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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
ヴァルマという男
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目の前に現れたのは巨大な機械装置だった。とはいっても、この世界に”機械”という概念があるのかはわからないが。
魔法文明のこの世界において珍しい。アルもヴィルゴも首を傾げながら装置を観察、恐るおそる指先でなぞるように触れていく。
ヴィルゴの言っていた修練場とは明らかに異なるこの現状に、俺もロガも目を見合わせた。
まるでここは現代の研究所のようだ。
エルフ族は魔法だけではなく科学にも精通していたのか? この魔法世界で?
ウィルを抱えたまま装置中央へ立つと、足元がポゥ、と光を放った。
ブオォン、という異音を発しながら、突然装置が起動を開始し、ウィルの身体が再び光を帯びて、中の禁断書が反応を示した。
禁忌の書。アクネリウスの記憶がウィルという媒体をもって再生、再現される。
ふいに俺が抱えているウィルの全体重がなくなった。ウィルの身体が宙に浮いたからだ。わけがわからないまま、俺はウィルの身体を再び抱き寄せようとしたしたとき、背後から腕に邪魔された。ヴィルゴだった。
俺の抵抗の言葉はヴィルゴの真剣な声音と視線で遮られてしまう。
そのとき、気を失っていたウィルが言葉を発した。はじめは擦れたか細い声だった。その声は次第に俺の耳にも聞こえるほど、はっきりと言葉を紡いだ。
「……マ……ヴァルマっ、私を……置いていかないでくれっ――」
「――っ?!」
――ヴァルマ? 男の、名前?
聞いたことのない名前だった。ロガに視線で訴えてみたが、ロガも心当たりはないらしい。
俺の知らないおそらく、男の名前。恋人の口から見知らぬ男の名前を聞いて、嫌な気分になった。腹のそこから湧き出す、不快な感情が溢れそうになる。
視界が波紋を描いたように歪む。
目の前に見知らぬ男が一人、地面に倒れた男の身体を支えるように抱え、何かを叫んで涙を流している。
音や音声はなかった。あるのは映像のみだ。
まるで映画のワンシーンの中へ入り込んだように錯覚させた。
男たちの周りは炎が燃え盛り、空はオレンジ色に染め上げていた。灰色の雪がチラチラとちらつき、地面に降り積もっていく。
遠くに村が見える。村も全域を炎に飲み込まれている。
――あの村はまさか……ということは、この男は。
「……そうか……そういうことか……」
口を手で覆い、囁くようなヴィルゴの声が俺に耳に届いた。
ヴィルゴは何かを知っているのかもしれない。
そう思い、声を掛けようと口を開いたとき、映像が歪みを生じて、消えうせた。同時にウィルを包んでいた光が止み、重力を失い浮かんだ身体が、地面に落下しそうになる、寸でのところで意識のないウィルを再びこの腕に抱き抱え、取り戻した。
「ウィルっ、ウィルっ!」
「……」
ウィルからの反応はなく、完全に意識を失っているようだ。俺は奥歯を噛み締めた。
しかし、呼吸はある。
心臓も、動いている。ドクン、ドクン、と貴重なその臓器が身体全体に血を巡らせている。
ただ意識を失っているだけならいい。だが、ひたひたと不安だけが降り積もる。
ウィルの声が聞きたいと思った。
他でもない。俺の名前を呼んで欲しい。
今は、それだけが願いだった。
魔法文明のこの世界において珍しい。アルもヴィルゴも首を傾げながら装置を観察、恐るおそる指先でなぞるように触れていく。
ヴィルゴの言っていた修練場とは明らかに異なるこの現状に、俺もロガも目を見合わせた。
まるでここは現代の研究所のようだ。
エルフ族は魔法だけではなく科学にも精通していたのか? この魔法世界で?
ウィルを抱えたまま装置中央へ立つと、足元がポゥ、と光を放った。
ブオォン、という異音を発しながら、突然装置が起動を開始し、ウィルの身体が再び光を帯びて、中の禁断書が反応を示した。
禁忌の書。アクネリウスの記憶がウィルという媒体をもって再生、再現される。
ふいに俺が抱えているウィルの全体重がなくなった。ウィルの身体が宙に浮いたからだ。わけがわからないまま、俺はウィルの身体を再び抱き寄せようとしたしたとき、背後から腕に邪魔された。ヴィルゴだった。
俺の抵抗の言葉はヴィルゴの真剣な声音と視線で遮られてしまう。
そのとき、気を失っていたウィルが言葉を発した。はじめは擦れたか細い声だった。その声は次第に俺の耳にも聞こえるほど、はっきりと言葉を紡いだ。
「……マ……ヴァルマっ、私を……置いていかないでくれっ――」
「――っ?!」
――ヴァルマ? 男の、名前?
聞いたことのない名前だった。ロガに視線で訴えてみたが、ロガも心当たりはないらしい。
俺の知らないおそらく、男の名前。恋人の口から見知らぬ男の名前を聞いて、嫌な気分になった。腹のそこから湧き出す、不快な感情が溢れそうになる。
視界が波紋を描いたように歪む。
目の前に見知らぬ男が一人、地面に倒れた男の身体を支えるように抱え、何かを叫んで涙を流している。
音や音声はなかった。あるのは映像のみだ。
まるで映画のワンシーンの中へ入り込んだように錯覚させた。
男たちの周りは炎が燃え盛り、空はオレンジ色に染め上げていた。灰色の雪がチラチラとちらつき、地面に降り積もっていく。
遠くに村が見える。村も全域を炎に飲み込まれている。
――あの村はまさか……ということは、この男は。
「……そうか……そういうことか……」
口を手で覆い、囁くようなヴィルゴの声が俺に耳に届いた。
ヴィルゴは何かを知っているのかもしれない。
そう思い、声を掛けようと口を開いたとき、映像が歪みを生じて、消えうせた。同時にウィルを包んでいた光が止み、重力を失い浮かんだ身体が、地面に落下しそうになる、寸でのところで意識のないウィルを再びこの腕に抱き抱え、取り戻した。
「ウィルっ、ウィルっ!」
「……」
ウィルからの反応はなく、完全に意識を失っているようだ。俺は奥歯を噛み締めた。
しかし、呼吸はある。
心臓も、動いている。ドクン、ドクン、と貴重なその臓器が身体全体に血を巡らせている。
ただ意識を失っているだけならいい。だが、ひたひたと不安だけが降り積もる。
ウィルの声が聞きたいと思った。
他でもない。俺の名前を呼んで欲しい。
今は、それだけが願いだった。
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