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第3章 妖精女王と幼女の謁見
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周囲を飛び回るフィの姿に大興奮のユルヘンを放っておいて、私は少し今の状況を考えてみる。
この世界に来て初めての夜。
フィとユルヘンと三人?二人と一匹?で夜の森の奥にある泉に向かっている。
お腹の方は、ユルヘンが籠で持ってきた干した豆とか、甘酸っぱい干し葡萄みたいな物でだいぶ落ち着いている。
妖精のフィを妖精食いから助けたお礼を求めたところ、彼女の言葉は、色々言い訳をしていたけど、嘘に限りなく近いものだった。
結構一大決心をして助けたのに、それはないでしょ~っと思って問い詰めたら、フィはさらに言い訳を続け、最後には妖精女王へ直接言ってみてとか言い出した。
子供の失態を親に言いつけるようで、気分は良くないけど、でも何か貰えるチャンスを諦める程の贅沢は出来ない。
それに、妖精女王ってなんか神秘的で、ファンタジー全開で、会ってみたいじゃない?
どうせ、行くあてもないしね。
行くあてと言えばユルヘン。
彼の家もなかなかに厳しい状況で、上に三人も男の兄弟がいるおかげで食糧事情はハルと似たり寄ったり。しかもユルヘンの家はスヒァーの放牧がメインだから、直ぐに食べられるものを得ることは難しいのだそう。
スヒァーの毛刈を行って、その毛を加工して糸にする。何度も水洗いして、色を整えた糸を町などに持ち込んで銅貨に換え、そこでやっと商家で食料を購入するという流れなんだそうだ。
つまりは毛刈のシーズンで得た銅貨が全てなのだが、最近その売り上げが悪くなりそれが食べるものに直結したわけだ。これが農家だったら売れないならば、自分の家で消費すればいいから、ユルヘンの家に比べればまだ余裕があるらしい。
ユルヘンから聞いた話だと、私の家はこのあたりではまぁまぁ大きめな農家で、親族も多く、食料にはユルヘンの家程、困っていないみたいだけど、それでもあの姉と兄がいたら口に入らないんだから同じだよ・・・。
それでユルヘンがどうなったかというと、家に帰ったら家族で話し合いが行われていて、誰か一人を下働きとしてどこかに行かせるという話をドアの前で聞いてしまったそうだ。出て行くなら自分だと直感したユルヘンは、いつもハルに分けていた、食料をこっそり集めていた籠と、自分で修理した壊れかけのランプを持って、最後にハルに挨拶するために戻ってきたのだそうだ。
ハルに挨拶したら、一人で森にでも行って自給自足の生活をしようと思っていたと言う。無理でも自分の食い扶持がなくなれば家族は助かるという、けなげな話だった。本当にユルヘンは良い子だ。最後の挨拶するつもりが私まで家から追い出されていて、妖精食いに襲われているとは想像してなかったとは思うけどね。
「おっと、危なっ」
考え事をしながら、ただ緑色っぽい光を目標に歩いていたら、いつの間にか道から外れて、木の根がぼこぼこと土を押し上げている森の入り口まで来ていた。
頭上にも木が張り出して、ポボスとデイモスの異形な月明かりも弱まって薄暗い。
ユルヘンが使っていた壊れかけのランプは、さっき妖精食いを追っ払う時に振り回したせいで、故障中。ユルヘンは明るい所で見ないとわからないと言ってた。
「フィなんだから、森の奥に入るとは思っていたけど、暗いから気をつけてねハル」
自分も怖いくせに、ユルヘンが声をかけてくる。元のハルとユルヘンはとても仲がよかったんだろうな。たくさん兄弟がいる中での末っ子同士で、年齢はユルヘンがひとつ年上だけど、あの姉や兄よりもユルヘンとハルのがよほど兄妹していたんだろうな。
でも、もしユルヘンが今のハルの中には私がいて、本物のハルはもういないと言ったらどういう反応をするんだろう?
