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二章 ジェドニスの花
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「やめろ……!」
「かわいい声を出してくれていいんだぞ」
男はルイの服の合わせを破り、あらわになった白い素肌に舌なめずりをした。ルイはなんとか男から離れようとして、ひとまとめにされた手で男の顔をぐいっと押した。
男はちっと舌打ちをしてルイの手枷を握り、なにかを外した。すると、手枷は黒いもやになって空中に霧散した。理解の追いつかない現象にルイがぽかんとしていると、男はその隙にルイの胸に吸いついてきた。
「ひ……!」
抵抗したいのに、頭がぼうっとして体がうまく動かない。男はたばこをくわえたままルイの股間を膝で押し上げた。ルイはびくりと体を震わせ、いやいやと首を横に振った。
「やっ、やめて……おねがい……」
「はは。お願い、だって」
男はルイが涙目になって怯えきっている様を見下ろし、恍惚とした笑みを浮かべた。胸の飾りをなめられ、ルイは男がなにをしたいのか理解して震えた。
「怖がってるな。たまんねえ……」
もう片方の飾りを指でこねられて刺激され、ルイは下唇をかんだ。気持ち悪いのに刺激されると体がぴくりと反応してしまう。
「あっ、やだっ」
「嘘つけ気持ちいいんだろ! ほら、こっちもよくしてやるよ」
男はルイのベルトに手をかけた。すっかり思考が溶けたルイは、涙を浮かべながらその様子をただ見つめた。
「誰も来やしねえから、声出せよ」
男は笑ってベルトを外していく。ルイは一人で出かけたせいで誰も助けに来てくれないことに気がついた。ライオルにあれだけ忠告されたのに、それを無視したせいでこんなことになっている。なんとかして逃げないとライオルに顔向けできない。
ルイはぐっと腹の底に力を入れ、震える手を上げてひゅっと空を切るように振った。風の魔導で男を吹き飛ばすはずだったが、集中力が皆無だったせいで吐息程度の風しか起きなかった。
だが、その小さい風は男の口からたばこを吹き飛ばした。男はぴたりと動きを止めた。
「風……? お前、風の魔導師か……?」
男はルイのベルトにかけていた手をぱっと離した。
「まさか……こないだライオル・タールヴィが探しまくってた奴じゃないよな?」
ルイは荒い息をはくばかりで言葉が出てこなかった。沈黙を肯定と解釈したのか男の表情が変わった。ルイは深く考えず、起き上がりざま男にえいやと頭突きをかました。男は頭突きをもろに食らい、ベッドからずり落ちて床に仰向けに転がった。ズボンの前を窮屈そうにしたまま昏倒している。
「や、やった……!」
ルイはベッドの上からはい出て、自分の意志と関係なくうるさく鳴り続ける心臓を押さえながら立ち上がった。
ルイはなめられたところを袖でごしごしとこすり、ドアの前に落ちていたたばこの吸い殻を拾うと内鍵を開けて部屋を出た。壁に手をついて階段を上がり、台所にあった裏戸から外に出た。幸い赤い髪の男は現れなかった。
ルイはふらついて狭い裏通りに倒れこんだ。顔がほてってきて、どんどん体温が上がっていくようだ。まともに立ち上がれなくなってきて、ルイはなにかにつかまろうと空に手を伸ばした。
「おい、どうした? 大丈夫か?」
二人組の若い男が地面に座りこむルイに気づいて駆け寄ってきた。二人組はルイの前にしゃがみ、ルイの顔をのぞきこんだ。ルイは小刻みに震えながら二人を見つめた。
「警ら兵を、呼んできて……」
「兵士? というかお前、それ……」
二人にまじまじと見られたルイは、自分の格好を見下ろした。シャツの前は破られて胸があらわになっていて、ズボンのベルトも外されかかっている。ルイは慌ててシャツの前を合わせて体を隠した。若い二人はルイの扇情的な姿に顔を赤らめた。
「……誰にやられたんだ?」
ルイは説明できずにただ首を横に振った。二人組の片方はルイの髪に顔を寄せてにおいをかいだ。
「……アトライパのにおいがする」
「え、こいつアトライパをかがされてるのか?」
二人は顔を見合わせた。
「……据え膳じゃねえか」
「わっ」
