鳥籠の中の執行者

蒼森丘ひもたか

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第一話

胎動する闇③

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東が丘中学校 屋上


「はぁ……連休明けから面倒くさい事になったな。」

思わずため息が出た。
4時間目の授業を終え昼休みを迎えると、俺は学校の屋上で弁当を食いながら日向ぼっこをしていた。
午前中の間、警察から色々と事情を聞かれていたため、ほとんどの授業に出ることが出来なかった。

ああいう荒事には、それなりに慣れているつもりだが、襲い掛かってきたバカの一人が魔法を使ったせいで、ただのガキ同士のケンカで済まなくなったからだ。

この鳥飛光市は、大昔から精霊の力や神気が満ち溢れた場所で、市民であれば『魔術師としての適正』と魔法を引き出すための道具である『魔法具』があれば、“市内限定で”魔法を行使することが出来る。

しかし、魔法を使う資格を与えられた者達全てが『魔法は分別を持って、正しいことに使いましょう』と言われ、『はい分かりました』となる訳が無い。
そこで、人それぞれの職業などに応じて、必要と思われる魔法のみ使えるよう、魔法具に対し制限を与えることにした。
例えば、医者なら治療魔法、消防士なら水を放出する魔法が使えると言った具合だ。
また、体が不自由な人の行動範囲を広げる為、一部の魔法を魔道具に付加するケースもある。
例えば、脚が不自由な人であれば、浮遊移動魔法を使えるようにしたりするのだ。

それでも、魔法を悪用して犯罪を行う奴はいる訳で、魔法を何かしら使った犯罪は通常の犯罪よりも罪は重い。
間違いなく俺に向かって魔法をブッ放してき奴は、問答無用で少年院行きだろう。
学校前の通学路でケンカに魔法を使ったこと、更に持っていた魔道具が、本人に与えられた正規のものでは無い『違法魔法具』だったのだから尚更だ。

ちなみに、俺は適正が全く無いようで、魔法具があろうが無かろうが一切魔法を使うことは出来ない。
鳥飛光にいて、全く魔法が使えないのは珍しいらしい。
俺の身近にも魔法がほとんど使えない人間が少なからずいるので、今のところ、あまり気にすることは無い。
それで苦労や嫌な思いをしたことが無いと言えば嘘になるが……

話が逸れたが、俺を襲ってきた奴らは、市内の不良高校として有名な北山高校の不良で、全く知らない奴らだった。
誰かに頼まれたのか、単に暇だから『生意気な中坊をシメに行こうぜ』のノリなのか……

そこで俺は考えるのを止め、弁当を全て平らげた後、座っていたベンチの上に寝転んだ。
そして、今朝拾ったハンカチを制服のポケットから取り出して、改めて見てみる。

「あの黒いローブの奴が、不良共をけしかけたのか?」

黒いローブの奴の身のこなしと、背丈がかなり小さいことから、女の可能性が高い。
もちろん、奴については警察に話をしておいたが、ハンカチのことについては伏せておいた。
そもそも、このハンカチを奴が落としたものとは限らないからな。
こいつを渡せば、黒いローブの身元に繋がるかもしれない。
いや多分繋がる気がするのだが、奴の正体は自分で探さなくてはならないと、俺は直感的に感じていた。

奴が消えた場所にハンカチが落ちていたわけだが、偶然落としたのか、それとも俺に対する何かのメッセージ?

ハンカチの刺繍の花は百合の花。
イニシャルや名前は一切入っていないが女物。
それに、この匂いには、どこか懐かしさを感じた。
まさか……あいつ?

俺は色々と考えていたせいか、屋上のドアが開け閉めされたことに気付かなかったようで、

「凱君、そのハンカチはなんだい?」

突然耳に入った声に、俺は考えるのを止め、反射的に起き上がると、慌ててハンカチを制服のポケットに仕舞い込んだ。
声をかけてきた奴は、細い目に眼鏡をかけ、長い髪を後ろでしばった、色白のヒョロっとした見知った男子生徒だった。

「中山かよ……驚かせるな。」

「ドュフフフ……
珍しいね、君が攻撃射程距離の5メートルに入っても気が付かないなんてねぇ。」

「なんだ?その攻撃射程距離って?」

こいつは中山 彰人なかやま あきと
同級生の男子だ。
去年の春頃に校内の廊下で不良達に囲まれていたところを、たまたま通りがかった俺が気まぐれで助けたことから、勝手に友人認定された。

ゲームやアニメ、漫画が好きで、女児向けアニメや関連グッズについても詳しいから、蒼姫の誕生日プレゼントを選ぶ際には、色々とアドバイスを貰った。

「ま、まま、まさか、そ、そそ、そのハンカチはおお、おおお女の子のでござるか?!」

中山は興奮すると末尾が『ござる』になるのだ。
奴は、目と口をこれでもかと縦に開き、女物のハンカチを持った俺から、わなわなと震えながら後退る。

「いやいや、単に妹のハンカチを間違って持ってきちまっただけだ。」

絡まれると面倒なので、俺は嘘をついた。

「ああ……妹君のでござるか。
てっきり彼女でも出来たのかと勘違いしましたぞ~

僕を差し置いて女の子と付き合うなんて56億7000万年早いでござる。
いや、弥勒菩薩様が許しても僕は許さないでござるよ。」

「お前、何様だよ……」

しかし、なんだかんだいって、こいつと話していると中学生として普通の日常を送っている実感が沸いてくる。
俺にとって貴重なひと時なのかもしれない。

しかし、そんな感慨も束の間だった。


『ドオオオオオオオン』


馬鹿でかい爆発音が、遠くの方で鳴り響いた。

「なんだ?!」

更に続けざまに1、2回と同じような爆音が遠くから聞こえてきた。
下の教室の方から、男子生徒や女子生徒達の悲鳴や騒ぐ声が聞こえてくる。

「ひえええええ、なんでござるか?!」

中山が床に身を伏せ、頭を抱えた。
爆音から察するに、この中学校や隣の小学校で爆発が起こったのでは無いとは思うが、
念のため、蒼姫達の居る東が丘小学校の方を確認した。
ギャーギャー子供の騒ぐ声がするが、火や煙が上がっている様子は無い。
それを見て俺はひとまず安堵した。

次に俺は街を一望できる場所に駆け寄り、爆発がどこで起こったのか確認する。
この東が丘中学校は高台にあるため、屋上から鳥飛光市をほぼ見渡すことが出来るのだ。
白い煙が駅周辺と、北、南、西から上がっている。

雀木すずめぎ小夜啼さよなき鶴星つるほし、それに小鳥遊たかなしの家辺りか。
死人は出ていないだろうな……」

他家にも親しい人や友人はいるから、彼らの事が心配になる。
そいつらは、簡単に死ぬようなタマでは無いと信じてはいるが……

うちの方、鷹見邸の方からは煙は上がっていない。
蒼彦と要が今朝言っていた、深夜の騒ぎと無関係ではないのだろう。

……嫌な予感がする。
震えている中山を連れて教室に戻ると、担任の男性教師が俺を待ち構えていた。

「鷹空、これから家の人が迎えに来るから、帰り支度をしておけ。」

「ははは…今日はほとんど授業が受けられないようだ。
……最高!」

俺は気持ちを落ち着けるよう、乾いた笑い声を上げた。
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