ハルを返せって泣きながら言われたら、本当に辛い。
「大丈夫だよユルヘン、そんなにごつごつしてないし」
「そう、なんにもない所で転ぶのがハルなんだから注意して、森は何があるか判らないんだから、魔物がいてもおかしくないんだし」
「魔物?」
「そう、半人半馬の魔物とか、ひとつ目の鬼とか、三本頭の蛇とか、夜の森はそんな魔物たちが堂々と歩いているって父さんから聞いたし」
ふむ、某大作RPGで言うとケンタウルスとか、サイクロプス、ヒュドラの事かな。ゲームの中では中級くらいだけど、今目の前に出てきたらボス以上だ。簡単に死ねる。
「それって、冒険者とかいないの、あの人たちが倒すんでしょ?」
なんとなく、冒険者はギルドとかに登録をしていて、そこからの依頼で魔物を駆除したり、たまには討伐とかもして、地域の治安を守っているんだと想像していたんだけど・・・。
「冒険者?冒険者って何?」
「え?剣とか魔法で魔物を倒してお金を稼ぐ人?とか・・・、村人の願いを聞いてくれて悪い人を成敗してくれる人?みたいな」
う~ん、私の中の冒険者という知識が曖昧だ。ファンタジー小説と、世直し時代劇みたいなのが混ざった変な感じの返答になってしまった。
私のそんな変な返答に、ユルヘンはかれにしては珍しく眉を曲げて、難しい顔をする。いつも優しそうな顔を向けてくれていたユルヘンから、そんな難しい顔をされるとドキドキする。
何かがバレたんじゃないかと焦る・・・。
「ねぇ、ハル、どこでそんな話を聞いたのさ?このホラント村から出た事もないし、外から来た人にハルは一回も会った事ないよね?なのに僕の知らない話をハルが知っているって何か、変だよ」
まっずい!なんとなくで喋っていたけど、やっぱりユルヘンとハルはとても仲良しで、お互いの事をよく知っていたんだ。そりゃバレるよ~。四六時中一緒にいた幼馴染が、いきなり初対面の異世界人になっていたら見た目一緒でもね
どう答えようか?へへへ~実は私はこの世界の住民じゃないんだよね~とか、びっくりした?実は私ハルじゃないんだよね?とか本当の事を言ったほうが良いのか、最近おなかの減りすぎで夢の中で見たのか本当の事なのか判らなくなってつい喋っちゃったとか、ごまかしたほうが良いのか、すぐに答えは出ない。
良い子のユルヘンを悲しませたくないけど、ごまかして後で知られるほうがもっと良くない気がする」
「あ、あのねユルヘン、本当はね・・・」
決定的な言葉が口から出ない。言ってしまえば後の説明はドンドンと流れる濁流の様に出来る筈なのに・・・。
「泉の妖精女王、フォンタインフィーのお膝元に堂々と人間が訪問とはいかれてやがる、魂抜かれて生ける人形にでもなりたいのかよ」
意を決してユルヘンに本当の事を言おうとした刹那、頭上から声がかかる。
森の木々が明かりを遮っているせいで、良く見えないけど、人と同じくらいの大きさの何かが空中高い場所に居る。
「なによケットシー、居候のあなたには関係ないでしょう!どうせ日がな一日だらだらしているだけの役立たずなんだから女王様の名前ですごんでも意味ないって!」
「成り立てのフィが生意気だぞ、我こそは代101代猫の王の・・・」
「あ~はいはい聞き飽きたわ、偉いのは親って話で自分はおちこぼれって話じゃない?聞かないわ、私は約束に基づいてこの人間を女王様に合わせるのだから」
道案内のフィと怒鳴りあうケットシーが空中から降りてくる。
つやつやの黒い毛並み、お腹の部分は白い毛で覆われている。猫特有のクリっとした瞳の色は黄金色の輝きをしていて、宝石の様。
大きさは私の片腕と同じくらいの長さと、胴の太さは同じくらい立派な大猫だ。
羽も無いのにゆらゆらと、長い二本の尻尾を揺らめかせて浮いている。
「ふんっこんな人間が女王の拝謁だと?フィの一族は人と馴れ合うとは聞いていたが、子供を謁見させるとはなにごとぞ」
「なによ?それはあんたら一族だって似たようなものじゃない?ベーメルングの誓いによって長い靴を貰ったあんたら一族は、永久的に人と融和していくって決めたんでしょう?」
ベーメルングの誓いとかは判らないけれど、長靴を履いた猫なら名前くらいは知っている。詳しくないけど、長靴を飼い主から貰った猫が恩返しをする話だったような?
