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第2章 ルシェルタリア国編
20話 治療と休息
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「で、誰?あの子・・・」
僕達が無言で見つめる先には森の中でも一際目立つ大木がある。問題はその根元の幹の中。幹の中の人がひとりやっと入れるほどの狭い空間にひっそりと置かれている結界の魔道具にもたれ掛かるようにして眠る一人の少女。
当然、見覚えなどあるはずもない。
ふと、リンがヒナさんに問いかける。
「ヒナ、この森の結界って元から人間が入ってこれないようになっていたのではないの?」
「正確には魔力が人間並にしか無いものは惑うようにしてあるの。だから見た感じ人間のようだけど、シロナの例もあるから違う種族の可能性もあるわ」
そんな2人の話に口を挟むようにして僕は言う。
「あの娘連れていきますか?怪我をしているようですし・・・」
ヒナさんは少し考え込んだ後に好きにすればいい、と言ってくれた。
僕は、ここでヒナさん達に救われた。だから見捨てたくない。そう思う。
足早に少女の元へ駆け寄る。結界の魔道具が近くにあるせいなのかここは魔力の淀みが少ない。
大樹の根元の洞の中へと足を踏み入れると暖かい魔力に身を包まれるような感覚がする。
この森の中でも一番古くて大きなこの木には長い年月をかけて魔力がたまっているのだ。その魔力を少し利用してこの魔道具は結界を張っている。
魔道具にもたれかかるようにして気を失っている少女には幸いにも大きな命につながるような怪我は見られない。魔力と体力の枯渇を引き起こし気を失っているだけのようだ。
ふと、僕は目の前の少女の顔を見た。薄汚れてはいるがとても綺麗な顔をしている。ヒナさんとは少し違う感じの可愛さだなぁ、と思った。
「よいしょっ」
眠るようにして気を失っている彼女の手をとって背中に背負う形にして持ち上げる。情けないがいわゆるお姫様抱っこを出来るほど僕には力がない為だ。
持ち上げた少女の体は想像以上に軽く、シロナ1人でも洞の中から運び出すことが出来た。慎重に少女を壁にぶつけたりしないようにして運び出すと影の中にいるユキに呼びかける。
「ユキ、ユキ。この子を運びたいから手伝ってくれる?」
今まで念話を使っていたが、僕が普通に話しかける分にはユキにちゃんと聞こえているらしい。
『うんー!分かったっ』
元気よく返事をして飛び出してきたユキに少女と僕が乗れる大きさにまでなってもらい、背中にまたがる。
ふわふわの毛皮から少女が滑り落ちていかないようにしっかりと抱える。意識を失っている人の体は案外支えるのが難しい。
「ヒナさん、すみません。治療をしてあげたいので先に戻らせてもらいます」
「わかったわ。私たちは設置が終わったら帰ることにする」
ヒナさんは手元に集中したままこちらを見ずに答える。
あまり、この子を連れて帰ることに賛成ではないのかもしれない。明らかに訳ありの人間と関わることに抵抗があるのだろう。
それでも、僕は放っておく事なんてしたくない。自分が救ってもらえたんだから、自分も誰かを救ってあげたい。
心の中でそう決意し、ユキに帰り道を急いでもらう。
腕の中にいる少女は魔力を使い果たして気を失っている。早く家に帰り、暖かいベットで休ませてあげないと。
森を駆けるユキから振り落とされないように影を使って自分と少女を固定する。その状態のまま彼女の体中にある無数の小さな傷に【ヒール】をかけていく。顔から腕、足などに木でひっかいたような傷や切り傷が光に包まれる。僕の魔法ならばこの程度の傷はあとも残らずに治る。
僕達は少女の顔から苦痛の色が取れた頃になってようやく家へとたどり着いた。けが人もいるのでユキも本来のスピードを出せなかったせいで行きよりだいぶ時間がかかっている。
僕はユキの背中から飛び降りると子犬サイズに戻ったユキのやわらかい頭をわしゃわしゃと撫でてあげる。ユキも嬉しいのか僕の手に頭を押し付けてきてもっともっと、と言っているかのようだ。
「ありがとうユキ、助かったよ」
『いいよー!でも、ユキ疲れたから、寝る!』
「うん。またご飯になったら起こすね」
ユキはそのまま僕の影に飛び込んで消えた。
影の中の仕組みはどうなっているのだろうか。
そんなことを考えつつもシロナは家の新しく結界の施された扉を開ける。そして、未だに意識を取り戻さない少女を家の奥へと運んでいく。
