風の魔導師はおとなしくしてくれない

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六章 遠い屋敷

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 その日の夜遅く、ルイはカリバン・クルスのタールヴィ家の屋敷に帰宅した。エントランスホールにはテオフィロがいて、ライオルと一緒に入ってきたルイを見て瞳を大きく震わせた。

「ただいま、テオフィロ」
「ルイ様……ご無事で……」

 テオフィロは大粒の涙をこぼし始めた。ルイはテオフィロをぎゅっと抱きしめた。

「心配かけてごめん」
「帰ってきてくれた……よがっだあ……」

 テオフィロはルイに抱きついてひとしきり泣いた。嗚咽が収まると、鼻をずびずび言わせながらヴェンディ、カロル、フリッグのほうを向いた。三人は緊張した面持ちで所在なげに立っている。

「あなたがたはもしや……」
「ルイの前に連れ去られていた三人だ」

 ライオルが説明した。

「ことが済むまでうちで保護する。部屋の用意をしてやってくれ。あとサーマンを呼んで診察させろ」
「わかりました」

 テオフィロは袖で目をごしごしと拭き、背筋を伸ばしてヴェンディたちを案内した。ルイはライオルと一緒に階段を上がり、自分の部屋に入った。

 ルイは部屋をぐるりと見渡し、一年ぶりくらいに帰ってきたような錯覚を覚えた。数日離れただけだったが、色彩などの記憶が曖昧になっていて妙に新鮮に感じた。フェイはルイのポケットから出てきて、ふわふわと自分の巣箱に飛んでいった。

「あいつ思ったより賢いんだな……」

 がさがさと寝床の支度をするフェイを見て、ライオルはしみじみと言った。

「一日がかりで訓練したけど、小さい割になかなかできる使い魔だよ」

 ルイは笑ってベッドに腰かけた。

「探してくれてありがとう、ライオル」

 海馬車の中でルイは、ライオルがどうやってポーグまでたどり着いたか聞いていた。エディーズ商会に忍びこんだりベッティを連れ去ったりと、荒っぽいことをしてまでルイの情報を手に入れてくれたことに、ルイは言いしれぬ喜びを覚えた。

 ルイもライオルに、クウリーとのあいだにあったことをすべて話していた。ライオルは自分から正体を明かしてしまったルイのうかつさにあきれたが、クウリーに持ちかけられた話のくだりを聞くと、うつむいてなにか考えているようだった。

「……クウリーを信用した俺が馬鹿だったよ。そんなことまでさせてしまって、悪かった」

 ルイはライオルに謝った。ライオルはルイを黙って見下ろしていたが、不意にルイのあごに手をかけて上を向かせた。

「ルイ、リーゲンスに帰りたいか?」
「えっ」

 ルイはライオルがとても真剣な顔をしていることに気がついた。怒っているわけでもなく、じっとルイの目をのぞきこんでいる。

「今すぐには無理だが、お前がそうしたいなら、リーゲンスで暮らせるすべを探してもいい……」

 本心から言っているとすぐにわかった。ルイはゆっくり首を横に振った。

「いや、イオンが元気だとわかったから大丈夫。俺の帰るところはここだよ」
「……そうか」
「あそこにいるあいだも、思いだすのはここのことだった。早くここに帰りたくて仕方がなかった……」

 ルイの脳裏に伯爵の屋敷につなぎ止められた日々がよぎった。熱を出して、何年もあの屋敷で過ごす悪夢を見た。伯爵の指に体をなでられたことを思いだしてしまい、ルイはぶるりと身を震わせた。ライオルはルイの顔に触れていた手を離した。

「……触れられるのはいやか? いやなことを思いだすか?」

 ライオルはルイが触れられることに嫌悪を示したと思ったようだった。ルイは座っていたベッドから腰を浮かせて、離れていこうとするライオルの腕をつかんで引き止めた。

「違う、いやじゃない。行かないで」

 せっかく取り戻したぬくもりがなくなると、また悪夢を見そうだった。

「違うんだ。俺、なにもされてないよ……」

 ライオルはルイの顔を両手で挟みこみ、まじまじと見つめて嘘をついていないか確かめた。

「でも、あいつはお前を押し倒してた」
「ライオルが来て助けてくれたじゃないか」
「その前も何日もあの屋敷にいたんだろ?」
「いたけど、熱を出してずっと寝こんでたし、本当になにもなかったんだ」

