ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

師と弟子

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 剣の修行は素振りに始まり、実戦を交えた鍛錬に移行していった。
 簡単に言えば空気を切るイメージ。剣の柄を交互に持ち、上から下へ、振り下ろす。時には下から上へ持ち上げる。腕に掛かる剣の重み、空気圧の抵抗の波に、上手く乗れるように何度も繰り返すことで、筋力だけでなく実際の戦闘においても、反射的に敵の応戦を含めて臨機応変に対応できるように身体に戦い方を覚え込ませる。ただ、練習と実戦とではその場の雰囲気に揉まれ、身体が思うように動かない可能性も十分にある。
 剣技も魔法と同じ、途方もない強固な精神力が必要となる。
 ここ数週間ほど、俺はウィルに一度も会っていない。もし今、会って触れてしまえば、ここまでの鍛錬が無駄になる。そんなことを思ったからだ。
 正直、修行はとても辛く、上手いこと成果が出なければ、このままやめてしまおうかと思ったこともあった。けれど、その度にウィルの顔がチラついて、フツフツと力が湧いてくるような気がしたのだ。我ながら、なんて単純脳なんだと、感情を押し殺したような笑いが沸き起こった。

「――はっ!」
「なかなか、様になってきましたね、レズリー。それでは、これはどうですか?」

 師匠愛用の剣の切っ先に、見目でもわかるほどの膨大な魔力が集中していくのが、ビンビンと身体に伝わってくる。なにかとんでもない大技がくる。直感的にそう思った俺は身を引いて距離を置くと、剣を斜めに支え身体を守る盾とするように防御の構えを取った。
 剣先に集中した力が弾かれたように前方側、俺の方へ膨張していく。すさまじいエネルギーの塊が圧と斬撃なって襲い来る。このまま直接喰らえば、剣の盾だけでは防ぎ切れず、吹っ飛ばされて即終了だろう。
 俺はもっと戦っていたかった。現役のマジックナイトとの一騎打ち。すぐに終わるなんて、そんなもったいことしてたまるか、と直撃の手前で身体を反転させ受け流す。それでも衝撃は強く、剣で斬り付けられていないはずなのに、顔や腕など身体全域に切り傷を負う。屈せず前進の姿勢を保って突き進む。
 俺は自身の剣に魔力を込めた。
 手にしている剣は当初所持していた木製の剣ではない。鉄を鍛えて精製させれた正真正銘の鉄の剣だ。剣の表面が赤く色づいていく。俺が使用できる唯一の力。
 この世界に降り立った時から、俺の中の魔力量と相性の良いとされる属性は確定していたのだという。俺の持つ魔力量は強いて言うなら、人並み以下。そこまで魔力量は多くはないそうだ。次に属性だが、炎属性を得意とするらしい。
 だから、俺が唯一扱える、魔法の力は――。

「魔法剣・フレアソード!」

 構築された魔力を言葉によって発動させる。その原理は魔法使いの使用する魔法と同じ理屈だそうだ。
 魔力の元締め【マナ・ユグドラシル】から魔力を抽出、その魔力をさらに構築し形作る。そして形作られた魔力を目に見える形で発動させ、展開する。
 ここまでは魔法使いと同じだ。しかしマジックナイトはさらに、発動させた魔力を武具に装着させ持続しなければならない。発動させた魔力は至って不安定な力だ。その不安定な力を制御し、成しえた者だけが、マジックナイトとして名を馳せることができるのだ。
 俺の魔法剣はまだ未完成だ。剣にかろうじて装着させているものの、いつ発動された魔力が解除されてもおかしくない状態だった。魔力の構築、発動、それに加えての装着の持続には強固な精神力が必要となる。つまり、言ってしまえば魔力と言うよりも精神力の高さがマジックナイトなる素質なのだそうだ。俺の精神力は人並み以上だった。十分にナイトとしての素質を秘めている。
 俺は賭けに出た。いまだ、強大な魔力を剣先に装着させたカルス師匠に向かって、前へ突き進む。
 魔法剣を発動を溜めることによって、一気に放出することができれば、威力は想像を絶する。
 師匠は今一度、風の刃を俺に向けて放った。今度は二度、三度の連続攻撃。その攻撃を身体を翻し、剣で防ぎ後退させられながらも、さらに師匠との距離を縮めていく。
 大丈夫、俺の魔法剣はまだ解除されていない。
 そのとき、視界が開けた。今このとき、俺には何処へ向かえばいいのかすぐにわかった。
 発動させた魔法剣を確実にぶつけられる効果範囲内に到達すると、怒声に似た咆哮と共に魔法剣を振りかぶった。一瞬だけ驚愕の表情を見せる師匠に俺は一撃、さらに回転を加えての渾身の一撃を喰らわせた。炎(フレア)が水平に弧を描くように広がり、辺りの草木を一瞬で灰にした。
 一方で、カルス師匠はというと寸でところで放った風の刃で空気の壁作り、炎(フレア)の直撃は難を逃れたようだ。けれど剣の切っ先は――。
 俺はそのときになって、やっと正気を取り戻した。

「し、師匠……俺っ」
「……見事だよ、レズリー。その執念、恐れ入った」

 剣の切っ先は師匠の動脈の通る首筋へと向けられていた。
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