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第一話
胎動する闇④
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鷹見邸裏山
「もう終わりか……」
地面に這いつくばっている俺を、青いローブに身を包んだ男が見下ろしていた。
「ま、まだだ……」
俺は痛みをこらえつつ腕と脚に力を入れて何とか立ち上がり、あがる息を整えようとする。
着ていた道着はボロボロ。
俺の体のあちこちはバックリと切り裂かれ、血が噴き出していた。
はっきり言って満身創痍の状態だった。
俺の目の前にいる男・鷹見 蒼源
この鳥飛光市の実質上の支配者であり、最強、最狂、最凶の大魔道士にして俺の実の祖父だ。
蒼源が、俺に向かって左手を突き出した瞬間、強烈な衝撃波が俺の体全体に襲い掛かった。
そして俺は、後方に凄い勢いで吹っ飛ばされ、大きな木に叩きつけられた。
風の力を衝撃波として放出する『風弾』の魔法だ。
「ごはっ」
木に叩きつけられた反動で床に転がった俺は、堪らず嘔吐する。
吐き出されたものは真っ赤な血だった。
もう限界か……俺は仰向けになって寝っ転がる。
指一本動かせない状態の俺を蒼源は再び見下ろし、右手に持っていた杖を俺の腹に容赦なく突き立てた。
「ぐほっ」
「何度言っても学習しない奴だ。
『強く魔法に抗う』気持ちがあれば、ここまで傷を負うことは無い。」
憎まれ口を叩いてやりたいが、そんな力は全く残っていなかった。
蒼源は俺を見下ろしながら、ニヤリと口角を吊り上げた。
その瞬間……
「ぐぎゃあああああああああ」
強烈な電撃が俺の体を駆け巡る。
その苦痛は柔術の稽古で、お袋に関節を極められている時の比では無い。
「どうした!抗え!立ち向かえ!さもないと目玉が飛ぶぞ!死ぬぞ!」
蒼源の怒声がかろうじて耳に入る。
「む、む無理を!い、言うんじゃねえぇ!」
クソ野郎……
絶対に、このクソジジイの顔面に、拳を叩き込んで這いつくばらせる!
それまで死ねるか!
俺は気持ちを奮い立たせる。
怒りが、死にたくないという気持ちが強くなるにつれて、体に走る痛みが徐々に治まっていくのを感じた。
「むっ、これは!」
蒼源も何かを感じたのか、顔を歓喜に歪ませた。
しかし、流石に体力、精神力に限界が来ていたのか、意識が遠のいてきた。
「今日は、ここまでか。
……今の感覚、忘れるな。」
蒼源の捨て台詞が耳に入るのを最後に、俺の意識は途切れた。
鷹見邸裏山入口
「ん……」
目を覚ますと、俺は地面に仰向けに寝っ転がっていた。
日の光で温められた土の暖かさを体に感じる。
今までの全身に広がっていた痛みが嘘のように体から無くなっている。
「ああ、クソッ……今日も手も足も出なかった」
俺は体を起こすと地面に拳を振り下ろした。
しかし、なぜ俺は日課となっている祖父との修行をやっているんだ?
要が車で迎えに来て強引に早退させられ、鷹見邸まで連れていかれると、玄関の前に蒼源のジジイが待ち構えていた。
そして、日課となっている『修行』のため、鷹見家区画の裏にある山に連れていかれたのだ。
「おい、ジジイよ。
学校を早退させられて、連れてこられてみたら稽古って……
授業が全部終わってからでもいいじゃねぇか!」
俺は不貞腐れながら胡坐をかくと、蒼源のジジイに抗議した。
この街では大層偉い奴なのだが、俺にとっては実の祖父以上に酷いクソジジイなのだ。
故に敬意なんて微塵も感じることが出来ない。
「これから大事な話をするにあたって、お前の力量を確認しておきたかった。」
「大事な話?」
「お前に『修行』を付け始めてから何年になる?
