絶対盟約の美少年従者(メイデンメイド)

あさみこと

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#009 白紙のページに書く夢は

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「あら、流石は漆館のお嬢様。私のこともご存じとは、感心ね」
 肆谷龍弥と名乗った彼女は、僕たちを一瞥すると、再び敵へと視線を戻した。
「それより、先ほどの衝撃は……?」
「後で説明するわ。それよりあんたたちは、そこで転がってる雑魚を片付けなさい。もう一人の相手は私がする。昨日の活躍は聞いているわ。あれくらい、二人でかかれば敵じゃないでしょう!」
「は、はい!」「わかりました!」
「さっきから黙って聞いてりゃあ……好き勝手言いやがってぇぇぇっ!」
 銃の男、プラグは激昂して懐から新たな二丁拳銃を取り出し、龍弥副会長へと乱射する。だが、彼女は避けもせず、大剣を盾のように構えてその全てを弾き返した。
「そんな豆鉄砲じゃ、この『鋼砕龍牙こうさいりゅうが』に傷一つつけられないわよ」
「ぐっ……このぉぉぉぉ!」
 男は、矛先を僕たちへと変えてきた。
「あの銃は実弾……それなら!」
 杏那さんが手をかざすと、飛来する弾丸が不可視の壁に阻まれるようにして軌道を変え、地面に落ちる。男は逃げながら撃ち続けるが、杏那さんが跳ね返した一発が、その頬を浅く切り裂いた。
「っ……い、痛っ……! あ、うわああああ! 血だ! 血が、血がああああ!」
「相手は錯乱しています! 一気に距離を詰めますわ!」
 杏那さんの言葉と共に、僕たちは駆け出す。男は呻きながらも、さらに二丁、今度は銃身が青白く光り輝く銃を取り出した。
「これなら、重力でも跳ね返せねぇだろぉぉぉ!」
 放たれたのは、レーザーの弾幕。重力干渉が効かない光線兵器に、僕たちは接近を阻まれ、回避に徹するしかない。
「晴人さん! 貴方を上空へ飛ばします! 上から仕掛けて!」
「わかった!」
 杏那さんの詠唱が始まる。
「我が歩みに風の雅を! 『エアリアル・ステップ』!」
 詠唱完了と同時に、僕は地面を力強く蹴る。体が綿毛のように軽くなり、普段の何倍もの高さまで一気に跳び上がった。
「なっ!? このっ、当たれぇぇぇっ!」
 空中という格好の的になりながらも、僕は必死に身を捩ってレーザーを避ける。やがて重力に従って落下し始めた体が、地面に激突する寸前、ふわりと減速し、静かに着地した。杏那さんの完璧なサポートだ。
「よし! これなら!」
 ダガーを抜き放ち、一気に男との距離を詰める。
「う、うわあああ! 来るな、来るなぁぁぁ!」
 男は完全にパニックに陥り、銃を乱射する。だが、その弾道は定まっていない。僕の背後から、杏那さんの声が響いた。
「晴人さん、そのまま前へ!——その足枷に跪きなさいな! 『ヘヴィ・アンクレット』!」
 男の足元が、ぐらりと沈む。一瞬の硬直。その隙を、僕は見逃さなかった。
「はあっ!」
 駆け抜けざま、両腕をダガーで浅く切り裂く。
「ぎゃああああっ! う、腕が、腕があああ!」
 男が泣き喚きながら崩れ落ちる。それを見届けた龍弥副会長が、静かに言った。
「あんたにもう勝ち目はない。大人しく降伏しなさい」
「わ、わかりました! 降参します! だから、助けてくださいぃぃぃぃ!」
 男の情けない声を聞き、龍弥副会長はため息をつく。だが、その鋭い視線は、まだ潜んでいるもう一人の敵を探していた。
「さて……もう一人の方。あんたの能力は、おそらく不可視の高速移動。でも、お仲間が派手にやりすぎたわね。騒ぎを聞きつけて、もうすぐ学園の人間がここに来る。学園の人間の中にはあんたみたいな奴を逃がさないよう、結界を張るのを得意とした機術使いもいるわ。結界を張られたら、あんたの自慢の足も意味がないでしょう? 隠れてないで、さっさと出てきたらどう?」
「くっ……!」
 空間が、陽炎のように一瞬だけ揺らぐ。
「——そこよ!」
 龍弥副会長の指差した空間に、杏那さんが即座に重力場を形成する。歪んだ重力の中心に、もう一人の男が地面に手をついて現れた。
「し、しまっ……!」
「年貢の納め時ね。あんたは、この私の逆鱗に触れた。その罪、その身で知りなさい」
 龍弥副会長が大剣を後ろに構える。その刀身が、黎明の光を吸い込んで鈍く輝いた。
「晴人さん、危ないですわ! 離れましょう!」
「——一気!」
 杏那さんと共に距離を取る。龍弥副会長が、天高く跳び上がった。その姿は、まるで金色の流星だ。
「——呵成!」
「ぐおおおおおっ!」
 空からの一撃が、地面に突き刺さる。先ほどとは比較にならない衝撃波が巻き起こり、地面が砕け、空気が震える。男の体は木の葉のように吹き飛ばされ、寮の壁に叩きつけられて動かなくなった。
「朝の眠気覚ましには、ちょうど良かったわね」
 土煙の中から現れた龍弥副会長は、大剣の土を払いながら、そう言って不敵に笑った。その背後から、ようやく朝日が昇り始めていた。夜の闇を切り裂くように、黄金の光が世界を照らし始めていた。