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空いている部屋を適当に選び、置いてあったベットに少女を寝かしつける。
傷はもう見当たらないので大丈夫だろう。服はまだ汚れたままだったが女性の服を脱がすことなんてできないのでそのままにしてある。【クリーン】の魔法だけかけておこう。
僕は机の上に置いた水の入った桶に布を浸し、水が滴らない程度にまで絞る。そのまま光をうまく調節して少し布を温める。少女の汚れを拭き取ってあげようと思い、冷たいままだと可愛そうだと思ったから。
「ごめんなさい、少しだけ失礼します」
小さな声でつぶやきながら顔、首、腕と主だって汚れているところを暖かい濡らした布で綺麗にしていく。服とかはめくらずに、見えているところだけを。
桶の水を2回ほど変える頃には少女の姿は見違えるほどに綺麗になっていた。汚れを拭き取った後に見ると、改めて少女の美しさに気付かされる。
背中に流れる金色の髪と同じ色の長いまつげに、小さな鼻。幼さの中にどことなく気品を感じさせるような顔立ちをしている。
どうしてこんな森の中にいるのだろう。
そうシロナが思ってしまうほどに場違いなオーラを醸し出していた。
この少女は何者か、なぜ人間がこの森にいるのか、不明な点が多すぎる。だが、それはおいおい調べてゆけばわかることだ。
この少女にはヒナさんの魔力回復薬を飲ませてあるのできっともう大丈夫なはず。心無しか顔の血色も良くなって来ていると思う。
明日の朝には目を覚ましているだろうと考え、部屋の小さなテーブルセットに水差しとコップを置いてそっと部屋を出た。
急を急ぐ状態ではなくなったのであとは少女の目覚めを待つことにする。きっと、明日の朝には起きれるはず。まずは少女に話を聞いてからこれからのことを決めよう。
そろそろヒナさんとリンが帰ってくる頃だと思うのでまた助言をもらえたらいいな。
そんなことを思いながら僕は自分の部屋へと向かい足を進めた。
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※作者コメントです。興味無い方はスルーで大丈夫です!
この度はお気に入り200突破ありがとうございます!
若干遅れており、亀投稿になってきてしまっていますがこれからも書き続けていきますので読んでいただけたら幸いです^^
お気に入りやコメントに毎日励まされております!
いつも本当にありがとうございます!
楪 ひいろ
「で、誰?あの子・・・」
僕達が無言で見つめる先には森の中でも一際目立つ大木がある。問題はその根元の幹の中。幹の中の人がひとりやっと入れるほどの狭い空間にひっそりと置かれている結界の魔道具にもたれ掛かるようにして眠る一人の少女。
当然、見覚えなどあるはずもない。
ふと、リンがヒナさんに問いかける。
「ヒナ、この森の結界って元から人間が入ってこれないようになっていたのではないの?」
「正確には魔力が人間並にしか無いものは惑うようにしてあるの。だから見た感じ人間のようだけど、シロナの例もあるから違う種族の可能性もあるわ」
そんな2人の話に口を挟むようにして僕は言う。
「あの娘連れていきますか?怪我をしているようですし・・・」
ヒナさんは少し考え込んだ後に好きにすればいい、と言ってくれた。
僕は、ここでヒナさん達に救われた。だから見捨てたくない。そう思う。
足早に少女の元へ駆け寄る。結界の魔道具が近くにあるせいなのかここは魔力の淀みが少ない。
大樹の根元の洞の中へと足を踏み入れると暖かい魔力に身を包まれるような感覚がする。
この森の中でも一番古くて大きなこの木には長い年月をかけて魔力がたまっているのだ。その魔力を少し利用してこの魔道具は結界を張っている。
魔道具にもたれかかるようにして気を失っている少女には幸いにも大きな命につながるような怪我は見られない。魔力と体力の枯渇を引き起こし気を失っているだけのようだ。
ふと、僕は目の前の少女の顔を見た。薄汚れてはいるがとても綺麗な顔をしている。ヒナさんとは少し違う感じの可愛さだなぁ、と思った。
「よいしょっ」
眠るようにして気を失っている彼女の手をとって背中に背負う形にして持ち上げる。情けないがいわゆるお姫様抱っこを出来るほど僕には力がない為だ。
持ち上げた少女の体は想像以上に軽く、シロナ1人でも洞の中から運び出すことが出来た。慎重に少女を壁にぶつけたりしないようにして運び出すと影の中にいるユキに呼びかける。
「ユキ、ユキ。この子を運びたいから手伝ってくれる?」
