鳥籠の中の執行者

蒼森丘ひもたか

文字の大きさ
23 / 33
第二話

張り巡らされた糸の中で(上)⑫

しおりを挟む
そのまた一方、早くも戦いを開始していた朱明とハウレスは、激しい格闘戦を繰り広げていた。

「こんなに強い奴と戦えるなんてなぁ。
いつも退屈だと思っていた坊ちゃんとお嬢の御守りにも、たまには『当たり』があるもんだなぁ!」

ハウレスは嬉々とした表情を浮かべながら、朱明に蹴りかかる。
朱明は無言で、それを受け流し、ハウレスの顔面を肘で撃ち抜いた。

「ぐぅ!」

ハウレスは一瞬怯むが、すぐに立ち直り、朱明の間合いに入り攻撃を仕掛ける。

「しつこい野郎だな。俺はお前みたいな奴は好みじゃないんだが?」

朱明は、しつこく自分に攻撃を仕掛けてくるハウレスから、どうにかして距離を取りたかった。

「お前は、隙を与えたらヤバイって、俺の嗅覚が教えてくれるんだよ。」

ハウレスの嗅覚は正しかった。朱明の戦術は鶴星流柔術だけではないのだ。

「それは光栄だ。
ところで、お前らの中で、一番強いのは誰なんだ?」

戦闘狂っぽい割に、ごちゃごちゃ喋る男なので、朱明は気になっている事を聞いてみた。

「そりゃ、俺様に決まってんだろ!」

「ほう……それならいい。」

朱明は、敵方の一番強い相手を自分が引き付けていることに、少し安堵した。
自分の独断で戦闘状態に入ったのだ。
その結果、凱や百合子を騙した上に、結局、戦闘に巻き込んでいる。
また、あらかじめ了解を得ているとは言え、自社社員を未知の敵と戦わせているのだ。
一刻も早くハウレスを倒して、皆に加勢しなければならない。

「……坊ちゃんとお嬢が『奥の手』を出すなら、話は変わってくるかもなぁ。」

「何だと?」

「あの二人は、我らの主様が直接、力をお与えになっているんだ。
お嬢……弥宵様が本気になったら……相手はひでぇ死に方するだろうなぁ!
ギャハハハハハ!」

ハウレスは、愉快そうに声を上げて笑った。

(『あの人』に、凱の加勢を頼むべきか?
いや、そのタイミングは、あの人が判断するだろう。
俺は目の前のコイツをどうにかしなければ!)

朱明は正々堂々と、彼らに喧嘩を売った訳では無い。
相手を捕獲するための、ある人が助っ人を買って出てくれたのだ。
それは社員も、もちろん凱や百合子も関知していない。

「オラ!若造!動きが悪くなってきたぞ!?
俺との戦いに集中しな!」

ハウレスの蹴りが朱明の胸元を捉え、朱明は勢いよく吹っ飛ばされた。
そのまま、道沿いにある緑地の中に放り込まれる。
ハウレスは朱明をすぐに追うが、転がっていると思われる場所に朱明は居なかった。

「緑地の中ではやりにくい。仕方がないから出てくるまで待つか。
……しかし、あの野郎、どこまで飛んでいった?」

ハウレスが独り言を言いながら緑地から離れる。
その矢先、ハウレスはキューンという音を耳にする。
何かが飛んでくる気配を察知したハウレスは、咄嗟に頭を屈めた。

ちょうどそこを、直径30cmほどの光輪が通過していった。

「なんだぁ?あれは?」

光輪が飛んできた方を見ると、すぐ目の前に、いつの間にか朱明が立っていた。

「外したか……」

「惜しかったなぁ!
しかし、やはり、ただの筋肉馬鹿じゃなかったか……」

ハウレスは再び朱明に殴りかかり、二人は再び格闘戦を繰り広げ始める。
しかし、ハウレスは、意図的に朱明によって、自分の動きがコントロールされていることに気付いていなかった。
そして、ハウレスの右の拳を左手で受け止めた朱明は、その手の指を自分の顔の横にスッと立てる。
するとその指に、先ほど飛んでいった光輪が納まった。
ハウレスの手首を切り落としながら。

「あがぁッ!」

ハウレスは左手を抑えながら、朱明から飛び退いた。

「まだ、やるか?
今だったら、治癒魔法で元通りになるんじゃない?」

朱明は地面に転がっているハウレスの右手を、指差した。

「は、はは……してやられたな。
まさか、テメェの元に戻ってくるとはな。」

「『スダルシャナ』
表の世界の神様の武器、チャクラムだ。
投げてもブーメランみたいに自分の手元に戻ってくる。」

朱明はハウレスと話しながら、スダルシャナを指の中でクルクル回し始めた。

「そいつをなんで、貴様が持っているんだ?」

ハウレスは朱明に、冷や汗をかきながら問う。

「俺達、鶴星の人間の一部は、神様へのお願い事を独自の呼吸法と共に念じる……『鶴星流・真言マントラ』を鶴星家独自の能力としている。
その真言の中で、今の俺のように神様から武器をお借りする真言を『神具召喚術』、神様の力を借りる真言を『神力降』と呼んでいる。」

