風の魔導師はおとなしくしてくれない

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後日談2 星の見えるところ

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 アウロラの城のエントランスホールにて。長かった滞在を終えて帰還する海の国一行を、イオン以下リーゲンスの面々が見送りに来ている。

「姉上、どうかお体にお気をつけて」

 ルイはイオンに別れの挨拶をした。イオンはほほ笑むとルイをしっかりと抱きしめた。

「あなたも元気でね。またいつでも帰っていらっしゃい」
「うん。また来るね」

 姉弟は固く抱き合ったあと、名残惜しそうにそっと離れた。ルイはイオンの笑顔を見ることができて満足だった。

 次にルイはエンデュミオと握手をした。エンデュミオはややげっそりとした顔で別れを惜しんだあと、ぼそりと言った。

「本当に……我が妹がとんでもない過ちをしでかしてしまって、申し訳ない……」
「もういいって」

 ルイは笑って言った。城に戻ってからもう百回はエンデュミオに謝罪されている。ルイはエンデュミオを責める気はさらさらなかったが、一部始終を聞いたエンデュミオはイオンとの婚約を取りやめようとするほど責任を感じていた。ルイはイオンのためにもそばにいてくれと力説し、なんとかエンデュミオを思いとどまらせた。

「過ぎた話はもうなしにしよう。だよね? ライオル」

 ルイが隣のライオルを見上げて言うと、ライオルはもったいぶってうなずいた。

「ルイの言うとおりです、エンデュミオ王子。どうぞそれ以上お気にやみませんように。妹君には寛大な処置をお願いします」
「ありがとうございます……」

 エンデュミオはライオルに深々と頭を下げた。イオンはエンデュミオの腕にそっと触れた。

「元はといえばアドルフェルドが悪いんだもの、あっちに厳罰を科しておくからそれでいいでしょう。それに彼女はもう十分罰を受けているわ」

 ルイは心の中で同意した。ライオルに心酔していたトリシュカは、ライオルに振られたことがなによりの罰になっただろう。

「そうだ、ルイ。パーティーの夜に怪我をしたあなたの付き人はどうなったの?」
「ああ、テオフィロならもうすっかりよくなりましたよ」

 ルイはそう言って後ろを振り返った。そこにはテオフィロがサーマンや守衛師団の兵士と並んで立っている。腕の怪我も治り、少し前から仕事に復帰している。テオフィロはイオンに見つめられ、赤くなりながらぺこりと頭を下げた。

「ご、ご心配ありがとうございます、女王陛下」
「回復したのね。よかったわ」

 次にイオンはギレットに向き合った。

「ルイを守ってくださってありがとうございました。あなた方がいなかったらルイは今頃海のもくずでした」
「もったいないお言葉です」
「姉上、もくずはやめてくださいよ」
「あなたもご尽力ありがとうございました」

 イオンはホルシェードにも会釈をした。ホルシェードは黙って深く一礼した。

「本当にルイの周りにはすばらしい人でいっぱいですわね。これなら安心して送り出せます」

 イオンが言うと、ライオルはふっと笑みをこぼした。

「ルイは必ず俺が守ります。どうぞご安心ください」
「……一年前はそう言ってルイをさらって行っちゃったのよねえ」
「はっはっは。俺もルイを狙う輩の一人だったわけですから」
「うふふ。そうねえ」
「笑い事かよ……」

 ルイはげんなりして呟き、ふとライオルにじっと見下ろされていることに気がついた。

「……なんだよ」
「いや別に。ただ、俺と婚約してるのにまだお前を付け狙う奴がいるのはちょっとなあ……と思って」
「俺のせいじゃないだろ」
「そんなこと言ってないだろ。たぶん婚約者じゃまだ奪う余地があると思われるんだな……。よし、決めた。国に帰ったら結婚式を挙げてしまおう」
「はい!?」
「お前はめでたく王太子妃ってわけだ。そうすればさすがにもう男は寄ってこないだろ」
「そんなの急に言われても困るよ!」

 ライオルのとんでもない発言にルイはめんくらった。結婚式は思いつきのような感覚でするものではない。

 だが、イオンはそうは思わなかったようだ。花開いたように笑って顔の前でぱんと手を打ち鳴らした。

「まあ! 素敵! 式はカリバン・クルスで行うのよね? じゃあ私もカリバン・クルスに行かなきゃ!」
「ぜひお越しください。エキムに招待状を持たせますよ」
「わかったわ! 準備しておくわね!」
「俺抜きで話を進めないでくれよ!」

 ルイは助けを求めて背後を振り向いた。テオフィロはサーマンと抱き合ってハンカチで涙を拭っている。ホルシェードはなぜか後ろを向いている。ギレットは無表情のまま拍手をした。

「おめっと」
「祝い方が雑!」

 海の国側はだめだと思ったルイはリーゲンス側に視線を向けた。顔を輝かせているイオンの後ろでは、ヴルスラグナが孫の成長を眺める祖父のような笑みを浮かべている。

「女王陛下、ルーウェン様の嫁入り道具の準備もいたしませんと」
「あっそうね。いろいろ忙しくなりそうね」
「式の参列者の選定も始めましょう」

 こちらはこちらで話が進んでしまっている。ルイは頭を抱えた。

「よかったなルイ。みんなに祝ってもらえて」

 問題発言をした本人は朗らかに言ってルイを抱きしめた。ルイはライオルの腕の中で、もうなるようになれとあきらめた。


おわり
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