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六章 嗤う人妖族
8※
しおりを挟む「催眠術のことはわかったよ。それで、術をかけられたあとはどうしたんだ?」
「ゾールと……、レストランで一緒にご飯を食べたよ」
「そのあとは?」
「えっと……一緒にゾールの家に帰った。ここに住んでいいって言われたから……」
「……あいつとヤったのか?」
「それは……」
「あのタラシ野郎が催眠かけてまで家に連れこんだ奴を食わないわけがないよな?」
「……その……」
怖くて答えられなかったが、エリトはそれ以上聞かなかった。聞くまでもない、ということらしい。
スイはエリトの手で裸に剥かれた。雨の中で長時間ゾールを待っていたせいで、下着までぐっしょりだった。エリトはスイをベッドに座らせ、スイの上半身をじっと見据えた。スイは自分の体を見下ろし、あちこちにゾールがつけた鬱血痕が散らばっていることに気がついた。
「……あ」
スイは羞恥で真っ赤になった。寒くて震えていたはずが今度は恥ずかしさでぷるぷると震え始める。
「ちっ……あの野郎、こんなに痕残しやがって」
エリトはスイの体を仰向けに倒して上に乗ると、震えるスイの腕を押さえつけて胸元に吸いついた。
「んっ」
スイは胸元にちりっとした痛みを感じた。エリトはゾールのつけた痕の上に一つ一つ痕を被せてつけていった。
「うん……っ」
こそばゆくて身をよじる。エリトはゾールの痕を自分のものに塗り替えながら、右手でスイの胸の突起をくりくりといじった。ときどきたわむれのように舌先でなめられて、頭がぼうっと熱くなっていく。
「あっ」
こらえきれずに甘い声を出すと、エリトが少し笑った。
「ま、この感じやすい体を前に手を出さないほうがおかしいよな」
「ふ、ふざけてないで……んあっ」
反応し始めた前を膝でぐりっともまれ、スイの腰が跳ねた。エリトは腕を伸ばしてベッド脇の棚に置かれた香油の瓶を手に取った。少し前にエリトが勝手に置いていったものだ。
エリトは自分の指とスイの後孔に香油を垂らし、性急に指を中に突き立てた。そのままぐちぐちと中を広げられる。
「ひゃ、あ、ああっ」
いきなり二本も入れられて苦しいのに気持ちいい。余裕がないのか、エリトは乱暴に慣らすとすぐに自身を奥まで押し入れた。
「んああ……っ」
それでもスイの体はけなげにエリトを受け入れていく。エリトは腰を揺らしながらスイを見下ろした。
「……ひどいことはされなかったか?」
「べ、別に……っあ」
「こうやって優しくしてもらった?」
エリトは香油でぬるつく手でスイのものをそっと包んだ。そのままゆっくりと上下に動かされ、快感がさざ波のようにやってくる。
「あ、ぁっ……」
「でもお前はちょっと乱暴なくらいが好きだもんな」
そう言うとエリトはいきなり最奥を貫いた。ぱんと肌と肌がぶつかる音が響く。
「ふあああ!」
「こっちのほうが気持ちいいだろ?」
腰を引いてはがつんがつんと奥を突くのを繰り返され、スイはあっという間に追い上げられた。
「や、っあ、もう……、っ!!」
イく、と思ったときにはすでに白濁を散らしていた。スイはシーツの上で身をよじって絶頂を味わった。
「ああっ……」
「まだ足りねえよな?」
「……え!?」
驚いて少し顔を起こすと、エリトがスイの足を抱えて深く密着してくるのが見えた。ぐちゅうっと淫靡な水音がして奥をえぐられ、スイは背中をしならせて声にならない悲鳴を上げた。
「……お前、俺に閉じこめられるのがいやで出てったんだ?」
真上から見下ろしてくるエリトは、表情の読めないどこか冷たい顔をしていた。スイはごくりと生唾を飲みこんだ。
「ま、まあ……」
「ふーん……」
エリトはそれだけ言うと再び動き始めた。えっそれだけ? と思ったが口には出せなかった。意味不明に思えてエリトを見上げると、目が合ったエリトにキスをされた。溶けそうなくらい優しいキスだった。でもなぜだかちょっと怖かった。
エリトはスイに手を上げたことは一度もないし、いつもスイを助けてくれる。とても愛されていると感じる。でも、やっぱりエリトのなにかが怖いのだ。
