ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第一章 ウィルとアルと図書館の守人

オレンジ色の朝

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 辺りがぼんやりと明るい。今の今まで意識がなかった頭が少しずつ覚醒していく。
 鳥の声が聞こえた。まるで早く起きろと促されているかのように。
 もう朝?
 眩しい。夜が明けたのか。

「……朝っ!」

 意識を取り戻し、僕は勢いよく飛び起きた。見知った僕の部屋だ。

「……アル、いや、ジークだっけ、ジークっ!」

 ベッドから飛び出して部屋を出た。今の時間なら多分朝食の準備をしているはずだ。

「ジークっ!」

 予想通り、ジークは厨房にいた。小さな身体をせせこましく動かして朝食の準備をしている。

「やぁ、ウィル、おはよう。もう少しゆっくり寝ていて良かったのに」
「ジーク、じゃない、アル?」
「うん。どうしたんだい? 呆然としちゃって。寝ぼけているのかい?」

 僕は頭を横に振った。いつものアルだった。まだ意識がはっきりしないけど。やっぱり寝惚けているのかな。

「朝食の準備はもうすぐ終わるから、冷たい水で顔を洗っておいで。目が覚めるよ」
「うん、あり、がと」

 僕の礼の言葉にアルは肩を竦めて笑顔で応えてくれた。
 いつもの光景だった。僕は朝の支度をするアルの後ろ姿を少しの間見つめた後、顔を洗おうと洗面所に向かった。



 蛇口を捻ると大量の水が止め処なく流れた。当たり前だけど。
 今の季節、水はひんやりと冷たい。だけどそれが良かった。寝惚けた頭には丁度いいから。
 パシャパシャと大量の水で顔を洗い引き締める。

「……冷たい」

 タオルで余分な水分をふき取りながら鏡に映った自分と目が合った。そしてそのとき僕は昨夜の出来事を思い出してしまって……膝から崩れ落ちると鏡から僕の姿が消えた。
 昨夜の僕は、僕じゃないような声を上げて、もがいて、でも凄く気持ちよくて頭が麻痺してアル、ジークにされるがままにその大きな手と口の中でイってしまった。
 それはもう盛大に、勢いよく。
 あのあとの記憶が一切ないけど朝起きた時、僕の体は隅々まで綺麗に整えられていた。ジークが後処理をしてくれたんだろう。そういう奴だから。
 最後まで、僕の性処理まで。

「~~っ!」

 僕は声にならない声で叫んだ。
 今なら昨夜の意味を理解できる。嫌でもできる。僕だって男なんだし、当然のことながらそういう知識はもちろんある。ただ、十八にもなってまだ経験がないというだけで……。
 昨夜は調子が悪くて意識も朦朧としていたしそんな状態であんな流れになるなんて思いもしなかったから混乱して、ジークに言われるがまま足を開い、て……っ!

「……今日の僕はグダグダだ、絶対」

 僕は深いため息を吐いた。
 いつまでも戻らないとアルが心配するといけない。
 僕はひとまず落ち着くとリビングに足を向けた。仄かにパンの焼ける香ばしい香りが鼻をくすぐった。
 お腹が鳴った。

「……今朝のアルはいつもどおりだったし、大丈夫。平常心、平常心だ」

 僕はそう言い聞かせながら食欲という本能の赴くままに行動した。
 リビングに入るとすでに朝食の用意を整っていて、アルは最後の仕上げと皿にスープを盛り付けているところだった。

「やあ、今、丁度呼びに行こうと思っていたところだよ。さあ、座って」
「う、うん」

 平常心だ、ウィル。
 大丈夫、大丈夫。
 そう内心で祈るように言い聞かせ席についた。

「わぁ、おいしそう。いただきまーす!」

 若干ぎこちない気もしたけど気にせずに目の前の料理に集中する。
 湯気の立つスープに出来たての数種類のパン、ハムに目玉やきにチーズといった朝食を堪能する。いつのまにか僕の頭の中は食べるのに必死で昨夜の記憶は少しずつどうでもいいように思えてきていた。

「ところでウィル」
「ん? はに?」

 口いっぱいにパンを頬張ってしまっていたからそんな返事しか出来なかった。

「身体の調子はどうだい?」

 僕は危うく口に入っていたものを噴出しそうになったけど、なんとか堪えた。

「なっ、えっ? か、身体って?」

「ほら、身体が火照って仕方なかったって、昨夜のウィルは可愛かったなぁ。私の手と口で盛大にイってくれて、とても嬉しかったよ」
「なっ、なっ、なっ!」
「何って忘れたのかい? オナニーを手伝っただろ? やっぱり初めてだったんだね。こういう場合、お祝いとかした方がいいのかな? どうしようか? んー、ん? どうしたんだいウィル、顔が真っ赤だよ? まさか、まだ熱があるのかい?!」
「~~アルの大馬鹿野郎ぉぉっ! 大ッッ嫌いっ~!」
「えぇ~?! え? ど、な、なんでだい?!」

 大人はズルい、残酷だ。
 その日は一日、アルとは口を聞いてやらないと心に決めた朝の出来事。
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