7、8年になるか。」
「俺が小学校に上がってからだから……8年目かな。」
その8年目に突入した修行の内容はシンプルだ。
一日一時間程度、ガチでジジイと戦う。
武器や道具の使用は何でも可。
初めて稽古をつけてもらった時のジジイの台詞は、
『殺すつもりでかかってこい。』
無茶苦茶だった。
俺は6歳になったばかりで、そもそも魔法も使えない。
スキルとして持っているのは物心ついてからお袋に仕込まれている武術だけ。
俺が鳥飛光に戻ってきてから、あることがきっかけで始まり、今まで、ずっと日課として続いていた。
このジジイは俺のことを、毎度のこと瀕死になるまで器用に痛めつけてくれる。
この修行で骨折、内蔵がやられる、体が欠損するのは日常茶飯事。
9歳の頃、風で鋭い刃を作り出す『風刃』の魔法で右腕を切断されたときは、流石に死を覚悟した。
当時、俺の傷の治療してくれていた担当の子と共に抗議をしたが、
『こんな思いがしたく無ければ、強くなることだな』
冷たい言葉が返ってくるだけだった。
お袋達も、俺がジジイに修行をつけてもらっているのは知っているが、まさか殺される寸前まで追い込まれているとは思っていないだろう。
確かに、魔法への対処法が少なからず身に付いたのは確かだが、正直とてもキツい。
3年前までは、もう少し楽しかったんだけどなぁ。
俺の傷を治療してくれていた、あの娘は今頃何をしているんだろうか?
楽しい思い出と、『胸の痛む』思い出……
脱いであった制服に手を取り、今朝拾った百合のハンカチを突っ込んであるポケットを見つめた。
俺が強ければ、『元に戻れる』のか……
「で、その8年間がどうした?
昔話に花咲かせようってか?おじいちゃん?」
俺は苦い思い出を振り切るように、茶化して話の続きを促したが、
ジジイは俺の後ろの方をギロリと睨みつけた。
「お前を呼んだ覚えは無いぞ、蒼安。」
振り返ると、そこには黒縁眼鏡をかけ、緑色の派手なスーツに身を包んだ、ぽっちゃり体形の男がニンマリと笑みを浮かべていた。
「こんにちは。父さん、凱君。
血を分けた息子を見た第一声がこれか!?
凱くーん、このおじいちゃんの態度、ヒドイと思わない?」
ここの使用人なら誰もが震えあがってしまうジジイの不機嫌な声にも、おどけながら明るく応じる男。
天然パーマのかかった鮮やかな青い髪は、間違いなく鷹見家の血を引く者の証拠だ。
「こんにちは。蒼安おじさん。」
「凱君。
見ないうちに、また大きくなったねぇ。」
俺が挨拶すると、蒼安は笑いながら挨拶を返してきた。
鷹見 蒼安。蒼源の三男だ。
祖母は違うが、俺からすれば叔父にあたる。
鳥飛光市独自のテレビ局である『鳥飛光放送局』の局長を務めており、更に自らアイドルプロデュースや人気番組ディレクターまでこなす根っからのテレビマン、クリエイター気質の男だ。
東京や大阪、つまり『表の世界』にある有名企業、メディアとのパイプも太く、この人のお陰で、鳥飛光市で表の世界のバラエティ番組、アイドル達の歌番組、スポーツ、果ては人気アニメまでテレビで見ることが出来るようになった。
それだけではなく、表の世界にある多くの魅力的な商品が、鳥飛光で手に取ることが出来るようになったことは大きい。
どちらかと言えば封鎖的だった鳥飛光市の文化レベルは、鷹見蒼安によって急速に大きく伸びたと言える。
鳥飛光では、とても凄い人なのだ。
多忙なため、鷹見家の区画には住んでおらず、鳥飛光駅近くの高層マンションに住んでおり、俺達が蒼安と顔を合わせるのは正月とお盆くらいだろう。
以前、何気ない会話の中で話してくれたのだが、蒼安はかつて、うちのお袋・怜姫に惚れていたらしい。
結局、お袋はうちの親父を選び、お袋の事をすっぱり諦めた蒼安はその後、仕事で知り合ったアイドルと結婚。
娘が一人いるが、後にアイドルとは離婚、現在は独身となっているようだ。
鷹見家の多くが、俺達、鷹空一家に冷たい中で、この叔父だけは何かと気にかけてくれるのだが、お袋は、この気の良い叔父のことを、良く思っていないようだった。
また、どちらかと言うと人懐っこい蒼姫も、蒼安には懐く様子が全く無い。
俺自身は、この叔父に、なるべく礼儀正しくするようにしているが、お袋達の対応や反応もどこか引っ掛かるため、深入りしないようにはしている。
「凱君も、あまり無理しないようにね。
父さんも、彼にどんな稽古をつけているかは知らないけど、あまり厳しくしないであげなよ。」
俺がジジイから受けている修行は、俺とジジイだけの秘密となっている。
流石にジジイも、あれだけのことを孫にやっているのだから、批判に晒されることを恐れているのだろうか?
