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第4章「ハンガリー戦線」
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「すまいないな、こんな結果になっちまって」
「仕方ないさ、これが傭兵家業ってもんだよ、親父だってそれくらい分かっていたと思う」
「そうか、ヴァレンシュタインと言えば名の通ったすばらしい男だったって話だったけど、味方を逃す為に自ら犠牲になるなんて、さすが傭兵将軍だよ」
「そんなに褒めても何も出ないよ、でも、ありがとう、親父の事を良く言ってくれるあんたが、その最後に立ち会ってくれてさ」
「グリュネル・・・・・・」
「ユリウス・・・・・・」
お互いの顔が赤い。それは昇って来たばかりの朝日を浴びたせいでもなんでもなく、そうなんでもなく
「そろそろ茶番劇は止めたらどうだ?黙って聞いてれば俺が死んだ事にしやがって」
「ふふっごめん親父、だって生きてたしさ、良かったよ」
「そうです傭兵将軍、体中に鉛弾を五発も食らって生きてるなんて、ナポレオン戦争時代の将官でもありえません、やっぱり狼種の勘が働いたんですか?」
「んなわけあるかっ、まったくやっぱりドイツに助けられるんじゃなかったぜ、こんなひよっこがこの俺にすまし顔で冗談を言いやがるとはなっ」
担架で運ばれながら、ヴァレンシュタイン傭兵将軍は顔をそらす。
傭兵集団と出会った後、第一部隊と合流したユリウスは、先に到着していた熊種の中世風女性騎士、グリュネルがクローネに懇願している場面に出くわした。
どうやら彼女達のリーダーで、彼女の養い親であるヴァレンシュタイン傭兵将軍が敵中に取り残されてしまったらしい。
その救出を訴えているのだろうか?
「だからさひょろっとしたお兄さん、ちょこっと小銃を人数分貸してよ?人の命がかかってるって言ってるじゃん、大事な親父なんだよ」
「しかし・・・・・・」
クローネが口ごもるのは分かる。理由は二つ。
一つは武器を勝手に貸与する訳には行かないという、至極真っ当な理由。そしてもう一つは単純に語りかけてくる、熊種の中世女性騎士の身を案じてのことだった。
救出作戦の場合、その救出される人員とはなるべく関係の浅い相手が作戦を行うほうが望ましい。関係が深いと救出に焦りが生じたり、無理をしがちになるからだ。
「もう、なんでだよ、いいじゃない、小銃余ってるんでしょ?それに、そこに並んでる兵隊だって使ってないじゃん」
彼女の言うとおり警備部隊の小銃はまだ発砲体制にも入っていない。ドイツ国境側に入った位置に居るので、ここであからさまな迎撃体制は取らせていないのだ。
慎重なクローネらしいと言える。
「救出するにしても、君にそれをさせるわけには行かないし、その為の見返りも必要になる、見たところ君達が僕たち黒の家旅団に何が提供出来る?救出作戦成功に見合う見返りはあるのかい?」
おや?と思った。普段から冷静な男で、血を熱くして戦いに望む熱血漢とは正反対とみていたが、このクローネと言う少年はなかなかどうして、頼れる隊長になるかも知れない。
彼女の感情に流されること無く、非情とも言える取引を持ちかけている。だが多分この取引、相手が何を出すのか予測した上で、しかも取引台の上に、救出成功という鍵を乗せているのがまた小憎らしい。
成功報酬でかまわないといっているのだ、この少年は。表面上は全く彼女の感情に流されていない様に見えて、しっかり流されているじゃねぇか。
でもそれが、アドルフが指揮する黒の家旅団らしいと言えば、らしい。頼られて見捨てる事が出来ていたのなら、黒の家は彼女達自身の手で再建されることも無く、朽ちて行っただろう。
「くぅ~分かったよ、ドイツってのはがめついな!こっちは、この傭兵団の全権を一時的に預けることにする、一時ってのは一時だ、最低でも一会戦はサービスでつきあったげる、それ以降敵になるか味方のままかは親父の判断かな・・・・・・、必ず、救ってきて」
