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奇跡に近い特別な話
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……不思議だ。
浮かべた表情、仕草。
そして、優しい微笑み。
こんなにも、悠真くんと律は共通点があるのに。
どうして、今まで気づかなかったのだろう。
心の底から、悠真くんが……律が生きていることを愛しいと思った。
「あのさ……。花乃が、オレのことを――桜ノ宮悠真のことを忘れなければ、オレはいつだって桜ノ宮悠真だ」
わたしは流れ落ちる涙を拭うことも忘れて、悠真くんを見つめる。
「それと同じように、花乃たちが、律のことを――西舞律のことを忘れなければ、オレはいつだって西舞律だ」
「……ありがとう」
たとえ、姿が変わっても、悠真くんと律の存在は、わたしにとってかけがえのない希望の光だった。
パンドラの箱が思わぬ形で叶えた願い。
どういう仕組みなのか、分からない。
分からないことだらけだ。
それでも、ぎまんさんが、悠真くんの姿を変えたのは『特別な意味』を持っていた。
『ねーね、だーいすき』
思い出すのは、はにかむような、柔らかな笑み。
不意に、悠真くんの優しい笑みが律と重なる。
「……うん。わたしも大好きだよ、律」
わたしの眼差しに、もう迷いはなかった。
もう、怖くない。
律が……悠真くんがいれば、これから先、どんな困難が立ち塞がっても乗り越えられる。
悠真くんが教えてくれた強さ。
悠真くんからもらった、果てしない心の温かさ。
今も優しく、わたしの背中を押していた。
お母さんが、わたしたちに伝えてくれたのはそんな希望だ。
「花乃、悠真。いつまでそこにいるの」
その時、玄関からお母さんの呼ぶ声が聞こえた。
「よし、花乃、シュー、バアル、行こうぜー」
悠真くんはぐいっとわたしの腕を引っ張る。
「うん。シューちゃん、バアルちゃん、行こ」
「きゅい……!」
「にゃん……!」
わたしがうなずくと、シューちゃんとバアルちゃんは声を弾ませた。
リビングに入ると、家族みんなでのんびりとした時間を共に過ごす。
その心地よさが、わたしたちには愛おしかった。
「花乃、悠真、お待たせ。シューちゃんたちの分もあるわよ」
その時、お母さんが上機嫌で、ホットケーキをリビングへと運んできた。
「悠真くん、おいしいね」
「ああ。ホットケーキ、めちゃうめーぞ」
臆病に伝えたわたしの心の端を、悠真くんは嬉しそうに受け止めてくれる。
悠真くんは真実を知っても、ここにいる決断をしてくれた。
この家を、もう一つの自分の居場所だと思ってくれている。
それが嬉しいのはきっと、わたしだけじゃない。
お母さん……そして、お父さんもすごく喜んでくれると思うんだ。
世界で一番幸せな家族。
それはきっと、あの日、わたしの胸の中で二番目に生まれた……せいいっぱいの願い事。
家族の証だと思うから。
「みんなで一緒に食べよう」
お母さんが作った、ホットケーキを小さくカットし、シューちゃんたちの皿に運んでいく。
すると、シューちゃんたちは、美味しそうにホットケーキを頬張ったんだ。
ぴょこぴょこ上機嫌。
良かった。
みんな、ホットケーキ、気にいってくれたみたい。
甘いひとときはいつでも、わたしたちを昂揚させる。
『新たな進化』を紐解くにあたって、お菓子というものの彩りは欠かせない。
それに、みんなに味わってもらいたいお菓子はたくさんあって、挙げれば切りがないんだ。
和気あいあいと和んだその時、ふとクリアな声が響いた。
『このまま、悠真くんに……律に『家族』として、そばにいてほしい? それとも、元に戻った悠真くんと『恋』をしたい?』
何故だろう。
ぎまんさんがどこかで、わたしにそう語りかけたような気がした。
真実を知った上で、家族と恋、どちらに天秤が傾くのか。
まるで、わたしの心を試すようにーー。
やっぱり、ぎまんさんはただの負の運気さんじゃない。
わたしは直感的にそう理解していた。
恐らく、お父さんとお母さんが、最後に浄化した『25体目』の負の運気さんなのだろう。
だから、ぎまんさんはパンドラの箱のもとに留まって、困惑するわたしたちと対面した。
以前、パンドラの箱を開けたお父さんとお母さんの願いを叶えるために。
(律にずっと、会いたかった)
その想いには、嘘も偽りもない。
大切に大切に過ごしてきた時間が、心の底から大事になっていた。
時間だけじゃない。
場所も、思い出も。
問われれば思い出せるほどに。
でも、今のわたしには……そばにいてくれる大切な人がいる。
真実を知った上で、悠真くんは……律は現実と向き合ってくれたんだ。
だから、大丈夫。
それにもう、わたしの胸の中には、確かな答えがある。
『ねーね、『こい』しているの』
『そうだよ。世界で一番、幸せな恋をしているの』
悠真くんの進む明日。
悠真くんが生きる未来。
そのそばに律がいる。
『だって、大好きな人が突然、律の生まれかわりだと分かったんだから』
たくさん、たくさん、遠回りをしたね。
だけど、ようやく真実にたどり着くことができた。
『ねえ、悠真くん。ここから恋をはじめよう。奇跡に近い出会いは、ここから始まったんだから』
勇気を持ってたどり着いた今日。