もちろん修行の内容は、外から見ることが出来ないよう認識を阻害する魔法がかけられており、治療を担当している子ですら、様子を知ることは出来なかったらしい。
それは蒼錬や蒼安といった、鷹見家で地位のある者達も例外では無かった。
「質問に答えろ。
何故、お前はここに来た?」
ジジイは不機嫌そうに、蒼安に再び問う。
「何故って……呼び出したのは父さんでしょ?
要君から緊急だって言うからさ、スケジュール調整して来たんだよ。
いざ飛んで来てみれば、父さんはどこにも居なくてさ……
それで、女中さんに聞いてみたら、『凱様と稽古中です』って言われてね。」
蒼安は身振り手振りで俺達に説明する。
言っちゃ悪いのだが、その振る舞いに、どこか詐欺師じみた胡散臭さがあり、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
ジジイの反応を待たず、蒼安は続ける。
「それよりも!
話って、市内の神社を全部壊されて神器を盗まれた件でしょ?
すごい大事件じゃない?!」
全ての神社が破壊されて、全ての『神器』が盗まれただと?
俺は思わず立ち上がっていた。
「オイ!それって、かなりヤバいんじゃないか?」
アホな俺でも、事の重大さは理解できた。
それは、この鳥飛光市に住む人々にとって、とんでもない事件だ。
「確かに……
この鳥飛光を常世とすれば、幽世と繋がってしまったのだからな。」
ジジイはさらっと言い放つ。
「なんだよ、その他人事みたいな悠長な態度は!?
鳥飛光が『地獄』やら『魔界』やらと繋がっちまって、妖怪や悪魔がウヨウヨ出てくる状態ってことだろ!?」
焦る俺に、蒼源のジジイは、
「狼狽えるな。
だからといって、妖怪共がすぐに闊歩するような状況にはならんわ。
しかし……何もせず放っておけば、1年後には鳥飛光は魔界と化すだろうな。」
そういいながら、蒼源は自分の髭を撫でた。
「オイオイオイ!……全く安心できねえよ。」
「蒼安。
お前への指示は蒼錬から追って連絡する。」
「え?!ちょっと、勘弁してよ。」
「……話を聞くか聞かないは、好きにしろ。」
蒼源のジジイは、もう質問は受け付けないという雰囲気を漂わせ、さっさと歩き始めた。
蒼安は首を振って苦笑いを浮かべ、お手上げといったポーズを取る。
俺と蒼安は渋々、ジジイの後に続いた。
「もう終わりか……」
地面に這いつくばっている俺を、青いローブに身を包んだ男が見下ろしていた。
「ま、まだだ……」
俺は痛みをこらえつつ腕と脚に力を入れて何とか立ち上がり、あがる息を整えようとする。
着ていた道着はボロボロ。
俺の体のあちこちはバックリと切り裂かれ、血が噴き出していた。
はっきり言って満身創痍の状態だった。
俺の目の前にいる男・鷹見 蒼源
この鳥飛光市の実質上の支配者であり、最強、最狂、最凶の大魔道士にして俺の実の祖父だ。
蒼源が、俺に向かって左手を突き出した瞬間、強烈な衝撃波が俺の体全体に襲い掛かった。
そして俺は、後方に凄い勢いで吹っ飛ばされ、大きな木に叩きつけられた。
風の力を衝撃波として放出する『風弾』の魔法だ。
「ごはっ」
木に叩きつけられた反動で床に転がった俺は、堪らず嘔吐する。
吐き出されたものは真っ赤な血だった。
もう限界か……俺は仰向けになって寝っ転がる。
指一本動かせない状態の俺を蒼源は再び見下ろし、右手に持っていた杖を俺の腹に容赦なく突き立てた。
「ぐほっ」
「何度言っても学習しない奴だ。
『強く魔法に抗う』気持ちがあれば、ここまで傷を負うことは無い。」
憎まれ口を叩いてやりたいが、そんな力は全く残っていなかった。
蒼源は俺を見下ろしながら、ニヤリと口角を吊り上げた。
その瞬間……
「ぐぎゃあああああああああ」
強烈な電撃が俺の体を駆け巡る。
その苦痛は柔術の稽古で、お袋に関節を極められている時の比では無い。
「どうした!抗え!立ち向かえ!さもないと目玉が飛ぶぞ!死ぬぞ!」
蒼源の怒声がかろうじて耳に入る。
「む、む無理を!い、言うんじゃねえぇ!」
クソ野郎……
絶対に、このクソジジイの顔面に、拳を叩き込んで這いつくばらせる!
それまで死ねるか!