ルイは二人に両側から腕をつかまれて乱暴に立たされた。そのまま二人はルイを歩かせてどこかに連れて行こうとした。
「ま、待って! 警ら兵を呼んでってば!」
「わかってるよ、今連れてってやるから騒ぐな」
そう言って笑った若い男は、先ほどまでルイを襲っていた男と同じ目をしていた。ルイは己の無力さにうちひしがれた。状況はよくならず、またしても知らない男に好きなようにされている。
「おい!」
少し離れたところから声がかけられた。
「そこの三人! なにやってる!」
奥を横切る通りに茶色の軍服を着た兵士がいて、ルイたちのいる裏通りをのぞきこんでいた。
「げっ」
二人組は慌てて兵士に見えないようにルイの口を手でふさいだ。
「なんでもないですー!」
「弟が酔っ払っちゃってー! もう帰りますー!」
まだ明るいのに、と兵士はあきれて首を振った。ルイは口をふさぐ手を思いっきり噛んだ。男は痛みに思わず手を離した。
「いてっ! こいつ!」
「助けて!」
視界がゆがんでなにも見えなかったが、ルイはとにかく声を張り上げた。駆け寄ってくる足音と叫び声が聞こえ、ルイは二人組から解放されて座りこんだ。
ルイがめまいをこらえているあいだに、兵士二人によって二人組の若い男は取り押さえられた。兵士たちは鮮やかな手腕で二人を腹ばいにさせて拘束した。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
優しく声をかけられ、ルイはうなずいた。
「大丈夫……」
「この二人は知り合いか?」
「いや、今そこで声をかけられて……」
「なるほど。それは危なかったな。名前は? 家まで送っていく」
「ルイ・ザリシャ……タールヴィの屋敷まで、送ってほしい」
「えっ? タールヴィ家?」
兵士は目を丸くした。ルイは息を整えながら説明した。
「俺、ライオルのところの風の魔導師だから……タールヴィの屋敷までお願い……早く帰らないと、また探される……」
仰天した兵士はちょっと待ってろと言い残して走り去った。残ったもう一人の兵士は二人組の背中に乗って逃げないように見張っている。ルイを連れて行こうとした二人は、自分たちの浅はかな行動を後悔して震えていた。
兵士はルイのために一台の馬車を用意してくれた。ルイは馬車に乗せられてタールヴィ家の屋敷に向かった。付き添った兵士は様子のおかしいルイを座席に横たわらせ、そばにひざまずいてルイの話を聞いた。
屋敷の前では、兵士が送った伝令から知らせを受けとったライオルとホルシェードが待ち構えていた。ライオルは馬車が止まるやいなや扉を開けて中に入ってきた。兵士は場所を譲ろうと急いで立ち上がり、馬車の天井に頭をぶつけた。
「ルイ!」
ライオルは座席にぐったりと横たわるルイの顔を両手でそっと包みこんだ。
「顔が赤い……毒を飲まされたのか?」
「いえ、違います。おそらく、これのせいです」
兵士はルイが逃げる際に拾ったたばこの吸い殻をライオルに手渡した。ライオルはたばこのにおいを注意深くかいだ。
「アトライパだな」
「はい」
「なにがあった?」
兵士は道中ルイに聞いた話をライオルにそのまま話して聞かせた。ライオルはいらいらと人差し指で膝をたたきながら話を聞いた。
「……なるほどな。おい、ルイ」
ライオルはぼうっとしているルイの頬をぴしゃりとたたいた。
「なんでその男はお前に声をかけた? お前をさらった理由はなんだ?」
ルイはゆっくりと口を開いた。
「俺が魔導師だったから、だと思う……オアンネスのインク店に用事があるのは魔導師だけだって言ってた」
「お前、名乗ったか?」
「名乗ってない」
ライオルは険しい顔で考えこんだあと、馬車の外に顔を出してホルシェードを呼んだ。
「ホルシェード、ルイが連れこまれた店が怪しいから今からこの馬車で行って調べろ。魔導師を狙った可能性が高い。ルイを襲った男は死んでも逃がすな。話ができる状態で捕まえろ」
「わかりました」
ライオルはルイを抱えて馬車を出て、入れ替わりにホルシェードが乗りこんだ。
「あとで俺も合流する!」
ライオルが叫んだ。ホルシェードを乗せた馬車は来た道を戻っていき、ライオルはルイを抱えて屋敷に入った。
