銀色の精霊族と鬼の騎士団長

文字の大きさ
57 / 97
六章 嗤う人妖族

3※

しおりを挟む
※ゾール×スイの性描写を含みます


「……あ」

 スイは体をこわばらせた。

「……だめ、だ……」
「なにが?」
「……なにが、って……」

 ゾールは小首をかしげてスイを見る。スイは立ち上がろうとして腰を浮かせたが、ゾールの手がするりと伸びてスイの目を覆い隠した。

「っあ」
「気持ちよくしてあげるから、動かないで」

 不意にまたあの不思議な香りが鼻をかすめた。石けんの香りと混じって強く香り始め、スイの心臓がどくんと鳴った。

「あ……」
「オレを見ろ。よそを見るな」

 ゾールはそう言うとスイの目を隠していた手をぱっとどけた。とたんに視界いっぱいにゾールの顔が広がる。スイはゾールの紫の瞳をじっと見つめた。

「好きだよ、スイ」
「ほ……んとう?」
「ああ。お前は? オレのことをどう思ってる?」
「好き……好きだよ」

 スイはゾールを見上げながら言った。そうだ、自分はゾールがずっと前から好きだった。

「だよね」

 ゾールは満足げにうなずくとスイに口づけた。

「ん、ん……」

 ゾールの手がスイの股間に伸びた。泡でぬるつく手で自身をなでられ、スイは気持ちよさに熱い吐息をもらした。

「っはあ……」
「もう勃ってるね……。あは、胸とキスだけで感じたんだ」
「ああっ」

 ゆるゆるとしごかれて、緩慢な快感が上ってきた。先走りがあふれて泡と混じってくちゅくちゅと音を立てる。

「んああ……っ、やっ、ゾールっ」
「なに?」
「だめ、離してっ」
「イっちゃいそう?」

 こくこくとうなずくとゾールは手の動きを早めた。

「イくとこ見せてよ」

 もう片方の手で胸をこねられ、弱いところを同時に攻められてすぐに限界を越えた。

「あああっ!」

 スイは背筋を弓なりにそらして達した。達した余韻でぐったりとゾールにもたれかかると、ゾールはスイの足を広げて後ろのすぼまりに手をはわせた。そして、人差し指をぐっと中に押しこんだ。

「ひゃ、あ」

 濡れた指はあっさり奥まで侵入してきた。長い指を中で曲げられて探るようにかき回される。

「ん、んっ……あっ!」

 ある一点を指がかすめると、強烈な快感が走ってスイは高い声を上げた。ゾールはそこを指先で何度も突いた。

「あうっ! あっ、そこだめっ」
「ここがいいんだ」

 スイはゾールの腕を握りしめてあえいだ。気持ちよくて声を抑えられない。二本目の指もなんなく飲みこんでいく。

「ま、当然開発されてるよな……」

 後ろでぼそりとゾールが呟いた。だがスイにはそれを聞くだけの余裕がなかった。

「あいつはお前が精霊族だから構ってるだけだろ……。そんな愛のない奴より、オレにしとけよ」

 スイの脳裏に金髪の誰かの顔がぼんやりと浮かんだ。しかし、それはすぐに霧の彼方へかき消えていった。

 ゾールはスイを四つんばいにさせて後ろから怒張を突き入れた。律動を開始され、スイはバスタブの縁をつかんで次から次へとやってくる快楽の波に翻弄された。

「あ! ん、っ」
「ここが気持ちいいんでしょ」
「ああぁ! あ、ひっ!」

 感じるところを突かれてスイは悲鳴を上げた。

「やああっ、んあ、だめぇ……っ」

 また達しそうになり、スイは必死に訴えた。

「らめっ、あっ、エリトっ」

 とたんに律動がやんだ。今のうちに息を整えようとしたが、後ろから伸びてきた手に喉をぐっと押さえつけられた。首がしまって息ができなくなり、スイは目を見開いた。

「あぐっ」
「おい、間違えんな。オレの名前を言ってみろ」

 ゾールはスイの首をしめながら無理やり上向かせた。スイは苦しさに涙を浮かべてゾールを見る。

「ぞ……る」
「もっと呼んで」
「あ……ぞー、るっ……ゾールっ」
「そう、いい子」

 ゾールが笑みを浮かべて優しく言う。苦しめられながら褒められて、スイの背筋がぞわりとあわだった。かつて味わった感覚。スイの目から涙がこぼれた。快楽から来る涙だった。