俺は気持ちを奮い立たせる。
怒りが、死にたくないという気持ちが強くなるにつれて、体に走る痛みが徐々に治まっていくのを感じた。
「むっ、これは!」
蒼源も何かを感じたのか、顔を歓喜に歪ませた。
しかし、流石に体力、精神力に限界が来ていたのか、意識が遠のいてきた。
「今日は、ここまでか。
……今の感覚、忘れるな。」
蒼源の捨て台詞が耳に入るのを最後に、俺の意識は途切れた。
鷹見邸裏山入口
「ん……」
目を覚ますと、俺は地面に仰向けに寝っ転がっていた。
日の光で温められた土の暖かさを体に感じる。
今までの全身に広がっていた痛みが嘘のように体から無くなっている。
「ああ、クソッ……今日も手も足も出なかった」
俺は体を起こすと地面に拳を振り下ろした。
しかし、なぜ俺は日課となっている祖父との修行をやっているんだ?
要が車で迎えに来て強引に早退させられ、鷹見邸まで連れていかれると、玄関の前に蒼源のジジイが待ち構えていた。
そして、日課となっている『修行』のため、鷹見家区画の裏にある山に連れていかれたのだ。
「おい、ジジイよ。
学校を早退させられて、連れてこられてみたら稽古って……
授業が全部終わってからでもいいじゃねぇか!」
俺は不貞腐れながら胡坐をかくと、蒼源のジジイに抗議した。
この街では大層偉い奴なのだが、俺にとっては実の祖父以上に酷いクソジジイなのだ。
故に敬意なんて微塵も感じることが出来ない。
「これから大事な話をするにあたって、お前の力量を確認しておきたかった。」
「大事な話?」
「お前に『修行』を付け始めてから何年になる?
7、8年になるか。」
「俺が小学校に上がってからだから……8年目かな。」
その8年目に突入した修行の内容はシンプルだ。
一日一時間程度、ガチでジジイと戦う。
武器や道具の使用は何でも可。
初めて稽古をつけてもらった時のジジイの台詞は、
『殺すつもりでかかってこい。』
無茶苦茶だった。
俺は6歳になったばかりで、そもそも魔法も使えない。
スキルとして持っているのは物心ついてからお袋に仕込まれている武術だけ。
俺が鳥飛光に戻ってきてから、あることがきっかけで始まり、今まで、ずっと日課として続いていた。
このジジイは俺のことを、毎度のこと瀕死になるまで器用に痛めつけてくれる。
この修行で骨折、内蔵がやられる、体が欠損するのは日常茶飯事。
9歳の頃、風で鋭い刃を作り出す『風刃』の魔法で右腕を切断されたときは、流石に死を覚悟した。
当時、俺の傷の治療してくれていた担当の子と共に抗議をしたが、
『こんな思いがしたく無ければ、強くなることだな』
冷たい言葉が返ってくるだけだった。
お袋達も、俺がジジイに修行をつけてもらっているのは知っているが、まさか殺される寸前まで追い込まれているとは思っていないだろう。
確かに、魔法への対処法が少なからず身に付いたのは確かだが、正直とてもキツい。
3年前までは、もう少し楽しかったんだけどなぁ。
俺の傷を治療してくれていた、あの娘は今頃何をしているんだろうか?
楽しい思い出と、『胸の痛む』思い出……
脱いであった制服に手を取り、今朝拾った百合のハンカチを突っ込んであるポケットを見つめた。
俺が強ければ、『元に戻れる』のか……
「で、その8年間がどうした?
昔話に花咲かせようってか?おじいちゃん?」
俺は苦い思い出を振り切るように、茶化して話の続きを促したが、
ジジイは俺の後ろの方をギロリと睨みつけた。
「お前を呼んだ覚えは無いぞ、蒼安。」
振り返ると、そこには黒縁眼鏡をかけ、緑色の派手なスーツに身を包んだ、ぽっちゃり体形の男がニンマリと笑みを浮かべていた。
「こんにちは。父さん、凱君。
血を分けた息子を見た第一声がこれか!?
