ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

クルスト遺跡

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 新たな道は人一人通れるほどの岩の切れ目に存在した。
 道先は薄暗く、灯りがなかれば足元が危険かもしれない。
 アルが徐に手をかざした。すると、俺たちの周辺を照らすように光の玉が生まれる。ほんのりだがこれで奥の道の先が確認できるようになった。
「助かる」
「これくらいはね。でも油断は禁物だよ。少しずつだがこの奥から強い魔力を感じる」
 俺は頷き、傍らにいるウィルの顔を見て、そっと手を掬うように握った。一瞬驚いたように目を見開いたが、それはすぐさま安堵した柔らかい表情へと変わる。
 慎重に前に進みながら、次第に暗かった道の先に光が見えはじめた。
 俺とウィルは同時に顔を見合わせて瞬きを繰り返した。考えていることは同じで笑みが浮かぶ。
 ――出口だ。
 洞穴の中の細い道を突き進んだ先には、更なる絶景が望めた。
「う、わぁ……綺麗。レズリー、ここって洞穴の中だよね?」
「ああ、そのはずだ」
「にしては、綺麗過ぎるっしょ」
 いつのまにか俺の隣に立っていたロガが言った。その腕にはアルをギュッと抱っこし続けている。
 アルはもう諦めて成すがままという低だ。
 森の奥に開けた青と緑のコントラストを際立たせた巨大な湖のような絶景が広がっていた。
 上部から流れる大量を水が滝となって青みを含んだ泉へと落ちていく。澄んだ水が段々畑のように連なり、チロチロと水音を湛えながら右往左往へ流れている。
 淡い光と、青と、緑が絶妙なバランスで洞窟内に展開されて、まるで絵画を見ているようだと錯覚させる。
 そして、その絶景の中にその遺跡は静かに佇んでいた。
 遺跡は弦や苔にビッシリと包まれるように緑と赤や黄色といった花がその姿を着飾っていた。
 何の変哲もない石造りの建造物だ。しかしその遺跡からは夥しいほどの魔力の流動を感じた。
 それは森の入ったときから感じている感覚とまったく同じだった。
「ここが【クルスト遺跡】で間違いないみたいだな……ウィル? どうした?」
「……っ、なんだか、胸が、締め付けられるよう、な……っ」
「――ウィル!?」
 ガクンッ、と膝から崩れたウィルを何とかぎりぎりで腕で支えた。「ありがとう」という言葉もどこか苦しそうだ。顔色も悪い。
「アル! ヴィルゴ!」
「もしかして、ウィルの中の禁忌の書が反応しているのかもしれない。ヴィルゴ様」
「うむ。だが、ウィルを連れて行かなくてはここまで来た意味がない。ウィル、もう少し耐えてくれ」
 はぁはぁ、と息を乱しながら、ウィルは「……はい」とか細い声で返事した。
 俺はウィルの足の裏に腕を回して身体を抱き抱えた。いつもなら「恥ずかしいっ」と文句を言う彼だが相当辛いのだろう。俺の胸に頭を預けて意識も朦朧としているようで、俺の声も聞こえているのかもわからない。
 それでも俺は抱きかかえるウィルを腕に力を込めてギュッ、と抱き締めて、遺跡の中へと入った。
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