昔から、猫と人間は仲良くやっていたという証左の様な童話だった、気がする。
「その誓いは先代の物で我は関係なし、それに女王への謁見と誓いとは無関係よ、なあそこな小娘よ、悪いことは言わん、女王との謁見なんぞ諦めてとっとと家に帰って寝てしまえ、そうでなければ謁見の後に我が後ろから頭をがぶりと噛んでしまうぞ」
横で、息を飲んだ様な音が聞こえたので見てみると、ユルヘンが青い顔してぶるぶると震えだしている。妖精さんなら見た目も可愛いし、何かあっても体も小さいから安心だけど、このケットシーは違う。立派な大猫で、わざと見せているのだろう、大きな牙も鋭く痛そうだ。本気で襲われたら、あっという間にわたし、殺されてしまいそうだ。
「あのね、ケットシーさん、私には帰る家も食べられる朝食も無いの、だからこのまま帰れって言われても、明日か明後日かお腹へって倒れちゃうだけなの、偶然?まぁ偶然ね、妖精さんを助けてお礼してくれるって言うんだから、貰ったっていいじゃない?別代わりにあなたがお礼をしてくれるって言うなら、私はどっちでもかまわないけど?」
「それは駄目、もう女王には知らせてしまったもの、ここで人間を連れていかないって言ったら私、うそつきになってしまうわ」
「だって、どうするケットシーさん?」
「ケットシー、ケットシー言うな人間、われには誇り高き名前、ダルマジロという名前があるのだ、女王の謁見は避けられまいが、無事に森から出れるとは思うなよ」
えらそうに名乗ったケットシーのダルマジロは、それだけ言うと走るより早く森の中へと消えてしまった。
「私も、人間、じゃなくて、ハルって名前なんだけどな・・・」
と、つぶやいてからハッとなる。この名前は私の名前じゃないよ。本当の名前は春風。でもそんな事、この世界の人は一人も知らないよね・・・。
「あんな奴、気にしなくていいから、女王様の泉までもう少しだし」
まだ青い顔しているユルヘンの指をとったフィの先導に導かれて、私は歩く。
なんか頭の中がもやもやして、すっきりしないけど、とにかく歩くだけ歩く。
この世界に来て初めての夜。
フィとユルヘンと三人?二人と一匹?で夜の森の奥にある泉に向かっている。
お腹の方は、ユルヘンが籠で持ってきた干した豆とか、甘酸っぱい干し葡萄みたいな物でだいぶ落ち着いている。
妖精のフィを妖精食いから助けたお礼を求めたところ、彼女の言葉は、色々言い訳をしていたけど、嘘に限りなく近いものだった。
結構一大決心をして助けたのに、それはないでしょ~っと思って問い詰めたら、フィはさらに言い訳を続け、最後には妖精女王へ直接言ってみてとか言い出した。
子供の失態を親に言いつけるようで、気分は良くないけど、でも何か貰えるチャンスを諦める程の贅沢は出来ない。
それに、妖精女王ってなんか神秘的で、ファンタジー全開で、会ってみたいじゃない?
