その日、猫は希望と願いを天秤にかける

留菜マナ

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第二章 あの海の向こうへ

3-19

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「いいにゃ……」

星の灯のように、心にぽかんと浮かんだ『想い』に頬が熱くなる。
幼い頃のハルカちゃんは何を話して、どんなふうに笑っていたのだろう。
分からない。
でも、我輩の知らない思い出が、この写真の中にはあって、何だか少し悔しいにゃ。
我輩も、この輪の中に入れたらいいのに。

「にゃん太郎さん、どうしたの?」

そう思っていると、ハルカちゃんが不思議そうに近づいてきた。

「その、にゃ。この写真には、小さい頃のハルカちゃんが見てきた景色とか思い出があって。だけど、その中には我輩がいなくて、何も分からなくて……」

写真を見上げた我輩は、たどたどしく心情を吐露する。

「だから、写真を眺めていたら、我輩も、そこにいた気分になれるかなと思ったにゃ」

辛くて苦しくて悲しくて、魂を……胸の奥を常に掻きむしられるのが現実なら。
我輩は温かくて穏やかで安らぐ、泡沫の夢の中の方がいいと思ったからにゃ。
でも、ハルカちゃんの答えは違ったにゃ。

「あのね、にゃん太郎さん。昔の思い出に入らなくていいよ」
「……にゃ?」

思わず、どきりとしたにゃ。
まるで、心の中を見透かされたような気がしたから。

「これから、にゃん太郎さんがいる思い出をいっぱい作ればいいんだから」

これから、二人で作る思い出。
そのことを思うと、我輩の心の内側が温かくなるのを感じたにゃ。

「……確かに、ハルカちゃんの言うとおりにゃ。ハルカちゃんと過ごす日々も、たくさんの思い出も、これから一緒に作っていけばいいんだにゃ」
「うん。たくさんの思い出を作ろうね」

我輩の言葉に、ハルカちゃんは満面の笑みを浮かべたにゃ。
その笑顔を見ていると、胸がぽかぽかと温かくなる。
この温かい気持ちってなんだろうにゃ。

まるで――感情が、想いが、固い霜の下から芽を出す春草のように沸き上がってくる感覚は……。

……あ、そうだにゃ。
『好き』って気持ちだにゃ。

我輩は、ハルカちゃんに恋をしている。
ハルカちゃんのことを知れば知るほど、惹かれていく。
話せば話すほど、もっと話したくなる。
誰かを好きになるのは、こういうことかもしれないにゃ。
先程までの想いとは異なる感情で胸が熱く、高鳴っていく。

『すべての希望を手に入れる』
『すべての願いをかなえてもらう』

そんな奇跡が起きなくても、我輩にとっては今、この時間がもう十分ほど奇跡にゃ。
大切な人がそばにいれば、何も怖くないにゃ。

「そっかにゃ……」

我輩、ふと気づく。
六花ちゃんたちを幸せいっぱいにする方法。
そのために、神の使いである我輩ができること。
それは何も難しい方法ではない。
今、六花ちゃんたちにあるものは、六花ちゃんたちのものだから。
ただ、我輩たちは、それに気づくきっかけを与えてあげたらいいにゃ。
もう既に、神様が『願いをかなえる切符』と『願いの対価を支払う切符』を渡しているのだから。



翌朝、我輩はハルカちゃんの部屋にあるカゴの中で目を覚ましたにゃ。

「……うにゃ?」
「あ、にゃん太郎さん。おはよう」

目をこすっていると、ハルカちゃんは既に制服に着替えて、学校に行く準備を終えていたにゃ。
不思議にゃ。
今日はいつもより、さわやかな目覚めだったにゃ。
昨日、自分なりの答えを見つけたからかもしれないにゃ。
辺りを見回すと、窓からカーテン越しに光が差し込んでいる。

「にゃ! 今日もがんばるにゃ!」

我輩、かけ声とともに、カゴから出たにゃ。
リビングに向かうと、朝ごはんの匂いがふわりと漂っていたにゃ。

「朝ごはん、食べよう」
「……にゃ! いただきますにゃ!」

ソファーに座って、ハルカちゃんと神様と一緒に朝食。

「すごくおいしいにゃ~」
「うん。すごくおいしいね」

とろけるような味わい。
目玉焼きと一緒に食べるごはんは、めちゃくちゃ最高にゃー。
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