ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第一章 ウィルとアルと図書館の守人

プロローグ

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 剣と魔法が飛び交う戦場。
 悲鳴、断末魔、剣と剣が弾け合い火花を散らす。
 赤黒く染まった大地。
 血の匂い。
 そしてそれに連なる死の臭い、予感。
 それらが混ざり合ったその場所に似つかわしくない一組の男女が立っていた。
 一人は腰に剣を携え、身体には鎧を身に纏っている。
 艶やかな金色の短髪は返り血で汚れていた。
 女の方は黒を基調としたドレスに身を包み、その両手には大事そうにまだ生まれて間もないであろう赤子を抱き抱えられていた。
 赤子は戦場の最中だというのに、静かに寝息を立てて眠っている。
 時折身じろぐ姿が愛くるしい。
 男と女はその様子を眺めて思わず頬を緩ませた。
 しかしどこか悲しみを帯びた笑みだった。
 彼らの頭上には異次元へと繋がるゲートが開かれていた。
 今か今かと自らを発動した主の命令を待ちわびている。
 そのとき、左右対照に位置する方角から光の魔法陣と闇の魔法陣が構築され淡い光を放っていた。
 相互の魔法陣からは幾数千もの光と闇の矢が生み出され、そして主の命を受けそれらは勢いよく放たれた。
 男と赤子を抱えた女のいる場所目掛けて。
 残された時間はもはやなかった。
 女は腕に抱える赤子を愛しげに見つめ意を決する。

「ゲートよ。我が願いを聞き入れ、どうか、この子を平和な世界へ導いて。時間は掛かっても構わない。この子が、平穏に暮らせる世界へ!」

 女は願いを込めて赤子を天高く持ち上げ、ゲートへと差し出した。
 すると、赤子は見えない何者かに抱えられているかのようにフワリと宙に浮き、ゲートへと吸い込まれて行くと、ゲートごとその姿を消したのだった。
 ゲートが閉じたのとほぼ同じくして左右より放たれた光と闇の矢が男と女の頭上へと降り注ぐ。
 刹那、二人は見つめあい微笑んだ。
 女の瞳には涙が滲んでいた。
 そっと抱き合い、囁く。

「時空を越えて離れてしまっても、私たちはずっと、傍にいる」

 放たれた幾千もの光と闇の矢は容赦なく男と女を刺し貫き、血に染まった黒い大地を更にドス黒く染め上げた。
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