「……クソ、影住の親父め!
そういう情報は、あらかじめ教えて欲しかったな。」

ハウレスは苦笑いを浮かべながら、この場にいない自分の上司の名を口にした。

「以前の会議で、邪魔な鶴星家の能力について説明がありましたよ。
どうせ貴方のことだから、会議をすっぽかしたのでしょう?
だから魔術を使うとは言え、人間如きに後れを取るんですよ。
クックック……」

未だに黒いローブに身を包み、悠から『アンドラス』と呼ばれた男が、たまたまハウレスの近くに着地し、彼を嘲笑う。

「うるせぇ!
雑魚相手に、チョロチョロ逃げ回っているだけのテメェに言われたくねぇ!」

ハウレスはアンドラスを怒鳴りつけた。

「私が荒事に関して、専門外なのは知っているでしょう?
貴方がとっとと、その男と私に付きまとう虫けら共を排除して下さい。」

「偉そうに言うな!
テメェの面倒はテメェでなんとかしやがれ!」

ハウレスは怒声を上げながら、朱明に突っ込んでいった。

「やれやれ、これだから脳筋は……」

アンドラスは地上から飛んでくる電撃や、魔法で伸ばした木の蔓、銃撃を避け続けているが、鶴星セキュリティサービスの社員達に少しずつ動きを見切られ、徐々に押されていることに焦りを覚え始めた。

「フン、虫けらの分際で……仕方がありませんね。
『彼ら』はゲームの駒として準備をしたのですが、出し惜しみはやめておきましょう。」

アンドラスは被っていたフードから顔を出した。
黒いウェーブのかかった長髪の、白人の中年男性だった。
頬はこけており、三白眼のギョロっとした目を持つ痩せた男で、屈強なハウレスとは対照的だった。
次にその顔を、あっという間に渡鴉に変貌させると、鋭い嘴を大きく開け、口から音波を出し始めた。すると、

「ブヒィッ!ブヒッ!」

研究所の門の近くの緑地から、太くて大きな棍棒を持った二足歩行の大きな豚が、脂肪のたっぷりついた大きな腹を揺らし、嬉々とした鳴き声を上げながら現れた。
その数は8匹。
異様なのは、どの豚もサラリーマンが着こんでいるスーツや、スカート、作業着と思われる布切れを身にまとっていた。
それのどれもが、まるで体の大きさに耐えられなくなって、はち切れたように破れており、だらしなく体の一部に引っ掛かっているような状態だった。

「な、なんだ、こいつら?」

鶴星セキュリティサービスの社員の内、若い男性社員の一人が、戸惑いの声を上げた。
人の顔に戻ったアンドラスは、オークの後方に着地すると、右手を前方に向け指示を出した。

「行け!オーク共!
目の前の虫けらどもを、皆殺しにしろ!」

「ブヒィッ!」

オークと呼ばれた豚達は、棍棒を掲げながら、鶴星セキュリティサービスの社員達に突撃し、あっという間に混戦状態となった。

オーク達の攻撃はどれも大振りで破壊力はあったが、単純なため、社員達に当たることは無かった。

「もらった!」

社員の一人が、棍棒を持った手を刀で切り裂き、

「ブヒャッ!」

棍棒を手から離したオークの首を刎ねようと、刀を振り上げたところで、

「おおっと!止めた方がいいですよ!
彼は、元々、人間なのですから!」

「何?」

刀を振り上げた社員は、首を刎ねようとした豚を見る。

「ここのある薬を使えば、彼らを人間に元に戻すことも出来ますがねぇ!
いかがいたします!?」

アンドラスは、小瓶に入った液体を見せびらかしながら、戦闘状態にある社員達に聞こえるように声を上げた。

「降伏し、私への攻撃を止めるのなら、オーク達に手出しはさせません。
あと、貴方達の社長を説得してくださいませんかね?
悠坊ちゃまの願いに従う様に!」

社員達はオークの攻撃をかわし、一か所に集まる。
アンドラスは社員達の戦意が静まったことを確認すると、

「お前達、攻撃をやめなさい!」

オーク達の攻撃の手を止めさせた。

「言う事を聞けば、彼らを人間に戻すのか?」

アンドラスに、リーダー格の男性社員が問う。

「貴方達次第です。
元々、我々に戦う意志は無かったのですよ、それをあの鶴星朱明が台無しにしたのです。」

「……分かった。社長と話をしてくる。」

リーダー格の男性社員は、ハウレスと交戦を続けている朱明の下に向かう。
他の社員は、アンドラスやオークの動きに警戒を続けた。
アンドラスは内心で、ほくそ笑んだ。

(クックック……馬鹿共め。
この豚共は、元の姿になど戻らんよ。
オークと化した瞬間に、死んだのだからな。)

そして、鳳凰院自動車研究所の建屋を見つめ、

「後は、坊ちゃまの意図通りに進めば、大量の人間共の魂が手に入り、主様もお喜びになる。そして、その暁には私の地位も上がることだろう。」

アンドラスは、誰にも聞こえないよう呟き、口元を笑みで歪めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

処理中です...