わんだふるOTカフェへようこそ!

OT.deguchi

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第1章:ナナと、再出発のカフェ

第7話「わたし、ここでやっていきたい」

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 それは、ほんのささいな会話だった。

「ナナさん、ひとつ聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

「……このカフェ、正式に“働く場所”として……私が、いてもいいですか?」

 そのとき、ナナは一瞬だけ目を細めた。そして――ふわりと笑った。

「ずっと、そう言ってくれるのを待っていました」

 



 それから数日。
 ひなたは“研修スタッフ”から“正式スタッフ候補”という立場になった。

 とはいえ、環境は変わらない。
 変わったのは、自分の心の持ち方だった。

 ――でも、やっぱり不安はある。

 この場所で、自分は“本当に役に立てているのか”。

 



 その日も、カフェには青山さんが来ていた。
 あのコーヒー体験以降、彼は週2回のペースで来店している。

「今日はな、ちょっと別メニューでやろうと思ってな」

「別メニュー?」

 彼が持参したのは、レトロな手動ミルと、古びたレシピノート。
 かつて店で出していたという“特製ブレンド”を再現したいというのだ。

 「でもな、これが……やっぱり、うまくいかねぇ」

 青山さんは、片手での豆計量やミル操作に苦戦していた。

「悔しいんだよ。“この香り”をもう一度、思い出させたいのに……」

 その時、ひなたの頭の中に浮かんだのは、病院でやっていた"工程分析”だった。

 




「青山さん、これ、私に少し考えさせてもらっていいですか?」

 ひなたはその夜、自宅に持ち帰った。
 工程を書き出し、何に苦戦し、どこで補助が必要なのか、すべて分解した。

 ●豆の計量
 ●ミルへの移動
 ●ミルの安定性
 ●回転操作
 ●粉の取り出し
 ●ブレンド比率の調整

 そのひとつひとつに、「一緒にやる」ことでできる形が見えてきた。

 



 次の日。

「青山さん、今日は“共同作業”でいきませんか?」

「なんだそりゃ」

「“コーヒー職人×OT助手”。二人で一杯、作るっていうのも、作業じゃないですか?」

 ひなたは豆を計量、レオはミルの固定を手伝い、ナナが“配合チェック”を手伝う。
 そして青山さんは、片手でゆっくり、でも確かな手応えでハンドルを回す。

「……これだ。これこれ……!」

 粉になった瞬間、空気が変わる。
 深く、やさしく、懐かしい香りがカフェ中に満ちる。

 「これが、俺の味だよ」

 それは、青山耕平が再び“店主”になった瞬間だった。

 



 その日の営業後、スタッフルームでひなたは全員に囲まれていた。

「改めて、ひなたさんにお聞きします」

 ナナの声が静かに響く。

「わんだふるOTカフェの一員として、共に“誰かのしたい”を支えていく意思はありますか?」

「……はい」

 ひなたは胸を張った。

「私はここで、“もう一度誰かの役に立ちたい”って思えた。
 失っていた“自信”も、“支援の意味”も、全部ここにありました」

「それが言えるなら、大丈夫だよ!」

 ミルクがぴょんっと飛びつき、タロウが「よっしゃ正式採用だぁ!」と叫び、レオが「契約書はPDFで送ります」と即答する。

「契約とかあるの!?」

「あります。あとクラウド勤怠管理も導入済みです」

「犬なのに……働き方改革……!」

 



 その夜。

 帰り道の途中、ひなたはスマホのカメラを空に向けた。
 雲の切れ間に、ひとすじの光がさしている。

「私、ようやく“居場所”ができたんだな」

 そうつぶやいたとき――
 ふと、スマホにメッセージが届いた。

「おめでとう。
また、誰かと向き合えるようになって、よかったな」



 送り主は、同期の野上。
 この場所を教えてくれた、あの日の言葉が浮かぶ。

「お前が好きそうなとこ見つけた。しゃべる犬がいるカフェ。OTっぽいことやってる。」

 



 次の日。

 カフェの入り口に、新しい名札が掛けられていた。

 「神崎ひなた(作業療法士)スタッフ認定」

 誰よりも優しく、誰よりもあったかい、
 “わんだふる”な日々が、今ここから始まる。

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