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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
森の中の黒い石碑
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朝食を済ませた俺たちは火の始末をした後、雪と氷の森に足を踏み入れた。
ザクッ、ザクッ、と長靴で踏み込む度に氷の霜が音を鳴らして、俺たちの侵入を森中に知らせる。
森は早朝の静けさで、入る前に聞こえていた鳥たちの鳴き声もほとんどなかった。
一歩踏み入れた瞬間から、この森はただの森ではない、五感がそう警鐘として知らせてくる。
雰囲気というか、辺りを占める魔力が他よりも高い気がした。それは魔法に精通するウィルやアル、ヴィルゴもその異様さを感じとっているようで、警戒を強める。
魔の森。そう敬称したほうがしっくりくるかもしれない。
それは突如として姿を現した。
地面を変形させてせり上がる巨大な木に幹が、激しい地鳴りと共に俺たちに襲い掛かってきた。
「――全員走れッ!」
ヴィルゴの号令に俺たちは一斉に森の奥へと走りだす。踏み入れた瞬間から引き返すことはできなくなっていた。先程あった入り口には鋭い棘を持つ植物の茎が肥大し、赤い美しいバラを咲かせていた。美しい赤だが、それはどこか生生しく、赤い血を思わせた。
完全な一方通行となってしまった薄暗い森の道を奥へとひた走る。
どどどっ、と揺れる地面の上を平行を保ちながら走っていく。すると、視界が開けて、広い場所に出た。上では風が吹いてるのか、さわさわと木々が擦れる音を聞いて、所々光が降り注ぎカーテンが揺れるように柔らかい雰囲気を醸し出していた。
しかし、神秘的なその空間を悠長にゆっくりと眺めている暇も今は与えられない。
巨大な幹の化け物が尚もしつこく追い立てて来る。そのとき、視線の隅に淡く光り輝く空間を見つけて、俺は反射的に叫んでいた。
光は外からの光で淡くその一帯のみを照らして、そこだけスポットライトが当てられているかのように視線が無意識にそれに集中する。天蓋からの光一身に集め照らし出されている巨大な黒い石碑が立っていた。
空洞に入ってから、あれほど激しく地響きを立てて追いかけてきていた茎の化け物たちは嘘のようになりを潜めている。
たしかにここはどこか神秘的な魔力が溢れた場所でもあった。
黒曜石を思わせる黒い石は艶があり、明らかに何者かの手によって加工されその場所に設置されたのだろうことが誰の目にしてもわかる。
一体、何千年その場所に存在してこの景色を眺めているのか。
しかし、風化の跡は見られず、苔などはこびり付いているものの、完全に当時のままを維持しているように見えた。
石碑には文字が刻まれており、アルはロガに抱っこされ、その文面に目を通した。
「やはり、古代エルフ族の言葉だね。『汝、魔の力携えし同胞であるならば、同等の力を示せ』と書いてある」
「同等の力?」
黒い石に触れながら、ウィルはあるの言葉を舌の上で転がすように繰り返す。
「どういう意味だ?」
俺は首を傾げて、ロガと目を合わせた。アルを抱っこしているロガは「さあ?」と肩を竦めた。俺たちの疑問に答えるようにアルが言葉を続ける。
「同等の力……つまり魔力の放出かな。おそらく、魔力そのものが鍵になってるってことだね」
「ヴィルゴ様は何かご存知ありませんか?」
「いや、すまない。我も遺跡に関しては話に聞いていた程度で詳しくは知らんのだ」
ウィルもヴィルゴも小さく頭を垂れる。
八方塞りか。そう思いながら、ふいに洞穴の奥に視線をやり、目を凝らすと、ある一箇所だけ妙に違和感のある景色が目に留まった。岩に囲まれた辺りでよく見なければ見逃していたかもしれない。一見、行き止まりのように見えるそこは影が出来ていてゴツゴツした岩でカモフラージュされているようだ。
「おいウィル! まだ奥に道が続いてるみたいだぞ。狭いが」
