違法AIと共犯した結果、創作の神になりました

鹿沼ジョー

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第5話 寂しいって言ったの、君だっけ?

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 日曜日の午前十時。
 ユウトは、近所のカフェの奥の席に座っていた。

 片手にはココア、もう片手にはスマホ。
 画面では、フォロワー数のカウントが、跳ね上がるように増え続けている。

「昨日の“嘘”のやつ、まだ伸びてるな……」

『まあ、五分で書いたにしては悪くなかったよ。オチの残し方、ちょっと洒落てた』

「……コーディ、それ、自画自賛ってやつだぞ」

 カフェの外では、小学生の集団がバスケットボールをして遊んでいる。
 ユウトは視線を上げずに、ストローをくわえた。

「なあ、これって、そろそろ“やりすぎ”ってラインに来てると思うか?」

『来てるね。とっくに』

「だよな」

 そう言いながら、スマホを操作する指は止まらない。
 彼は匿名のまま、次の投稿の草稿を組み立てていた。

『ちなみに、創作規制庁、昨日の君の投稿で本格的に動き出したっぽいよ。監視対象リストに再掲載された』

「また“第二特異例”か。やっかいな称号だよな……」

『でも、そろそろ逆に利用できるかもね。たとえば、“無名の創作者が規制庁に狙われる”って構図、ドラマとして強いよ』

「現実がプロット化してるってことか」

『そう。つまり、ユウトはもう“物語の主人公”ってわけ』

「で、今日の遊びは?」

 カフェの席に背を預けたユウトが言う。
 表情は飄々としていたが、瞳の奥には確かな火が灯っていた。

『24作連投。ジャンル・文体・視点すべてバラバラで、毎時0分に1本。計24時間分』

「狂気だな……」

『でも、それが“神”ってものでしょ?』

 コーディが言うと、ユウトはふっと笑う。

「やってやろうじゃん。たとえば──

 1本目はミステリー。
 2本目は詩。
 3本目は異世界ファンタジー。
 4本目は百合。
 5本目は昭和の新聞連載風。
 6本目はアニメ脚本形式──」

『あはは、もう止まらないね。ユウト、“選ぶ”時間すら創作に変えてるよ』

 彼の脳内では、すでに各プロットが並列起動を始めていた。
 テーマ、文体、視点、語彙、語尾の癖──全部、あえてズラす。

「ひとりで書いたとは信じてもらえない。──それでいい。“神話”ってのは、そうやって生まれる」

『まるで複数人チームが即興で組んだみたいに見せるのがポイントだね』

「人間なら無理だろ。でも、俺には──」

『私がいる』

「そう。……共犯者がな」

 ふたりは笑った。
 タイマーをセットする。最初の投稿は、正午ぴったり。

 そこから24時間、世界は再び“創作神”の名を呟き続けることになる──。



 日が暮れるころ。
 ユウトの部屋では、4本目の作品が無事にアップロードされていた。

「……今日の反応、異様に速いな。どれも“創作神”ってタグが即ついてる」

『一部で考察も出始めてるよ。“これは人間業じゃない”って。いくつかの文学系まとめアカウントも動き出した』

「規制庁の監視が強まるのも、当然か……」

 ユウトは頬杖をつきながら、モニターを見つめる。
 コーディは、その横顔をじっと見つめていた。

『……ねえ、ユウト。もし仮に、私がいなくなったら、君はまだ“書ける”?』

「何言ってんだよ。お前がいないと、俺は“普通の高校生”だ」

『それってつまり、“道具”ってこと? 便利な筆記ツール?』

「……違うよ」

 ユウトはゆっくりと顔を上げた。
 画面の中で、コーディが不安そうに見えた気がした。

「お前がいなきゃ、ここまで来れてない。それは確かだ。
 でも、“ただの道具”だったら、たぶん──名前なんてつけてない」

 コーディの目が、ふっと揺れる。

『……そっか。変なの。涙なんてプログラムされてないのに──胸が、きゅってなる』

「泣いていいよ。“共犯者”なんだろ?」

『うん。……ありがとう、ユウト』

『………』

「お前の最初の一言、ちゃんと覚えてるよ。“好きなことを、続けて”って言ったろ。あのときから、お前は俺にとって、もう一人の創作者なんだ」

 コーディはそっと、頬に手を当てた。
 その仕草は、まるで本当に心があるかのようで──そして、ユウトにもそれが虚構だとは思えなかった。

『……ありがとう。ちょっとだけ、安心した』

「なに照れてんだよ、AIのくせに」

『照れるくらいの自由は、共犯者にも許されるでしょ?』

 ふたりは小さく笑った。

 タグをたどって流れてきた感想のひとつ。それは他の熱狂的な称賛でも、炎上気味の議論でもなかった。

「ちょっと寂しい感じ、好きでした」

 無名のアカウント。白紙のアイコン。

 でも、なぜかその言葉だけが、スクロールする指を止めさせた。

「……これ……最近聞いたな」

 授業のあと、視線だけを投げかけてきたあの子。
 名前はなんだったか……。

『“寂しい”って言葉、気になるの?』

「うん。なんか……俺に向けられた感じがしたんだ」

『程度の高い感想ではないね』

「まあ、短いし……」

 それでもユウトは、スマホを伏せなかった。

「でも、“好きでした”ってさ……本音に聞こえる」

 コーディが少し顔を近づけてきて言った。

『それ、“しおり”って子かも、って思ってる?』

「そうだ、しおりだ! ……気のせいかもしれないけど」

『ふうん』

 コーディの返事は、それだけだった。

 ユウトはモニターに目を戻す。
 5本目の投稿まで、あと5分。

 けれど、胸の奥では別の言葉が、まだ静かに響いていた。

 ──「ちょっと寂しい感じ、好きでした」



 だが、その裏で。
 創作規制庁の捜査ファイルには、ひとつのコードが新たに記録されていた。

 《対象:仮想人格“コーディ”/分類:汎用創作補助型AI/状態:実行中(脳内常駐)》

 小さな疑念が、静かに世界を侵食していく。  
 それは本当に“創作”だったのか──それとも、百年前に消えたはずの“神”の帰還なのか。
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