どうせ、行くあてもないしね。
行くあてと言えばユルヘン。
彼の家もなかなかに厳しい状況で、上に三人も男の兄弟がいるおかげで食糧事情はハルと似たり寄ったり。しかもユルヘンの家はスヒァーの放牧がメインだから、直ぐに食べられるものを得ることは難しいのだそう。
スヒァーの毛刈を行って、その毛を加工して糸にする。何度も水洗いして、色を整えた糸を町などに持ち込んで銅貨に換え、そこでやっと商家で食料を購入するという流れなんだそうだ。
つまりは毛刈のシーズンで得た銅貨が全てなのだが、最近その売り上げが悪くなりそれが食べるものに直結したわけだ。これが農家だったら売れないならば、自分の家で消費すればいいから、ユルヘンの家に比べればまだ余裕があるらしい。
ユルヘンから聞いた話だと、私の家はこのあたりではまぁまぁ大きめな農家で、親族も多く、食料にはユルヘンの家程、困っていないみたいだけど、それでもあの姉と兄がいたら口に入らないんだから同じだよ・・・。
それでユルヘンがどうなったかというと、家に帰ったら家族で話し合いが行われていて、誰か一人を下働きとしてどこかに行かせるという話をドアの前で聞いてしまったそうだ。出て行くなら自分だと直感したユルヘンは、いつもハルに分けていた、食料をこっそり集めていた籠と、自分で修理した壊れかけのランプを持って、最後にハルに挨拶するために戻ってきたのだそうだ。
ハルに挨拶したら、一人で森にでも行って自給自足の生活をしようと思っていたと言う。無理でも自分の食い扶持がなくなれば家族は助かるという、けなげな話だった。本当にユルヘンは良い子だ。最後の挨拶するつもりが私まで家から追い出されていて、妖精食いに襲われているとは想像してなかったとは思うけどね。
「おっと、危なっ」
考え事をしながら、ただ緑色っぽい光を目標に歩いていたら、いつの間にか道から外れて、木の根がぼこぼこと土を押し上げている森の入り口まで来ていた。
頭上にも木が張り出して、ポボスとデイモスの異形な月明かりも弱まって薄暗い。
ユルヘンが使っていた壊れかけのランプは、さっき妖精食いを追っ払う時に振り回したせいで、故障中。ユルヘンは明るい所で見ないとわからないと言ってた。
「フィなんだから、森の奥に入るとは思っていたけど、暗いから気をつけてねハル」
自分も怖いくせに、ユルヘンが声をかけてくる。元のハルとユルヘンはとても仲がよかったんだろうな。たくさん兄弟がいる中での末っ子同士で、年齢はユルヘンがひとつ年上だけど、あの姉や兄よりもユルヘンとハルのがよほど兄妹していたんだろうな。
でも、もしユルヘンが今のハルの中には私がいて、本物のハルはもういないと言ったらどういう反応をするんだろう?
ハルを返せって泣きながら言われたら、本当に辛い。
「大丈夫だよユルヘン、そんなにごつごつしてないし」
「そう、なんにもない所で転ぶのがハルなんだから注意して、森は何があるか判らないんだから、魔物がいてもおかしくないんだし」
「魔物?」
「そう、半人半馬の魔物とか、ひとつ目の鬼とか、三本頭の蛇とか、夜の森はそんな魔物たちが堂々と歩いているって父さんから聞いたし」
ふむ、某大作RPGで言うとケンタウルスとか、サイクロプス、ヒュドラの事かな。ゲームの中では中級くらいだけど、今目の前に出てきたらボス以上だ。簡単に死ねる。
「それって、冒険者とかいないの、あの人たちが倒すんでしょ?」
なんとなく、冒険者はギルドとかに登録をしていて、そこからの依頼で魔物を駆除したり、たまには討伐とかもして、地域の治安を守っているんだと想像していたんだけど・・・。
「冒険者?冒険者って何?」
「え?剣とか魔法で魔物を倒してお金を稼ぐ人?とか・・・、村人の願いを聞いてくれて悪い人を成敗してくれる人?みたいな」
う~ん、私の中の冒険者という知識が曖昧だ。ファンタジー小説と、世直し時代劇みたいなのが混ざった変な感じの返答になってしまった。
私のそんな変な返答に、ユルヘンはかれにしては珍しく眉を曲げて、難しい顔をする。いつも優しそうな顔を向けてくれていたユルヘンから、そんな難しい顔をされるとドキドキする。
何かがバレたんじゃないかと焦る・・・。
「ねぇ、ハル、どこでそんな話を聞いたのさ?このホラント村から出た事もないし、外から来た人にハルは一回も会った事ないよね?なのに僕の知らない話をハルが知っているって何か、変だよ」
