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40.設備

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 帆を張り風を受けて《魔導船》は進む。
 入り江を抜けて島からの脱出を目指す。

 シーナとネネの話から推測すると、この世界は現代社会より水質汚染の原因が少ない。
 だからからなのか、この世界の海はとても綺麗で、水は澄んでいる。
 浅いところなら底まで見通せるぐらいに。
 甲板にいると潮の香がして風が心地いい。

「恩恵ということで頭の中に浮かんできたのですけれど、レンヤさんは『伝道者の加護』っていうものがどんなものなのか、ご存じなのでしょうか?」

 ふっとシーナが俺に聞いてくる。
 シーナは恩恵の内容までは分からないみたいだ。

「ああ、鑑定してみるからちょっと待ってくれ」

 以前に俺も貰っているので同じものだと思うけど一応鑑定してみる。

「……やっぱりそうだな。『伝道者の加護』で二人とも運が上がるらしいぞ」

 俺は鑑定の結果を伝える。

「運ですか……具体的に何か変わるのでしょうか?」
「俺も貰ったけど特にはないな。でも運が上がるってことはいいことだと思うぞ」

 選択の良し悪しとか巡り合わせとか色々なところで恩恵はありそうだ。
 貰っておいて損はないはず。

「そうですわね。ありがたいことですわ」
「はい。伝道者様から恩恵を貰えるなんて奇跡みたいなことです」

 今後、運の良さを実感できることがあるかもしれない。

 《魔導船》は船体に微小な魔力を通して俺が操作している。
 帆を張ったり方向を変えたりといった作業だ。
 二人と話しながらでも操作できているのは同時に別のことが考えられる『並列』スキルが可能にしている。

 今は俺の魔力しか登録していないので、他の人間がいくら魔力を通しても操作はできない。
 慣れてきたらシーナとネネの魔力を登録しようと思う。
 二人は『並列』スキルがないので操作に付きっきりになってしまうと思うけど。

 あっ、スララとリトルの登録をしておけば便利かもしれない。
 でも従魔って登録できるのか?

「レンヤさん、これからどこに向かうのでしょうか?」
「そうだな、シーナとネネの故郷と言いたいところだけど、ここが何処かもわらかないしな」

 地図も目標となるものもない。

「とりあえずは風任せだけど、どこかの陸地を目指すことになるな」
「そうですわね。いい場所が見つかればいいのですけれど、今は船旅を楽しみたいですわ」

 急ぐ旅でもないので船の旅を楽しみたいと思う。

 ただ闇雲に進むのも迷子になりそうなので島を出る前に『ハコニワ』にまた《発光トーチ》を改造してもらった。
 それをブイのように海に浮かべていく。
 波に流されない機能と定期的に魔力を発したり発光したりする機能を追加した。
 動力源は海から魔力を吸い上げている。

 船内と甲板に設置してある別の《発光トーチ》でその信号を受け取り位置が分かるようにしてある。
 これで通ってきた道は分かるので、戻ってきてしまうことはないだろう。

 GPSみたいな物を作りたいけど今はこれで充分だ。
 地図を広げていくみたいで楽しさがある。
 島に置いてきた《発光トーチ》からも受信しているのでそれを基準として地図がてきていく感じだ。

 しばらく進んでいくと島の方に変化がある。
 今まで晴れていた島の周辺に黒雲が広がっていく。
 たぶん島を封印するためにエヴァンがやっているのだろう。
 そんな超常的なことができるのはエヴァンが人外の存在である証明だ。
 そこまでして封印を直すのは流刑の島としてこの世界には必要ということだろう。

 シーナとネネに追手を出した連中も俺たちがまさか黒雲を越えて島の外に出たとは思わないはず。
 黒雲にはそれほど強力な圧があり大きな壁としての存在感がある。

「しばらくは追手は気にしなくてもいいかもしれないな」
「そうですわね」
「そうですね」

 何気なく発した俺の言葉に答えるシーナとネネ。
 仮に島から俺たちの脱出が分かったとしても、この広い海で俺たちを見つけるのは至難の技だろう。
 
 俺たちは船内に戻ると中央にあるソファーでくつろぐ。
 《発光トーチ》を全方位に設置しているので船内にいても外の状況が見えるようになっている。
 船底にも設置してあるので海の中も見えるし魚が泳いでいるのも確認できる。
 《発光トーチ》は改良を重ね、今では欠かせない魔道具へと進化した。
 夜になればマストの上にある《発光トーチ》で夜空の星が見えるはずで、今から楽しみだ。
 
 部屋はそれぞれ個室を用意した。
 魔力パターンによる鍵付きなので個人のプライバシーは守られる。
 同室だの鍵無しだの意見はあったけど、供給者の特権で設置した。

「あら、つまらないですわね」

 そんな心ないことを言われたが無視する。
 まあ実際は寝る時以外は中央の共通スペースにみんないるので問題ないだろう。

 風呂も男女で時間帯を分けて入る予定だ。

「でしたら一緒に入って使い方の説明をお願いしますわ」
「いや、普通に分かるだろ?」

「でしたらレンヤさんの背中をお流ししますわ」
「いや、ネネに流してもらえよ」

「でしたら……」

 なんとか捻り出そうと考える姿が一生懸命で俺は苦笑する。

 まあシーナは王族だったから家に風呂があったようだし、ネネは侍女としてシーナの世話をしていたので説明しなくても二人で入れるだろう。

 そんな感じで船の旅は始まった。
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