ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

昔話

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 その後、俺たちは遺跡の内部を調べたが、あの怪しい装置以外は何も見つからず、俺たちは帰還を余儀なくされた。
 一旦は帰還し、ウィルの体調を見ながら後日、ロミロアを引き連れて、改めてここへ訪れるという話でまとまった。

「よし。これでこの遺跡とロミロアの研究室は繋がったはずだ。これからは必要に応じて自由に行き来が出来るはずだよ。帰りもこの時空ゲートを利用すればいい。ヴィルゴ様には一旦王都へ向うことになりますが……」
「我は構わぬ。久々にジルハルドにも顔を見せにいくとしよう」

 その言葉から、ヴィルゴとジルハルド国王は旧知の仲のようだ。
 この人(人じゃないが)、一体いくつなんだ?
 この世界にいると人間が存在しないから年齢軸がバグる。

「結局、ウィルの中から禁断書を取り出すことは出来なかったね」

 ロガが眠るウィルを心配そうに見つめながら言った。

「だが、収穫はあったよ。あの映像から推測するに、ヴァルマという人物がアクネリウスを狂気に変えた切っ掛けだったということがね。王都に戻ったら早速調べてみるよ。ロガ、君にも手伝ってもらうよ」
「はい、ジークさん」
「――いや、その必要はない」

 喜々として返事を返したロガの背後でヴィルゴの言葉が割り込んだ。その表情は神妙な面持ちで、どこか気落ちをしているように見えた。

「……ヴィルゴ様、あんた、何か知ってるんですよね? あの映像を見てから様子が可笑しかった」

 俺の態度にアルが叱咤するが、無視した。
 自分でも情けないと思うくらいに、今の俺には余裕がなかった。
 腕の中のウィルのぬくもりだけが、俺の理性を辛うじて繋ぎ止めてくれているに過ぎない。

「構わない、アル。レズリーが我に憤りを感じるのも理解できる」

 ――全て話そう。
 そう言って、ヴィルゴが一度瞼を閉ざし、再び金色の瞳を俺たちに向けた。

「ヴァルマは、アクネリウスの友人だった男だ。だが、数千年以上前に戦死している」
 ――少し昔話をしようか。

 言葉を切り出したヴィルゴは懐かしそうな、憂いを帯びた表情を見せながら、ゆっくりと語りだした。

 今から千年以上昔、ヴィルゴはこの森でまだ幼いアクネリウスと出逢ったのだという。
 多種族に父と兄弟を殺され、自分の手を引いていた母もいつの間にか事切れていたらしい。
 森を彷徨っているところをヴィルゴが見つけ、保護したそうだ。
 最初は敵対心を見せて反抗されたそうだが、次第に打ち解けていき、ヴィルゴに懐くようになった。
 同時に、北の地の戦争はさらに激化していき、もはやこの地に希望はないと悟り、ヴィルゴはこの背に幼いアクネリウスを乗せて北の地を脱したのだ。

「それで、こちら側の大陸に渡ったのですね」
 アルの言葉にヴィルゴは頷いた。
 戦争の激しさは、直接目の当たりにしたわけではないが、その当時の惨状を今に残す数々の死者たちが物語っている。
「アクネリウスは研究熱心なエルフ族でな、たった一つの事柄を丁寧に、慎重に、さらにその先までも知りえようと、文献を広げ、視野を広げていった。だがやはり、エルフ族というだけで苛まれ、あの子も相当辛い目にあったことだろう。悪質な多種族からの虐めにもあってな。我は常に側に居てやれることは出来なかったゆえ、よく怪我をして帰ってきていた。アクネリウスもそれに慣れってしまっていたのか、自分が我慢すればいいと、あの子は諦めていた」

 そんなときだった、ヴァルマとアクネリウスが出逢ったのは。
 切っ掛けは虐めの現場を目撃したヴァルマが咄嗟に助けに入ったことからはじまったようだ。
 それから二人はともに過ごすようになった。
 ヴァルマはアクネリウスのボディーガードとして、研究を手伝っていたようだ。
 楽しそうだったよ、とヴィルゴは昨日のことのように微笑み、その表情は柔らかい。
 あれほど懐いていた幼子が手を離れ、少々、寂しく思うほどな、と最後は苦笑くしていたけれど。

「ある日、ヴァルマがマジックナイトになると我の試練を挑みにやってきた。結果は……、レズリーよ、おそらく実力はお前と同等くらいだろう。ヴァルマは見事マジックナイトとなった。それからしばらく二人は共に過ごしていたが、ある日、全マジックナイトたちに召集がかかった。多種族の乱戦に国からの要請で駆り出されたのだ。それが、私がヴァルマを見た最後となってしまった。あの映像を見て、驚いた。まさか、アクネリウスも戦場へ出向いていたとはな……」

 そして、アクネリウスはヴァルマの最後を看取った。悔しさと、絶望をその身に宿して。

「もし、本当にアクネリウスが生きているのなら、我は救ってやりたいのだ。育ての父として……我が子をこの手で」

 ヴィルゴの最後の言葉を口にしたときの表情は、まさに我が子を大切に思う、父親の顔だった。
 そして、決意の顔だった。
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