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ヒロインの定義ってなんだっけ
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私の目の前に現れた少女の名前はマリアベル。
元は伯爵家の一人娘だったらしいが、家業が上手くいかず没落してしまったらしい。
お母様と社交界で面識のあった伯爵夫人は貴族としてのプライドをすべて捨ててマリアベルの命だけは助けてほしいと懇願して、それを哀れに思ったお母様が使用人としてなら生活の保障をすると約束をしたのだ。
その恩情に涙を流しながら感謝を伝えた翌日に伯爵夫人は息を引き取った。
話を聞いて思ったけど伯爵夫人は多分、自分の命はもう長くないと悟っていたのかも知れない。そしてそれはお母様も感じ取っていたんだと思う。
(没落して頼れる相手もいないのに、もうすぐで死んでしまうと感じた伯爵夫人はどんな気持ちだったのだろう)
お母様曰くマリアベルと瓜二つで『社交界の白百合』と評される程の気品と美しさを持っていたそう。そんな人が恥も外聞も捨てて娘だけは助けてほしいとお願いしたからお母様も突き放せなかったのだろう。
(それにしても本当に整った顔立ちだったなぁ )
瞳の色は私と同じ色をしているけど、どちらかといえば私は吊り上がっためをしているので少しキツく見えがちだけど、マリアベルはタレ目なので可愛らしい印象を与えている。
そんなことを考えていると、ノックもなく扉が開いたので見てみるとマリアベルがこちらに駆け寄ってきた。
「お嬢様!! 奥様がお茶を一緒に飲みましょうって言ってます! 」
そう言ってふふんと胸を張っているが、言いたい事があり過ぎて言葉を無くしてしまった。
「えっと……、お母様がお呼びなの? 他の侍女たちは何処にいるのかしら。」
私の部屋に入る時にノックをしないで入るのはこれで5回目だ。その都度、侍女に怒られているのに改善の見込みがない。そもそもそれを伝える為だけに来ているのなら仕事をほったらかしにしてきたことになる。
「皆んな、きっとあなたを探しているわ。お茶の準備が整えば侍女が来ると思うからその時には謝りなさいね。」
「はい…。お嬢様。」
4歳の女の子に酷な事をしてると思う。しかし、ここは前世で私が住んでいた場所じゃない。身寄りのない子は自分で何とかするしか方法はない。
(一応、マリアベルも淑女教育を受けている筈なんだけど……まぁ、私も彼女も4歳だし彼女の反応が普通なのかもしれない)
元気で明るい女の子ではあるが、ここではそれは通用しない。仕事が出来なければどんな待遇が待っているかなんて容易く想像出来てしまう。
だから、ここで働く皆んなはマリアベルに根気強く教えている。いつまでもその態度である事は許されないと彼等は知っているから。
(私もこの家の為にお役目を果たさないといけないしね)
そう考えながら、ジェレミー様に手紙を書く。マリアベルがここでお仕事を頑張らなければ居場所を無くす様に、私も家の為につながる結婚をしなければ社交界での居場所はない。
待っているのは没落のみ。それが分かっていて家族を路頭に迷わす選択なんて出来るわけなかった。
--------------
あれから、予想通りに侍女がやってきてマリアベルはお叱りを受けていたが、私がお母様に呼ばれていることもあり、早く切り上げてもらった。
軽く身だしなみを整えてから庭園に行くとお母様は座っておりお茶の準備は直ぐに始められそうだった。
「いらっしゃい、アシュリー。今日はあなたの好きな苺のタルトを作って貰ったのよ。料理長が渾身の出来だと言っていたから食べるのが楽しみね。」
お母様に促され、席に着くと確かに私の好きな苺のタルトが机の真ん中に置かれていて、まだ切られていないそれに目を奪われてしまう。
「美味しそう…。」
そう言葉にしたのは私ではなくマリアベルだった。
期待の眼差しでお母様を見つめていてそれに気づくとお母様は美しく微笑んだ。
「そうでしょう? 我が家の自慢の料理長なのよ。---アシュリーを連れてきてくれてありがとう。もう下がっても大丈夫よ。」
「え……? 」
困惑するマリアベルを気にもせず、席に着いた私にお母様は話し出した。用はないと分かった侍女はマリアベルを連れていってしまった。
(お母様はマリアベルに優しかったからお茶会に参加させると思ったのに……)
侍女と一緒に去っていくマリアベルを見つめているとアシュリーと先程の愛しむ様な声ではなく嗜める様な硬い声で話しかけてきた。
「私があの子を気にかけるのはカトレアとの約束があるからです。けれど、あの子はもう貴族ではない。早いうちに認識を変えなくては辛くなるのはあの子なのよ。」
(そうか……。違和感の正体がやっと分かったわ)
彼女の中で未だ自分は『貴族』なのだ。ある日突然、使う立場から使われる立場になって混乱しているのだ。
我儘が通っていたから今の現実を受け入れるのは幼いながらも貴族として育った彼女には受け入れ難いのかもしれない。そう思いながらもお母様に微笑む。
「マリアベルは明るくて良い子だと思います。だから、きっとみんなの気持ちが伝わると信じています。」
その言葉にお母様はそうねと相槌を打っていたけど私の言った言葉は願望に近かった。
(きっとこの子がヒロインでやんちゃな幼少期があったというだけ……それだけよ……)
連れて行かれた時の彼女の表情は幼い子供がするには強すぎる程の憎悪に満ちていたのは気のせいだと知らないふりをした。