今まで念話を使っていたが、僕が普通に話しかける分にはユキにちゃんと聞こえているらしい。
『うんー!分かったっ』
元気よく返事をして飛び出してきたユキに少女と僕が乗れる大きさにまでなってもらい、背中にまたがる。
ふわふわの毛皮から少女が滑り落ちていかないようにしっかりと抱える。意識を失っている人の体は案外支えるのが難しい。
「ヒナさん、すみません。治療をしてあげたいので先に戻らせてもらいます」
「わかったわ。私たちは設置が終わったら帰ることにする」
ヒナさんは手元に集中したままこちらを見ずに答える。
あまり、この子を連れて帰ることに賛成ではないのかもしれない。明らかに訳ありの人間と関わることに抵抗があるのだろう。
それでも、僕は放っておく事なんてしたくない。自分が救ってもらえたんだから、自分も誰かを救ってあげたい。
心の中でそう決意し、ユキに帰り道を急いでもらう。
腕の中にいる少女は魔力を使い果たして気を失っている。早く家に帰り、暖かいベットで休ませてあげないと。
森を駆けるユキから振り落とされないように影を使って自分と少女を固定する。その状態のまま彼女の体中にある無数の小さな傷に【ヒール】をかけていく。顔から腕、足などに木でひっかいたような傷や切り傷が光に包まれる。僕の魔法ならばこの程度の傷はあとも残らずに治る。
僕達は少女の顔から苦痛の色が取れた頃になってようやく家へとたどり着いた。けが人もいるのでユキも本来のスピードを出せなかったせいで行きよりだいぶ時間がかかっている。
僕はユキの背中から飛び降りると子犬サイズに戻ったユキのやわらかい頭をわしゃわしゃと撫でてあげる。ユキも嬉しいのか僕の手に頭を押し付けてきてもっともっと、と言っているかのようだ。
「ありがとうユキ、助かったよ」
『いいよー!でも、ユキ疲れたから、寝る!』
「うん。またご飯になったら起こすね」
ユキはそのまま僕の影に飛び込んで消えた。
影の中の仕組みはどうなっているのだろうか。
そんなことを考えつつもシロナは家の新しく結界の施された扉を開ける。そして、未だに意識を取り戻さない少女を家の奥へと運んでいく。
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空いている部屋を適当に選び、置いてあったベットに少女を寝かしつける。
傷はもう見当たらないので大丈夫だろう。服はまだ汚れたままだったが女性の服を脱がすことなんてできないのでそのままにしてある。【クリーン】の魔法だけかけておこう。
僕は机の上に置いた水の入った桶に布を浸し、水が滴らない程度にまで絞る。そのまま光をうまく調節して少し布を温める。少女の汚れを拭き取ってあげようと思い、冷たいままだと可愛そうだと思ったから。
「ごめんなさい、少しだけ失礼します」
小さな声でつぶやきながら顔、首、腕と主だって汚れているところを暖かい濡らした布で綺麗にしていく。服とかはめくらずに、見えているところだけを。
桶の水を2回ほど変える頃には少女の姿は見違えるほどに綺麗になっていた。汚れを拭き取った後に見ると、改めて少女の美しさに気付かされる。
背中に流れる金色の髪と同じ色の長いまつげに、小さな鼻。幼さの中にどことなく気品を感じさせるような顔立ちをしている。
どうしてこんな森の中にいるのだろう。
そうシロナが思ってしまうほどに場違いなオーラを醸し出していた。
この少女は何者か、なぜ人間がこの森にいるのか、不明な点が多すぎる。だが、それはおいおい調べてゆけばわかることだ。
この少女にはヒナさんの魔力回復薬を飲ませてあるのできっともう大丈夫なはず。心無しか顔の血色も良くなって来ていると思う。
明日の朝には目を覚ましているだろうと考え、部屋の小さなテーブルセットに水差しとコップを置いてそっと部屋を出た。
急を急ぐ状態ではなくなったのであとは少女の目覚めを待つことにする。きっと、明日の朝には起きれるはず。まずは少女に話を聞いてからこれからのことを決めよう。
そろそろヒナさんとリンが帰ってくる頃だと思うのでまた助言をもらえたらいいな。
そんなことを思いながら僕は自分の部屋へと向かい足を進めた。
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この度はお気に入り200突破ありがとうございます!
若干遅れており、亀投稿になってきてしまっていますがこれからも書き続けていきますので読んでいただけたら幸いです^^
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