威勢よかった前半と違い、最後は聞こえるか聞こえないか程度の小さな声だった。これが女の持つ魔力かと一瞬考えてしまったユリウスは、自分がもう若くないのかもしれないと痛感していた。なにせ、彼女の周囲にいた警護部隊の少年少女たちは、目を真っ赤にしながら拳を握り締めてる。
「あ~あ、熱血しちゃって、まぁ」
若者の暴走を抑えるのは大人の役目、だけど抑えすぎては良い所も伸びなくなる。
軍隊の中ではまだまだひよっこ扱いしかされない二十五歳のユリウスだが、ここは大人役に徹して彼らを導く。
「お~い、こっちの軽砲部隊は無事全員帰還してるんだろうな、ああ?そうか無事か、んで救出作戦やるのか、隊長?」
「・・・・・・はい、やろうと思います、教官は反対ですか?」
「い~や、隊長はお前だクローネ、お前が決めたのなら反対はしない、で?どうやって救出するんだ」
「えっとそれは、護衛部隊から人数を選抜し、彼女の情報の場所を捜索、一時間で目的の傭兵将軍をみつけられなければ、そのまま撤退します」
「ん~、悪くない、悪くないけど、それじゃあ難しい、お前の作戦に付け加えて、重砲隊、軽砲隊もこう使って、ついでにそこの傭兵団からも銃を使えそうな奴らを使う、どうせミント少尉の事だ、予備弾薬も含めて人数の三倍くらい用意してるんだろう?」
「よくご存知で」
ミントは豪快な部分と繊細な部分を併せ持つ、まぁ一口で言ったら面倒くさい女だ。ユリウスは経験上、自分が出撃しない場合、彼女ならば出来る限りの心配をすると読んだ。
自分自身が出撃するのであれば、自分が責任をとって戦えば良い。だからこそ自分が出撃しないときは過保護なくらい出来ることをやる。
壊れたときの為や、逃げるときに放棄するかも?そんな事を考えて積載可能な量を逆算、第一部隊に持たせてくれたのだろう。
先ほど、いざとなれば迫撃砲は放置してもかまわないと判断した理由の一つにはこれもあった。迫撃砲の砲身は予備でまだ四門、後方の馬車に積んである。
「じゃあ、行こうか!」
グリュネルの周りで心配そうにしている傭兵団のリス種とイタチ種、それにアナグマ種に小銃を投げて渡す。彼らは火縄銃やマスケット銃を持っていたので、射撃が出来ると踏んだ。最新式だろうが旧型だろうが、銃を撃つ事にそう変わりは無い。
「フェネ、迫撃砲チーム一つ借りるぞ!」
「駄目ですよ~教官、今逃げてきたばかりの子達にもう一度行けってのは無理ですよぉ」
「それもそうか、だけど、無事に救出するには迫撃砲が必要だ、どうしたもんか」
「私がいきますよ、弾は煙幕だけで?」
「いいや、榴弾と煙幕を二発づつで、それとこんどこそ、この迫撃砲は置いてくるからな」
「はぁ~もったいないけど、しかたがないんですよね?じゃあ、準備します」
それから三分後、ユリウスが指揮する救出チームは重砲部隊の援護の元、作戦を開始した。
「仕方ないさ、これが傭兵家業ってもんだよ、親父だってそれくらい分かっていたと思う」
「そうか、ヴァレンシュタインと言えば名の通ったすばらしい男だったって話だったけど、味方を逃す為に自ら犠牲になるなんて、さすが傭兵将軍だよ」
「そんなに褒めても何も出ないよ、でも、ありがとう、親父の事を良く言ってくれるあんたが、その最後に立ち会ってくれてさ」
「グリュネル・・・・・・」
「ユリウス・・・・・・」
お互いの顔が赤い。それは昇って来たばかりの朝日を浴びたせいでもなんでもなく、そうなんでもなく
「そろそろ茶番劇は止めたらどうだ?黙って聞いてれば俺が死んだ事にしやがって」
「ふふっごめん親父、だって生きてたしさ、良かったよ」
「そうです傭兵将軍、体中に鉛弾を五発も食らって生きてるなんて、ナポレオン戦争時代の将官でもありえません、やっぱり狼種の勘が働いたんですか?」
「んなわけあるかっ、まったくやっぱりドイツに助けられるんじゃなかったぜ、こんなひよっこがこの俺にすまし顔で冗談を言いやがるとはなっ」
担架で運ばれながら、ヴァレンシュタイン傭兵将軍は顔をそらす。
傭兵集団と出会った後、第一部隊と合流したユリウスは、先に到着していた熊種の中世風女性騎士、グリュネルがクローネに懇願している場面に出くわした。
どうやら彼女達のリーダーで、彼女の養い親であるヴァレンシュタイン傭兵将軍が敵中に取り残されてしまったらしい。
その救出を訴えているのだろうか?