ことが済むと、エリトはぐったりとしたスイを着替えさせてベッドに横たえ、毛布をかけた。あたたかくなってきて、スイはうとうとと目を閉じた。大きな雨粒が窓をばたばたとたたく音だけがしている。
◆
デアマルクトの水路沿いに洗濯に来た女性が集まっている。その一画で洗濯そっちのけで噂話に興じるグループがいた。
「エリト様とゾール様が喧嘩したって本当なの?」
「本当よ。友達が見たって言ってたもん。エリト様の恋人にゾール様が手を出して喧嘩になったんだって」
「ええーっ!? エリト様って恋人いたの!?」
「誰誰!?」
「そこまではわかんないわよぉ。私もショックすぎてなにがなんだか……」
「というか、ゾール様はエリト様の恋人だってことを知ってて手を出したってこと?」
「そうなんじゃない? ゾール様ならやりかねないでしょ」
一人の女性がそう言うと、友人たちは乾いた笑みを漏らした。
「あー……まあね。あの人なら確かに」
「美人ならつまみ食いしそうよね。でもよくエリト様のものに手を出せたわね……」
「本当、よく殺されなかったと思うわ。で、ゾール様は無事なの?」
「喧嘩の途中で憲兵が止めたから大丈夫らしいわ。まあ、怪我したみたいだけど」
「そうなの……。でもそれだけで済んでよかったわね。エリト様が犯罪者にされるのはいやだもん」
その場の全員がうんうんとうなずく。
「エリト様は悪くないわよね」
「悪いのはゾール様でしょ」
「しっ、マルセラに聞こえるわよ。あの子ゾール様の恋人よ」
「いやどうせ恋人その七とかでしょ?」
「こら!」
◆
小さな通りにたたずむ花屋の軒先では、花族の若い男女が数人集まっておしゃべりをしている。
「なあ、聞いたか? エリト様が喧嘩したって話」
「もちろん。すごいわよね、あの二人がたった一人を巡って争うなんて。そんなに魅力的な人なのかなあ」
「エリト様の恋人は守手なんだってよ」
青年が言うと、一人の女の子が首をかしげた。
「えっ? エリト様の恋人はあそこの角のレストランで働いてる子でしょ? あの美人の子」
すると別の子がくすっと笑う。
「ああ、あの子ね。どうやら自称恋人だったらしいわよ」
「そうなの!?」
「びっくりよね。恋人面してあれこれ喋ってたのにね。でもあの喧嘩のときあの子普通に仕事してたのよ」
「あらま……喧嘩の現場にはエリト様の恋人もいたのよね?」
「そう。二人の喧嘩を止めたのはその恋人本人なんだから間違いないわ。それであの子の嘘がばれて赤っ恥かいて、レストランで働くの辞めちゃったらしいわよ」
「あちゃー」
女の子は顔を手で覆って天を仰いだ。花族たちはレストランを辞めた子についてひととおり情報を共有したあと、最初に話を持ち出した青年に再び話を振った。
「ねえそれで、エリト様の本物の恋人はどんな人なの?」
「ああ、どうやら守手の美青年らしいぞ」
「へえー! ひょっとして花族かなぁ?」
「かもな」
「守手って確か中央のほうのアパートに住んでるのよね? あとで見に行ってみようかな」
「え、私も行きたい! 行くなら一緒にいこー」
「いいよー」
日だまりの中で、花族たちはアパートを見に行く計画を立て始めた。
◆
夜、とあるパブには美女が集っていた。
「ねえ、ゾール様の怪我ってどうなの? 結構ひどいの?」
「胸の骨折れたって。もう治癒師に治してもらったらしいけど」
「えーっ! そんなひどい怪我だったの? というか骨折するまで殴るなんてひどくない? ゾール様かわいそう」
ワインで顔を赤くした女性が唇をとがらせる。
「エリト様というものがありながらゾール様と寝たその恋人が悪いんじゃないの! そいつが殴られればよかったのに」
「馬鹿ねえ、自分の恋人を殴るわけないでしょ。あの状況じゃ相手の男に殺意が行っちゃうわよ」
「そんなのひどすぎる。私明日お見舞いにいくわ」
「今は会えないわよ。ジリーも会わせてもらえなかったって」
「ええー……」
不服そうな友人を見て、隣で足を組んで座る女性はなだめるように彼女の腕に触れた。
「まあまあ。気持ちはわかるわ。その辺の男ならともかく、エリト様がいるのに浮気する神経がわかんないわよね」
「本当よ! 最低!」
酔った女性はぷんぷん怒りながらワイングラスをぐいっと傾けた。
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