凱くーん、このおじいちゃんの態度、ヒドイと思わない?」
ここの使用人なら誰もが震えあがってしまうジジイの不機嫌な声にも、おどけながら明るく応じる男。
天然パーマのかかった鮮やかな青い髪は、間違いなく鷹見家の血を引く者の証拠だ。
「こんにちは。蒼安おじさん。」
「凱君。
見ないうちに、また大きくなったねぇ。」
俺が挨拶すると、蒼安は笑いながら挨拶を返してきた。
鷹見 蒼安。蒼源の三男だ。
祖母は違うが、俺からすれば叔父にあたる。
鳥飛光市独自のテレビ局である『鳥飛光放送局』の局長を務めており、更に自らアイドルプロデュースや人気番組ディレクターまでこなす根っからのテレビマン、クリエイター気質の男だ。
東京や大阪、つまり『表の世界』にある有名企業、メディアとのパイプも太く、この人のお陰で、鳥飛光市で表の世界のバラエティ番組、アイドル達の歌番組、スポーツ、果ては人気アニメまでテレビで見ることが出来るようになった。
それだけではなく、表の世界にある多くの魅力的な商品が、鳥飛光で手に取ることが出来るようになったことは大きい。
どちらかと言えば封鎖的だった鳥飛光市の文化レベルは、鷹見蒼安によって急速に大きく伸びたと言える。
鳥飛光では、とても凄い人なのだ。
多忙なため、鷹見家の区画には住んでおらず、鳥飛光駅近くの高層マンションに住んでおり、俺達が蒼安と顔を合わせるのは正月とお盆くらいだろう。
以前、何気ない会話の中で話してくれたのだが、蒼安はかつて、うちのお袋・怜姫に惚れていたらしい。
結局、お袋はうちの親父を選び、お袋の事をすっぱり諦めた蒼安はその後、仕事で知り合ったアイドルと結婚。
娘が一人いるが、後にアイドルとは離婚、現在は独身となっているようだ。
鷹見家の多くが、俺達、鷹空一家に冷たい中で、この叔父だけは何かと気にかけてくれるのだが、お袋は、この気の良い叔父のことを、良く思っていないようだった。
また、どちらかと言うと人懐っこい蒼姫も、蒼安には懐く様子が全く無い。
俺自身は、この叔父に、なるべく礼儀正しくするようにしているが、お袋達の対応や反応もどこか引っ掛かるため、深入りしないようにはしている。
「凱君も、あまり無理しないようにね。
父さんも、彼にどんな稽古をつけているかは知らないけど、あまり厳しくしないであげなよ。」
俺がジジイから受けている修行は、俺とジジイだけの秘密となっている。
流石にジジイも、あれだけのことを孫にやっているのだから、批判に晒されることを恐れているのだろうか?
もちろん修行の内容は、外から見ることが出来ないよう認識を阻害する魔法がかけられており、治療を担当している子ですら、様子を知ることは出来なかったらしい。
それは蒼錬や蒼安といった、鷹見家で地位のある者達も例外では無かった。
「質問に答えろ。
何故、お前はここに来た?」
ジジイは不機嫌そうに、蒼安に再び問う。
「何故って……呼び出したのは父さんでしょ?
要君から緊急だって言うからさ、スケジュール調整して来たんだよ。
いざ飛んで来てみれば、父さんはどこにも居なくてさ……
それで、女中さんに聞いてみたら、『凱様と稽古中です』って言われてね。」
蒼安は身振り手振りで俺達に説明する。
言っちゃ悪いのだが、その振る舞いに、どこか詐欺師じみた胡散臭さがあり、俺は思わず苦笑いを浮かべた。
ジジイの反応を待たず、蒼安は続ける。
「それよりも!
話って、市内の神社を全部壊されて神器を盗まれた件でしょ?
すごい大事件じゃない?!」
全ての神社が破壊されて、全ての『神器』が盗まれただと?
俺は思わず立ち上がっていた。
「オイ!それって、かなりヤバいんじゃないか?」
アホな俺でも、事の重大さは理解できた。
それは、この鳥飛光市に住む人々にとって、とんでもない事件だ。
「確かに……
この鳥飛光を常世とすれば、幽世と繋がってしまったのだからな。」
ジジイはさらっと言い放つ。
「なんだよ、その他人事みたいな悠長な態度は!?
鳥飛光が『地獄』やら『魔界』やらと繋がっちまって、妖怪や悪魔がウヨウヨ出てくる状態ってことだろ!?」
焦る俺に、蒼源のジジイは、
「狼狽えるな。
だからといって、妖怪共がすぐに闊歩するような状況にはならんわ。
しかし……何もせず放っておけば、1年後には鳥飛光は魔界と化すだろうな。」
そういいながら、蒼源は自分の髭を撫でた。
「オイオイオイ!……全く安心できねえよ。」
「蒼安。
お前への指示は蒼錬から追って連絡する。」
「え?!ちょっと、勘弁してよ。」
「……話を聞くか聞かないは、好きにしろ。」
蒼源のジジイは、もう質問は受け付けないという雰囲気を漂わせ、さっさと歩き始めた。
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