら地面に倒れた。
それとほぼ同時に、バットと鉄パイプが歩道に転がり、辺りに金属音が鳴り響く。

「あ、あの噂は本当だったのか……
入学当日に東が丘中の不良を半殺しにしたってのは!」

「さぁね。
お前はどうするの?逃げるの?やるの?」

俺は挑発しながら一歩詰めよると、リーゼント男は倒れた子分と俺を交互に見ながら後退りした。
それから覚悟をしたように懐から、黒い石のついた棒を取り出し、俺に向けた。

「魔道具だと!?
やる気かこいつ。」

「こ、この化け物が!死ねぇー!
超必殺!エナジーボール!」

リーゼント男がそう叫ぶと、持った棒の石が白く輝き、野球ボールくらいの光の玉が俺に向かって飛んできた。

「マジかよ!?」

俺は咄嗟に転がっていた金属バットを拾って、その光の玉を受け止めて掻き消した。

「な…な、なんだと…俺の超必殺技が…」

リーゼント男は目を見開き、ブルブルと震えていた。

「お前、正気か?
いくらガキでも、街中で危険な魔法ぶっ放したら重罪だぞ!」

「うるせぇ!もう一発食らえ!」

俺は手に持っていた金属バットをリーゼント男に向かって投げつけた。

「えっ?ぎゃっ!!」

金属バットが顔面に炸裂し、リーゼント男は仰向けに倒れて白目をむいた。
こいつらは一体何者だろう。全然知らない奴らだ。

「ちょっと、これは何の騒ぎなの?」

騒ぎを聞いたのか、小学校前にある雑貨屋のばあちゃんがやってきた。

「ばあちゃん、悪いけど、警察に連絡してくれないかな。」

そう、お願いをすると、周囲を確認する。
もしかするとこいつら、誰かに頼まれて俺を襲ってきたんじゃないか?
指示した奴が監視のため、まだ、この辺りにいるかもしれない。

すると案の定、東が丘中学校の校門前に、黒いローブを身にまとった奴が、こちらをジッと見ていた。

「ビンゴ。
堂々と見ているなんて、マヌケな野郎だぜ!」

俺は咄嗟にそいつに向かって走りだす。
黒いローブの野郎は、びっくりしたようにピョンと飛び上がり、慌てて逃げ出した。

「待て!この野郎!」

住宅街を走る俺と黒いローブ野郎。
日頃鍛えているせいか、どんどんと黒いローブとの距離は縮まっていく。
しかも奴には、この辺りの土地勘が無いのだろう。
中学校近くにある何かの工場の高い塀に囲まれた、行き止まりの道の方に入っていった。

「ははは!バカめ!
観念して大人しく……」

しかし、行き止まりの先に、黒いローブの姿はどこにも無い。

「くそ……どこに行った?」

周囲を見渡すと、道に白いハンカチが落ちていた。
花の刺繍の入った女物のハンカチだ。
拾ってみると、まだ温かい。
これは、あの黒いローブの奴の持ち物である可能性が高い。
俺は、そのハンカチに鼻を近づけ匂いを嗅いでみる。

「ん~……ほんのり甘い、いい匂いがする。
……って俺は変態か!うっとりしている場合じゃねぇ!」

思わず自分にツッコミを入れてしまった。
もちろん手掛かりを探るつもりでしたことで、邪な気持ちは……無い。
なんだろう……この匂いは……

「とても、懐かしい感じがする」

俺はそのハンカチを学ランのポケットに入れると、先ほどの襲われた現場に向かって歩き出した。
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