ルイは運ばれながらライオルの顔を見上げていたが、景色が変わって目が回るので目を閉じた。しばらくして柔らかいベッドに下ろされ、目を開けた。いつもと違う天蓋だ。周囲を確認し、ライオルの寝室のベッドに寝かされていることに気がついた。
「あれ……」
横を向くと、ライオルがベッドに座ってルイを見下ろしていた。その表情は固く険しい。ルイは負い目を感じ、布団を目の下までかぶって顔を隠した。
「あの……すまなかった」
「本当にな。俺の言うことをちっとも聞きやしない。結果がこれだよ。勘弁してくれ」
「ごめん……なさい」
なにも言い訳できなかった。ライオルが黙っているので、ルイはもじもじして言った。
「あの、運んでくれてありがとう。少し休ませてくれ……」
だがライオルはルイの顔の横に手をついてベッドに乗り上げてきた。ルイは目の前にたばこの吸い殻を突きつけられた。
「これを拾ってきたのは上出来だ。これがなんだかわかるか?」
「わからない……麻薬か?」
「まあそんなところだ。名をアトライパと言う。安価だから巷に多く流行していて、守衛師団が取り締まっているがなかなか広がるのを止められなくてな。これは火をつけて吸引して使う。煙に効能が含まれているから、直接吸わなくても煙を吸えば影響を受けてしまうんだ。お前みたいにな」
ライオルは吸い殻を軍服の上着の胸ポケットにしまうと、その上着を脱いでベッドの端に放り投げた。
「アトライパを吸うことに慣れると多幸感が得られる。あと副作用に動悸とか、感覚が過敏になったりするから興奮剤にも使われるな」
ライオルはルイがかぶっていた布団を引きはがした。
「あっ」
ライオルはルイの破られたシャツをめくった。ルイの胸元は、ごしごしこすったせいで赤くなっている。
「……なにされた? 言え」
「その、触られた……」
「どこを?」
「首、とか」
「あとは?」
「胸とか……」
「ここは?」
ライオルはルイの股間をそろりとなでた。ルイはぴくりと体を震わせた。
「いや……触られてないよ。ちょっと服の上からつつかれたけど……」
「ふうん」
ルイは薬の効果ではなく恥ずかしさから真っ赤になった。
「なあ、もういいだろ、一人にしてくれ」
ルイが言うと、ライオルはほくそ笑んだ。
「そんな顔してなに言ってんだよ。辛いんだろ? 抱いてやるから、安心しろ」
「かわいい声を出してくれていいんだぞ」
男はルイの服の合わせを破り、あらわになった白い素肌に舌なめずりをした。ルイはなんとか男から離れようとして、ひとまとめにされた手で男の顔をぐいっと押した。
男はちっと舌打ちをしてルイの手枷を握り、なにかを外した。すると、手枷は黒いもやになって空中に霧散した。理解の追いつかない現象にルイがぽかんとしていると、男はその隙にルイの胸に吸いついてきた。
「ひ……!」
抵抗したいのに、頭がぼうっとして体がうまく動かない。男はたばこをくわえたままルイの股間を膝で押し上げた。ルイはびくりと体を震わせ、いやいやと首を横に振った。
「やっ、やめて……おねがい……」
「はは。お願い、だって」
男はルイが涙目になって怯えきっている様を見下ろし、恍惚とした笑みを浮かべた。胸の飾りをなめられ、ルイは男がなにをしたいのか理解して震えた。
「怖がってるな。たまんねえ……」
もう片方の飾りを指でこねられて刺激され、ルイは下唇をかんだ。気持ち悪いのに刺激されると体がぴくりと反応してしまう。
「あっ、やだっ」
「嘘つけ気持ちいいんだろ! ほら、こっちもよくしてやるよ」
男はルイのベルトに手をかけた。すっかり思考が溶けたルイは、涙を浮かべながらその様子をただ見つめた。
「誰も来やしねえから、声出せよ」
男は笑ってベルトを外していく。ルイは一人で出かけたせいで誰も助けに来てくれないことに気がついた。ライオルにあれだけ忠告されたのに、それを無視したせいでこんなことになっている。なんとかして逃げないとライオルに顔向けできない。
ルイはぐっと腹の底に力を入れ、震える手を上げてひゅっと空を切るように振った。風の魔導で男を吹き飛ばすはずだったが、集中力が皆無だったせいで吐息程度の風しか起きなかった。
だが、その小さい風は男の口からたばこを吹き飛ばした。男はぴたりと動きを止めた。
「風……? お前、風の魔導師か……?」