それが、私自身の人生を狂わせるということも知らずに。
元は伯爵家の一人娘だったらしいが、家業が上手くいかず没落してしまったらしい。
お母様と社交界で面識のあった伯爵夫人は貴族としてのプライドをすべて捨ててマリアベルの命だけは助けてほしいと懇願して、それを哀れに思ったお母様が使用人としてなら生活の保障をすると約束をしたのだ。
その恩情に涙を流しながら感謝を伝えた翌日に伯爵夫人は息を引き取った。
話を聞いて思ったけど伯爵夫人は多分、自分の命はもう長くないと悟っていたのかも知れない。そしてそれはお母様も感じ取っていたんだと思う。
(没落して頼れる相手もいないのに、もうすぐで死んでしまうと感じた伯爵夫人はどんな気持ちだったのだろう)
お母様曰くマリアベルと瓜二つで『社交界の白百合』と評される程の気品と美しさを持っていたそう。そんな人が恥も外聞も捨てて娘だけは助けてほしいとお願いしたからお母様も突き放せなかったのだろう。
(それにしても本当に整った顔立ちだったなぁ )
瞳の色は私と同じ色をしているけど、どちらかといえば私は吊り上がっためをしているので少しキツく見えがちだけど、マリアベルはタレ目なので可愛らしい印象を与えている。
そんなことを考えていると、ノックもなく扉が開いたので見てみるとマリアベルがこちらに駆け寄ってきた。
「お嬢様!! 奥様がお茶を一緒に飲みましょうって言ってます! 」
そう言ってふふんと胸を張っているが、言いたい事があり過ぎて言葉を無くしてしまった。
「えっと……、お母様がお呼びなの? 他の侍女たちは何処にいるのかしら。」
私の部屋に入る時にノックをしないで入るのはこれで5回目だ。その都度、侍女に怒られているのに改善の見込みがない。そもそもそれを伝える為だけに来ているのなら仕事をほったらかしにしてきたことになる。
「皆んな、きっとあなたを探しているわ。お茶の準備が整えば侍女が来ると思うからその時には謝りなさいね。」
「はい…。お嬢様。」
4歳の女の子に酷な事をしてると思う。しかし、ここは前世で私が住んでいた場所じゃない。身寄りのない子は自分で何とかするしか方法はない。
(一応、マリアベルも淑女教育を受けている筈なんだけど……まぁ、私も彼女も4歳だし彼女の反応が普通なのかもしれない)
元気で明るい女の子ではあるが、ここではそれは通用しない。仕事が出来なければどんな待遇が待っているかなんて容易く想像出来てしまう。
だから、ここで働く皆んなはマリアベルに根気強く教えている。いつまでもその態度である事は許されないと彼等は知っているから。
(私もこの家の為にお役目を果たさないといけないしね)
そう考えながら、ジェレミー様に手紙を書く。マリアベルがここでお仕事を頑張らなければ居場所を無くす様に、私も家の為につながる結婚をしなければ社交界での居場所はない。
待っているのは没落のみ。それが分かっていて家族を路頭に迷わす選択なんて出来るわけなかった。
--------------
あれから、予想通りに侍女がやってきてマリアベルはお叱りを受けていたが、私がお母様に呼ばれていることもあり、早く切り上げてもらった。
軽く身だしなみを整えてから庭園に行くとお母様は座っておりお茶の準備は直ぐに始められそうだった。
「いらっしゃい、アシュリー。今日はあなたの好きな苺のタルトを作って貰ったのよ。料理長が渾身の出来だと言っていたから食べるのが楽しみね。」
お母様に促され、席に着くと確かに私の好きな苺のタルトが机の真ん中に置かれていて、まだ切られていないそれに目を奪われてしまう。
「美味しそう…。」
そう言葉にしたのは私ではなくマリアベルだった。
期待の眼差しでお母様を見つめていてそれに気づくとお母様は美しく微笑んだ。
「そうでしょう? 我が家の自慢の料理長なのよ。---アシュリーを連れてきてくれてありがとう。もう下がっても大丈夫よ。」
「え……? 」
困惑するマリアベルを気にもせず、席に着いた私にお母様は話し出した。用はないと分かった侍女はマリアベルを連れていってしまった。
(お母様はマリアベルに優しかったからお茶会に参加させると思ったのに……)
侍女と一緒に去っていくマリアベルを見つめているとアシュリーと先程の愛しむ様な声ではなく嗜める様な硬い声で話しかけてきた。
「私があの子を気にかけるのはカトレアとの約束があるからです。けれど、あの子はもう貴族ではない。早いうちに認識を変えなくては辛くなるのはあの子なのよ。」
(そうか……。違和感の正体がやっと分かったわ)
彼女の中で未だ自分は『貴族』なのだ。ある日突然、使う立場から使われる立場になって混乱しているのだ。
我儘が通っていたから今の現実を受け入れるのは幼いながらも貴族として育った彼女には受け入れ難いのかもしれない。そう思いながらもお母様に微笑む。
「マリアベルは明るくて良い子だと思います。だから、きっとみんなの気持ちが伝わると信じています。」
その言葉にお母様はそうねと相槌を打っていたけど私の言った言葉は願望に近かった。
(きっとこの子がヒロインでやんちゃな幼少期があったというだけ……それだけよ……)
連れて行かれた時の彼女の表情は幼い子供がするには強すぎる程の憎悪に満ちていたのは気のせいだと知らないふりをした。
それが、私自身の人生を狂わせるということも知らずに。
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