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第2章 ルシェルタリア国編
30話 約束
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ヒナさんがどこにいるのか明確な場所はわからなかった。
でも、いつものヒナさんの部屋にいるだろうと思い、そこへと向かう。
半開きになっていた扉を開けると、やはりヒナさんはそこにいた。
椅子に座って不機嫌そうな顔で頬杖をついてこちらを向いている。
「・・・行くの?」
ヒナさんはやはり、不機嫌そうな声で一言言った。
「そのつもりです」
「言うと思ってた。シロナが行く必要はないよ。あれは私たちには関係ないことでしょ?」
「・・・僕は、リリーシャとリリーシャの大切な場所を救ってあげたいと思ったんです。・・・ヒナさんとリンに僕は救われました。その恩はいくら返しても返しきれません。そんな僕でも、誰かの為に何ができそうなんです、行かせてくれませんか?」
真っ直ぐに、ヒナさんの目を見て言葉を放つ。
不機嫌そうなその紫色の瞳が少しだけ揺れた気がする。
「恩を返そうとか、考えなくていいんだよシロナ。私は、私達は一緒にいられるだけでいいの。・・・だからお願い、いなくならないで」
一言一言、噛み締めるようにヒナさんは僕に話しかける。
2人がそう思ってくれているのは何となく僕自身も分かっている。
「・・・ヒナさん、ありがとうございます。それでも僕は、かつての僕みたいに困っている人を助けたいんです。それに、僕は絶対に、ここに帰ってきます。ここは僕にとっての唯一の居場所だから」
僕がそう告げると、ヒナさんはわかりやすく大きくため息をついた。
そして頬をわかりやすく膨らませて一言呟く。
「わからずや」
「僕のこれはヒナさん譲りです」
間髪入れずに僕もヒナさんに言い返す。
あきらめの悪さと、一度決めたことを曲げないのはヒナさんから学んだことだ。
僕のその返事を聞いたヒナさんは、もう一度小さくため息をつくと椅子から立ち上がる。
そして僕についてくるようにと告げて背を向けた。
僕も若干戸惑いつつもその後ろ姿を追いかける。
ヒナさんは部屋の奥の壁に手をあて、なにかを小さく呟いた。
一瞬、ヒナさんの魔力が手から溢れて壁を伝い次の瞬間にはそこに大きな空間が空いていた。
ヒナさんの部屋に隠された新しい部屋。
ヒナさんはその部屋にどんどん入っていくので僕も慌てて追いかける。
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ヒナさんが隠していた新たな部屋。
足を踏み入れるとその部屋は思っていたよりも広く、壁には様々な武器が掛けられていた。
あまりの壮観さに声が漏れる。
「凄いです、ね」
その一つ一つから魔力を感じる。
きっと、全てヒナさんが作ったものであろう。漂う魔力は慣れ親しんだヒナさんの物だった。
「シロナ、こっち」
さらに部屋の奥にあるクローゼットのような場所にヒナさんは進んでいく。手招きで僕を呼び、中へと進む。
「シロナちょっとこれ持ってて」
大量に掛けられた服の中からヒナさんがひょいひょいと、様々な服を取り出して僕に向かって放る。
「え、ちょっ!ヒナさん!?」
抗議の声もむなしく、両手にいっぱい服を抱えさせられてしまった。
サイズは全て僕が着ているものと同じくらい。
やがて服を漁るのをやめたヒナさんは両手に靴を持ちながら僕に声をかけてきた。
「こんなものか、一旦出るよ」
「は、はい」
両手にいっぱいの服を抱えた僕と靴を持つヒナさんはクローゼットから出て、ヒナさんに支持されるままにその服を部屋の中央に置いた。
部屋の中央にできた服の小山。
え?これ僕どうすればいいの?
