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5.アウトでした
oh…
アウトだった。セーフと思っていたのにアウトだった。
きっと気配を消して聞き耳を立てていたのだ。忍者め…
「どうしたんだいマリー?僕は本当の君が見たいんだ。兄様には見せてくれないのかな?」
レオン様の悪戯な笑顔を見た瞬間に思い出した。
彼は元々ルードブルク公爵家の養子だった。
婿のルードブルク公爵は体の弱い妻を心配し、妻の親戚筋から養子を貰う。妻は優しく素敵な女性だが常にベッドにいて、そんな妻を家に残して公爵は殆ど家に帰らずに内緒で愛人の元へ通っていた。公爵はその愛人を囲い子供まで産ませていたのだ。妻は闘病虚しく病気で亡くなる。
愛人は間も置かずに屋敷へ移住し、当たり前のように後釜に入り、養子であるレオン様を蔑ろにして婿に出そうと追い出したのだ。元妻の子でも夫の子供でもないが妻の婿であった公爵は、婚約をして婿になるべくと追い出すのなら妻の親戚にも言い訳ができると思ったのだろう。ルードブルクも喜んで追い出したのだ。
レオン様を引き取った侯爵家は養子にこそしなかったが息子としてレオン様を可愛がる。後にこの侯爵家のことをレオン様は、僕はあの家の子供にはなれなかった…と漏らすシーンがあったはずだ。
レオン様は引き取られた家の婚約者になる予定の子を愛せず、自分を追い立てた公爵家を手に入れるため、王宮に取り入り王室の口添えで公爵家へ戻り、愛人と愛人の子を追い立てた。その後ヒロインと出会って身分差の恋が始まる。ベタベタせず丁度いい距離感が好印象な爽やか王子様キャラ…これだ!
妹がレオン様のエンドは全種類百回はクリアする。これは義務なのです。と言ってエンドレスレオン様ループをしていたから間違いない。
追い出した元ルードブルク達から失脚させるような邪魔や悪役令嬢などの邪魔が一番多いキャラだった気がする。ハッピーエンドは追い出した公爵達を牢獄に入れて晴れてヒロインと結ばれる。
バッドエンドはレオン様が王宮に行き、更に上を目指しておかしくなり、ヒロインを蔑ろにして相手にされなくなり、おかしくなったレオン様はおかしな取り巻きを引き連れて国に反逆をして内戦のような感じになったような…バッドエンドのスチルの冷たい顔で微笑むレオン様の映像画面を妹は写真まで撮っていた。ガチ勢である。
ハッピーエンドに行くのなら何も困ることはないがバッドエンドで内戦を仕掛けちゃうのはいかん。これはヒロインの手腕に任せてもいいだろうか…まだまだ先の話だし、私が椅子にならない時点で不確定未来なのだ。
それもそうと確か公爵家へ戻るのはレオン様の十歳の誕生日だ。
確かにモブの椅子係なんて愛せるわけない。私は出落ちのバッドエンドなんだ。それは私の意思で回避確定だから何も怖くない。
「マリー?」
「ほ。」
すっかり考え込んでしまった。これ以上レオン様に不信感を与えるわけにはいかない。元婚約者候補が椅子係なんてことはなくなっても、実は影武者であったというのも結構な衝撃だろう。
目に力を入れて何もやましいことはありません顔で堂々とレオン様を真っ直ぐに見つめると、レオン様は驚いた顔をした。
「本当の私が見たいって言ったの?」
事実確認だ。怪しまれないように笑顔を見せて安心させようとしたけど驚き顔のレオン様の瞳が揺れた。これは困惑?
「どうしたの?見たいんじゃないの?」
私の体に回されていた腕がするりと落ちる。
「レオン様?あぁ間違えた。お兄様よね?」
「君は…気付いていたのかい?」
はて、気付くとは?
