絶対盟約の美少年従者(メイデンメイド)

あさみこと

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#001 ゼロからのプロローグ

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「……はぁ」
 七座晴人ななくら はるとの手の中で、一枚の紙がくしゃりと悲鳴を上げた。人生で初めて突きつけられた「不合格」という三文字。それは、インクの染みであるはずなのに、鉛のような重さで晴人の心にのしかかっていた。春だというのに、窓の外の景色は色褪せたモノクロームにしか見えない。
「晴人。よく頑張ったじゃない。残念だったけど、地元の高校には受かってるんだし、いいじゃない」
 リビングで聞こえた母の優しい声が、今はかえって胸の傷に染みた。慰めが欲しいわけじゃない。欲しいのは、努力が報われたという証、憧れの世界への片道切符だった。
 とある地方都市に住む、ごく普通の中学三年生。七座晴人の挑戦は、こうして静かに、そしてあまりにもあっけなく幕を下ろした。青春のすべてを捧げたはずの三年間が、この薄っぺらい紙切れ一枚に否定された気がした。
 封筒をゴミ箱に捨てようとした、その時だった。指先に、もう一枚、何か硬質なものが触れる感触があった。
「……あれ?」
 封筒の底に、まるで隠されるように残っていたのは、先ほどの合否通知とは明らかに異質な、クリーム色の厚手の用紙だった。まるで高級な招待状のようなそれに、晴人は知らず息を呑む。
 震える手でそれを取り出すと、そこには流麗な明朝体で、予想だにしなかった一文が印刷されていた。
『——ただし、以下の条件を受諾する場合に限り、貴殿を『機術学園東都本部』への推薦合格者として、特別に入学を認めるものとする』
「……え?」
 機術学園。
 その名前に、晴人の心臓が跳ねた。冗談だろう。そこは、晴人が第一志望としていた高校など比較にすらならない、まさに雲の上の存在。日本最高峰にして最難関、次世代の国家を担うエリートを養成する超教育機関。
「お母さん! これ……!」
 晴人の叫びに、母が駆け寄ってくる。二人で食い入るように文面を読み返し、そして、意味を理解した瞬間、家の中に割れんばかりの歓声が響き渡った。
 その奇跡のような一文に隠された「条件」が、これから始まる波乱に満ちた学園生活の、甘くも奇妙な契約の序章であることなど、まだ誰も知る由もなかった。
 一週間後、晴人は単身、新幹線のシートに体を預けていた。窓の外を流れていく景色が、見慣れた田園風景から、次第に灰色のビル群へとその姿を変えていく。手元には、機術学園から送られてきたパンフレット。そこに並ぶ近未来的な校舎の写真と輝かしい実績の数々が、晴人の胸を高鳴らせていた。
 推薦合格の条件は、『学園に所属する教諭、美王零音みおう れいねの支援を受けること』。
 あまりに漠然とした内容に学園へ問い合わせると、「直接、美王先生とお会いして説明を受けてください」とだけ返された。そうして指定された今日この日、晴人は日本最高峰の教育機関へと向かっているのだ。
 広大な敷地を囲むゲートを抜けた瞬間、晴人は思わず足を止めて空を仰いだ。
「すごい……」
 パンフレットで見た光景が、圧倒的なスケールで眼前に広がっている。天を突くようにそびえ立つガラス張りの超高層校舎。空には静音設計のドローンが飛び交い、生徒たちの足元では自動清掃ロボットが健気に働いている。地元の高校など、まるで昭和の遺物のように思えた。
 機術学園。21世紀に入り飛躍的に進歩した『ハイテクノロジー』と、それによって再発掘された古の『ロストテクノロジー』。相反する二つの技術を融合させ、専門家を養成するため政府と大企業が共同で設立した第三セクター。飛躍的に進歩した科学技術を悪用する犯罪者やテロリスト、果てには違法生物兵器など、既存の警察組織では対処不可能な脅威に対抗する次世代の戦闘員と、彼らを支える研究者を育成する場所。
