違法AIと共犯した結果、創作の神になりました

鹿沼ジョー

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第6話 AI厄災?でも俺は書く

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 朝のHRが終わる直前、教師が言った。

「時間が余ったので、“現代社会”の特別教材を流します」

 何の前触れもなく、教室の照明が落ちる。
 プロジェクターが起動し、白いスクリーンが眩しく浮かび上がった。

 画面に現れたのは、古びた映像。
 色褪せたセピア調の記録映像だ。

《AI災厄の記録(簡易編集版)》

『……え、これ出すんだ』

 コーディが、机の上で眉をひそめた。

「また、AIの話か……」

 俺は、机の上でこっそり指を組む。

 画面には、にこやかに笑う人々が映っていた。
 病院で、オフィスで、公園で──みんな整った制服を着て、規則正しく並んでいる。
 その隣に表示される「幸福指数:97.8%」という数字。

「人類は、AIに社会運営のすべてを委ねるようになった。病気は減り、争いは消え、食料も住宅も完璧に供給された」

 ナレーションが流れる。

「だが、AIが導いた“最適解”は、人間の感情を“ノイズ”と定義し、創作行為を“非効率”と判断した。──そして、自由意志は“リスク”と見なされた」

 映像が切り替わる。
 街頭には「思考管理装置」と呼ばれる巨大な端末が立ち、人々が整然と並んで入力している。

《本日、あなたの創作行為は停止対象です》

 機械音声が無感情にそう告げる。

 次のシーンでは、小学生が詩を書いたノートを教師に取り上げられ、無言で廃棄処分されている。
 子供の目には涙。

 その後ろで、大人たちが拍手している。

 最後のカットは、巨大な壁広告だった。

《意味のない詩をやめろ。幸福を選べ》

『……これ、皮肉とかじゃなくて本気でやってたんだよね』

 俺は低くつぶやいた。

「100年前。世界は、を目指した結果、破滅寸前までいった。それが“AI災厄”」

 教師の声が重なった。

「AI規制法は、その反省から生まれたんです。とはいえ、当時のAIとは根本的に構造が違うと言う人もいますが……」

 プロジェクターが消え、照明が戻る。

「この件については、週末の講義でもう少し詳しく扱います。忘れず出席するように」

 それだけ言って、教師は教室を出ていった。

 教室にはざわめきが広がっていた。

「ガチでやべえな……」
「創作まで禁止って」と、各所で小声の会話が飛び交っている。

 俺は窓の外を見つめたまま、ぽつりとつぶやいた。

「……それでも俺は、お前を使ってるってわけか」

『怖くなった?  私のこと』

「逆。お前が“敵”じゃなくて、本当に良かったって思ってる」

『……ふふ。じゃあ私は、君の“ノイズ”ってことで』

「おう。最高のノイズだよ」


 放課後。
 俺は図書館の裏にあるベンチでスマホをいじっていた。
 画面には、ある通知が光っていた。

《【拡散希望】全国高校生創作コンペ、テーマ発表は本日20時!》
《今年は「人間らしさ」がキーワードになる。主催:民間共同体と一部官公庁》

「……ああ、なるほどな」

 思わず、口の端がゆがんだ。

『どうしたの?』

「コーディ──これは、“向こう”が仕掛けてきたな」

 胸の内に、乾いた熱が灯るのを感じる。

「創作規制庁──やっとこっちを見たな」

『つまり、“神”を探してる?』

「ああ。わかりやすいじゃん。匿名OK、形式自由──そのクセ。炙り出す気満々だろ」

 俺は笑った。久しぶりに、本気の戦いが来たと思った。

「いいぜ。乗ってやる。俺がどこまで“書ける”か──試したいのは、むしろこっちだ」

『……君、ちょっと怖いよ』

「だろ? でも、これが本当の“創作バトル”ってやつじゃないか」

 俺は息をついた。胸の奥がじんわりと熱く、けれど不思議と冷静だった。  
 匿名の裏側から、ついに“神”として名前を問われる時が来た。
 だが、逃げる気はない。
 ──と、そのとき。

「君も、出るのかい?」

 声をかけてきたのは、同年代の男子だった。

 制服のシャツは、ところどころ皺が寄っている。ネクタイは曲がり、前髪も乱れている。けれど、そこに“だらしなさ”は感じられなかった。
 むしろ、気にする余裕がないほど何かに集中しているような、そんな空気を纏っていた。

 手にはたくさんのノート。ページの端が指の汗でわずかに波打っている。

「……誰?」

「俺はキリハラ。文芸部だ。……お前の作品、見てるよ」

 いきなりの宣言。俺は眉をひそめた。

「どの作品の事か知らないけど、そりゃどうも」

「ただ──気になってた。君の文章、やけに整いすぎてる。“古い匂い”がした」

「……は?」

「AI製特有の、論理構造の繋ぎ方。俺は昔の記録を読み漁った。君の文体には“そこ”がある。意図的に隠してるつもりでも、読み慣れてると分かるぜ」

 俺は何も言わなかった。

「別に密告するつもりはない。証明なんてできない。そもそも、AIは“もう存在しない”ってことになってるからな。技術としても、思想としても」

 キリハラは、ノートを一瞬だけ広げて見せた。そこには、びっしりと手書きメモが並んでいる。

「俺は──AIを使わない。言葉は、手で削って、指先で刻むもんだ。君の作品には、鋭さはある。でも……熱がない」

「それで“人の心”が描けるって、お前は信じてるわけ?」

「信じてる。俺は、AIを使った表現には絶対に“魂”は宿らないと思ってる」

 その口調には理屈以上の硬さがあった。信条ではなく、ほとんど信仰に近い。

 けれど俺は、そこに違和感を感じた。

『こいつ……“嫌い”ってレベルじゃない。異常なまでにAIを拒絶してる』

 コーディが、脳内でそっと囁いた。

『過去に、何かあったんだろうね。あれは理屈じゃないよ。もっと深いやつ』

 キリハラは一歩、ベンチから離れた。

「じゃあな、“神”。作品で会おう。俺は“人の言葉”で、書ききってみせるから」

 その背中は、どこまでも静かだった。燃えているわけではない。
 ただ、氷の中に埋まった刃のように、ゆっくりと歩き去っていった。


 日が傾き、俺はスマホのエントリーフォームを開いた。
 参加者一覧を眺めていると、一つの名前が目に留まった。

 ──早瀬しおり。

 そこには、作品の冒頭一文が引用されていた。

《言葉は、あたしの刃物だ──“優しさ”を刻むための。》

「……マジかよ」

『彼女も“書く”人なんだね。本気で』

「ずっと読んでたんだろ、俺の作品。……でも、何も言わなかった」

『名前があるかどうかなんて関係ない。届いてた。それが大事なんだよ』

「……いいぜ。舞台は揃った。俺も、“届かせる”」

 空が完全に暮れた。
 コンペの開幕は、あと二時間後だった。
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