レオン様に一歩近付くとレオン様は一歩下がる。
更に笑顔で近付くとまた一歩と下がり、レオン様はベッドまで追い詰められて仰向けに倒れ込んだ。
「何故逃げるの?私のこと知りたいと言ったのはこの口でしょ?逃げたいのなら逃がしてあげるけど、逃げたい?この口で教えて兄様?」
仰向けのレオン様の顔の横に片手をついて、もう片手を兄様の頰に添えて唇に触れるとレオン様はピクリと体を震わせた。真っ直ぐに私を見つめる緑の瞳に私の瞳がキラリと写った。
やはりヒヨコが一日で謎の生き物になったのだ。怖いに決まってる。
「…僕はもう君から逃げられる気がしないよ。」
そんなことはあるわけがない。何度も言うがレオン様は忍者なのだ。それに二年後には晴れて公爵家に戻っていくはず。ただ逃げるなんて脅しみたいだったかもしれない。まるで私が敵のような言い方だ。少し力を入れ過ぎてしまったようだ。
「意地悪な言い方をしてごめんなさい。本当の私と言われても…少し言葉を崩したい。ドレスよりも緩やかな服が着たい。それだけなんだけどね。別に隠すこともないし兄様の前では楽にしようかな。兄様も私の前では楽にしていいんだよ?」
レオン様から離れようと頰を触っていた手を離すと今度はレオン様に腕を掴まれて腕の中に囚われた。
レオン様のサラサラヘアーが頰に触れて心地良い。
「マリー…僕の話を聞いてくれないかい?できればこのまま僕の顔を見ずに…。」
「いいよ。」
レオン様は小さく深呼吸していつものようにゆっくりだけど、いつもよりも重い口調で言葉を紡いだ。
「僕は君の兄様ではないんだ…。」
「そうなんだ。」
「驚かないということはやはり気付いていたんだね…。」
あぁ、さっきの気付くってこれか。気付いてません。レオン様無限ループによって知ってたんです。とは言えず黙って頷く。
「君は本当に聡い子になった。今の君なら理解できると思うんだ。少し退屈な話だけど僕のことを知ってくれないかい?」
「聞くよ。」
ゆっくり話すレオン様の声と温もり…昼飯後のこれは結構キツイ。退屈な話なら寝るかも。
レオン様は自分が公爵家の養子であることや義母の目が恐ろしいこと、義理の兄達からは空気のように無視をされていたこと。公爵と亡くなった正妻の愛情は偽りであったことを話してくれた。退屈な話ではないが…途中眠気が酷くて欠伸を誤魔化すために何度か歯をギリっと食いしばった。
レオン様の声は子供ながらに凄く澄んでいて………
「それでこの家の…」
寝かけた…
「僕は居場所が欲しかった。この家に来られたときは嬉しかった。優しい両親に可愛い妹。理想的な家族だと思った…けど……。」
「話して兄様。ちゃんと聞きたいの。」
今黙られたら寝る!話を止めるんじゃない!
「ごめんねマリー。僕は君がとても好きだけど少しだけ…本当に少しだけ憎かった。」
「そう。」
「僕の存在は君の兄様になるために。両親の愛情は全部君のためにしかないのだと…君がいなければなんて…酷い兄様だろう?」
「ふふふ。」
兄妹がいれば大体の子が一度は思うんだろうな。両親の愛情は自分よりも兄妹にあるって。私は妹とそんな喧嘩をしたことは一切無いが、近所の誰かが何故か私の妹とそんなことで喧嘩をしていたような…お姉ちゃんが居ない子がお姉ちゃん欲しさにマリナに戦いを挑んだのかもしれない。覚えているのは妹の勝利で相手は完膚無きまでに敗北したことだけ。妹強し。
「…どうして笑っているんだい?」
「兄様、それはね?私達が家族だからだよ。」
「…え?」
「だって手の掛かる下の子がいたら親はそっちをどうしても見てしまうでしょう?それはどの家も同じじゃないかな?私と兄様は貰ってる愛情は同じ。私は手が掛かるからってだけ。それに家族でなければ最初から望まないだろうし。」
「マリー…。」
「本当の愛情を知ったから私が疎ましく思ったんじゃないの?兄様は他人の子が他人の親に甘えているのを見て同じように思う?」
「いや、全く思わないな。そうか、それだけだったのか。」
レオン様は添えていただけの腕に力を入れて抱きしめた。どうせなら筋肉に包まれたい…女の子でも可。
「兄様なら愛情の違いが分かるはずでしょ?偽物も本物も。」
「あぁ…本当にその通りだねマリー…。」
丁度そのとき、馬車が停まる音が聞こえた。父様が帰って来たんだろう。いいことを思いついた!