「だからさひょろっとしたお兄さん、ちょこっと小銃を人数分貸してよ?人の命がかかってるって言ってるじゃん、大事な親父なんだよ」
「しかし・・・・・・」
クローネが口ごもるのは分かる。理由は二つ。
一つは武器を勝手に貸与する訳には行かないという、至極真っ当な理由。そしてもう一つは単純に語りかけてくる、熊種の中世女性騎士の身を案じてのことだった。
救出作戦の場合、その救出される人員とはなるべく関係の浅い相手が作戦を行うほうが望ましい。関係が深いと救出に焦りが生じたり、無理をしがちになるからだ。
「もう、なんでだよ、いいじゃない、小銃余ってるんでしょ?それに、そこに並んでる兵隊だって使ってないじゃん」
彼女の言うとおり警備部隊の小銃はまだ発砲体制にも入っていない。ドイツ国境側に入った位置に居るので、ここであからさまな迎撃体制は取らせていないのだ。
慎重なクローネらしいと言える。
「救出するにしても、君にそれをさせるわけには行かないし、その為の見返りも必要になる、見たところ君達が僕たち黒の家旅団に何が提供出来る?救出作戦成功に見合う見返りはあるのかい?」
おや?と思った。普段から冷静な男で、血を熱くして戦いに望む熱血漢とは正反対とみていたが、このクローネと言う少年はなかなかどうして、頼れる隊長になるかも知れない。
彼女の感情に流されること無く、非情とも言える取引を持ちかけている。だが多分この取引、相手が何を出すのか予測した上で、しかも取引台の上に、救出成功という鍵を乗せているのがまた小憎らしい。
成功報酬でかまわないといっているのだ、この少年は。表面上は全く彼女の感情に流されていない様に見えて、しっかり流されているじゃねぇか。
でもそれが、アドルフが指揮する黒の家旅団らしいと言えば、らしい。頼られて見捨てる事が出来ていたのなら、黒の家は彼女達自身の手で再建されることも無く、朽ちて行っただろう。
「くぅ~分かったよ、ドイツってのはがめついな!こっちは、この傭兵団の全権を一時的に預けることにする、一時ってのは一時だ、最低でも一会戦はサービスでつきあったげる、それ以降敵になるか味方のままかは親父の判断かな・・・・・・、必ず、救ってきて」
威勢よかった前半と違い、最後は聞こえるか聞こえないか程度の小さな声だった。これが女の持つ魔力かと一瞬考えてしまったユリウスは、自分がもう若くないのかもしれないと痛感していた。なにせ、彼女の周囲にいた警護部隊の少年少女たちは、目を真っ赤にしながら拳を握り締めてる。
「あ~あ、熱血しちゃって、まぁ」
若者の暴走を抑えるのは大人の役目、だけど抑えすぎては良い所も伸びなくなる。
軍隊の中ではまだまだひよっこ扱いしかされない二十五歳のユリウスだが、ここは大人役に徹して彼らを導く。
「お~い、こっちの軽砲部隊は無事全員帰還してるんだろうな、ああ?そうか無事か、んで救出作戦やるのか、隊長?」
「・・・・・・はい、やろうと思います、教官は反対ですか?」
「い~や、隊長はお前だクローネ、お前が決めたのなら反対はしない、で?どうやって救出するんだ」
「えっとそれは、護衛部隊から人数を選抜し、彼女の情報の場所を捜索、一時間で目的の傭兵将軍をみつけられなければ、そのまま撤退します」
「ん~、悪くない、悪くないけど、それじゃあ難しい、お前の作戦に付け加えて、重砲隊、軽砲隊もこう使って、ついでにそこの傭兵団からも銃を使えそうな奴らを使う、どうせミント少尉の事だ、予備弾薬も含めて人数の三倍くらい用意してるんだろう?」
「よくご存知で」
ミントは豪快な部分と繊細な部分を併せ持つ、まぁ一口で言ったら面倒くさい女だ。ユリウスは経験上、自分が出撃しない場合、彼女ならば出来る限りの心配をすると読んだ。
自分自身が出撃するのであれば、自分が責任をとって戦えば良い。だからこそ自分が出撃しないときは過保護なくらい出来ることをやる。
壊れたときの為や、逃げるときに放棄するかも?そんな事を考えて積載可能な量を逆算、第一部隊に持たせてくれたのだろう。
先ほど、いざとなれば迫撃砲は放置してもかまわないと判断した理由の一つにはこれもあった。迫撃砲の砲身は予備でまだ四門、後方の馬車に積んである。
「じゃあ、行こうか!」
グリュネルの周りで心配そうにしている傭兵団のリス種とイタチ種、それにアナグマ種に小銃を投げて渡す。彼らは火縄銃やマスケット銃を持っていたので、射撃が出来ると踏んだ。最新式だろうが旧型だろうが、銃を撃つ事にそう変わりは無い。
「フェネ、迫撃砲チーム一つ借りるぞ!」
「駄目ですよ~教官、今逃げてきたばかりの子達にもう一度行けってのは無理ですよぉ」
「それもそうか、だけど、無事に救出するには迫撃砲が必要だ、どうしたもんか」
「私がいきますよ、弾は煙幕だけで?」
「いいや、榴弾と煙幕を二発づつで、それとこんどこそ、この迫撃砲は置いてくるからな」
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