男はルイのベルトにかけていた手をぱっと離した。
「まさか……こないだライオル・タールヴィが探しまくってた奴じゃないよな?」
ルイは荒い息をはくばかりで言葉が出てこなかった。沈黙を肯定と解釈したのか男の表情が変わった。ルイは深く考えず、起き上がりざま男にえいやと頭突きをかました。男は頭突きをもろに食らい、ベッドからずり落ちて床に仰向けに転がった。ズボンの前を窮屈そうにしたまま昏倒している。
「や、やった……!」
ルイはベッドの上からはい出て、自分の意志と関係なくうるさく鳴り続ける心臓を押さえながら立ち上がった。
ルイはなめられたところを袖でごしごしとこすり、ドアの前に落ちていたたばこの吸い殻を拾うと内鍵を開けて部屋を出た。壁に手をついて階段を上がり、台所にあった裏戸から外に出た。幸い赤い髪の男は現れなかった。
ルイはふらついて狭い裏通りに倒れこんだ。顔がほてってきて、どんどん体温が上がっていくようだ。まともに立ち上がれなくなってきて、ルイはなにかにつかまろうと空に手を伸ばした。
「おい、どうした? 大丈夫か?」
二人組の若い男が地面に座りこむルイに気づいて駆け寄ってきた。二人組はルイの前にしゃがみ、ルイの顔をのぞきこんだ。ルイは小刻みに震えながら二人を見つめた。
「警ら兵を、呼んできて……」
「兵士? というかお前、それ……」
二人にまじまじと見られたルイは、自分の格好を見下ろした。シャツの前は破られて胸があらわになっていて、ズボンのベルトも外されかかっている。ルイは慌ててシャツの前を合わせて体を隠した。若い二人はルイの扇情的な姿に顔を赤らめた。
「……誰にやられたんだ?」
ルイは説明できずにただ首を横に振った。二人組の片方はルイの髪に顔を寄せてにおいをかいだ。
「……アトライパのにおいがする」
「え、こいつアトライパをかがされてるのか?」
二人は顔を見合わせた。
「……据え膳じゃねえか」
「わっ」
ルイは二人に両側から腕をつかまれて乱暴に立たされた。そのまま二人はルイを歩かせてどこかに連れて行こうとした。
「ま、待って! 警ら兵を呼んでってば!」
「わかってるよ、今連れてってやるから騒ぐな」
そう言って笑った若い男は、先ほどまでルイを襲っていた男と同じ目をしていた。ルイは己の無力さにうちひしがれた。状況はよくならず、またしても知らない男に好きなようにされている。
「おい!」
少し離れたところから声がかけられた。
「そこの三人! なにやってる!」
奥を横切る通りに茶色の軍服を着た兵士がいて、ルイたちのいる裏通りをのぞきこんでいた。
「げっ」
二人組は慌てて兵士に見えないようにルイの口を手でふさいだ。
「なんでもないですー!」
「弟が酔っ払っちゃってー! もう帰りますー!」
まだ明るいのに、と兵士はあきれて首を振った。ルイは口をふさぐ手を思いっきり噛んだ。男は痛みに思わず手を離した。
「いてっ! こいつ!」
「助けて!」
視界がゆがんでなにも見えなかったが、ルイはとにかく声を張り上げた。駆け寄ってくる足音と叫び声が聞こえ、ルイは二人組から解放されて座りこんだ。
ルイがめまいをこらえているあいだに、兵士二人によって二人組の若い男は取り押さえられた。兵士たちは鮮やかな手腕で二人を腹ばいにさせて拘束した。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
優しく声をかけられ、ルイはうなずいた。
「大丈夫……」
「この二人は知り合いか?」
「いや、今そこで声をかけられて……」
「なるほど。それは危なかったな。名前は? 家まで送っていく」
「ルイ・ザリシャ……タールヴィの屋敷まで、送ってほしい」
「えっ? タールヴィ家?」
兵士は目を丸くした。ルイは息を整えながら説明した。
「俺、ライオルのところの風の魔導師だから……タールヴィの屋敷までお願い……早く帰らないと、また探される……」
仰天した兵士はちょっと待ってろと言い残して走り去った。残ったもう一人の兵士は二人組の背中に乗って逃げないように見張っている。ルイを連れて行こうとした二人は、自分たちの浅はかな行動を後悔して震えていた。