わたしたちの進む未来が、光にあふれるものであるように――。
一緒に生きていこう。
浮かべた表情、仕草。
そして、優しい微笑み。
こんなにも、悠真くんと律は共通点があるのに。
どうして、今まで気づかなかったのだろう。
心の底から、悠真くんが……律が生きていることを愛しいと思った。
「あのさ……。花乃が、オレのことを――桜ノ宮悠真のことを忘れなければ、オレはいつだって桜ノ宮悠真だ」
わたしは流れ落ちる涙を拭うことも忘れて、悠真くんを見つめる。
「それと同じように、花乃たちが、律のことを――西舞律のことを忘れなければ、オレはいつだって西舞律だ」
「……ありがとう」
たとえ、姿が変わっても、悠真くんと律の存在は、わたしにとってかけがえのない希望の光だった。
パンドラの箱が思わぬ形で叶えた願い。
どういう仕組みなのか、分からない。
分からないことだらけだ。
それでも、ぎまんさんが、悠真くんの姿を変えたのは『特別な意味』を持っていた。
『ねーね、だーいすき』
思い出すのは、はにかむような、柔らかな笑み。
不意に、悠真くんの優しい笑みが律と重なる。
「……うん。わたしも大好きだよ、律」
わたしの眼差しに、もう迷いはなかった。
もう、怖くない。
律が……悠真くんがいれば、これから先、どんな困難が立ち塞がっても乗り越えられる。
悠真くんが教えてくれた強さ。
悠真くんからもらった、果てしない心の温かさ。
今も優しく、わたしの背中を押していた。
お母さんが、わたしたちに伝えてくれたのはそんな希望だ。
「花乃、悠真。いつまでそこにいるの」
その時、玄関からお母さんの呼ぶ声が聞こえた。
「よし、花乃、シュー、バアル、行こうぜー」
悠真くんはぐいっとわたしの腕を引っ張る。
「うん。シューちゃん、バアルちゃん、行こ」
「きゅい……!」
「にゃん……!」
わたしがうなずくと、シューちゃんとバアルちゃんは声を弾ませた。
リビングに入ると、家族みんなでのんびりとした時間を共に過ごす。
その心地よさが、わたしたちには愛おしかった。
「花乃、悠真、お待たせ。シューちゃんたちの分もあるわよ」
その時、お母さんが上機嫌で、ホットケーキをリビングへと運んできた。
「悠真くん、おいしいね」
「ああ。ホットケーキ、めちゃうめーぞ」
臆病に伝えたわたしの心の端を、悠真くんは嬉しそうに受け止めてくれる。
悠真くんは真実を知っても、ここにいる決断をしてくれた。
この家を、もう一つの自分の居場所だと思ってくれている。
それが嬉しいのはきっと、わたしだけじゃない。
お母さん……そして、お父さんもすごく喜んでくれると思うんだ。
世界で一番幸せな家族。
それはきっと、あの日、わたしの胸の中で二番目に生まれた……せいいっぱいの願い事。
家族の証だと思うから。
「みんなで一緒に食べよう」
お母さんが作った、ホットケーキを小さくカットし、シューちゃんたちの皿に運んでいく。
すると、シューちゃんたちは、美味しそうにホットケーキを頬張ったんだ。
ぴょこぴょこ上機嫌。
良かった。
みんな、ホットケーキ、気にいってくれたみたい。
甘いひとときはいつでも、わたしたちを昂揚させる。
『新たな進化』を紐解くにあたって、お菓子というものの彩りは欠かせない。
それに、みんなに味わってもらいたいお菓子はたくさんあって、挙げれば切りがないんだ。
和気あいあいと和んだその時、ふとクリアな声が響いた。
『このまま、悠真くんに……律に『家族』として、そばにいてほしい? それとも、元に戻った悠真くんと『恋』をしたい?』
何故だろう。
ぎまんさんがどこかで、わたしにそう語りかけたような気がした。
真実を知った上で、家族と恋、どちらに天秤が傾くのか。
まるで、わたしの心を試すようにーー。
やっぱり、ぎまんさんはただの負の運気さんじゃない。
わたしは直感的にそう理解していた。
恐らく、お父さんとお母さんが、最後に浄化した『25体目』の負の運気さんなのだろう。
だから、ぎまんさんはパンドラの箱のもとに留まって、困惑するわたしたちと対面した。
以前、パンドラの箱を開けたお父さんとお母さんの願いを叶えるために。
(律にずっと、会いたかった)
その想いには、嘘も偽りもない。
大切に大切に過ごしてきた時間が、心の底から大事になっていた。
時間だけじゃない。
場所も、思い出も。
問われれば思い出せるほどに。
でも、今のわたしには……そばにいてくれる大切な人がいる。
真実を知った上で、悠真くんは……律は現実と向き合ってくれたんだ。
だから、大丈夫。
それにもう、わたしの胸の中には、確かな答えがある。
『ねーね、『こい』しているの』
『そうだよ。世界で一番、幸せな恋をしているの』
悠真くんの進む明日。
悠真くんが生きる未来。
そのそばに律がいる。
『だって、大好きな人が突然、律の生まれかわりだと分かったんだから』
たくさん、たくさん、遠回りをしたね。
だけど、ようやく真実にたどり着くことができた。
『ねえ、悠真くん。ここから恋をはじめよう。奇跡に近い出会いは、ここから始まったんだから』
勇気を持ってたどり着いた今日。
わたしたちの進む未来が、光にあふれるものであるように――。
一緒に生きていこう。
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