「ねぇ兄様、一つ私の悪戯に付き合ってくれない?」
ニッと笑って兄様の耳元で作戦を伝えると兄様は戸惑っていたけど頷いてくれた。
作戦名、兄様がヤバイ大作戦である。
「パパ、ママ!!」
父様を玄関で迎える母様。二人の元へ慌てて駆け寄る。
「マリー?どうしたの?」
「そんなに慌てたら転んでしまうよ。可愛いプリンセスに傷でもついたら大変だ。階段を一人で降りたのかい?危ないからダメだと言っているのに…危ないから一人で降りてはいけないよ?」
階段は父様がダメだと言っていたからだったのか。のんびりと話し掛けてくる両親に気が緩むのを堪えて矢継ぎ早に続ける。
「大変!私!お兄様を!お兄様のお部屋で!どうしよう!動かないの!お兄様を殺してしまったかもしれないわ!」
二人の目がギョッとすると同時に話も聞かずに兄様の部屋へ駆け出した。あんな俊敏な両親を見たのは初めてだ。
「レオン!レオン!」
「レオン!」
両親の後を追って急いでレオン様の部屋へ行くとベッドで横になるレオン様に二人が必死に声を上げていた。ふむ、作戦大成功。
「…父様、母様。」
目を開けた兄様を見た両親は泣きながらレオンに縋り付いた。良かった良かったと何度も言いながら。
「パパ、ママ…ごめんなさい。兄様…ごめんなさい。」
演技半分、ガチ反省半分で家族の中へ入ると両親は涙の切れないまま私に向き合った。少しだけ怖い。
「どういうことなの?レオンを殺したなんて…。」
「説明してくれるね、マリー?首をウサギで絞めたのかな?」
首をウサギで絞めるって何?両親を止めようとしたレオン様を目で制し、両親の前までゆっくりと歩み寄る
「兄様にお部屋で本を読んで貰っていたの。そうしたら眠くなってしまって、兄様の首にしがみついてしまったの。兄様は苦しいのを我慢して私を抱っこしてくれて…そうしたら兄様がベッドに倒れてしまったの…ごめんなさい。」
「違うんだ。父様、母様。僕はマリーを抱いていたら眠くなって一緒に寝たつもりだったのだけど…マリーが僕を呼んでいたことに気付いていたのに昨日のパーティーの疲れで中々起きられなくて…心配させてごめんね。」
父様と母様は二人共大きな溜め息を吐いて嬉しそうに笑って私とレオン様を抱きしめた。
「良かった。本当に…私の愛する息子に何かあったのかと…本当に良かったわ。」
「あぁ本当に。うちの自慢のプリンスもプリンセスもとても優しい良い子だ。本当に良かった。」
レオン様は両親に抱かれたまま両親にしがみついてギュッと力を入れていた。私も嘘泣きをするべきなんだろうが、いかんせん全く泣けない。
暫く抱き合ったままだったが解放されたときに両親は私に少しだけ説教をした。お首は苦しいからね?メッ!とか言われた。
両親に怒られたことは初めてで、私とレオン様はお互いに顔を見合わせて笑った。
執事やメイド達は何事かと心配していたが、いつもの家族のまったりタイムかと笑みを浮かべながら結局全員解散していた。
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