 ——そんな場所に、自分が。条件付きとはいえ、この学園の一員になれるのだ。喜びがじわじわと胸の奥から湧き上がってくる。
 ふと視線を転じると、広大な訓練フィールドで、生徒らしき二人が実戦訓練を行っていた。
「——氷の刃よ敵を穿て!『アイシクルエッジ』!」
 女子生徒が叫ぶと、その手から鋭い氷の槍が放たれ、寸分違わず的の中心を砕く。
「——炎の矢に撃たれて芯から焦がれな!『ファイアストライク』!」
 対する男子生徒が詠唱すると、灼熱の矢が生まれ、触れることなく的を炎上させた。
 まるで映画かゲームの世界だ。魔法と見紛うほどの超常的な光景。あれが、この学園では日常なのだ。
「僕も、あんな風に……」
 剣を交える生徒、巨大なパイルバンカーを振り回す生徒たち。誰もが真剣で、そして何より楽しそうだった。期待に胸を膨らませ、晴人は校舎の中へと足を踏み入れた。
「あの、すみません。本日、美王先生とお会いする約束になっています、七座晴人です」
 受付カウンターで声をかけると、知的な雰囲気の女性が顔を上げた。
「七座さんですね。お話は伺っております。こちらへどうぞ」
 淡々とした口調だったが、その瞳の奥に微かな好奇の色が浮かんだのを、晴人は見逃さなかった。まるで珍しい生き物でも見るかのような視線に、少しだけ居心地の悪さを感じる。
 女性に案内され、重厚なマホガニーの扉の前で立ち止まる。『応接室』と真鍮のプレートが掲げられたその部屋に、美王先生がいるらしい。
「それでは、私はこれで」
 受付の女性が会釈して去っていくと、途端に静寂が廊下を支配した。ごくり、と喉が鳴る。意を決してドアノブに手をかけるが、ぴたりと動きが止まってしまった。
「あぁ……ダメだ、入れない」
 美王零音——その名前からして、間違いなく女性だ。それも名前の響きから、とてつもない美女である可能性が極めて高い。
 実を言うと、晴人がこの都会の学園にこだわった理由の一つは、ハイレベルな美少女と甘酸っぱい青春を送りたいという、実に不純なものだった。しかし、中学時代のすべてを受験勉強に捧げた結果、女子とのコミュニケーション能力は壊滅的。同級生と話すのすら勇気がいるのに、年上の、しかもきっと絶世の美女であろう先生と二人きりなんて……!
「もー、おっそい」
「えっ」
 思考の海に沈んでいたその時、目の前の扉が内側から乱暴に開かれた。次の瞬間、華奢に見えた腕が晴人の手を掴み、抗う間もなく中へと引きずり込む。
「うわっ!?」
 なすすべもなく体勢を崩し、何かに顔をうずめる形でもたれかかった。視界が真っ暗になると同時に、顔全体が信じられないほど柔らかく、そして温かい感触に包まれた。ふわりと、甘く上品な花の香りが鼻腔をくすぐる。
 これは……なんだ? マシュマロ? それとも高級な羽毛枕……?
「んふふ。遅いから、こっちから迎えに来ちゃった。一体ドアの前で何をためらってたのかしら?」
 頭上から、からかうような楽しげな声が降ってくる。おそるおそる顔を上げると、そこには——。
 艶やかな黒髪、少しタレ気味の大きな瞳、そして形の良い唇に浮かべられた小悪魔的な微笑み。想像を遥かに超える美女が、晴人を覗き込んでいた。
 ——そして、さっきの感触が、彼女の豊かな胸であったことを瞬時に理解する。
「うわあああああっ!? す、すみません! すみません!」
 カッと顔を沸騰させ、晴人は勢いよく飛び退いた。
「あはは、いいわよ別に。こっちがやったことなんだし」
 女性——美王零音は、自身の胸を人差し指でこつんと突きながら、悪戯っぽく笑う。
「でもね、ハルくん。レディを待たせるのは感心しないわね?」
 その蠱惑的な微笑みに、晴人の心臓はすでに限界以上に高鳴っていた。
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