朝の騒ぎを聞きつけた学園関係者が集まり始めると、龍弥副会長は「後のことは私たちに任せて、あんたたちは二度寝でもしてなさい」と、大剣を担いだままやれやれといった風に手を振った。その言葉に甘え、僕と杏那さんは緊張の糸が切れた体を引きずるようにして寮へと引き返した。
「朝食……どうしましょうか」
「近くのコンビニで済ませよう。流石に杏那さんだって疲れてるだろうし、今から作ってくれなんて、そんな酷いことは言えないよ」
「……わかりました。お言葉に甘えさせていただきますわね」
 コンビニでそれぞれ食べ物を買い、静かに寮に戻る。部屋に入るなり、僕は買ってきたおにぎりと焼き魚を、杏那さんはビーフカレーとサラダをテーブルに広げた。朝からカレーとは、なかなかにたくましい。その生命力に、少しだけ救われた気がした。
 無言のまま食事を終え、ペットボトルのお茶で一息ついていると、杏那さんが不意に口を開いた。
「しかし……まさか入学前から、二度も実戦を経験することになるとは思いませんでしたわ」
「僕もだよ。この学校に入ったからには、戦うこともあるだろうって頭の片隅では思ってたけど……まさか、こんなに早く、ね」
 言葉を切ると、重い沈黙が部屋に落ちる。彼女は、僕の瞳の奥を覗き込むように、静かに問いかけた。
「後悔は、していらっしゃいませんこと? この学園に来たこと。こんな日々が、これから毎日続くかもしれませんのよ」
「後悔か……どうだろう。少なくとも、杏那さんみたいな綺麗な人と知り合えた。その点を考えれば、差し引きプラスかな」
 我ながらキザな台詞だと思ったが、そうでも言わなければ、張り詰めた空気に押し潰されそうだった。
「まぁ……うふふ」
 杏那さんは嬉しそうに微笑んだが、その瞳は笑っていなかった。
「でも、それは結果論ですわ。他に、ここに来たいと強く願った理由があったのでしょう?」
 彼女には、誤魔化しが効かない。僕は観念して、濁った息を吐き出した。
「……そうだね。僕がこの学校を目指した理由……それは、僕が『他人とは違う人間』だから。……ううん、そう思いたかったから、かな」
「と、仰いますと?」
「僕の地元、すごく田舎なんだ。50年前の価値観が、今も当たり前にまかり通ってるような場所でね。ネットで都会の景色や最新技術に憧れてた僕にとって、そこは息苦しいだけの場所だった。顔が女顔だってだけで、馬鹿にされたりもしたし……」
 僕は、今まで誰にも話したことのなかった本音を、ぽつりぽつりと紡ぎ始める。それは、心の奥底にしまい込んでいた、泥のような劣等感と、歪んだ自尊心だった。
「だから、ずっと思ってたんだ。『僕は、こいつらとは違う。絶対に、こんな場所で人生を終わらせたりしない』って。勉強だけは、誰にも負けなかったから。都会の、誰も僕を知らない場所で、僕の価値を証明してやるんだって。その中でも、最先端の技術を学べるこの機術学園なら、僕が輝ける未来が待ってるって、本気で信じてた」
「……」
「……まぁ、結果はご覧の通り。下駄……ううん、スカートを履かせてもらって、やっとの合格だったけどね。世界の広さと、自分の未熟さを、これでもかってくらい思い知らされたよ」
 自嘲気味に笑う僕を、杏那さんは真っ直ぐな瞳で見つめていた。その視線には、同情も軽蔑もなかった。ただ、静かな理解の色が浮かんでいるように見えた。
「確かに、晴人さんは正規の合格者ではないかもしれません。でも、お姉様に見初められたのは、貴方にそれだけの価値と可能性があるからですわ。お姉様は、全く見込みのない生徒を気まぐれで拾い上げるような方ではございませんもの」
「……」
「貴方がいた環境では、その才能が正しく評価されなかったのかもしれない。でも、もうそれは過去の話です。今、貴方は私のように、恵まれた環境で育った人間と同じスタートラインに立っている。ここに入れた時点で、貴方はもう十分に『特別』なのですわ。問題は、その貴方が、これからどうしたいか、です」
「どう……したいか……?」
「今までの晴人さんは、周囲を見返すために、とにかく優れた人間になることだけを追いかけてきた。でも、ここにいる時点で、その目的は半分達成されています。ならば、その先で、貴方は何を望みますの?」
「その先……か。そこまでは、正直考えてなかったな……」
「無理もありませんわ。この学園は、入ること自体が目的になり得る場所ですもの。けれど、それではただ流されるだけの人生になってしまいます。流れ着く先には、多くの人々がいる。貴方は、その他大勢と同じ場所に留まりたいわけではないのでしょう?」
「……うん。このままじゃ、ダメだな。早く、次の目標を見つけないと」
「焦りは禁物ですわ。そうやって急ぐと、見えるはずのものも見えなくなってしまいます。時には流れに身を任せることも大切。重要なのは、バランスですわ」
 杏那さんの言葉が、焦っていた僕の心を優しく解きほぐしていく。彼女の言う通りだ。僕は今まで、過去への復讐心だけで走ってきた。未来を見ていなかった。
「大丈夫。私やお姉様、そしてこれから出会う学園の皆が、晴人さんが進むべき道を探す手助けをします。貴方は、もう一人ではないのですから」
「……うん。ありがとう、杏那さん。……その代わり、僕にも、杏那さんの手助けをさせてほしいな。いくらこんな格好でも、僕は男の子だ。女の子に、助けられてばっかりじゃ情けないからさ」
「あらあら……頼りにさせていただきますわね」
 初めて、誰かと未来を共有できるような、そんな温かい感覚が胸に広がった。
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