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第七章 過去と始まり
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「よお、花乃。おはよー」
翌日、学校に向かう途中、啓太が大慌てで駆け寄ってきた。
「おはよう、啓太。そんなに急いでどうしたの?」
「昨日のことが気になってさ。あれから悠真はどうしていたんだ?」
意外な質問に、わたしはきょとんとする。
「えっ? いつもどおりだったよ」
「そっか。なら、良かった……」
安堵する啓太の様子がふと、昨日のお母さんの姿と重なった。
「もしかして啓太も、悠真くんがいなくなってしまうんじゃないかって思ったの?」
「なっ! なんで、分かったんだよ!」
「昨日、お母さんも同じこと、言っていたから」
勢いでそう言うと、啓太は図星を突かれた顔をする。
「……なんでだろうな。悠真は確かにここにいるのに、すげえ不安に駆られてしまうんだ」
啓太は訳が分からないといった顔で頭をかいた。
そんな啓太の様子を見て、わたしは覚悟を決める。
「……ねえ、啓太」
わたしはぽつりとつぶやいた。
「頼ってもいいかな?」
「当たり前だろう。俺は花乃のヒーローだからな」
間一髪入れずに応えた啓太に、わたしの顔が一気に赤くなった。
ドキドキが止まらない。
それでもわたしは勇気を出して、声を振りしぼる。
一番大事なことを、啓太に伝えたいと思ったから。
「あのね、悠真くんを守ってほしいの」
「悠真を?」
わたしのお願いに、啓太は不思議そうに首を傾げた。
「うん。悠真くんはいつも弱音を吐かない。つらくても、いつも笑顔でいてくれる。でも、ときおり、無理をしているような顔をしているの」
気がついたら、胸の奥にたまっていたものを一気に吐き出していた。
溢れる気持ちを押さえきれなくなったように。
「だから、わたし、悠真くんの笑顔を守りたい! でも、わたしだけじゃ、悠真くんのことを守りきれるか分からなくて……」
それが、あまりにも想定外の言葉だったから、耳に入るまで余計に時間がかかったのかもしれない。
しばらくの間、啓太はぽかんとしていた。
だけど。
「おう、任せろ! 俺にとって、花乃と悠真は特別な存在だ。絶対に守ってやるからな!」
啓太はどん、と胸を叩く。
そのまっすぐな目にすごく安心する。
「……啓太、ありがとう」
先程までの不安が一気に薄れていった。
(もう……大丈夫……)
啓太は、悠真くんを律だと思い込んでいる。
でも、啓太と悠真くんの絆は確かに結びついていた。
たとえ、悠真くんが元に戻っても、二人の関係はきっと変わらない。
(律、わたしたち、頑張るね。律のいない明日を生きるために――)
律はもういない。
でも、心の距離は決して離れない。
それに今のわたしには……そばにいてくれる人たちがいる。
だから、理不尽な現実なんかに絶対に負けないから。
翌日、学校に向かう途中、啓太が大慌てで駆け寄ってきた。
「おはよう、啓太。そんなに急いでどうしたの?」
「昨日のことが気になってさ。あれから悠真はどうしていたんだ?」
意外な質問に、わたしはきょとんとする。
「えっ? いつもどおりだったよ」
「そっか。なら、良かった……」
安堵する啓太の様子がふと、昨日のお母さんの姿と重なった。
「もしかして啓太も、悠真くんがいなくなってしまうんじゃないかって思ったの?」
「なっ! なんで、分かったんだよ!」
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啓太は訳が分からないといった顔で頭をかいた。
そんな啓太の様子を見て、わたしは覚悟を決める。
「……ねえ、啓太」
わたしはぽつりとつぶやいた。
「頼ってもいいかな?」
「当たり前だろう。俺は花乃のヒーローだからな」
間一髪入れずに応えた啓太に、わたしの顔が一気に赤くなった。
ドキドキが止まらない。
それでもわたしは勇気を出して、声を振りしぼる。
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「あのね、悠真くんを守ってほしいの」
「悠真を?」
わたしのお願いに、啓太は不思議そうに首を傾げた。
「うん。悠真くんはいつも弱音を吐かない。つらくても、いつも笑顔でいてくれる。でも、ときおり、無理をしているような顔をしているの」
気がついたら、胸の奥にたまっていたものを一気に吐き出していた。
溢れる気持ちを押さえきれなくなったように。
「だから、わたし、悠真くんの笑顔を守りたい! でも、わたしだけじゃ、悠真くんのことを守りきれるか分からなくて……」
それが、あまりにも想定外の言葉だったから、耳に入るまで余計に時間がかかったのかもしれない。
しばらくの間、啓太はぽかんとしていた。
だけど。
「おう、任せろ! 俺にとって、花乃と悠真は特別な存在だ。絶対に守ってやるからな!」
啓太はどん、と胸を叩く。
そのまっすぐな目にすごく安心する。
「……啓太、ありがとう」
先程までの不安が一気に薄れていった。
(もう……大丈夫……)
啓太は、悠真くんを律だと思い込んでいる。
でも、啓太と悠真くんの絆は確かに結びついていた。
たとえ、悠真くんが元に戻っても、二人の関係はきっと変わらない。
(律、わたしたち、頑張るね。律のいない明日を生きるために――)
律はもういない。
でも、心の距離は決して離れない。
それに今のわたしには……そばにいてくれる人たちがいる。
だから、理不尽な現実なんかに絶対に負けないから。
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