兵士はルイのために一台の馬車を用意してくれた。ルイは馬車に乗せられてタールヴィ家の屋敷に向かった。付き添った兵士は様子のおかしいルイを座席に横たわらせ、そばにひざまずいてルイの話を聞いた。
屋敷の前では、兵士が送った伝令から知らせを受けとったライオルとホルシェードが待ち構えていた。ライオルは馬車が止まるやいなや扉を開けて中に入ってきた。兵士は場所を譲ろうと急いで立ち上がり、馬車の天井に頭をぶつけた。
「ルイ!」
ライオルは座席にぐったりと横たわるルイの顔を両手でそっと包みこんだ。
「顔が赤い……毒を飲まされたのか?」
「いえ、違います。おそらく、これのせいです」
兵士はルイが逃げる際に拾ったたばこの吸い殻をライオルに手渡した。ライオルはたばこのにおいを注意深くかいだ。
「アトライパだな」
「はい」
「なにがあった?」
兵士は道中ルイに聞いた話をライオルにそのまま話して聞かせた。ライオルはいらいらと人差し指で膝をたたきながら話を聞いた。
「……なるほどな。おい、ルイ」
ライオルはぼうっとしているルイの頬をぴしゃりとたたいた。
「なんでその男はお前に声をかけた? お前をさらった理由はなんだ?」
ルイはゆっくりと口を開いた。
「俺が魔導師だったから、だと思う……オアンネスのインク店に用事があるのは魔導師だけだって言ってた」
「お前、名乗ったか?」
「名乗ってない」
ライオルは険しい顔で考えこんだあと、馬車の外に顔を出してホルシェードを呼んだ。
「ホルシェード、ルイが連れこまれた店が怪しいから今からこの馬車で行って調べろ。魔導師を狙った可能性が高い。ルイを襲った男は死んでも逃がすな。話ができる状態で捕まえろ」
「わかりました」
ライオルはルイを抱えて馬車を出て、入れ替わりにホルシェードが乗りこんだ。
「あとで俺も合流する!」
ライオルが叫んだ。ホルシェードを乗せた馬車は来た道を戻っていき、ライオルはルイを抱えて屋敷に入った。
ルイは運ばれながらライオルの顔を見上げていたが、景色が変わって目が回るので目を閉じた。しばらくして柔らかいベッドに下ろされ、目を開けた。いつもと違う天蓋だ。周囲を確認し、ライオルの寝室のベッドに寝かされていることに気がついた。
「あれ……」
横を向くと、ライオルがベッドに座ってルイを見下ろしていた。その表情は固く険しい。ルイは負い目を感じ、布団を目の下までかぶって顔を隠した。
「あの……すまなかった」
「本当にな。俺の言うことをちっとも聞きやしない。結果がこれだよ。勘弁してくれ」
「ごめん……なさい」
なにも言い訳できなかった。ライオルが黙っているので、ルイはもじもじして言った。
「あの、運んでくれてありがとう。少し休ませてくれ……」
だがライオルはルイの顔の横に手をついてベッドに乗り上げてきた。ルイは目の前にたばこの吸い殻を突きつけられた。
「これを拾ってきたのは上出来だ。これがなんだかわかるか?」
「わからない……麻薬か?」
「まあそんなところだ。名をアトライパと言う。安価だから巷に多く流行していて、守衛師団が取り締まっているがなかなか広がるのを止められなくてな。これは火をつけて吸引して使う。煙に効能が含まれているから、直接吸わなくても煙を吸えば影響を受けてしまうんだ。お前みたいにな」
ライオルは吸い殻を軍服の上着の胸ポケットにしまうと、その上着を脱いでベッドの端に放り投げた。
「アトライパを吸うことに慣れると多幸感が得られる。あと副作用に動悸とか、感覚が過敏になったりするから興奮剤にも使われるな」
ライオルはルイがかぶっていた布団を引きはがした。
「あっ」
ライオルはルイの破られたシャツをめくった。ルイの胸元は、ごしごしこすったせいで赤くなっている。
「……なにされた? 言え」
「その、触られた……」
「どこを?」
「首、とか」
「あとは?」
「胸とか……」
「ここは?」
ライオルはルイの股間をそろりとなでた。ルイはぴくりと体を震わせた。
「いや……触られてないよ。ちょっと服の上からつつかれたけど……」
「ふうん」
ルイは薬の効果ではなく恥ずかしさから真っ赤になった。
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