まっずい!なんとなくで喋っていたけど、やっぱりユルヘンとハルはとても仲良しで、お互いの事をよく知っていたんだ。そりゃバレるよ~。四六時中一緒にいた幼馴染が、いきなり初対面の異世界人になっていたら見た目一緒でもね
どう答えようか?へへへ~実は私はこの世界の住民じゃないんだよね~とか、びっくりした?実は私ハルじゃないんだよね?とか本当の事を言ったほうが良いのか、最近おなかの減りすぎで夢の中で見たのか本当の事なのか判らなくなってつい喋っちゃったとか、ごまかしたほうが良いのか、すぐに答えは出ない。
良い子のユルヘンを悲しませたくないけど、ごまかして後で知られるほうがもっと良くない気がする」
「あ、あのねユルヘン、本当はね・・・」
決定的な言葉が口から出ない。言ってしまえば後の説明はドンドンと流れる濁流の様に出来る筈なのに・・・。
「泉の妖精女王、フォンタインフィーのお膝元に堂々と人間が訪問とはいかれてやがる、魂抜かれて生ける人形にでもなりたいのかよ」
意を決してユルヘンに本当の事を言おうとした刹那、頭上から声がかかる。
森の木々が明かりを遮っているせいで、良く見えないけど、人と同じくらいの大きさの何かが空中高い場所に居る。
「なによケットシー、居候のあなたには関係ないでしょう!どうせ日がな一日だらだらしているだけの役立たずなんだから女王様の名前ですごんでも意味ないって!」
「成り立てのフィが生意気だぞ、我こそは代101代猫の王の・・・」
「あ~はいはい聞き飽きたわ、偉いのは親って話で自分はおちこぼれって話じゃない?聞かないわ、私は約束に基づいてこの人間を女王様に合わせるのだから」
道案内のフィと怒鳴りあうケットシーが空中から降りてくる。
つやつやの黒い毛並み、お腹の部分は白い毛で覆われている。猫特有のクリっとした瞳の色は黄金色の輝きをしていて、宝石の様。
大きさは私の片腕と同じくらいの長さと、胴の太さは同じくらい立派な大猫だ。
羽も無いのにゆらゆらと、長い二本の尻尾を揺らめかせて浮いている。
「ふんっこんな人間が女王の拝謁だと?フィの一族は人と馴れ合うとは聞いていたが、子供を謁見させるとはなにごとぞ」
「なによ?それはあんたら一族だって似たようなものじゃない?ベーメルングの誓いによって長い靴を貰ったあんたら一族は、永久的に人と融和していくって決めたんでしょう?」
ベーメルングの誓いとかは判らないけれど、長靴を履いた猫なら名前くらいは知っている。詳しくないけど、長靴を飼い主から貰った猫が恩返しをする話だったような?
昔から、猫と人間は仲良くやっていたという証左の様な童話だった、気がする。
「その誓いは先代の物で我は関係なし、それに女王への謁見と誓いとは無関係よ、なあそこな小娘よ、悪いことは言わん、女王との謁見なんぞ諦めてとっとと家に帰って寝てしまえ、そうでなければ謁見の後に我が後ろから頭をがぶりと噛んでしまうぞ」
横で、息を飲んだ様な音が聞こえたので見てみると、ユルヘンが青い顔してぶるぶると震えだしている。妖精さんなら見た目も可愛いし、何かあっても体も小さいから安心だけど、このケットシーは違う。立派な大猫で、わざと見せているのだろう、大きな牙も鋭く痛そうだ。本気で襲われたら、あっという間にわたし、殺されてしまいそうだ。
「あのね、ケットシーさん、私には帰る家も食べられる朝食も無いの、だからこのまま帰れって言われても、明日か明後日かお腹へって倒れちゃうだけなの、偶然?まぁ偶然ね、妖精さんを助けてお礼してくれるって言うんだから、貰ったっていいじゃない?別代わりにあなたがお礼をしてくれるって言うなら、私はどっちでもかまわないけど?」
「それは駄目、もう女王には知らせてしまったもの、ここで人間を連れていかないって言ったら私、うそつきになってしまうわ」
「だって、どうするケットシーさん?」
「ケットシー、ケットシー言うな人間、われには誇り高き名前、ダルマジロという名前があるのだ、女王の謁見は避けられまいが、無事に森から出れるとは思うなよ」
えらそうに名乗ったケットシーのダルマジロは、それだけ言うと走るより早く森の中へと消えてしまった。
「私も、人間、じゃなくて、ハルって名前なんだけどな・・・」
と、つぶやいてからハッとなる。この名前は私の名前じゃないよ。本当の名前は春風。でもそんな事、この世界の人は一人も知らないよね・・・。
「あんな奴、気にしなくていいから、女王様の泉までもう少しだし」
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