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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
ドラゴンロード・ヴィルゴ
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とにもかくにも、だ。山頂まで辿り着かなければ意味がない。山頂までは何の障害も無く順調に進むことが出来た。道中、魔物に襲われる心配を危惧していたが、不思議と鉢合わせも無かった。
逆にそれが不気味だと、不安に思いながら俺たちは山頂に到着した。山頂付近はとても広く、風が吹き荒れ、鋭い牙のような岩に囲まれた場所だった。
「この辺りは岩には鉄が多く含まれていてね、鉄はとても貴重だから時折、鉄を採掘しに訪れるんだが、今日はやけに静かだ。いつもなら魔物がその辺を我が物顔でうろついているのに。嫌な予感がするよ」
アルは辺りを警戒しながら独り言のように話した。
それは俺もウィルも感じていた、奇妙な違和感だった。ロガも妙に落ち着きな、く俺の後ろで怯えながら足を進めている。
ロガは何処に行っても落ち着きないが。
だが、確かに魔物はいる。しかし、魔物たちの姿は見当たらない。息を潜めて怯えているような気配だ。
ケツァルコルツ山脈が普段、どういう雰囲気なのかは知らないが、これは異常事態であることは間違いないのだろう。
俺たちはさらに奥に進むと、突如、地響きと怒声が空気を振動させて伝わってきた。何者かが戦っているようだ。俺は駆け出し、それに続くようにウィルたちも俺に続いてた。
「あら、もう着いちゃったの? 意外と早かったのね、ウィリアムちゃん。もう少しでこの巨大ドラゴンちゃんを殺せたのに」
『――っ! 気をつけよ、人の子よ。この者の強さは尋常ではない!』
「――ヴィルゴ様!」
ヴィルゴと呼ばれたそれは、巨大な体躯と四枚の翼を持つ金色のドラゴンだった。ドラゴンの皮膚は通常の剣では傷をつける事も容易ではないと、何かの書物に書いてあったのを記憶していたのだが、目の前のドラゴンはその金色の体躯に無数の切り傷が見られ、鎧のような鱗は痛々しく剥がれ落ち、地面を赤黒く染め上げていた。
「僕らと同じ赤い血。彼がヴィルゴ。ドラゴン種族」
ウィルは目の前で地に伏せた瀕死のドラゴンを心痛な面持ちで見つめながら言った。
「そう。この方こそ、ドラゴン種族を統べる王の中の王。ドラゴンロード・ヴィルゴ様だ。ホントはすっごい長い真名をお持ちなんだけど、人間の舌では発音が難しいから省略したよ!」
半眼で睨みつけると「それはどうでもいいけどよ」とアルを無視して俺は口を開く。
「俺の最終試練ってこのドラゴンなわけだよな。でも死に掛けてんじゃん。これはそうすると、つまりは……」
答えがまとまっていない頭を抱えた俺の後ろにいたロガが、隣に立ち並ぶ。いつもなら厄介ごとには自分から近づかない性格のロガにしては珍しい、と目を微かに見開いた。
「そうだね、あっちの可愛らしいけど、性格悪そうなお嬢さんが相手になるよね。というわけで、頑張れ、レズリー! オレは物陰に隠れて応援してるからっ~!」
言うや否や、ロガは一目散に遠くの岩陰に向かって駆け出して行った。
「あっ、てめっ、この、ロガ! お前、やっぱりそれかよっ」
「まあでも、どのみち、僕らでどうにかしないとね。君はこの試験を合格しなくちゃいけないんだ。僕のためにマジックナイトを目指すんだろ?」
ウィルは不全とした態度で、あたかも当然のことのように言ってのける。俺はウィルの正直で不全とした態度をとる彼のクールな一面も気に入っている。俺は、鼻で笑って隣に立つウィルを見つめると不適な笑みを見せた。
「言ってくれるな、ウィル。でもたしかにお前の言う通りだ。アル、あんたも力を貸してくれ」
「言い方がアレだけど、このままではヴィルゴ様の命が危うい。ウィルのこともあるし、今回は仕方ないから手伝ってあげるよ、騎士見習い君」
アルは小さな丸い体、全体を使って半眼で俺を見上げてきた。いちいちうるせぇアルマジロだな、とニッと口角を持ち上げる。
「ウィル、お前はヴィルゴの回復と俺たちのサポートに回ってくれ。アルは攻撃系魔法で敵の動きを撹乱してくれ。まだあの女がどんな手を使ってくるかわからないからな。向こうが動く前に先手を討ってやろうぜ」
「わかった」とウィルに続くようにアルも「了解」と言葉を繋いだ。