「行ってみよう!」
ウィルが言いながら、喜々として先に行こうとするから、慌てて腕を掴んで「先に行くな!」と叱り、俺が先頭に歩みを進める。
ザクッ、ザクッ、と長靴で踏み込む度に氷の霜が音を鳴らして、俺たちの侵入を森中に知らせる。
森は早朝の静けさで、入る前に聞こえていた鳥たちの鳴き声もほとんどなかった。
一歩踏み入れた瞬間から、この森はただの森ではない、五感がそう警鐘として知らせてくる。
雰囲気というか、辺りを占める魔力が他よりも高い気がした。それは魔法に精通するウィルやアル、ヴィルゴもその異様さを感じとっているようで、警戒を強める。
魔の森。そう敬称したほうがしっくりくるかもしれない。
それは突如として姿を現した。
地面を変形させてせり上がる巨大な木に幹が、激しい地鳴りと共に俺たちに襲い掛かってきた。
「――全員走れッ!」
ヴィルゴの号令に俺たちは一斉に森の奥へと走りだす。踏み入れた瞬間から引き返すことはできなくなっていた。先程あった入り口には鋭い棘を持つ植物の茎が肥大し、赤い美しいバラを咲かせていた。美しい赤だが、それはどこか生生しく、赤い血を思わせた。
完全な一方通行となってしまった薄暗い森の道を奥へとひた走る。
どどどっ、と揺れる地面の上を平行を保ちながら走っていく。すると、視界が開けて、広い場所に出た。上では風が吹いてるのか、さわさわと木々が擦れる音を聞いて、所々光が降り注ぎカーテンが揺れるように柔らかい雰囲気を醸し出していた。
しかし、神秘的なその空間を悠長にゆっくりと眺めている暇も今は与えられない。
巨大な幹の化け物が尚もしつこく追い立てて来る。そのとき、視線の隅に淡く光り輝く空間を見つけて、俺は反射的に叫んでいた。
光は外からの光で淡くその一帯のみを照らして、そこだけスポットライトが当てられているかのように視線が無意識にそれに集中する。天蓋からの光一身に集め照らし出されている巨大な黒い石碑が立っていた。
空洞に入ってから、あれほど激しく地響きを立てて追いかけてきていた茎の化け物たちは嘘のようになりを潜めている。
たしかにここはどこか神秘的な魔力が溢れた場所でもあった。
黒曜石を思わせる黒い石は艶があり、明らかに何者かの手によって加工されその場所に設置されたのだろうことが誰の目にしてもわかる。
一体、何千年その場所に存在してこの景色を眺めているのか。
しかし、風化の跡は見られず、苔などはこびり付いているものの、完全に当時のままを維持しているように見えた。
石碑には文字が刻まれており、アルはロガに抱っこされ、その文面に目を通した。
「やはり、古代エルフ族の言葉だね。『汝、魔の力携えし同胞であるならば、同等の力を示せ』と書いてある」
「同等の力?」
黒い石に触れながら、ウィルはあるの言葉を舌の上で転がすように繰り返す。
「どういう意味だ?」
俺は首を傾げて、ロガと目を合わせた。アルを抱っこしているロガは「さあ?」と肩を竦めた。俺たちの疑問に答えるようにアルが言葉を続ける。
「同等の力……つまり魔力の放出かな。おそらく、魔力そのものが鍵になってるってことだね」
「ヴィルゴ様は何かご存知ありませんか?」
「いや、すまない。我も遺跡に関しては話に聞いていた程度で詳しくは知らんのだ」
ウィルもヴィルゴも小さく頭を垂れる。
八方塞りか。そう思いながら、ふいに洞穴の奥に視線をやり、目を凝らすと、ある一箇所だけ妙に違和感のある景色が目に留まった。岩に囲まれた辺りでよく見なければ見逃していたかもしれない。一見、行き止まりのように見えるそこは影が出来ていてゴツゴツした岩でカモフラージュされているようだ。
「おいウィル! まだ奥に道が続いてるみたいだぞ。狭いが」
「行ってみよう!」
ウィルが言いながら、喜々として先に行こうとするから、慌てて腕を掴んで「先に行くな!」と叱り、俺が先頭に歩みを進める。
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