椅子モブ乙女の繋ぐ道

青空里雨

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3.レオン・ルードブルク




お互い偏見を交えて見ていたことを反省しシークと握手を交わし微笑み合った。


「俺のことはルイって呼んで欲しい。お前だけ特別にな!」

「ではルイ。私のことは気軽にお嬢さんと呼んで下さい。」

「全然気軽くじゃねーじゃん!お前マリア・アルニムだろ?さっきの挨拶でそう名乗ってたよな。」


えー…結構無礼をしたからそのまま忘れて貰おうと思ったのにバッチリ知られてた。


「意外。あなた挨拶中寝てんのかと思ってたから。」

「違っ!いや…何か他の奴と違ってたから。目付きが全然好意的じゃないっていうか…女から向けられたことのない感じだったし。だから凄く気になって覚えてて…その…可愛かったし…。」

「何だって?もごもごしてないでしっかり喋りな。」


握手をしたままの手をギュッと掴んで上に引っ張り、俯いた顔を覗くとルイは急に真っ赤になった。
もしかして人見知り?あの傍若無人は人見知りを隠すために勢いで張ったフィルターだったってこともあり得る。なるほど。そうだよね。素面で人前で堂々と侯爵令嬢を椅子にするなんて有り得ないわ。引くに引けなくて実は内心真っ赤な人だったんだろう。


「あの…マリア!俺と」

「マリー。こんな所にいたんだね。」


ハッと声の聞こえた方に顔を移すとお兄様が壁に肩を付けて体重を乗せて立っていた。海外式の壁ドンだ。これは妹に何度も何度も何度も見せられ…あ。


「レオン…兄様…。」


兄様ーー!!妹の大好きなレオン様だった!!
この場面は妹が私に強制画面釘付けの刑にしていたときに見せられたレオン様のスチル画面によく似てる。
キラキラ輝く透けそうなほど綺麗な金髪で、透明感のある緑色の瞳。白い肌に優しげな面差し。圧倒的な美貌と華やかな存在感が特徴のキャラだ。
妹は王子様だと連呼し熱弁していた。実際に見せられていたスチル画面はもっと大人で爽やかイケメンだった。まぁ…私のタイプではないのだが。

しかし問題がある。レオン様は確か公爵家だった。私の家は格下の侯爵家。どういうことだ。
それを考えるより先ず目先の明らかな怒りを表している兄様を何とかしなくては。まずい。パーティーを抜けるときに見える所にいるようにと言われていた。


「マリアの兄?でも貴方は確かルードブルク公爵の…。」

「妹は今朝から具合が悪くそろそろ帰宅しようと家族で探していました。貴方も両親が探しておいででしたよ?戻られた方がいい。」


兄様は私とルイの繋がったままの手を無理矢理剥がして引き摺るように私を連行した。後ろでルイが私を呼んでいた気がするがパーティーの中の喧騒ですぐに分からなくなった。
連行中も一切私に目を向けずに一言だけ、これ以上両親を心配させないように。と先程とは別人のような冷めた声で咎められた。
両親の元へ着くと、両親に心配したと大勢の人の前で抱きつかれる公開処刑ならぬ新たな黒歴史を刻み、直ちに馬車で屋敷へと帰還した。


「さぁ、疲れたでしょう?今日は早く寝なさい。パパとママのお部屋で寝る?」


いえ、結構です。とは言わなかったが一人で寝る旨を何とか伝えてメイドと専属騎士を引き連れ部屋に戻った。
いやいや、おかしくないか?専属メイドは分かるが家の中でも専属騎士?何故執事にしなかった。私はただの引きこもりの頭…卵割れたてのヒヨコだ!と内心激しい突っ込みを入れつつ部屋で大きな溜め息を吐いた。


「んっ…はー。」

「終わりました。」


ガチガチに固められたドレスを脱がせ、髪を整え寝着を着せてくれたメイド。私より二つ年上のヘレン。
領地内の火事で孤児になった平民の双子の兄妹を我が家で引き取った。普通なら孤児が出る度に引き取るなんて有り得ないが、たまたま私の我儘で父様に同行した先で火事跡の瓦礫の下で怯えている兄妹に指をさし、あれが欲しいと父様に我儘を言った結果、父様は直ぐさま彼女等を私にプレゼントしたのだ。道すがら見かけた犬に近付いたときは速攻で引き摺られて却下されたのだが人間はいいらしい。

因みにヘレンの双子の兄は今まさに私の部屋の前を護衛している専属騎士だ。容姿が瓜二つで子犬のような愛らしい顔をしている。
ヘレンはまだ大きくもない手で一生懸命にお世話をしてくれる。綺麗な明るいブラウンの髪と瞳。きっと笑うと花が咲いたように可愛いことだろう。今まで彼女を愛でていなかった自分に張り手を食らわせてやりたい。往復でだ。


「いつもありがとうヘレン。」


カシャン!と音を立ててヘレンは持っていたブラシを落としてしまった。無理もない。今朝まで自分の名前も言えない舌ったらずのヒヨコが急に饒舌に礼を述べたのだ。お礼を言わないのではないよ?何言ってるか分からなかっただけ。昨日今日で急に人の言葉を喋り出したらさぞや恐ろしいことだろう。


「も、も、申し訳ありません!」


ヘレンは慌ててブラシを拾ってそのまま地面に土下座した。
やめてー!私が悪かった!こんな幼い少女になんて真似をさせてるんだ私は。これじゃルイと変わらないじゃないか。


「ヘレン!お願い!顔を上げて?謝らなくてはいけないのは私よ。今まで私に尽くしてくれたヘレンに何のお礼もできていなかったわ。」


ヘレンは雷を頭から受けたみたいな衝撃的な顔で固まってしまった。


「私はヘレンを友人だと思っているのよ。だからどうかそんな風に頭を下げたりしないで?」

「…お嬢様は孤児になった私達を受け入れてくれた命の恩人です。私達はこの命ある限りお嬢様に忠誠を誓っております。そんな私にそのような…。」


ヘレンは涙を浮かべて震えている。ヤバイ。完全に幼児を泣かせる悪い令嬢だ。今は私の方が幼児なわけだが。


「ヘレン?今日は私と沢山お話しして欲しいわ。良かったら一緒に寝てくれない?勿論同じベッドでよ?」

「そ!そんな!できません!私がご主人様のベットで眠るなど!」


そうだよね。だが安心しなさい。下心ありだ。前世で私はゴリラのようなマッチョ男にトキメキ、可憐な女性を愛でる変態だった。


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