そんな僕の思いが伝わっているのかいないのか、ヒナさんは無言のままだ。
靴をその山の脇に置いたヒナさんは、そのまま壁際まで行き1本の小さな杖を静かに取り外した。
黒く塗られたその杖は、細くて軽そうに見える。
ヒナさんはその杖を手に取り少しだけ悲しそうな目をして見つめ、大事そうに抱えた。
そしてその杖を握ったまま、僕の前までゆっくりと歩いてくる。
目が合うと、ヒナさんは優しく微笑みながら僕に杖を手渡し、口を開いた。
「シロナ、この杖ね、私の親友が昔使ってた物なの。私が作ったものなんだけど、きっとシロナを守ってくれると思う。だから、これを持っていって」
手渡されたその黒い杖は、だれかが使っていた痕跡が残されていた。しかし、とても丁寧に、大切に使っていたことがこの杖からは見て取れる。
真っ黒かと思っていたその杖の先には透明な魔法石がひとつ、取り付けられている。もちろん、傷など見当たらない。
「そんな大事なもの、僕が預かっていいんですか?ヒナさんにとっても大切なものなんじゃ・・・」
ヒナさんの親友。その人がどんな人なのか、僕は知らないけれどヒナさんにとって大切な人なのは間違いないはず。
そんな人の使っていた物、そんな大切なものを預かってしまっても良いのだろうか。
僕の不安そうな様子に気づいたのか、ヒナさんが頭をくしゃっと撫でる。
「シロナだから、渡すの」
僕の大好きな、優しい声。
勝手にここを離れると決めた僕をすごく、気遣ってくれているんだと思う。
「ありがとう・・・ございます。大切に使わせてもらいます」
「うん。でも、なるべく危ない事はしないでね」
「わかりました!!!」
僕の返事を聞いたヒナさんは、柔らかく微笑むと再び僕の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「あ、あそこの服も持ってっていいよ。【収納】使えば大丈夫でしょ?」
そして思い出したかのように服の山を指さして言う。
「あんなに沢山貰っていいんですか?持ってっていいなら貰いますけど・・・」
「いいよ、私はあのサイズ着れないし、加護とかついてる服の方が私も安心」
そう言うとヒナさんは僕から離れて再び山を漁り出す。
あれでもないこれでもないと、ブツブツ言いながら最終的に白い襟のついたシャツとゆったりとした黒の膝丈のズボン、黒いベストを取り出した。
「はい、これ着てシロナ」
笑顔でその服を渡してくるヒナさんに苦笑を返しつつ、渡された服に着替える。
着替えた服は、大きさが驚くほど僕にぴったりと合っていてとても動きやすい。
「凄いですね、ヒナさん!!!この服サイズがぴったりです」
嬉しくなってヒナさんの前でくるっと回ってみせる。
ヒナさんもなにかやりきったような顔でこちらに笑顔を向けてくれた。
そして手に赤いリボンを持ったまま僕に話しかける。
「自動調節機能付だからね、あと最後にリボンね。こっちおいで」
呼ばれるままにヒナさんのそばに寄ると、不意に前から抱きしめられる形になる。
一瞬、ヒナさんからハーブのような薬草のいい匂いがした。
そんなことを思っているとすぐに体が離れ、僕の首元でリボンを結び始める。
「はい、あとはこのローブとブーツはいてね。それで完成。うん、我ながらいい出来」
リボンを結び終わったヒナさんは横に置いてあった白いローブと、同じ色のブーツを僕に手渡す。
それを受取りながら僕は笑顔でヒナさんにお礼を伝える。正直自分はあまり服を選ぶのが得意ではないからだ。
それに、わざわざ僕のために特別に選んでくれたのだと思うと、自然と頬が緩む。
「ありがとうございます、ヒナさん」
「うん、可愛いよシロナ。攫われないか心配なぐらい」
可愛い、なのか。
でも、ヒナさんに言われるのはとても嬉しい。
ヒナさんはその後に、護身用と言って僕でも扱えそうな大きさの短剣を一つと、ナイフを一つ。
その他にも何かあった時のためにと様々な武器等を壁から外して僕の【収納】にしまうように促す。
今、僕は自分の【収納】に何が入っているのか全く検討がつきません。
ヒナさんお手製のポーションを何種類か貰いそれもしまう。
最後に先程手渡された杖をベルトに取り付けた専用のホルダーに入れて僕の旅装備は完成した。
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以下作者コメントです
Q.ユキどこいったの?
A.シロナの部屋のベットでグースカ眠っております。
やっと、やっとシロナの旅が始まるところまで来ました。ぐだぐだと長くなってしまい申し訳ありません。
次話から、シロナが森の外に飛び出します!
また、気づいた方もいらっしゃるかもしれませんがアイテムボックスの表記を【収納】に変えさせていただきました。この話の所まで全て変えたつもりですが、変わっていない箇所もあるかもしれません。
分かりにくくなってしまい、申し訳ありません。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
これからもシロナともどもよろしくお願い致します!
応援ありがとうございます!
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