俺はニッと白い歯を見せると、パシンッ、と左の平に右手の拳を叩きつけた。左側腰辺りで未だ眠っている剣の柄に手を添える。鉄と鞘が擦れる音を発しながら、抜刀した。カルス師匠に教わった初心の剣の構えから始まり、深呼吸をする。ここからは俺だけにしかできない、俺の剣技をお見舞いしてやる。
「うしっ、やるか!」
逆にそれが不気味だと、不安に思いながら俺たちは山頂に到着した。山頂付近はとても広く、風が吹き荒れ、鋭い牙のような岩に囲まれた場所だった。
「この辺りは岩には鉄が多く含まれていてね、鉄はとても貴重だから時折、鉄を採掘しに訪れるんだが、今日はやけに静かだ。いつもなら魔物がその辺を我が物顔でうろついているのに。嫌な予感がするよ」
アルは辺りを警戒しながら独り言のように話した。
それは俺もウィルも感じていた、奇妙な違和感だった。ロガも妙に落ち着きな、く俺の後ろで怯えながら足を進めている。
ロガは何処に行っても落ち着きないが。
だが、確かに魔物はいる。しかし、魔物たちの姿は見当たらない。息を潜めて怯えているような気配だ。
ケツァルコルツ山脈が普段、どういう雰囲気なのかは知らないが、これは異常事態であることは間違いないのだろう。
俺たちはさらに奥に進むと、突如、地響きと怒声が空気を振動させて伝わってきた。何者かが戦っているようだ。俺は駆け出し、それに続くようにウィルたちも俺に続いてた。
「あら、もう着いちゃったの? 意外と早かったのね、ウィリアムちゃん。もう少しでこの巨大ドラゴンちゃんを殺せたのに」
『――っ! 気をつけよ、人の子よ。この者の強さは尋常ではない!』
「――ヴィルゴ様!」
ヴィルゴと呼ばれたそれは、巨大な体躯と四枚の翼を持つ金色のドラゴンだった。ドラゴンの皮膚は通常の剣では傷をつける事も容易ではないと、何かの書物に書いてあったのを記憶していたのだが、目の前のドラゴンはその金色の体躯に無数の切り傷が見られ、鎧のような鱗は痛々しく剥がれ落ち、地面を赤黒く染め上げていた。
「僕らと同じ赤い血。彼がヴィルゴ。ドラゴン種族」
ウィルは目の前で地に伏せた瀕死のドラゴンを心痛な面持ちで見つめながら言った。
「そう。この方こそ、ドラゴン種族を統べる王の中の王。ドラゴンロード・ヴィルゴ様だ。ホントはすっごい長い真名をお持ちなんだけど、人間の舌では発音が難しいから省略したよ!」
半眼で睨みつけると「それはどうでもいいけどよ」とアルを無視して俺は口を開く。
「俺の最終試練ってこのドラゴンなわけだよな。でも死に掛けてんじゃん。これはそうすると、つまりは……」
答えがまとまっていない頭を抱えた俺の後ろにいたロガが、隣に立ち並ぶ。いつもなら厄介ごとには自分から近づかない性格のロガにしては珍しい、と目を微かに見開いた。
「そうだね、あっちの可愛らしいけど、性格悪そうなお嬢さんが相手になるよね。というわけで、頑張れ、レズリー! オレは物陰に隠れて応援してるからっ~!」
言うや否や、ロガは一目散に遠くの岩陰に向かって駆け出して行った。
「あっ、てめっ、この、ロガ! お前、やっぱりそれかよっ」
「まあでも、どのみち、僕らでどうにかしないとね。君はこの試験を合格しなくちゃいけないんだ。僕のためにマジックナイトを目指すんだろ?」
ウィルは不全とした態度で、あたかも当然のことのように言ってのける。俺はウィルの正直で不全とした態度をとる彼のクールな一面も気に入っている。俺は、鼻で笑って隣に立つウィルを見つめると不適な笑みを見せた。
「言ってくれるな、ウィル。でもたしかにお前の言う通りだ。アル、あんたも力を貸してくれ」
「言い方がアレだけど、このままではヴィルゴ様の命が危うい。ウィルのこともあるし、今回は仕方ないから手伝ってあげるよ、騎士見習い君」
アルは小さな丸い体、全体を使って半眼で俺を見上げてきた。いちいちうるせぇアルマジロだな、とニッと口角を持ち上げる。
「ウィル、お前はヴィルゴの回復と俺たちのサポートに回ってくれ。アルは攻撃系魔法で敵の動きを撹乱してくれ。まだあの女がどんな手を使ってくるかわからないからな。向こうが動く前に先手を討ってやろうぜ」
「わかった」とウィルに続くようにアルも「了解」と言葉を繋いだ。
俺はニッと白い歯を見せると、パシンッ、と左の平に右手の拳を叩きつけた。左側腰辺りで未だ眠っている剣の柄に手を添える。鉄と鞘が擦れる音を発しながら、抜刀した。カルス師匠に教わった初心の剣の構えから始まり、深呼吸をする。ここからは俺だけにしかできない、俺の剣技をお見舞いしてやる。
「うしっ、やるか!」
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