 ライオルは目を細めて気遣わしげにルイを見つめた。

「本当にあの変態に犯されなかったのか? お前の身代わりを三人もはべらせていた奴だぞ?」
「ちょっとは……触られたけど。気持ち悪かった」
「……やっぱり殺しておくんだった。今後のことなんて考えてる場合じゃなかった」
「いいんだ。もう忘れたい。だから触ってよ、ライオル」

 ルイは驚くライオルに両手を伸ばした。

「忘れさせてよ」
「ルイ……」

 ライオルはルイを強く抱きしめた。ルイはライオルの顔が近づいてくると、目を閉じてキスを受けた。ライオルはそっとベッドにルイを押し倒した。ルイはいつになく優しい手つきで触れられ、くすぐったいような照れくさいような気分になった。

 ライオルはルイを全裸に剥いてしまうと、なにもされていないことを確かめるように全身に触れていった。首筋からなでていき、足先まで指をはわせた。ルイをうつぶせにしたライオルは、ルイの背中が数カ所赤く腫れていることに気がついた。

「おい、なんだこの跡は」
「……逃げて連れ戻されたときに、杖で殴られた」
「殴られた!? あの変態に? なんですぐ言わなかった!」
「だって海馬車の中にはヴェンディたちもいただろ……。こんなの知ったらショックを受けると思って」
「だからってほっとくなよ……。愛してるだのぬかしておきながらお前を殴るなんて、あのクズ……」

 ライオルは怒りに歯を食いしばった。

「大丈夫、もうそんなに痛まないから。このベッドは柔らかいし」

 ルイはきつく握られたライオルの拳を手で包みこんだ。ライオルはため息をつくとルイの髪の毛をくしゃりとなでた。ルイはそのなで方が好きだった。

 ライオルはルイにキスしながら、時間をかけてゆっくり愛撫を施した。ルイは胸の飾りをこねられてもう一方の手で自身をしごかれ、感じるところばかり刺激されて下腹部がうずいた。ライオルがあんまり優しく触れてくるので、じれったくてたまらなかった。

 ルイはライオルに快楽を与えられながら、いやな記憶を上書きしていった。ルイに触れてくるのはライオルだけだ。ほかの誰にも触られることはない。ルイはライオルにぎゅっとしがみついた。

「んっ、あぁっ」

 後ろのすぼまりに冷たい液体と一緒に指を入れられてくちくちと動かされ、ルイの体が跳ねた。ライオルは右手でルイの秘部をほぐしながら、左手をルイの顔の横についてルイの感じている顔を眺めていた。

「入れるぞ」

 ライオルはルイの右足を肩に乗せて中に押し入った。

「ふぁ……っ」

 ルイがシーツをぎゅっと握ると、その手を大きな手に強く握りしめられた。ルイはゆさゆさと小刻みに揺さぶられ、あえぎ声をあげた。緩慢な動きがとても気持ちよかった。

「あっ、あ、んっ」

 ライオルはゆっくりとルイを追い詰めていった。大きく開かせた足の中心で、ルイのものは先走りを流して悦んでいる。ライオルはつながったままルイを抱き起こして向かい合った。ライオルはそのままルイの腰をつかんで奥ばかりを突いた。

「あぁっ! あ、あっ」

 ルイはライオルの首に抱きついて姿勢を保った。ライオルはルイの鎖骨をなめ、首筋に吸いついた。

「ルイ、もうどこにも行くな……俺のそばにいてくれ」

 ルイはなにか言おうと思ったが、口を開けば出てくるのはあえぎ声ばかりだった。ライオルは不敵な笑みを浮かべ、ルイを再びベッドに倒すと腰を引いてからばちゅんと最奥にたたきつけた。

「ひあぁっ」

 ルイは突然強い快感をぶつけられて情けない声をあげた。何度も激しく出し入れされて、いやらしい水音が聞こえ、それがまた快感を誘った。

 ルイは足を痙攣させて達し、自分の腹を白濁で汚した。ライオルもルイの中で達した。二人ははあはあと荒い息をはき、ベッドに転がって抱き合った。ルイはとても幸せだった。
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