「ん、っ、……ア」

 中をきゅっと締め付けてしまい、ゾールの眉がぴくりと動いた。

「は……なに? お前、首しめられて感じてんの……?」
「っ、あ、ち、が……」

 違うと言いたかったが苦しくて言葉にならない。だが萎えかけたスイの自身は再び勃ち上がり、透明な液を垂らしている。それを見たゾールはさげすむように笑った。

「こんな淫乱だったのかよ」

 ゾールはスイの首をしめたまま腰を打ち付け始めた。スイは頭が爆発しそうになった。首をのけぞらせてなんとか空気を取りこもうと口を開いた。

「ぁ……っ、は、ぁ」

 もはや気持ちいいのか苦しいのか区別もつかない。生理的な涙があふれて頬を流れ、あごを伝ってゾールの手に落ちた。

「はは」

 ゾールは笑いながら腰を振り立てた。いよいよスイの意識が遠のいていき、視界が真っ白になったと思ったとたん、喉を捕らえていた手が放された。それと同時にゾールが最奥をがつんと突き、スイは体をがくがくと震わせて果てた。

「あああああ!」
「っぐ……」

 反動で締め付けられたゾールも中で出した。スイはそのままバスタブの中に倒れこんで気を失った。ゾールは目元にかかった髪をかきあげ、スイを抱き起こして意識のない白い顔を見つめた。

「その面で実は淫乱とか……最高だな、お前」


 ◆


 翌日、仕事が終わったスイは恋人を迎えに治安維持部隊の本部に向かった。治安維持部隊本部は、憲兵隊本部が有する広い敷地の一角に建てられている。王城を囲む城壁沿いにあり、守手本部からも近い。

 今日は一日、早くゾールに会いたくてうずうずしていた。仕事をしながら、会ったらなにを話そうと考えているだけで楽しかった。

 憲兵隊本部は一般人も依頼にやってくるので、たくさんの人が行き来しており、敷地の中に入るのは簡単だった。スイは治安維持部隊本部の入り口前のベンチに腰かけてゾールを待った。

「ごめんごめん、遅くなった!」

 しばらくしてゾールが走ってきた。スイはゾールを見るとぱっと笑顔になり、ベンチから立ち上がった。治安維持部隊の深緑の制服を着たゾールはとても格好いい。スイはゾールが自分に笑いかけてくれることが嬉しくてたまらなかった。

「ごめんね、待った?」
「全然だよ! お仕事お疲れさま」

 スイの頭にぽんとピンクの花が咲く。ゾールはスイの肩を抱き寄せ、髪にキスをしてから花を摘んだ。

「さ、帰るよお花ちゃん。今夜の夕食はなにがいい?」
「うーん、そうだなあ」

 並んで歩き出した二人を、後ろから誰かが追いかけてきた。

「フェンステッド隊長!」

 ゾールはその場で立ち止まって振り返った。

「どうした」

 甘い笑顔だったのが打って変わって仕事の顔になる。追いかけてきたのは治安維持部隊の隊員だった。真っ青な顔で後ろのほうを指さして叫ぶ。

「大変です! ヨルマが病院から脱走しました!」
「あ!?」

 ゾールの顔色が変わる。スイは息をのんだ。

「脱走だと!? 意識が戻らないんじゃなかったのか!?」
「先ほど意識が戻ったそうなんです! それで治癒師が診察していたところ、いきなり起き上がって逃げたそうで……現在の居所は不明です!」
「見張りがいただろ!? 憲兵はなにやってんだ!」
「居合わせた憲兵数名がヨルマに襲われて重傷ですっ」
「ちっ……死にかけだったくせに、なんて回復力だ。緊急配備は?」
「すでに出してます」
「わかった。オレは病院を見てくる。お前は騎士団に連絡を取れ」
「はいっ」

 隊員はきびすを返して去っていった。

「スイ、一人は危ないからお前も一緒に来てくれ。病院はすぐそこだ」
「う、うん」

 ヨルマが収容されていたところに行くのは怖かったが、ここでゾールと別れて一人になるのは絶対にいやだった。一人のところをまた襲われたら今度こそ殺されるかもしれない。ゾールにくっついていたほうがよほど安全だ。

 ゾールとスイは憲兵隊本部に隣接する病院に駆けこんだ。ここは憲兵隊の管轄する病院で、仕事中に負傷した憲兵や、逮捕した犯罪者の治療をするための特別な病院だ。病院の中は大騒ぎで、憲兵たちがせわしなく走り回っている。ゾールはその辺にいた憲兵を捕まえてヨルマのいた場所を聞き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...